まずはIRSNによる、(1986年4月26日-5月9日まで)チェルノブイリ発セシウム137空中伝播モデルのヴィデオ:今月29日には当ヴィデオ撤回されちゃいます。なお、グーグルアカウントがあればダウンロードも可。
*
今荒く目を通しているのが
IRSN のAccident de Tchernobyl (Ukraine -1986)
内容は、
- この事故が環境と人間に与える影響
- 核産業とチェルノビルの影響
- 危機管理に関するチェルノビルの教え
- チェルノビルの教訓:透明性(猫注;情報公開)とコントロール
- チェルノビル後:環境と人々を守るための研究課題プログラム
各タイトルごとに、それぞれ詳しい説明があり、さらに要所には元文献へのリンクもある。ちょっと説明してみると、IRSNとは“核安全と放射能防備の委員会”という国家の運営する機関で、チェルノビル事故の後2001年に発足してます。チェルノビル事故後、欧州では原子力発電の危険性が大きく認識され、このIRSNも設置された。
核爆弾を所有し米国から軍事的な独立を計るというドゴール・ドクトリンのもう一方の柱は、原子力発電開発によるエネルギー独立だった。だから2005年までフランスはNATO軍とも距離を保ち続けていたし、実質的に米国がコントロールしていた中東原油への依存も少なくてすんだんですね。
WW2敗戦国の旧西ドイツでは米軍の存在も勘定にいれるべきだし、東西ドイツ統合前から緑の党をはじめエコロジー運動がさかんで、原子力発電所はあっても核兵器は持っていない。けれど、ドイツは例外的な存在だと思います。核兵器と原発はカップリングしてるというのが(自然とは言えないが、政治的な)流れで、これはイランを見ても分かります。
話は脱線しますが、あれだけ自然災害の多い日本で何で原発55基もあるのかと考えますと、やはり自民党政府が潜在的にですが核武装を想定していたんじゃないかと思える。
もっと脱線を続けてみるとですね、「バベルの塔」説というのがありまして、人間の歴史を振り返ると、とんでもなく高い塔を建設した後その文化は退廃していくという仮説です。2001年の911でなくなっちゃったニューヨークのツウィンズ(526m)、ドバイのハリファ・タワー(828M)、東京のスカイツリー(予定634m)のことなど鑑みると、それもあるか、と考えさせられます。
こうなると「権力」が(エネルギーも含む)破壊力と高さを志向するのか、逆に破壊力と高さが「権力」を作るのか、というニワトリ・タマゴの話になってくる。なおちなみにアタクシ、高いところは好きじゃないが、今すんでるアパートは高台の8階でありまして、これでもちょっと恐い。逆演算しますと、だから猫屋には権力も金も縁がない、となる。
話をちょっとだけ元に戻しますと、電力の76パーセントを原発にたよるフランスですが、現在運転中の基数は59基で出力66 020、日本では55基で出力49 467。これに建設中と計画中のものを加えると、フランス60基で出力67 650、日本が69基で出力66 977となっています。参照:原子力発電所
予定どおりに行くと、日本は原発国フランスを追い越しかけない勢いです。
メルケル首相の脱原発志向発言は、国内外政治での政治立場が弱くなった首相の選挙対策だと思いますが、ドイツ国民の原発に関する大きな危惧がバックにあります。これはドイツだけの話ではない。今原発を続けるかどうかの国民投票が今行われたら、多くの国が原発停止に動くだろう、と言う人も多い。
フランスでも、ストラスブール議会が全員一致でフェッセンハイム原子力発電所の廃炉を求める議決をだしました。この原発があるミュールーズは、ドイツと隣接しておりスイスからも近い。また建造は福島第一と同年で、老朽化が進んでいます。40年やそこら経つと、各種部品が弱くなったり、新しい安全基準にしたがい付け足された機器の接合部も事故があればどうしても脆弱になる可能性があるわけですね。
フランスの原発でも、嵐(例;1999年の嵐でボルドーの原発は冠水し、一時注水装置が止まった)や洪水で事故を起こしてきましたし、おまけに上に挙げたフェッセンハイムは、地震プレートの上にあるんです。
来年のフランス大統領選挙でも、原発問題はおおきな論点となるはずで、かつては原発推進路線を継続していた社会党がこの問題をどう扱うかで、選挙結果は大きく変わるだろう。なお、これも余談ですが、仏先導で行われているリビアとコートジヴォワール攻撃も、選挙向けキャンペーンと言う色合いが強いですし、仏大手メディア報道もすでに選挙前体制に入っており、アタクシほとんど眼を通してない。
いずれにしろ、今回の福島第一事故で、世界の人々の原子力発電に関する考えは根本的に変わったと思います。
福島第一事故は、日本と言う国家枠内だけの問題じゃない。これは世界レベルでの環境汚染問題なんだという視点が、日本国内ではまだまだ共有されていないんじゃないか、と感じられます。
チェルノビルの時には、まだインターネットがなかった。もちろん風評というやつもネットで急速伝播しますが、上から降りてくる公式「風評」というのもあるわけで、たとえばウィキリークスなどが大手メディアの扱わない、あるいは扱えない主題をネットに公表し、新しい形の反「権力」を市民に提供するようになった。これと同じ形で、正しい核「情報」が市民に行き届けば、原子力利権をめぐる「資本」の暴走を防ぐ動きも出てくるのは自然な流れでしょう。
本当は、フランスのエネルギー政策全般、アレヴァと言う会社の性格、についても書きたいんですが、調べる十分な時間がない。
これも読んでる途中の、WIKI仏語版
Catastrophe de Tchernobyl ←日本語版よりかなり長い
Conséquences de la catastrophe de Tchernobyl en France
**
「私とチェルノビル」
4月10日ログの最後にちょっと書きましたが、1986年ゴールデン・ウィーク時、にわか雨に会ったパリの日本人観光客があわてて傘をさしているのを見て、フランスの友人は笑っていたんです。(猫注;かなりの通り雨でもここではまず傘さしません。すぐやむし、乾燥してるからすぐ乾くからね。)
ウィキを読みますと、チェルノビルの爆発は4月26日。けれど最初にスウェーデンの原子力発電所の計器がソ連圏から出る非常に強い放射能を空気中に感知したのが4月28日の昼過ぎです。
ドキュメンタリー「チェルノブイリの戦い」を見ますと、当初スウェーデン原発係員はソ連に原水爆が落ちたんじゃないかと疑ったそうです。スウェーデン当局はソ連に問いただしの公文を出し、28日夜にソ連政府は(日時・場所は指定しないまま)原発事故があったと肯定した。
ただその後、フランス(とスイス)は気象状態を見て、「放射線雲」はやってこないと報じたんですねえ。まず当局発表による「雲」と「放射線物質気団」の混同があったし、メディアを通じての「放射能雲はフランスを通らないから安心」という報道が大々的にあった。
だが、実際には(上のヴィデオを見れば一目瞭然ですが)、放射能物質はたしかに雨や風にのって仏国土に降り注いだ。特に、アルプスからコルシカ島にいたる仏東部での、ジビエ(いのししなど食用となる野生動物)、山羊の乳から作るチーズ、もちろん牛肉や牛のミルクで作るチーズ、野生きのこなどに放射線物質は濃縮され、長い間それらを飲食した人口に影響を与えた。
で、アタクシは86年春からパリで案外多い放射線物質を浴びてたし、その後夏に毎年行っていたアルプスでは、森できのこを収穫してはオムレツやスパゲッティにあえておいしく頂くのが習慣だったし、冬にはスキーしに出かけ、夏場の放牧牛チーズや放牧牛ステーキ(双方超ウマ)もかなり食べてる。
まあ、アタクシぐらいの年齢になれば、絶対量がウンヌンといまさら心配しても始まらないわけですが、思い起こせば小学校の頃毎年レントゲン検査受けてたし、近年でも膝を痛めてCTスキャン、眼底検査でも何回も似たような検査してるし、歯の大工事もすでに何回もやってパノラマ・レントゲン検査も5回ぐらい受けてますねえ。もちろんパリ・東京の往復も数えるとかなりなもんだ:危険がいっぱい(笑)。
しかし、今の子供、あるいはこれから生まれてくる子供たちにとって、これは笑ってる場合じゃない明白な重大問題だ。
*
もひとつ参考
2006年のル・モンド記事です:L'effet de Tchernobyl en France a été jusqu'à mille fois sous-évalué
記事の後の小欄だけやっつけ翻訳してみます。
甲状腺ガンにどんな影響を与えたのか?
地表への放射能物質定着地図は、人口が摂取した量に比例しない。数少ない個人レベル評価-特にコルシカの子供の例-では、甲状腺への定着を15から30ミリ・シーベルトと記録している。 今日(猫注;記事が書かれた2006年4月)一般人の上限は全身の値で年間1ミリシーベルトだ。2000年に健康委員会は、1991年から2015年にわたる全250万人の子供のうち、チェルノビルに影響されたと考えられる甲状腺ガン患者数が7から55人となるだろうと想定している。同時に(チェルノビルとは無関係な)自発的小児ガンは900件と推定され、その誤差可能性はだいたい60例とみなされている。さらに、甲状腺ガン発生数自体が1970年ごろから増加傾向にあるため、“チェルノビル影響”を計ることは極めて難しい、あるいは不可能だろうと、多くの疫学専門家は言う。高度のセシウム137が検出されたコルシカ島では、このメトドロジー(方法)の難点を克服しようと試みられている。4月11日、コルシカ議会は、全議員一致で、「チェルノビル危機のコルシカでの影響を、疫学的に立証する調査実施」動議を出している。すでに、被害の大きかった13の村での調査がなされている。
***
福島第一での危機がどういう形で終焉するのか、いまだまったく目星がついていません。だが、はっきりしているのは首都圏の電力を供給するテプコが、管轄外の福島県(東北電力圏)にふたつも原発を設置した。そのひとつが「想定外」の事故で、世界中に向け放射能物質を排出している。
そして、この「事故」からもっとも厳しい被害を受けるのは、近隣ホットスポットにいる子供であり、やがて生まれて来るはずの子供たちだ、と言う事実です。
アタクシを含めた無力の“一般市民”が集まって抗いの戦いを続けなければ、人類はもうひとつのbêtise/愚かさを歴史に書き加えることになると思います。人民の強さは数が多いことだ。一人が疲れて一時脱落しても、他の誰かがバトンを引き継ぐはずだと考えます。放っておけば、あの「ショック・ドクトリン」が、また大手を振って破壊を続けることになる。。。
今日最後のリンクは毎日の18日コラムから:風知草:浜岡原発を止めよ=山田孝男
冒頭部だけ抜粋引用します。
中部電力の浜岡原子力発電所を止めてもらいたい。安全基準の前提が崩れた以上、予見される危機を着実に制御する日本であるために。急ぎ足ながら三陸と福島を回り、帰京後、政府関係者に取材を試みて、筆者はそう考えるに至った。福島に入った私の目を浜岡へ向かわせたのは佐藤栄佐久・前福島県知事(71)だった。郡山に佐藤を訪ねて「首都圏の繁栄の犠牲になったと思うか」と聞いたとき、前知事はそれには答えず、こう反問した。
「それよりネ、私どもが心配しているのは浜岡ですから。東海地方も、東京も、まだ地震が来てないでしょ?」。。。
もひとつ追加リンクです(16日に経済系Jcost 掲載):原発推進学者が次々懺悔 「国民に深く陳謝する」 ←タイトルの「懺悔」という単語には個人的にかなり抵抗感があるし、「責任逃れの確信犯宣言」というそこここでの評価もありますが、ゴタゴタ言わず一部抜粋。
「私たちは事故の推移を固唾を飲んで見守ってきた。しかし、事態は次々と悪化し、事故を終息させる見通しが得られていない」「膨大な放射性物質は圧力容器や格納容器内に拡散・分布し、その一部は環境に放出され、現在も放出され続けている」 「特に懸念されることは溶融炉心が圧力容器を溶かし、格納容器に移り、大量の水素ガスの火災・爆発による格納容器の破壊などによる広範で深刻な放射能汚染の可能性を排除できないことである」。。。 「当面の難局を乗り切るためには、関係省庁に加え、産業界、大学等を結集し、我が国がもつ専門的英知と経験を組織的、機動的に活用しつつ、総合的かつ戦略的な取り組みが必須である」
コメント