特別年金制度撤廃をめぐってのフランス交通ストが始まって一週間、エリゼ宮にてお隠れになっていたサルコジ大統領は、火曜日ベネズエラのチャベス大統領のエリゼ宮訪問を受けた。チャベス大統領は、コロンビアで人質となっている仏・コロンビア二重国籍の政治家べトンクール生存の可能性に関する“確かな証拠”を、べトンクール解放を公約にしていたサルコジ大統領にもたらすはずだったが、分かったのはチャベスの「べトンクールは確かに無事に生きている」という確信だけだった。なにやら離婚騒動以来、サルコの“ラッキー”度はガックシ下がっている。アンケートによる支持率も下がり続けているわけだが、当然ながら大手メディアは、サルコに都合悪いことは報道していない。
横道にそれるわけだが、レゼコーという経済日刊紙をLVMH(ベルナール・アルノ)が買収した。エリゼ宮にこもったサルコは、先週の金曜日午後に、エコーの編集ヘッドを呼び、レゼコー紙の社長に、現在ル・フィガロの編集部長であるNicolas Beytoutが任命されると伝えたのだったよ。確かに、TVのfr1およびFrance2やラジオのフランス・アンフォ同様、ル・フィガロがサルコ宮廷御用達メディアであることは誰でも知ってる。しかし、オーナーがルイヴィトン・ヘネシーのアルノに変わることに反対して、編集スタッフがストしてた新聞の社長任命を、大統領がやっていいものか?権力の集中、つまり司法・行政・経済界・メディア・低級エンタメetc.がここまで進んでる国って、南米とかアフリカとか中東とかアジアの一部、それにロシアぐらいだろう。リベ関連記事 Beytout : «Echos» de collusion --以上、横道終わり。
そしてその後、35万人から70万人の公務員を中心とした大規模デモがフランス各地で繰り広げられてる間、サルコジ1世は“フランス市長集会”に自己招待ゲストとして、一週間の沈黙を破り交通スト、そして“公務員生活苦スト”に関して演説したわけだ。まあ、大型スト最中になされる大統領の言としてはごく普通、に聞こえる。ただ、どうも、のどに刺さった魚の骨みたいにヘンな部分があるんだよね。以下はル・モンド関連記事から抜粋・猫屋訳。
"On ne cédera pas et on ne reculera pas"
「決して譲らないし、決して後退はしない」、とサルコ大見得を切ってるんだけど。
"La réforme des régimes spéciaux de retraite, ce n'est pas une attaque contre les cheminots, les employés de la RATP, les électriciens ou les gaziers"
"ne sont pas des privilégiés".
「特別退職年金制度の改革は、シュミノ/鉄道職員・RATP職員・ガスおよび電気職員への攻撃ではない。」「彼らは優遇された人々ではない」
Cette réforme est "une question d'équité dans la répartition de l'effort face à l'évolution de la démographie, à la vie qui se prolonge, au nombre des retraités qui augmente (...) jusqu'au bout, je resterai déterminé et ouvert"
この改革は、「人口変動・人口の高年齢化・退職者人口の増大に伴う、努力の公正な分配が問題なのだ。。。私は最後まで、オープンであり断固な態度を変えない。」
"il faut savoir terminer une grève lorsque s'ouvre le temps de la discussion".
「ディスカッションが始まる時点で、ストを終わらせる術を知るべきだ(とっても意訳なり)」
"La grande majorité des salariés de la RATP et de la SNCF et la quasi-totalité de ceux de GDF et d'EDF ont repris le travail. Désormais, l'esprit de négociation doit l'emporter sur l'esprit de confrontation. Ceux qui veulent travailler et qui sont de loin les plus nombreux doivent pouvoir le faire librement. Une petite minorité ne saurait imposer sa loi à une majorité, ni dans les services publics, ni dans les universités, ce qui est un comble"
「RATP・SNCF職員の大部分と、GDF・EDF(フランス電力・およびフランスガス)職員のほとんど全従業員は再び仕事に戻った。こうなった以上、話し合いの精神が対決の精神に取って代わるべきだ。(スト中の職員より)比較にならない大多数の働くことを願っている人々が、自由に働けるようにすべきだ。公共サービスにおいても、大学においても、極めて少数のマイノリティが大多数の人々に自分たちの法を強いてはならない。これは愚の骨頂である。」--以下略。
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気になる第一点、「ストを終わらせるウンヌン」ってところは、Maurice Thorez という共産党政治家が1936年の大型ストの時の言葉のコピペなんだ。レオン・ブリュムやギイ・モッケをはじめ社会党・共産党の歴史的人物の名や言葉を持ってくるのは、サルコジの演説ライターであるアンリ・ゲノ(Henri Guaino;なお彼に関する先週のオブスでの特集記事は面白かったよ)の作文だね。
しかし、ゴーリストを超越しちゃった超資本カネカネ主義サルコが、退職後の年金額が3分の一ほど減らされて、おまけにもっと長くはたらきゃならないってんで怒ってる鉄道員に対して、共産党政治家の言葉を引用して「ストやめろ」という。これって、いいんですか?
ごく少数のマイノリティが、多数の貧民に法を押し付ける、ってのはつまり、ごく少数の株主あるいはヌイイに住む超金持ちが、郊外にしか住めない貧乏人を搾取してるってのが本当でしょうが、大将。
それから、これはル・モンド記事には載ってないんだけど、ストで苦労してる人々について«millions de Français exaspérés d’avoir le sentiment d’être pris en otages»つまり「何百万というフランス人が、自分たちは人質に取られたと感じている」と言ってるんだよね。
ストが始まる前に、ストやる職員はその分給料差っ引けとサルコ憤慨してたけど、大体スト中は給料もらえないことになってるんですけども。。。2週間ストしたらスト参加要員の年末の給料は半分に減るんですけれども。。。。
苦労という意味のギャレール(元の意味は奴隷船)という言葉と共に、「公共交通機関の使用者たちは、交通ストライカーの「人質」となった」というのは毎日大手TV局がニュースで(タレ)流してる常套句、結果、メトロの駅や国鉄の駅ホームでインタヴューされる一般人が、奴隷船だの人質だのというとオウムのように繰り返してる。それをサルコがもう一度演説で繰り返したんだ。これを「刷り込み」といいますね。昨日うちのアパートのエレベーターで出くわしたリタイアばあさんまで「なんて大変なギャレールよねえ。」と言ってた。
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今日は久しぶりにパリを移動したんだけど、人々は疲れ気味ながら、淡々と生活を続けている。13区の自宅から仕事先の1区まで毎日45分かけて歩いてる、という中年男も、今日は天気が好くて気持ちよかった、なんていってた。なお、地下鉄は14番線と1番線使ったけど、この両線は通常通りに運行していて、混んでもいない。切符なしでメトロ載り放題なのもワルクナイ。
1995年に3週間続いた全面スト時はアタクシも勤め人だったので、毎日自転車で30分かけて仕事先に通って、そのほかにも用があればパリ中自転車で走り回った。不思議だったのは、あのカオチック(カオスね)な状況でも、バス乗り場や歩く人々や自家用車に乗り切れる人だけ積み込んで行く人々や、みんなが各自情報を交換したり、笑いあったりしていたことだ。普段では絶対口を利かないような、通りがかりの誰とでも議論したり冗談言ったりの奇妙な「非日常」の3週間だった。
他の地ではどうなんだか分からないけど、フランスではストとかデモとか騒動とかが、一種の「祭り」あるいは「時代の節目」として機能しているように思う。いや、今回の動きがなにを用意しているのかは、まだ分からない。21世紀的カネカネ個人主義が、フランス社会をすでに、すっかり変えてしまったのかも知れない。
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シラクがパリ市長時代の汚職容疑で検察の調べを受けた。多くの政治専門家が、シラクの高齢を考えると過去の疑惑追及はないだろうと言っていたんだけど、、なにやらすべて、“闇の中”なんだよね。“闇の中ではすべての猫は灰色”である。先月のストのときの離婚騒動のかわりに、こんどは何が来るんだろう、というのが仏ブログ界でササヤかれてたワケだが、これがソレですか?なんともわからん。
もひとつうわさです:シラクのクリアストリーム疑惑にかかわる現在の内務相アイユ・マリは来年早々の内閣改造で退職、かわって現在法務相のラシダ・ダティが就任という話がある。
仏憲法第五条の書き換えとダティ内務大臣就任だけはなんとしてもストップさせな、あかんです。そうなったら猫屋、日本に政治難民として移民するっきゃないっす。← いやこれはいつもの悪い冗談ですが、
続く