昨年4月に「チェルノビルと私」と言う記事を書きました。
これに、この一年私が見聞きしたことを加えてみます。
もちろんチェルノ事故後まだ26年しか経っていませんから、「疫学的」証明はありませんし、欧州全体国別比較が可能な放射能影響絡み発病・死亡統計研究もないと思います。以下はあくまで個人的「伝聞」でしかありません。
*
フクシマ放射能事故をきっかけとして、こちらの普通の人々も、チェルノビルについて語り始めました。核が、敗戦とその後の米国占領に直接結び付いてた日本で、この話題(放射能と人体への影響)は長い間タブーだったと同様、国家の中枢に核政策があるフランスでも、フクシマが起きるまでは「核被害」を語ることが、ある意味「反社会的」と感じられていたんだと、やっと気がつきました。(←感じる事と思うこと・考えることは別ものなんです)
ドイツやポーランド・北欧諸国では、冷戦下体制を経験し核戦争に敏感だったことも影響するのでしょうが、ヨウ素剤配布も、ミルクなどの汚染食品流通制限なども行われていたようです。フランスではそういった動きはありませんでした。「チェルノビルの雲は仏国境手前で方向を変えた」というのが、当時メディアが広めた仏政府見解でした。-甲状腺がんの患者たちが、当時の政府医療責任者(仏版山下教授)に対して民事裁判を起こしていましたが、上告は昨年に無効と判断されました。理由はもちろん「疫学的証明の不在」です。-
けれど、「チェルノビルと私」のシュミレーションを見ていただければ分かるように、仏政府発表とは反対に放射能雲はしっかりフランス本土を覆っていた。特にコルシカ山岳部・南仏に多くの放射能が降った。
*
よく聞くのは、パリ在住でもコルシカに別荘を持っていて、春夏冬の休暇には長期滞在する人たちの話です。甲状腺がん・脳腫瘍・白内障などが目立つようです。小児甲状腺がんは言うまでもありません。
チェルノビル事故のすぐあと、放牧羊たちに異常をもった子羊が多く生まれ、心配した村人が役場まで報告に行った。だが職員に「それは放射能とは関係ない」と追い返されたそうです。
放射能と疾病の直接因果関係を証明することはとても難しいですし、繰り返しになりますがフランスは核大国です。ゆくゆくは、この国も核発電・核輸出を断念せざるを得なくなると思いますが、まだまだ道は長い。
だが、現在日本の、運行中原発2機でも電力不足が起こっていない現状を鑑みると、案外フランスでも動きは加速するかも知れません。アレバ経営不振も、その方向性を思わせます。
*
もうかれこれ6年、定期健診で眼底検査を担当してくれてる女医さんがいます。昨年は初めて個人的な話をしました。
彼女も、放射線は白内障の原因になる、と言っていた。
そして日本の様子をかなり心配してくれて、どうして大規模な避難をしないのだ、と問われました。
私は、国やテプコが正確な情報を公開せずに嘘の情報発表を繰り返している。ソ連と違って資本主義の日本では、人々に私有財産を放棄させ強制避難させることは難しく、またすべての損害賠償をする財源が政府にもテプコにもないようだ。大家族で暮らし先祖の墓を守る農民たちには土地への執着があるし、地方とはいえ都市部の住民数はチェルノに比べてかなり多い。といった話をしました。
彼女は、いなかの人が土地を去りたがらない話はよく分かる。みんながみんなパリに住んでるわけではないものね、と言ってくれた。で、私は彼女に「失礼ですが、先生のご出身はどちらですか?」と聞いてみた。「カトリック系パレスティナ人です。レバノンからの血筋もちょっとあるけれど。」
小柄で、栗毛色の髪の女医さんの仏語アクセントはどこ系だろうかと前々から思っていたけれど、やっと理解。
昨年5月の診察の時、先生の「特別なストレスはありますか」という問診に「弟が死んで」と答えたら、「弟さんの魂に平和を」と、言ってくれたのも彼女である。
「パレスティナがユネスコ加入を認められて、やっと始めてパレスティナの旗が国際の公の場で掲げられた」と、うれしそうに笑っていた。
*
古い友達のアンヌは、保守系の父親が医学史専門学者で、兄の一人も脳神経外科ドクター。やはり日本のことを大変心配していた。彼女は政治にも関わっていたから、そのレベルでの知識もあるはずだが、絶対口にしない。
彼女の家族には癌が多く、本人も去年に初期子宮口癌が定期検査のエコグラフィーで見つかって手術を受けている。脳神経外科医の兄も脳腫瘍を患い、手術後のリハビリを終えて職場に復帰したばかりだそうだ。家族内(古典的カトリック大家族)には甲状腺がんも多く、近頃の専門医は「これはチェルノビルの影響」とはっきり言うのだそうだ。
*
かなり前、10年ぐらい前か、こちらに来ていた体育系日本の女の子(たしか26歳)が、夏休みで故郷の広島に帰って発病。原爆病院に入院し、あっと言う間に亡くなった。もちろん被ばくしたのは彼女自身ではない:白血病。
***
放射能系ボキャの話。
これも気になっていたので書いておく。
放射能ボキャには仏語系が多い。あまり威張れるもんでもないがね。
プルームというのをプ(マル)ではなくでブ(テンテン)と空目してブルーム(霧)のことかと最初は思ってた。ありゃプリュム/plume =羽 なのね。スティロプリュム/万年筆もおなじプリュム。これは昔のペンが鳥の羽だったからプリュム。
でもIRSNとかはパナッシュ/panache という言葉を使っている。語源はやはり羽なんだけど、派手な羽をつかった羽飾り(軍服の帽子やご婦人の夜会服等の飾りにつかう)、その派生としてもくもく立ち上がる煙にも使うようである。これがパナシェつまりpanaché となると、派生としてのビールとレモネード半々の夏の飲み物のことにもなる。
デブリ/débris は原子炉から出した放射性物質を示すのに使われてるけど、本来はどっちかというと大きい破片・ガラクタ全般をさす。
あと、これは仏語ってわけでもないですが、よく使われるモラトリアム/moratoire のラテン語源の意は停止。仏語では死刑廃止、GMO(遺伝子組み換え食品)停止、それから負債の支払い一時停止とかに使われる。私の嫌いな日本語話法のペンディングが、ま、それにあたるかな:いったん停止。
*
これもついでに。猫屋の嫌いな「日本語話法」ボキャ集。
リテラシー;カタカナで書かなくても、これってことによると「読み方」のことではありませんか?
KY;空気読めない。そこにいないんだから読めるわけねーだろ、バーカ。
「弱者によりそう」;アタクシはっきり言って弱者(自主的島流し外人・無職・ビンボ・ド近眼・年寄りetc.etc.)ですが、誰にも寄り添われたくない。何ゆーてんねんエラソーニ。
上から目線;これは身長1m98cmにまで成長したK夫人の息子G君(18歳)に対する「差別」であろう。
なんか最近の日本ってサドマゾ。いや、昔からそうだったようにも思うが、いま目立つのは経済的繁栄がタソガレたからでしょう。繁栄タソガレはここ、おフランスも同病でありまして、この地がモンテスキューとヴォルテールとモンテーニュとサン・シモン(以下略)の国とは思えない様変わり。しかし、シンドロームの出方が日本とは違う。どこが違うって;以下参照
SM文化、最たるものが
「差別」;あのねえ、差別の本場から見るとまったく理解できない。人なんてみんな違うから、差異の認識から生じる差別というのは社会から除外できるものではないが、それが実際に社会生活運営に損害を及ぼすものだというコンセンサスが生まれたときに、やっと法なりで国家が規制をはかるのではないか。あまり明解な説明ではないけど、言ってみれば元来、「差別」というのはあいまいなものだろう。それを、ある目的を持って誘導するのが「プロパガンダ」。
ただ、島国単一言語日本の場合、古典的「階級」意識は薄いし人種的差異もほぼないし、収入格差も近場の中国やロシア、親玉米国にくらべてさほどひどくない。逆説的だが、狭い国土上に多くの人々がひしめき合って生きてる超消費国日本では、コマイ差異自体が価値化し(=マーケティング)、閉じた領域内での「差別・被差別」階級再編成がとんがってるように思う。バブル崩壊後の「ニート」攻撃とか「上流・下流」論争、「学歴」自慢話もそうでしょう。閉鎖競争社会では、上部・下部間でフィードバックする内部分裂が繰り返され、コーラテラルに発生する有毒ガスで全面自己爆発するのかもしれん。
前にも書いたけど、「父権社会」→「会社社会」=「軍隊階級イッポウ方向命令制」の面もあるだろう。ワタミ社長の言動なんてこれそのものだし、これは単に「民主主義」の不在だ。
これに飼いならされるとボエシーの「自発的従属」です。オーウェルの《1984》世界です。
同時に欧米で起きている歴史的・経済的見地での「民主主義」後退と逆相関してるけど、結果は同じ。グローバリズムは素晴らしい(毒)。
*
我ながらため息出るが、これが現実だから仕方ない。
こんな話は、日本ばかりではない。そのうえ、これから何十年かは、どこで何が起こっても驚くこたーない時代が続くはずです。
「一揆について」の記事も書きたいなあ。
@@@@
今夜のおまけ
一週間ぐらい前にネットで見たBBCの1時間番組 《inside the Meltdown》