2011年1月のタハリール広場から2年半で、こんな形でエジプトがまた新聞の第一面を占めるようになってしまった。革命の成就には200年かかるというのが本当なのか、国家の進化は必ずしも民主主義を目指しているのではないかも、など、いろいろな思いが頭の中を巡ります。tweet に書き散らしたメモをまとめてみます。欧州の片隅から見えるエジプト内乱についての覚書です。
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2013年6月29日
【オプス】エジプト:あらたな衝突で死者2名(うちひとりはアメリカ人)
7月2日
【ガーディアン・写真集】エジプトの抗議運動 Egyptian protests
【20minuts】エジプト抗争写真集(軍が反政府運動側につく模様)Egypte: L'ultimatum adressé au président Morsi -
7月3日
今晩、エジプトでの混乱で、死者7名とか。
7月5日
【20minuts】その運命を前にしたエジプト(写真集)L'Egypte face à son destin ムスリム同胞団とモルシ大統領の政権は、軍部の介入で覆され憲法委員会委員長が臨時大統領職に就く。
【エジプト】再度大統領選挙が行われ、新政府が軍によって押さえられれば、これはクーデタ。どうなることか:しかし、シャリアを前面に出すムスリム同胞団をエジプト市民が受け入れられないことだけは理解できる。革命は簡単ではない:あのフランス革命でさえ、短く見積もっても10年以上かかった。
7月7日
【20minuts】エジプト:ムハマド・バラダイが首相に任命されるか。
猫屋:これはいいニュースなのか悪いニュースなのか、それは「歴史」が決めるですね。
7月28日
【ル・モンドヴィデオ】エジプト:対立する2グループのデモ(ロイター59秒)Egypte : les deux camps rivaux manifestent モルシ支援サイドの数十人の死者が出た模様。
【ル・モンド】エジプト、巨大デモの翌日の流血 Bain de sang en Egypte au lendemain de manifestations massives
70人以上が実弾で射殺された。
【20minuts+ユーロニュースヴィデオ】エジプト:カイロで数十人のモルシ派が殺害されるより詳しい記事:約70人のムスリム同胞団が実弾を受け死亡。ヴィデオは2分ちょっと。
8月6日
@現地は大変だと思いますが、周辺のトルコ・イラク、地中海対岸のチュニジア・エジプトもほぼ内戦状態です。ひどい時代です。
8月15日
【エジプト】政府は戒厳令をしき、軍隊に出動を要請。エル・バラダイは辞任提出。ムスリム兄弟団は数百人の死者が出たと発表しているが確認は不可能。下に挙げたル・モンド記事でいくつか現地ヴィデオを見ることができます。
【20minuts写真ポートフォリオ】エジプト流血の日Jour sanglant en Egypte
エジプトではコプトの教会も攻撃対象となっているようです。
【ル・モンドヴィデオ2分23秒】Images des affrontements à balles réelles place Nahda… エジプト軍が提供した反政府派と警察の抗争映像です。実弾が発射されている。
もう一度宣伝。14日のエジプト内戦に関する短い記事です。読んでみてね ル・モンド記事翻訳:ムスリム兄弟団ばかりではなく生まれたばかりの民主主義も、軍は潰してしまった。 http://bit.ly/125S3v5
8月16日
オバマ合衆国大統領は休暇先のマサチューセッツから、エジプトは危険な道に入りつつあると声明。予定されていたエジプト軍との演習をキャンセル。米国とエジプト軍の長い援助関係を踏まえ、軍との間にあるつながりを断ち切ることはしない。「エジプトの将来はエジプトが決めることだ」と発言。
エジプト紛争の原因なり成り行きを、書こうとも思わないし、だいたい書けない。私が知っている断片だけにしても140 文字で書けるわけもない。ただ言えることは、AとBなる集団があり、Aは悪でありBは善である、だからAを叩け、といったツィート論法に害はあっても状況 理解を助けはしないことだ。
エジプトで今起こっていることは、まあ、実質的クーデタでしょう。緊急事態宣言を受けて、暫定政権から副首相を含むリベラル派が辞任。実質権力は防衛大臣(幕僚長)が握っている。非常事態宣言、および戒厳令で、軍は逮捕と裁判権を入手、つまり市民を軍事裁判で罰することができる。
たとえばEUは今回のごり押しエジプト治安維持を批判する声明を出しているが、オバマの声明を見ても米国からなんらかの圧力は期待できない。国連にしても、シリアやチュニジア、イエメンなど近隣国での内乱に介入せずエジプトに対してのみ制裁なり軍事介入はできないだろう。
そうこうしている間にも、チュニジア・シリア・エジプトからの難民がぼろ舟に乗ってヨーロッパを目指して逃げてきている。(途中で座礁する船も多いし、うまく行っても難民収容所か)。EUがなんらかの手をうって欲しいところだが、、、夏休み真っ最中なんです。
エジプト暫定政権の内務大臣は、カイロの政府機関への放火を受けて、公共施設を破壊しようとするものへの警察の実弾使 用を許可。軍は外部からの攻撃に対して武力を行使するものと発言。猫屋:タハリール広場に集まった人々をバイクで攻撃していたのは警察所属の治安部隊と記 憶している。
エジプトの北シナイでは、武装した集団が兵士4人を射殺。これは原理主義イスラミストグループの犯行と見られている。
誤字訂正した。【ゼロヘッジ】バカンス先からオバマはエジプトを「強く弾劾」:… 休暇中オバマの写真あり。スピーチ全文が読めます。
エジプト流血後、ヨーロッパとオーストラリア申請を受け、国連では木曜の午後5時半、安全委員会による話し合いが行われる。なお、この会議は公開会議ではない。
エジプトでの動向は2011年2月中旬まではかなり追っていた。でも日本に2週間行っていて、3月に帰ってきたら東北大地震+フクシマ。そのままになっていた。参照猫屋ブログ
中東時事、それとエジプト蜂起に関するいくつかのメモ(2011年2月)
エジプトでは、ムスリム兄弟団(あるいは同胞団)が金曜の礼拝後の「怒りの金曜日」抗議行動への呼びかけをしている。非常事態宣言下での治安部隊は、ふたたび 激しい鎮圧に出るだろう
【ガーディアン】エジプトEgypt: Police prepared to use live ammo as Brotherhood calls march ツウィターがそのままリンクされています。
8月17日
「国家」というものの本質を見誤ると、とんでもない眼にあう。とんでもない眼にあわないために、「民主主義」という不完全なシステムがあって、それをほうっておいたら国家は単なる暴力装置に成り下がる。甘い。
今回のエジプト紛争はガーディアンの情報を追っている。アルジャジーラは(もちろん自分にとってはという意味で)バイヤスがかかりすぎているように感じられるから。もちろん外国勢力の影響は大きいだろうが、実際に今の流血状態をどうやったらとめられるのかが今の一番の問題だと思うから。
【ガーディアン・エジプト・ライヴ】 エジプトは見事な混乱状態。スエズでは、Peaceful! とスローガンをあげて抗議していたグループに治安部隊が攻撃を仕掛けている。今の治安政策をすぐさま止めないとバックラッシュがその分過激化する。
私は「ムスリム同胞団」には批判的立場だ。シャリア法にも反対する。だが軍や治安部隊による武力鎮圧は、左派からリベラル、右寄りも含めた反独裁コアリ ションの一般人をより過激な行動に走らせる要因になる。イスラミストが狙うのもそこ。アルジェリア独立戦争でいやと言うほど使われた戦術だ。
【ガーディアンQ & A 】Egypt unrest: what sparked the military crackdown on Brotherhood camps ガーディアン記者2名による質疑読んでる。ボキャも難しくない。
つい先ほど、ムスリム同胞団は抗議活動の停止を要請し、同時に日々の抗議は続けるべしと発表したようだ。意味わかんない。
初めての選挙で、52パーセントの票を獲得し政権に就いた党(ムスリム同胞団)が、憲法改正を行い、その権限を拡大する。都市部は別として、イスラム教徒 が大多数を占める国で、イスラム勢力が政権をとるのは無理からぬことだ。それに反対する勢力が暫定政権を作るが、それは’軍部に牛耳られてしまう。
軍事政権がやることは、いつでもどの地でも同じだ:それは力で押さえ込む暴力機械となる。暴力は暴力を生む。フランス革命で飢えで怒り狂った人民は、革命の意味など考えていなかった。
ヨーロッパが内部戦争、そしてその後の植民地政策から逸脱するまでに、どのくらいの時間と流血を必要としたか。。。これとて、いつ何時先祖帰りしてもおかしくない。
エジプトは暴力のスパイラルにはまった。いわゆるエスカレートでおまけに加速しうる。ガザやエルサレム、ヨルダンやチュニジアでも、ムスリム同胞団を支持するデモが始まっている。ハマスと同胞団のつながりは周知の事実です。
エジプトの状況は絶望的。ここまできたら暴力の連鎖を止める手立てがない。
エジプト;カイロではコプトの教会が焼かれ、今はモスクのモザレから発砲している。それを世界中がリアルタイムで見ているが何もできない。
8月18日
エジプトのこと:米国のエ軍への援助(その大方は米軍備購入に当てられる)も、サウジ・アラビアの援助金に比べれば微々たる物で、パクス・アメリカーナがエジプトをコントロールしている(できている)と思うのは間違いだろう。今の米国にもオバマにもそれだけの力は無い。
ただ、オバマの間違いはムスリム同胞団にいったん肩入れしたことだろう。同胞団はいったん政権内に入るなり要職に団の人間をつけ、他のコアリション勢力を 無視して憲法を都合のいいように変えた。この時点で同胞団がよりソフトな作戦に出ていたら事はここまで悪化しなかっただろう。
この同胞団の勢力を抑えられる組織は、不幸なことにエジプト軍のみだった。参謀長(防衛大臣)の仕切る暫定内閣内でエル・バラダイは他のリベラルと軍の進める強攻策を押しとどめることができず辞任した。流血の2週間前、欧米外交筋は、同胞団と軍の間の暫定和平案同意を試みていたが失敗している。
【ワシントンポスト】U.S. allies were near a deal for peaceful end to Egypt crisis
今のところエジプト周辺国も統一の立場を取れないままでいる。サウジ・アラビアは軍を支持し、カタールはムスリム同胞団を支持している(ここからアルジャジーラの姿勢も理解できる)。今回の流血で、同胞団と軍という2極以外の政治勢力消滅が現実化すると、事態はさらに深刻化する。
たとえば今もう一度選挙を行っても、これは間違いなく、イスラム勢力がさらに票を伸ばすだろう。
だが、エジプトの多くの市民はムスリム同胞団にも、エジプト軍部にも、何も期待していないのが実情だと思う。だが、ひとつの政治勢力は半年や1年や2年で出来上がるものではない、と言うことなのだろう。
エジプトの悲劇が、欧州での(すでに危うい民主主義)政治基盤に影響を及ぼさないわけも無く:途方にくれる。
Carl Bildt: More killed in Egypt during 3 days than in Iraq during last month. And I’m deeply worried by Iraq…
【テレグラフ・ヴィデオ】今日17日カイロのモスクに逃げこんだ数百人の人のモルシ支持者たちに治安部隊が催涙ガスを使用した:モスク内の映像。Video Egypt: tear gas fired into besieged mosque
サウジアラビアによるエジブト暫定政権への援助金は、米国による軍事援助(大方は米国産軍備購入にあてられる)の約10倍。エジブトは北アフリカと中近東の原油産出国(世界総生産の25%)の政治的リーダーだった。オイルをめぐるこれまでの地政学は大きくかわる。
カイロのモスクにバリケードを作っていたモルシ支持者が治安部隊に排除された際、周辺の人々は木棒や鉄棒で彼らを打っている。カオスとしかいいようがない。
エジプト報道が、「軍・治安部隊vs反政府勢力=市民」という図式になりやすい。力による弾圧はすぐにでも阻止する必要があるが、単純な二極化も危険だ。背後にある歴史・周辺諸国との関係、エジプト内部抗争のより詳しい状況を大枠でも理解しないと解決にはつながらず、図式が反転するだけだろう。
8月19日
【20minuts】エジプト:モルシ派はこの日曜日にカイロで予定されていた九つの抗議行動を"安全"のためにキャンセル 猫屋:ひとまず一安心です:暴力のエスカレートは恨みばかりを産む。
【ガーディアン】エジプト動乱に、隣国ガザとイスラエルがどう反応しているかEgypt turmoil unnerves neighbouring Gaza and Israel
エジプトとガザ・イスラエルは泣けちゃうぐらい近いのです。もちろんその向こうは、ヨルダン・サウジ・シリア・レバノン・イラク・イラン・アフガニスタン。アフリカ側はスーダン・リビアを経てサヘール砂漠地帯も遠くない。
今のエジプト情勢について、CIA陰謀論もあることは知っています。活動はしていたでしょうが、それが2011年の大衆運動に直つながったとは思えない。ましてや、今のエジプトの混乱状態内で、「陰謀」があるとしても何を目指しているのか分からない時点でボツ。そんな力は今の米国には無い。
かつてのサダム・フセインのイラク、チュニジアのベン・アリ、ムバラクのエジプトなどの独裁政治は、中東・北アフリカの原油地帯パワーバランス・チェスボード上の安全弁として機能しリアルポリティクス優先の先進国から支持されてきた。そのリアルポリティクス外交のツケ・矛盾が回ってきた観がある。
合衆国はすでにカイロ周辺のアメリカ人に退避勧告、ドイツ旅行社はエジプトでのヴァカンス予約をキャンセル。けれど海岸部避暑観光地に今のところ影響はない模様。カイロはじめエジプトに住むフランス人(2重国籍者も)の数は多く、仏外務省は「注意を勧告」するに留まっている。
@まじ、誰にもわからないカオス状況と思います。少なくともこの日曜は反軍事政権抗議行動の多くが危なすぎるとキャンセルされたようなので、とにかく休戦(市民戦争化してる)が長引くことを望むのみの状態。
【エジプトからのライヴ】英語です。Watching ONtv Live
実弾で撃つ「国家暴力装置」は即弾劾すべきだけど、それに向かって丸腰でかかっていく「犠牲者精神」もやめて欲しいのですよ:テロ自爆とおなじになっちゃう。
エジプトからのライヴ:ONtvlive 見てる人数は203人。配信はブツブツ切れるがこういった配信が途絶える時が(配信内容の如何をとわず)もっとも危険でしょう。
英語で同時通訳なので理解しにくいけど、今のカイロ映像も写しています。
昨日バリケードが作られ、結局解除されたカイロのモスク内にはアイルランド最大のモスクのイマムとその子供たちがいて、スマートフォンで連絡を続けていた。そのためアイルランドでの反響が大きくなったのです。
反臨時政権派が日曜に予定されていた9つの抗議行動の多くを安全のためとキャンセル。少なくとも今夜のカイロは静寂に包まれているように見えます
アルテの8月18日夜のニュースです(仏語と独語):http://www.arte.tv/fr/6322314.html
オバマがカイロで行ったディスクールはすばらしかった:I have come here to seek a new beginning between the United States and Muslims around the world. 2009年6月のこと。
ムスリム同胞団(ムスリム・バラザフッド)ウィキ英語:仏語: と日本語:を読み比べてる。アラブ語は残念ながら読めない。
どちらの側からの映像であれ、ライヴ映像のインパクトは限りなく強い。それを読み解くのは部外漢にとってはとても難しい。
【アルテ・ジャーナル(ヴィデオ)仏語・独語】エジプト:コプト教徒に忍び寄る危険。Egypte : la périleuse situation des Coptes 猫屋:コプトは全エジプト人口の約10パーセント。
なお、このヴィデオではコプト教会の破壊を狙っているのはムスリム同胞団と教会サイドが証言している。
【アルテ・グラフィック】フランス語ですがエジプトに関する諸国のリアクションが分かります。 ARTE Journal | Monde | fr - ARTE:
サウジ・アラビアがエジプト暫定政府に約束した5000億円についても語って欲しい。参考:エジプト暫定政権組閣へ サウジなど8千億円支援 (7月10日ニッケイ)
エジプトの人口は8300万人。軍人の数は100万人。人口の90パーセントはスンナ派で、約9パーセントがコプトと他のキリスト教徒。シーア派は1パーセント以下。エジプトがオットマン支配の後英国から独立したのは1922年。軍の規模が大きいのは隣国イスラエルとの紛争のため。
【ニッケイの説明】ムスリム同胞団[ Muslim Brotherhood ] エジプト人のハサン・アルバンナが1928年に創設したイスラム教スンニ派の社会運動団体。コーランを憲法とするイスラム国家建設などを目標とする。54年に当時のナセル大統領と対立して非合法化された。
パレスチナのイスラム原理主義組織ハマスの源流もムスリム同胞団。テロをも辞さない原理主義思想の過激分子を抱える一方、構成員には医師や法曹関係者なども多く、貧困層への福祉活動などで根強い支持がある。2011年2月のムバラク政権崩壊後に合法化。
その後の初の自由選挙を経て、12年6月に就任したモルシ前大統領の出身母体。エジプト軍のクーデターで13年7月にモルシ氏が解任された後、暫定政権側との衝突を繰り返している。
【JBpress】ファイナンシャル・タイムス8月15日付記事翻訳3ページです:流血と専制政治の未来に向かうエジプト
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以上ツイログから拾いました。リンクが壊れてるところがあるかもしれません。ナムステそしてインシャルラ
大変勉強になります。
ありがとうございます。
投稿情報: 吉田秀(気まぐれ翻訳帖) | 2013-08-24 16:33
読んでくださって、こちらこそありがたいです。第2報もまとめる意図ですがシリア危機のことも加えたいし、今はフクシマ関連の文章翻訳中なので、2報は来週になるかも知れません。
投稿情報: 猫屋 | 2013-08-24 21:39
いえいえ、お急ぎにならなくても結構ですよ。
こちらもまだすべての文章を綿密に読んでいるわけでは
ありません。
ざっと目を通し、必要を感じた時に再度じっくり読むという
スタンスです。
中東問題にうといので、ポイントになりそうな文章をまとめて
いただいてありがたいです。
投稿情報: 吉田秀(気まぐれ翻訳帖) | 2013-08-25 18:05