チェルノブイリ25周年の4月26日に《何が起こっているのか》シリーズ原発版を書き始めたんですが、あまりのことの《ひどさ》に途中でヘタレた。要するに話は資本と、「国益」という摩訶不思議な「神話」と、リアルな単なる利益の関係で説明できる。
福島第一で作業に当たっていられる作業員のことを「兵站(へいたん)」と表現しているのにぶつかって驚いた。で、それをロジスティックと説明していたりする。
仏語や英語でのロジスティックは「物量」のことです。工業製品・一般商品や、あるいは国境のない医師団などが被災地・戦場周辺に送る医療あるいは食料物資の、調達・梱包・輸送・と輸送管理の全体を言う。この物量にたずさわる人間は入らない。
一方、「兵站」は軍事用語で、ミリタリー・ロジスティックのこと。仏語ではロジスティック・ミリテールですね。攻防にあたってバトル・フィールド上に兵士をどのように配置するのかの話です。
原子力・核・原発周辺では、日本語と英語/仏語表現のニュアンスの違いと言うのが感じられるとも思いました。日本では原子力平和利用になる。これが仏語ですとニュークリアー・シヴィル、英語でシヴィリアン・ニュークレア・パワーになる。
端的には軍事に対する市民のシヴィリアンです。全体として原子力と言う単語はニュートラルな意味で使われることが多いけど、核は軍備系に多い。例外は派生としての「核家族」か。。。
こういったレクシック/語彙は考えてみると面白いです。特に、核ばかりではなく、エネルギー問題全体は、先に書きましたが「国益」というのが絡んできまして、どうしても政治の話に通じてしまう。 民主主義のことになってくる。(もちろんアタクシの言う民主主義は、投票選挙のことではまったくございません。)
戦後の日本で教育を受けまして、昭和のまだまだ色濃い「軍事教育」の名残と(朝礼、点呼うんぬん)、ギクシャクした直輸入民主主義(学級会、学級委員選挙うんぬん)の間で、結局ここに自分の場所はないと、最初から最後まで思い続けていた自分も思い起こされます。
さて、ではいったいどこに真の「民主主義」はあるのか?と言う話になりますとタイヘンメンドクサイわけで、逆に考えて見ましょう。民主主義の逆モデルです。これは軍事での、一番てっぺんから命令(オーダー)がおりて来て、ピラミッド型の一番下の兵站が動くシステムなんだ。どう動くかをみんなで討論して決めてると戦争に勝つどころか、バトルにさえ出かけられない。困ったもんです。
しかしさらに困るのは、企業というのがこの軍事システムで動いてることですね(ここいらは異色の仏経済学者フレデリック・ロルドンがうまく説明しています)。もっと困るのは、20世紀後半に始まった新経済・金融体制では、株主・金融メガバンク・ヘッジファンドのような資本が、さまざまなやり方で企業や国家をコントロールするようになったことだ。
特に利用の大型出発点が兵器であった原子力には、今でも軍事DNAとでも言うべきこの軍組織性と機密性がどこまでもついて回る。21世紀のマルチナショナル企業競争社会では、その性格がさらに強くなる。
話はずれますが、日本を始めアジア諸国の経済成長が著しかったのは社会構造自体が、家長に権限の強い父性社会だったからとも考えられるでしょう(エマニュエル・トッド風に言えばドイツ・米国もそうかも)。
組織トップからのオーダーに「なんやそんなん、アフォとちゃうか」とは言わない(←これは大阪圏の人ではなく、ラテン圏のひとの発言です)。
さて、いつものように前置きが長くなってしまいました。本題に入ります。
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ひとまずクリップ。特にアルテ・ヴィデオはたしか一週間しか見られないはず(つまり5月3日まで)なんで急ぎます(賞味期限切れても、ネット上のどこかに見つかる場合が多いけどメンドクサイ)。またドイツ語版もありますのでアルテの画面右下で独語版を選んでください。
まずはこれ、Tchernobyl forever
ベルギー人のアラン・ド・アルー/Alain de Halleux がこのドキュメンタリーを完成して10日目に福島第一が水素爆発している。また彼へのインタヴュー・ヴィデオもある:"Tchernobyl forever": Interview d'Alain de Halleux
ドキュ「チェルノビル・フォエヴァ」は約55分。ヴィデオゲーム「ストーカー/S.T.A.L.K.E.R.」が主軸として使われています。ゲームのコンセプター(ドキュにもゲームにも出てくる)が今でもチェルノビル原発管理で働く物理専門家で、だからチェルノ4号機周辺の今の様子を正確に再現できてる。また、プラント周辺に住んでいた人々、医療関係者の話ももちろん出てきます。チェルノビル4号機廃炉内にはいった人々の映像もある。
コンセプターは、このゲームを作った目的は今のウクライナの若い人々に過去を知ってもらうことだったと言ってます。「人々はチェルノビルを忘れようとしている。恐ろしいのは放射能でもガンでも再臨界でもない。一番恐ろしいのは忘れることだ。」
爆発当時の映像、医療カルテを管理する医師、議員、プラント管理者、新しいサルコファージュの話ももちろんある。
NHKが製作に参加してまして、「永遠のチェルノブイリ」というタイトルで、5月にBSで放映予定:シリーズ チェルノブイリ事故 25年
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こちらも同じくアルテから。L'Europe et Tchernobyl : Un documentaire de Dominique Gros
フォエヴァよりは少し専門的なレベル。長さは1時間、製作されたのは2006年。ねブロにもはりましたIRSNのセシウム欧州伝播シュミレーション・ヴィデオで始まります。ノルウェー・ギリシャ・スイス・ドイツ・フランスなどでのチェルノビルの放射物質影響を医学的に、あるいは社会的な視点で語ってる。
WHO幹事長だった中島宏さんも出てきますし、仏独立団体CRIIRADの人も出てくる。放射能対策には多いに役立つはずで、これも日本で放送してくれるとありがたい。
たとえばきちんと医療対策をすれば子供への影響は10分の一ですむ(ポーランドの例)、汚染されたミルクや小麦、牛に与える食物も汚染されてない昨年のストックに一割とか混ぜれば検査には引っかからないとか。
ノルウェーの湖では2年間釣りが禁止されたが、2年後には汚染度が下がり、誰でも釣った魚が食べられるようになった。禁止された時、湖の鱒は1キロあたり30ミリベクレル。なお、2006年9月、ノルウェー山岳地での農牧一家のミルクからは400から500ベクレルが検出されたと女研究者さんが言ってます。なお、ノルウェー山岳部(ValdresやSunasa)とチェルノビル間の距離は約1500キロメートル。また破棄された農漁産物・家畜は国家が補償した。
チェルノビルから25年たった。1世代です。災害は忘れた頃にやってくる。インタヴューでフォエヴァ作ったアルーが「20年後を目標にフランスから原発をなくす決定をする仏大統領が出てきたら、それはまちがいなく良い大統領だ」と言っている。欧州全体での原発依存率は30パーセント。フランスは78パーセント。日本でも、たとえば今後10年での「原子力発電廃止」を決定すれば、それは良い首相でしょう。
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この後は、解説少なく駆け足クリップ。
Nucléaire en alerte 「原子力警報」ですね。前に貼りましたドキュメンタリー「チェルノビルの戦い」を作ったトマス・ジョンソンの作品です。同じく国営france3で夜中近くに放映された。ウェブで拾ってきたヴァージョンで、音声がよろしくないですが賞味期限は一応なしです:90分。
ノルマンディにあるフラマンヴィル原子力発電所での防災訓練で始まります。この訓練は炉心溶解重大事故が起こった場合を想定し、毎回違った原因部シナリオを研究者が用意して行うんだが、内容は原子炉内部関係者や近郊の市町村などには事前に知らされてない。かなり徹底したシュミレーションが、住民、医療施設、市町村、学校、つまり町中を上げて行われる。
また、1980年代中ごろから一般化した現場労働の「下請け化」。またその労働条件なども取り上げられています。EDFやアレヴァのポリシーってのも垣間見られるし、IRSNの役割や研究者たちの態度なども分かる。独立機関で活動する研究者の声も聞ける。フランスでの原発下請けも大変で、時には原発と原油プラント、それにアミアント除去作業などの現場を渡り歩く人々も多いようです。まさに昔の映画「恐怖の報酬」の世界です。ただ現代の「恐怖の報酬」は原発下請けで月1200から1500ユーロほどだとか(15万から18万)。
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これは、4月28日の最新版後藤政志さんのレクチャー(約1時間)。←よくまとまってます。プラントの現状は安定化とは程遠いのに、遠方に放射される物質量は“安定”し、大手メディアも大きく扱わないようになってから、やっと福島第一の現状が知られるようになったというパラドクスがあって、7週間もたった今(「えーっと」の)後藤さんも言いたかったことをそのまま言えるようになったんだ、とアタクシは解釈しています。
Video streaming by Ustream
また、後藤さんのレクチャーに使われているアレヴァの福島第一パワーポイント資料を見つけたんで下に貼ります(PDF、3月27日リリースで仏語版なしの33ページ)。
The Fukushima Daiichi Incident
内容を1ページ目から拾いますと
1.Plant Design
2.Accident Progression
3.Radiological releases
4.Spent fuel pools
5.Sources of Information
Matthias Braun PEPA4-G, AREVA–NP GmbH [email protected]
となってる。たとえば30ページ目の、4号機使用済み燃料プールは(猫注;放っておけば)10日でドライアウトする、と予測しています。また最終ページの文献最後に「May too few information are released by TEPCO, the operator of the plant」と結んでる:あーあ。
原発に賛成反対の如何論争は別にしても、私たちはまだまだ長い間原発と、ヨウ素とセシウムとストロンチウムと、まだまだあってアメリシウムとかキュリウムなんてのまで出てきてラインアップなんですが、そういったものと共存しなくてはいけないわけです。
建築後40年の古い原発や、新しいEPRとかフェニックス、第4世代原発なども含めた全部の運転をやめても、原子炉や使い済み燃料やその他の廃棄物は、誰かがケアしなきゃいけない。
考えると頭がクラクラするのでウオッカがぶ飲みでもしようと思っても、翌日飲みすぎでクラクラして、そりゃもしかしたら半減期にまだ達してないウクライナのジャガイモのせいじゃない?とか思ったりする。じゃ、ゲームでもと思っても、テトリスやりながらこのゲームはソ連発じゃなかったっけ?とか連想しちゃう。。。出口なし。
ただ、ヨーロッパ全体で30パー、フランスで約80パーの電力を供給する原子力ですが、上に挙げたようなドキュメンタリーが数多く作られたり、原子力推進のための安全確保が目的としてもIRSNのような組織があったり、CRIIRADとかの独立組織があったり、グリンピースもしっかり活動してるし、エコロジー議員も欧州議会にはいる。
少なくとも、まだまだマイノリティではあるけれども、原子力に関する「民主主義」原則は欧州では生きていると思います。そういった動きがあるからこそ、アトミック・アンヌ率いる原子力企業アレヴァも「透明性」を企業ポリシーに掲げざるを得ないというわけです。
これは原子力に限らないが、エネルギー産業全体が、グロバリ化巨大化を続けていて、大きな資本・企業そして複数の国家が介入しないと動かないと言うシステムになってる。ただ、思い出すだけでも、1999年の大型タンカー「エリカ」沈没や去年のメキシコ湾でのBP海中油田事故、もちろんイラク湾岸戦争での大型油田火災もあった。今まであった多くの戦争もエネルギーをめぐって起こったし、テロも大型移民も起こる。
これからはもっと別の、地元中小企業型エネルギー・経済・金融・産業・農漁業・社会システムを作っていかないと、われわれは消滅するだろう。
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今日のリンク大会はほぼおしまいですが、最後にまず、ル・モンド紙の原発関連記事コメント欄経由で見つけた山岸涼子さんの短編「パエトーン」1968年作品へのリンク貼ります。現在無料で読めるんですが、いや、とてもベンキョになる。
こちらは、4月22日ネットに上がった「孫氏の100億」孫正義さんのコンフェランス・ヴィデオ(猫屋コメントなし)。まだ見てない方用に付け加えておきます。関係ないですが、日本に「民主主義」がないとしたら、これを機会に作っちゃえばいいんです。パクス・アメリカーナも終わりつつあるし、それ以外に道はないんだし。