政治界に入る前、つまりサルコジに呼ばれる前は、シカゴで企業向け弁護士事務所を構えていて、今でも政府内同僚用に書いたメモが英語だったりして嫌がられているらしいクリスティーン・ラガルド仏国経済相(あだながマダム・ラ・マルキーズ、あるいはマダム・ラ・ギャフ)は、「システミック・リスクはすでに過去の話だ/ le risque systémique est derrière nous」とこの土曜に発表したらしい。解説すると、システミック・リスクとは世界レベルで、金融ファイナンス・システムがドミノ型に連鎖破綻すること(仏語ウィキ)。
この経済相は昨年夏に「サブプライム危機は終わった」宣言した人ですし、話半分で聞いといたほうがいい。
たしかに、ここんとこのTV報道が気になって金曜の夜8時に、珍しくTVつけてみたら、『 IMG破産回避のため米国政府は超大型金融介入策をとると発表後、世界株式市場が反発、大幅の上昇』とニュース解説者がうれしそうに言っていた。ゲ。
この10年ぐらいだろうか、株価の上下を一日に何回も耳にするようになった我々は「株上昇」の影に、リストラとかアウトソーイングだとかの悲劇があろうがなんだろうが、なんとなく景気がよくなったような気がしてしまう悪い癖がついている。実に、ソニーさんが儲かろうが、トータルさんが儲かろうが、こちらの懐はまったくサビシイままなのであるが。
パリcac40は確か9パーセントを越す上昇で、本場ウォールストリート株価上げ率の倍近くあったけど、なぜか(まあ日本の兜町もそうだけど)パリは下がるときも米市場の大雑把にいって倍は下がる仕組みになってる。(2007年8月2日からの下げ率はニューヨークがマイナス19、パリがマイナス27、東京がマイナス32;先週水曜発行ヌーベロプスの数字)。
ただ、それから大々的に報道された米財務省による最高7000億ドルの不良債権買取案も、対象になるのは米国国内での金融活動に限定されていて、たとえば、日本や欧州も同様な救助手段をとるようにと米財務省ポールソン長官は各国政府に呼びかけてる。
なんだかなあ。金融業界での大幅な規制枠取っ払いをやったのは米政府だし、世界金融をドル漬けにしたのはグリーン・スパン。借りたドルで戦争したのもブッシュ(スティグリッツ教授によると、イラク戦争の出費は3兆ドル)。
しかしやっぱり、不良債権国家買取という米政府の救済策が米国内活動金融業に限る、ってのはなんかセコイ気分がする。これはあくまでシロートの気分に過ぎないのだろうか?
で、今のところ為替にさほど大きな変動なし。「嵐の前の静けさ」っぽい。
たしかにAIGはその名の示すごとくアメリカン・インターナショナル・グループで、確か1000機からの飛行機を世界中の航空会社に貸し出してたり(傘下のILFC;買収されるみたい)、個人が不動産や車購入時ローンをパッケージで銀行から引き受ける商品も扱ってるから、法人相手のリーマン・ブラザースを見限ったフェデラル・リザーヴ+米財務省も、AIGが破綻で負債を残したまま消えてはいけん、と救済策をとったのだろう。
こっちのメディアでは「AIG は破産させるには大きすぎ/ too big to fail 」と言ってる。
参考:ジュネーヴのトリビューンから《 Un élève devait être puni.Ce fut Lehman. AIG était trop gros
》
世界130カ国で営業活動、従業員総数116 000人で、7400万人のクライアントを持つ企業。この巨大企業を米財務省が2年の枠で最大850億ドル融資し(金利は11パーセントと高い)、資本の79.9パーセントを国家保持ってことになるわけだが。
まあ、この後のAIGはもちろん、その他の保険・金融・証券・銀行の動きがどうなるかを見てかないと。さっき見つけたオルターネイティヴ・エコノミクス(仏誌だけどなんか雑誌名英語読みになっちゃう、ごめん)の記事によると、仏銀行ではBNPとソシエテ・ジェネラルがAIGのクライアントだって書いてあった。まあ、AIG (too big to fail) の米政府による一時国営化でほっとしているであろうなあ、中の人。
オルターの記事(AIG は« too interconnected to fail » と書いてます):Après A.I.G. la panique continue. Deux jours de folie en 5 questions clés
けれど、2年間で会社更生するとして、国家からの借金はアクティフの売りで支払うんだろうから、このAIGと契約してない大型企業のほうが少ない(上の記事から)そうだし、AIGショックの余波が具体的に出てくるのも、これから。
しかし、先週はすごい一週間だった。リーマン・ブラザーズのほうは、だいぶ前から経営難がささやかれていて、危ない書類は始末して難破にそなえたトレーダーも多かったらしい。いずれにしろ金融ブラックボックス内の実際損害規模が分かるには、すくなくとも数ヶ月はかかるだろう。ワールド・トレードセンター崩壊から7年。こちらも決して消滅しないかに思えた大手米金融のトップがバタバタと倒産・買収統合・国有化である。
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大体、このアタクシは「持ってる現金は全部使う。そのかわり借金は絶対しない」というオールド・エコノミー人でありまして、でも関連記事 読んでたら、特に日本の記事が英語専門用語のカタカナありすぎでチンプンカンプン(たとえばコレ;まあわざと分からないように答えてるのかもですが)。あれだったら、英語記事読んだほうがまだ、読者のこと考えて分かりやすく書いてるように思う。
てか、金融自由化後、なんだか到来ものはソフィスティケイトされてるって刷り込みがあったんだと思う。ここフランスでもそうで、axx とかはアグレッシヴなマネージメントと買いまくり主義でこれも世界保険業界大手になったけど、その分危ない金融商品も溜め込んでるはずだ。
デリバティブとかで損しても、個人クライアントの金預かって、そのかわりそのクライアントの資金繰り相談にのる、って昔ながらの銀行屋さん業部門をいまだにやってる金融業者は生き残れる可能性高し、だそうだ。
株式でも、l'effet de levier ( 調べたらleverage/ レバレッジだって;
持ち金なしで株買い、で株価が上がったところで売るという、儲かってから払うやり方)は規制する方向に行きそうだって言ってたけど、どうなるんだろう。ついでだから、スペキュレーションの素であるデイ・トレードに課税して欲しい。
これからチェックすべきは、ドルの移行動向であるね。これで、今回の米国発金融危機が、1990年代の日本バブル型だとしたら、少なくともあと15年は経済停滞が続く可能性ありってことだろう。んぐぐ。
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なお、仏系銀行が破綻した場合、普通口座と各種リヴレはクライアントにつき70 000 ユーロまでは保障するシステムになってるはず。外国系銀行だったら、その国の基準による補償額。
しかしなあ、銀行と保険屋なんて、一番硬い商売と昔は思われてたんだけど、いつの間にやらみんな株屋(これも昔の意味)に成り下がっていたわけだ。一番確かな投資だったはずの不動産もこうでしょ。怖い・怖い。
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ル・モンドからの参考
ニューヨーク・コロンビア大学のラマ・コント教授へのインタヴュー記事 :"Si AIG s'écroule, toute l'économie américaine est affectée"
1929年
大恐慌が起こった日10月24日のクロノロジー:24 octobre 1929,tout bascule
ロンドン・シティで働く仏人トレイダーの記事:Un trader français à Londres : "J'ai dû perdre environ deux millions de dollars"
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翌日追加。日経ネットから:ゴールドマンとモルガン・スタンレー、ウォール街モデル捨てる
ゴールドマンとモルガン・スタンレーの銀行持ち株会社への移行は、ここ数週間で金融機関の既存の体制を維持することに懸命に努めてきたポールソン米財務長
官にとって打撃となる可能性もある。今や、米国の主要金融機関の親会社のほぼすべてがFRBの監督下に置かれることになった。21日夜の展開により、
FRBは米国内のほぼすべての金融機関に対してより直接的な権限を持つことになり、その世界的な主導権も一層強化された。
AFP報:Les dernières banques d'affaires américaines renoncent à leur statut
NEW YORK (AFP) — Les deux dernières grandes banques d'affaires
américaines, Goldman Sachs et Morgan Stanley, ont renoncé dimanche à
leur statut pour devenir de simples holdings bancaires, au terme d'une
folle semaine sur les marchés financiers qui avait remis en cause tout
leur modèle de fonctionnement.
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なんか、サルコはニューヨークに飛んだとか、飛ぶはずとか聞いたけど「噛み付いてでも経済成長をゲット」しに行ったのかなあ。まあ、「フェデラル・リザーヴは仏銀行の抱えた負債をどうにかしろ、なんせアフガニスタンに兵士送ったんだから」とか言いかねない。なにしろ、タヴーもコンプレックスもない保守ですからね。それより飛行機飛ばす出費減らして、そんなに動きまわりたいんだったらエリゼ宮の庭で三輪車でもこいでた方が、国家予算的にもエコロジカルにも賢明だろう(あるいはアレ元老院選挙でのUMP後退に対するあっち向いてホイ! 策か)。