生まれてこのかた、いや、正確に言えば物心ついて以来の話だが、とにかく手近にあるものは何でも読んでいた気がする。それが、フランスに来てから、プレス読みに集中するようになった。とにかく生き延びるための状況情報収集のほうが重要だったからだろう。同時に、仏語本を読むに充分な語学力も、充分な時間もなかったし、あのころは日本の書籍に触れる機会もなかったからね。そうやって、仏語の新聞や雑誌で仏語力をつけ、ヨーロッパの状況も同時にある程度ではあるが理解するようになった。読んでいたプレスは、ル・モンドとヌーベロプス、一時的にアクチュエル。リベとカナール・アンシェネはアルゴ(俗語・口語)や決まり文句(エクスプレッション)が多くて難しすぎた。そして、いい記事があると大型ノートに丸写しし、もう一度辞書を引きながら読み直した。
はじめはTVも持ってなかったから、夜中のラジオでフランス・キュルテュールを聞き聴取力をつけた(でも、おかげでフォネティックの先生に、ラジオのアナウンサーみたいな話し方すると注意された)。
もう25年も前の話である。
*
そのまま時間が過ぎ、ちゃんと本を読む時間と能力をもてるようになっても、本に対する興味は戻ってこなかった。自分も変わったし、時代も変わって、本自体の持つ意味も大きく変わった。本が消費財のひとつになってネットも登場した。“知識”の意味も変わったんだと思う。価値観の変化速度がまし、モード/流行の変わり具合と人々が“知識”を忘れる速度も加速した。
ただ、現在進行形の世界再編成が、この流れを再び変えていくんだろうな、と思う。どっちに向かうのかは誰にもわかんないんだけど。。。。
**
さて、本リストです(すべて文庫系)。
読んでよかった読んだ本
塩川伸明さんの“民族とネーション-ナショナリズムという難問” 岩波新書
新宿の新しいほうの紀伊国屋で見つけて衝動買いだが、正解でした。欧州にいればいやでも気がつかされるネーションとステイツ概念の違いと、ナショナリズムが表わすものに関する本なんだけど、日本にいるとこれは難しいだろうなあ、と思う。もちろん、歴史的にも地理的にも言語的にもいろいろな見方があるのを、ロシア史専門の塩川教授が各“民族”概念と差異のエスキスを拾っている。読みやすし。あとは、読者各人が自分で考えることを促す本。
今、読んでる本
なぜかオバマの自伝 Les rêves de mon père / Dreams from my father 仏語版。
近所の仏語師匠おばあちゃん先生から去年のクリスマスにもらった。日本の本屋にオバマ本がコレデモカーと山積みされてるのを見てアキレ読む気にならなかったんだけど、ほとぼりが冷めた今頃読書開始。悪くない。まず読みやすいし、書かれたのはバラコバマが米国大統領となる10年前で、その誠実さが(仏語訳であっても)行間から読み取れる:あたりまえだが、この人は100%アメリカ人である。彼にすべては実行できないとしても、オバマが米合衆国の大統領であることは、米国にとっての大きなチャンスだ(オバマが選出されるためにはブッシュが必要だったのか。。)。
買った本
Jacques Le Goff:A la recherche du Moyen Age. Marchands et Banquiers du Moyen Age. Le Dieu du Moyen Age.
ルゴフ先生の本どれ選んだらいいのか分からず三冊も買ってしまった(笑):ジベール・ジョセフには危険がいっぱい。
Jacob BURCKHARDT: Civilisation de La Renaissance En Italie, Tome 1
続く2巻は本屋にもマゾンにも見つからない。今やっと序文を終えたトコだけど、あたりは悪くない。19世紀に書かれた本なのに全然古くない。ブルクハルトはニーチェの師匠にして年上の友人であった人ね。イタリア・ルネッサンスに関する本はとにかく多すぎで、どれを選んでも後悔する予感ありなわけですが、今の時点ではブルクハルト教授に教えを請うことにした。続巻をどうしても読みたくなったら、日本語版にたよることになるか。
***
東京のチョロリン先生が、イコノグラフィーやルネッサンスについての基本文献紹介をこのところお書きになっておりまして、これは歴史門外漢にはアリガタヤなのであります。メモって、(いつになるかわかんないけど)次回帰国時ショッピングの参考としたい:文献紹介/SCHOLASTICUS LUGDUNENSIS
****
あーあ、「すべての本を読むには人生短すぎ」だし、「読まない本は単なるホコリ」なのでありますし、「物は少ないほうが幸福」なはずなのですが、ま、夏休みだし、いいか。
全然関係ない今日のひとこと:昔、仏語を教えてくれたルノー先生が言っておりました。
真のインテリジェンスとは、目前の(リアルな)問題を解決する能力のことである。
御無沙汰しております。
私も本を読まなくなってしまいました。"Les Bienveillantes"の英語版もまだ買ってないし、外で読む分にはiPhoneに落とすくらいでよくなってしまいました。
それでもこのエントリとchorolyn氏の最近のエントリは目の毒です。もっともっと欧州を勉強したいと思います。
投稿情報: ぴこりん | 2009-08-08 11:16
おお、ぴこりん氏。お元気でしょうか:パリも大変だけどロンドンもキビシイんじゃないかと推測いたしますが。
しかし、チョロリンとかピコリンって、ここはチロリン村ですか。いや、世代が違う;ひょっこりひょうたん島か。。。
アタクシ猫屋村長の言はまったく個人的 Note de voyage みたいなもんですが、そこいくとチョロリン先生は歴史学徒、信頼できます。英国から大陸にやってきた、それから大陸から英国まで出向いた人々も多かったし(戦争もですが)アムステルダムの繁栄は英国がバックにあったし、、、いやあ、歴史って本当に面白いです。
投稿情報: 猫屋 | 2009-08-09 11:18
わざわざ拙グダグダ駄文ブログにコメントして頂いて赤面でございます。
ちなみにひょっこりひょうたん島は、たぶんリアルタイムではなかったと思いますが、我が家におもちゃがあったような気がします。
投稿情報: chorolyn | 2009-08-09 19:07
失礼いたしました。TV世代論だと「アンパンマン」なのかなあ。アタクシ、「赤胴鈴の助」と「チロリン村」「ひょこりひょうたん島」で戦後民主主義論が書けそうな気がしてきました:書くわけないけど。。。ドラゴンボールZ とタートル・ニンジャまで拡大するとグローバリ化した比較文化世代論だし。
投稿情報: 猫屋 | 2009-08-09 19:58