中途報告です。しかし、全工程の、ってどんどん工程は長くなるばかりなわけで、何分の1こなしたのかもわかりません。
今日は、ネット画像では比べるのも難しいので、美術の歴史系大型本を2冊購入。まずは古典的E.H.Gombrich のHistoire de l'Art: ヨーロッパ(ときわめて若干ヨーロッパ以外)の絵画と彫刻・建築をカヴァーしてる。文章全部を読みはしないだろうが、百科事典的に使えそうという理由でベストセラーである本書を購入。初版は1950年で、買ったのは最近の古本で22ユーロ。文章だけの文庫版もありますが、アタクシが必要とするのは、まず画像。最近売れてるドイツ出版社TASCHEN 版は安いんだけど、一見してレイアウトとか写真の色がいまいち冴えないので不採用。
2冊目はウンベルト・エーコ先生監修のHistoire de la beauté - 2002年発行もの。表紙になってるBronzino のエレオノーレと息子の絵はフィレンツェで見て唖然とした記憶がある。この本は、もちろんエーコ先生の書いた文章も多いですし、ポップ・アートやマリリン・モンロー、シュワルツネガーのポートレートまで引き合いに出してイコノロジーとエステティックについてテーマ別にわかりやすく語っている。なんか、勢いで買ってしまいました。ヨヨヨの39ユーロ。
美術批評、あるいは中世史・ルネッサンス史について書かれたものは大体多すぎるし、専門家も多いし細分化されすぎていて、ド素人のアタクシには歯が立たないし、眉唾説も多いと感じたし、ブルクハルトと極めて近代王道派のGombrich とご近所の物知り隠居的エーコ教授に道案内をお願いすることにした。日本語系ではどうしてもローマ在住オババにぶつかりそうなのでパス。アタクシはマキャヴェリの影響から抜けきれず、ロレンツォ・デ・メディチのサポーターなんで、なんでもカエサルは苦手なのだ。
しかしなあ、気温が下がって観光シーズンも終わった頃、ヴェニスのあたりとフィレンツェのあたり一週間ぐらいかけて回ろうと思ってたんだけど、こんな調子で月末に本買いまくってたら無理じゃん。。。自分ながら、空いた口がふさがりませぬ。ポッティチェリのフレスコ見にローマまで行きたくなったし、あーあ、夢は雨上がりのパリ上空を駆けめぐるのであった。
というわけで、どうしても政治的バックグラウンドがついて回る美術批評はなるべくよけて、wiki仏語版で歴史的前後関係を調べる以外は、ひとまず上の2冊ですべてまかなうこととした。
ルゴフ先生の本は今2冊目真ん中ぐらい。ブルクハルト批判してるところがあって面白い。中世学者にとっては偉大で腹立たしい人物/ grand et fâcheux personnage だそう。つまり、暗黒の時代である中世とルネッサンス期という大きな時代的区切りを強調したプルクハルトに対して、ルゴフ教授は、古典時代後の476年に始まってコロンブスによる“新大陸発見”の1492年に終わるとされる中世設定に異議を唱える。教授によれば実際には複数のルネッサンスが存在するし、田舎での飢餓がなくなるのは(ロシアを除き)19世紀であり、政治・経済ボキャブラリーが実際に生まれるのはフランス革命と産業革命まで待たねばならない。。。以下部分コピー。
Historien de l'art et de civilisation, proche de Nietzsche, amoureux de la Grèce, Burckhardt - le premier - installe fermement la périodisation qui nous ligote encore.S'appuyant sur sa passion des Anciens, enthousiasmé par l'art italien du Quattrocento (notre XV siècle), il fait la théorie de la rupture. C'est lui qui invente la Renaissance, avec un grande R, l'isole du Moyen Age et tranche péremptirement....
このあと、ルゴフ先生はブルクハルトの生きた19世紀のドイツ語圏のナショナリズムを批判するわけですが(ミシュレについても言及)、けど、それはしょうがないよなあ。ツァイトガイスト/時代精神あるいは時代空気、ってもんがあったわけで、20世紀あるいは21世紀の時点から1889年に死んでる歴史家のナショナリズム要素を批判するのは(どっちも読んでないけど)ギボンやルナンがキリスト教徒であったことを批判するようなものじゃないんか。ようわからん。
まあ、アタクシが追っかけてるのは単に(今んところ)15世紀を中心としたイタリア美術限定なんだから、なんとも言えない。アタクシにとっての中世とは、 文学・建築・絵画ムーヴメントとしてのルネッサンスが起こったバック・グラウンドの時代なのだ。
ひとまず、カエサルのものはカエサルに返し、ルゴフ先生の中世観をもう少し聞き、それからブルクハルトからルネッサンスへのロマンチックな高揚をわけてもらい、なんと言ってもイタリア人であるエーコ長老にエステティックとイコノグラフィー薀蓄を語ってもらおう。
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本来は、美術館や寺・教会でも、年代を調べるぐらいで解説はなるべく読まずマチエールに対面主義なんだけど、ちょっと趣旨を変えてみたわけ。しかし、ルーヴル常設展の解説は専門書的過ぎてよくない。ブラスティック・ボードの仏語解説はチンプンカンプン。日本語訳はさらにひどい。あれは市民をバカにしてる。スノビズムの骨頂である。
移動中の交通機関内で読み続けてるのはオバマの自伝で、結果、中世と15-16世紀のイタリアと1960年代のハワイやインドネシアがパリのメトロ内で交差するという、目くるめくオタクな2009年夏なのであります。
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本日のおまけ:The New York Public Library のサイト上で、ウンベルト・エーコと確か2年前フランスでベストセラーだった《How to Talk About Books You Haven't Read /Comment parler des livres que l'on n'a pas lus ?》を書いたピエール・バイヤール/ Pierre Bayard が“英語で”コロンビアの先生である司会者の質問に答える形の対談映像見つけた。2時間近くあり、アタクシの英語力では全部わからんにしても、上質の“エンタテイメント”になってる。精神分析医にしてパリ8大学の教授でもあるバイヤールの本タイトルは《どうやって読んでない本について語るか》でありまして、このい本アタクシ最初だけ読んで積読棚に収まってます(個人的読みでは)半分冗談の本。英語訳出版の際にニューヨークまで飛んでこの対談をしたんでしょう。途中エーコとバイヤールが仏語で直接会話しはじめたり、司会者をおちょくったりしてて楽しい。