この火曜日夕方夜半にかけて、パリ北駅でおきた騒動について、ラジオと新聞(ル・モンド)での報道を注意していたんだが、どうもよく分からない。入ってくる情報自体が一貫性がない、というか報道内容が刻々変わっているようだ。
簡単に書けば、改札を切符なしで飛び越えた男をフランス国鉄/SNCFと警官が取り押さえ逮捕。それを目撃した周辺の人々が逮捕の荒々しさに抗議の声を上げた。この時点でどうも人々の間に逮捕者は13歳の少年だ、といううわさが流れたらしい。(なお数日前にはパリ19区の幼稚園前で園児を迎えに来た中国人祖父(非合法移民)が警察に逮捕され、それに抗議した幼稚園園長が警察に拘留された事件があった。以前は60歳以上は国外追放の対象とならないはずだったんだが、、)
やがて、警察隊に対する批判の声にくわえ、現場にいた若い衆が気炎を上げ始める。同時に北駅にはCRS(機動隊)が続々到着。TVカメラおよびジャーナリストたちも到着。「これは夜8時のニュースに出る」というジャーナリストの声も証言されている。また、携帯電話で連絡を受けたらしい若者が増える。また一般人に対して催涙ガスも使用されたようだ。
RER線(郊外列車)の北駅素通り指令にもかかわらず、警察および機動隊と青年たちのイタチごっこは、やがて自動販売機破壊・切符売り場への放火未遂・別階の商店破壊と略奪行為(ジョギング・シューズ)などへとエスカレート。最終的には壊し屋を含む200から300の青年たちと警察および機動隊(数は不明)の“対決”となったが、多く見積もっても10人以下の逮捕者が出たもよう。けが人は発表されていない。
騒動後、サルコジの後任であるバロワン内務相は「逮捕されたのは、海外強制退去されるべき20年来の非合法者、過去に22回警察沙汰を起こしている。」とラジオで発表。対して、逮捕されたコンゴ国籍のAngelo Hoekelet (32歳)の弁護士によれば、ホエケレは10歳のときに、合法的にフランスに来ており、すでにその兄弟たちはフランス国籍を有している。また本人も4月5日に滞在許可証を受理するはずであったという。(けれど騒動前日、彼はエクサンプロヴァンスの裁判所に出頭するはずであったが、切符がなかったので列車に乗れなかったと別記事にはある)。また彼の犯罪暦はスパー、モノプリで食料品や雑貨を盗んだといったもので22回という数字は間違いだとしている。
2005年郊外での“暴動”時と同様に、(5月2日に裁判が行われる2被告を除く)当夜11時前後逮捕された18から32歳の被告に対する異例の即刻裁判が行われ、執行猶予つき禁固4ヵ月から禁固4ヵ月翌日訂正:植木鉢投下者に対する禁固実刑6ヶ月までが言い渡された。彼らの犯した罪は、植木鉢(20Kg)を二階下に投げた、拾ったバスケット・シューズを機動隊に投げたなど。またビールの空き缶を投げたと摘発されたナンテールの大学生(20歳、父親は研究者で母親は教員)は「冗談に友人に投げただけで機動隊を標的にしたわけではない」と証言したらしい。
とまあ、思い出したところだけかいつまんで書いてみました。つぎは猫屋コメントです。
北駅:ここはユーロスターも到着するSNCFの駅であると同時に、メトロ2本と近郊列車RERも通っていて、長い通路で西駅とも通じている。改装されてからは吹き抜けのガラスが多い3階の巨大な建物で、通るたびにここはSF映画の舞台にぴったりだなあ、とか思っていた。特にRER・マジャンタ駅の薄暗さは印象的。ショッピング・モールもあるので郊外(バンリュウ)から出てきた連中の溜まり場ともなってるらしい。
切符コントロール:さすがに歳を重ねて面倒なことがいやになった猫屋は、“基本的には”メトロやRERに乗るときは切符を買う。けれど、フランスの自動販売機の遅さ・複雑さ(同時に日本のは早すぎて対応できませんが)、度重なる販売窓口だれもいない状態から切符なしで電車・メトロに乗ることもある。連れの後ろにくっついて改札を通るとか、いろいろテクニックもあるんですね。
なおこちらでは日本のような、乗り越し料金を下車駅で後払いするシステムはありません。だからパリ市内の定期(カルトオレンジやナビゴ)を持っていたとしても、たとえば郊外に出かけるときは別個に切符を買う必要があります。なお、パリ市内の家賃・不動産の値上がりに伴って、中流および低収入家族はどんどん郊外に引っ越さざるを得なくなってる。失業者や学生には、国鉄運賃を払うのがどんどん厳しくなっているのが実情です。なお郊外5ゾーンからパリへの往復チケットは8.1ユーロ(1300円ぐらいかな)。
最近は切符コントロールもだんだん厳しくなっている。週末の朝9時とかの抜き打ち作戦(高校生とかが遊びに出るのを狙う)とか、検札集団を見ていて嫌になるのは、切符なしのカラード系若い衆がいると、即警察を呼ぶことだ。もちろん無賃乗車はイケナイ。国鉄職員のコントロールに会ったら、切符代の何倍かのペナルティを取られる(アタクシも何回か払ったことがある)。それは分かる。けれど、ここでIDカードを持っていないと警察官を呼ぶんですね。
どうも今回の北駅ケース関連記事を読んでいると、逮捕された男(その時点では被コントロール者)が検札職員に対して抵抗したので、職員がタックルをかけ床にたおし、やってきたポリスが手錠をかけ連行、ということだったようだ。どの時点かはわからないけど、写真を見ると警察犬も出動してます。
2002年:第二次選挙がル・ペン対シラクになった、あの2002年の大統領第一次選挙直前に、場所は忘れたが田舎の一軒屋にすむ爺さんが、暴漢に襲われて怪我するという事件がTVなどでかなり大きく報道された。怪我自体はたいしたことなかったし、このての事件は本来ならば地方紙の片隅に載る性質のものなんだが、青あざの爺さんの顔のインパクトはつよくて、選挙では、例の“失業問題も犯罪も外国人のせい、だから外国人追放せよ”ととなえるル・ペンにどーんと票が行ったんだね。どうもあのキャンペーンをしかけたのはシラク陣営だったらしいが、効きすぎて極右に利した。
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2007年のサルコジもこの線をねらっているはずだ。けれどその戦略は微妙なさじ加減で、自分に火の粉がかかるリスクも大きいわけ。今回の“北駅事件”後、内務相ではなく純大統領候補としてのサルコジは強行な態度を取っている。
しかしだね。2002年からこの2007年まで、この保守政権のとった保安強化策に効果はあったんだろうか。つまり保安コントロールの強化、検挙者の増加、そして裁判所の過密スケジュールと、審判が行われるまでの長い日にち(とそれまでの仮刑期の問題)おまけに刑務所での人口過密や刑務所の経費問題、そして出獄した人々の社会復帰の問題まで含めて考えると、いったいこの国がより安全になったかと言うと、確信はまったくもてない。特に、サルコジの一言で幕を切った2005年の郊外“暴動”に対する、バンリュウ問題政策はなにもとられていない。CPEで問題にされた若年層の就職難に対する政策も同様だ。
根にあるのは失業問題なのだ、と私は思う。
そしてサルコジの体現する警察と、若者の対立の根は深く、サルコジが大統領に選ばれたら、それこそワラに火をつけるように騒動が広がるだろうと、かなり深刻なココロモチになるのだった。
参照:パリのメトロ・鉄道図 パリ北駅は Gare du Nord 確か10区、パリの中心シテ島から右上のあたりです。
翌日後記:政府はこの事件を受けて、かどうかはわかりませんが、RMI/最低生活保護を受けている人々には公共交通機関の定期無料配布と決定してます。まあ、選挙前のポトラッチですな。←オイラもほしいよ。