夏休み明けの忙しさもやっと落ち着き、相変わらずの青空をゆっくり眺めつつ翻訳してみました。
いや、フランスは衰退してはいないのだが - ジェローム・ギエ
ル・モンド 2007年9月10日アタリ委員会(訳注;大統領が任命したジャック・アタリを委員長とし、フランス経済危機脱出のためのレポートを製作する)設立のアナウンスにあるように、国内および外国メディアで、フランス経済の低成長率あるいは執拗な大量失業といった、定番の言及の伴わないコメントは極めてまれである。 あらゆる場面で、“改革”が緊急事項とされている。
この“改革”ということばは、片面通行のプログラムにとって、多かれ少なかれ疑問の余地のないコードネームとなっている:“融通のきかない”と目される労働市場の労働法柔軟による自由化、企業負担額の引き下げ;国家の対企業コントロール軽減、そして、当然だが、減税である。英国あるいは米国モデルに従って、より流動的で低賃金の労働者は、より雇用しやすくなり、企業の競争力と利益を向上させるだろう。そして、当然だが、あれほど非難された、“経済的逸脱” である35時間労働制は、フランス国民を再び働かせるため、即刻排除すべきだろう。
ここでの問題とは、株主と企業家たちに利益をもたらすこのプログラムが、不完全で偏向した現実描写に根拠していることだ。
多くの場合、衰退説のテーマは、近年の英国・米合衆国に比較し、フランス国民ひとりあたりの比較的低い
PIBGDPと、より低い成長率を基盤としている。ところで、この描写は削除された現実でしかなく、それらモデルとみなされる社会でめざましく 進んで入る格差拡大と、富の分配の実情を考慮に入れていない。事実、これらの国で作り出された富全体は、人口のきわめて限定された層によって取り込まれている。収入平均値は停滞しているが、人口内の0.1パーセントのもっとも裕福な層の収入は矢のように上昇しており、結果として、反響を呼んだPiketty と Saez の統計によれば、米国における富裕層の収入はこの20年弱に2パーセントから7パーセントを占めるようになった。この富裕層の5パーセント超過収入は、フランス国民の貧困化度とほぼ同じであり(仏国民の一人当たり
PIBGDPは、米国民に比べ78パーセントから72パーセントに移行している)、つまりフランスでの99.9パーセントのより貧しい人々にとっての成長率は(米国と)同様であるという結果になる。格差の拡大は、収入レベルのもう一方の極でも同様な結果を見せている。フランスでの子供たちの貧困率は7パーセントだが、英国では16パーセント(1979年の2倍)であり、合衆国では20パーセントである(なお、米国民の15パーセントは健康保険を有していない事実を忘れてはならない)。
社会の最もダイナミックな人々にとっての、企業を起こしその働きに見合った結果を得る自由の擁護は、理解しうる。けれどこの自由が、それなりの見返りを伴わずに許される場合、それはフランスに見られる以上の、避けがたい社会内断絶を伴う。高いレベルでの連帯と再分配というチョイスは、もっとも高い収入を抑えるが、しかし、引き合いに出されにくいところの、その他の層の収入を抑圧しはしない。たとえばUBS銀行の行ったような調査が示すのは、アメリカのいとこたちが自国のダイナミズムから受けている恩敬に比べ、フランスでは、低収入あるいは中間層、もしくは裕福層でさえ、より多くの仏経済成長の恩恵を受けている。
したがって、収入に関していえば、もっとも豊かな人々のグループのみが“改革”の恩恵にあずかると思える。この結論はそうすると、フランスがこうむっている失業問題の解決とはマッチしないのか?
すべては、調査対象によって変化するのだ。つまり、OECD の数字によれば、2004年には、25歳から54歳の男性のうち、フランスで87.6パーセント、米国で87.3パーセントが職を有していた。しかし、この年齢層の失業率は、フランスでは7.4パーセント、米国では4.4パーセントである。 失業と非活動を分けるラインは、明らかに国によって移動するもののようだ。。。
同様に、15-24歳の若年層の失業率はフランスでは8.4パーセントであるが、デンマークでは5.5パーセント、米国は7.6パーセント、英国では7.5パーセントとなっており、モデル崩壊を叫ぶ必要もないと思える。確かに、他国に比べ失業率の高さは認められるのだが、これは、働かねばならない学生の数が少ないフランスでの、この年齢層における勤労者数の低さを反映しているに過ぎない。
(訳者注;フランスでの大学年間学費は極めて低い、たしか10万円以下。同時に住居手当など、学生福祉制度も整っている。)もうひとつの論点:フランス人は働かない、とよくいわれる。これは事実とはいえない。フランス労働者は週平均37.4時間労働し、英国平均は35.7時間だ。たしかに、フルタイム勤務者の労働時間はフランスのほうが短いのだが(2005年において、英国での43.2時間に対して40.9時間)、パート・タイム勤務者の多さが、英国全体の一人当たり平均勤務時間を短くしている;両国での、似通った層の労働時間はほぼ同じである。フランス人は働かない(les Français travaillent moins)、という言葉は単に間違っているわけだ。
過去10年の間、フランスは英国と同じだけの雇用を生み出している:250万人。ただひとつの違いは、英国での新しい雇用創出が一定であったのに対し、フランスでの多くの雇用が1997年から2002年のあいだに、つまりちょうど35時間労働制が実施された時期、また世界における成長率が最も高かった過去五年間に、創出されていることである。
さらに注目すべき事柄は、英国(+ 6 %)、米国(+ 5 %)に比べ、フランスでは民間セクターでより多くの雇用を生み出していることだ(+ 10 %、以上1996年から2002年のOECDの数字)。実際、英国は約過去5年の間、民間セクターでの純雇用をまったく生み出してはいないが、公共セクターにおける強い雇用拡大の結果を享受している。
これは、英国および米国の経済成長が、ブレアとブッシュのもとに拡大した、公共支出増加に大きく依存していることを示している。公共支出額は、2000年から2006年の間に、英国では38パーセントから45パーセントに、合衆国では34パーセントから37パーセントに増加している。 英国の場合、この(教育と健康セクターを主軸とする)ケイネジアン活性策が、増税と北海油田からの収入でまかなわれたのに対し、ブッシュ政権は(イラク戦争を支払うため)公共負債および民間負債の過去にない増加へとつき進んだ。多くの世帯は、沈滞するその収入を埋めるため借金せざるをえなかったのだ。しかしながら、これらのケースは“ディナミズム”と見なされているようである。だが、アングロ・サクソンモデルのいったい何を見習えというのか、自問してみる価値はあるだろう。。。
もちろん、フランスではすべてがうまく行っているわけでも、何も変える必要がないわけでもない。だが、現在、“改革”という言葉が、このようなイデオロギー・アジャンダの主題となっている以上、人は(この言葉から)、誠実であろうとする言説は別としても、利益ばかりを えるのであろう。もちろん、私たちが、目的がなんであるのか同意するという条件で:収入階級層最上部にいるハッピー・フューが負わねばならない重荷を軽減するための、最もつつましい層の収入減少である。
フランス経済を低評価しようとする声の多さは、異なった社会モデルの存在を忌む人々から発せられているのではないかと、自問したくもなる。 何人かの手の内に富を結集させることを回避しつつ、ほぼすべての人々の繁栄を約束できるなら、これは限界を知らない資本主義信奉者の主要論拠を抹消させることになる。
大金持ちウォーレン・バフェットが言ったように、合衆国の裕福者は階級闘争を戦い、勝利する。すべての人々のためではなく、彼らは単に自分自身のために戦っているにすぎないと、今、付け加えるべきなのだ。
ジェローム・ギエはポリテクニック(国立理工院)卒、銀行家
---と、翻訳は終わったのだった。
*
訳者後期:時間かかりましたけれども、訳してよかった、というか楽しい時間が過ごせました。かなりな意訳です。クルーグマン教授の文章に語調が似てますな。セオリーはちと別物ですが、、、挑発度なんか。ははは。
19日夜に訳し間違いとか、訂正いたしましたです。
なお、著者のジェローム・ギエなる未知の人、調べてみたら、パリの銀行に勤める若手バンカー、同時に米国のブログ« Daily Kos »でエネルギー問題を扱うデモクラット系書き手であるらしい。ふむむ。
またしてもエンタープライズの画像ですが、本文とはなんら関係ありません。
後日追記:別エントリーであげましたが、このうえの文章元になった記事で、各種グラフのついた仏・英2語での、より長いヴァージョンがあります: France is not in decline and the last thing it needs is "reform" By John Evans & Jérôme Guillet
お久し振りです。フランスでもブッシュ氏みたいな大統領になってしまった様で、がっかりしておりますが......
投稿情報: mysunshine | 2007-09-17 09:57
これは面白い記事ですね!翻訳ご苦労様です。
投稿情報: saisenreiha | 2007-09-17 19:01
翻訳ありがとうございます。こんな専門用語に数字たくさんの文章、原文では読めませぬ。。
フランスの米国近寄り度はコワイものがありますね。クシュネー外相は、自分の言葉で発言されたのでしょうか。。本当に外相になってよかったと思っているでしょうか、今も。。
投稿情報: ねむりぐま | 2007-09-18 23:57
みなさま、
現地フランスの貧乏人のがっかり度は、もうお見せしたいぐらいです。ほんと。現在は地下レジスタンス組織中、、、と思いたいわけで。。
あと、イラン相手の戦争マジカといきまいてたクシュネール、実はイラク戦争開始前には、フランスでは数少ない開戦賛成組だった。ブッシュ接近でオールド・ヨーロッパからニュー・ヨーロッパに衣替えしたいネオコン・サルコがクシュネールを外相に選んだのも、そんなところが理由だったんでしょう。今、ケ・ドルセ(仏外務省)はパニクッてるらしい。
投稿情報: 猫屋 | 2007-09-20 00:40