雨ばかり降り続ける寒いパリの、首相自ら“bankrupt/faillite”したと宣言した国の国民+移民住人たちの心持は限りなく暗いわけだ。
見回せば、野菜の値段がむちゃくちゃ高くなった。バゲットの値段も上がった。穀物全体の値が上がったわけだから、それを食べる牛肉も鶏肉も羊肉の値段も高くなった。カフェでのコーヒーやパスティスの値段もいつの間にか2倍になっていて、気がつけば、天気のよい日にパリ中心部カフェのテラスにいるのは外国人観光客ばかりだったりする。
いつの間にか、国の美術館の入場料も、ニューヨークやバルセロナなんかにある美術館のレートにあわせて上げたから、よっぽどのことがない限り、気軽には行けなくなった。8月の失業率が上がった。。。
フランス国家破産とか、サルコ思想とか、
ま、言い換えれば何にもしないのが取り柄のシラクのおかげで、他の国々で起こっていた“社会改革”が、今頃遅れてフランスにやってきたということなんだろう。困ったことには、コイズミ型(ぶっ潰す)サルコと、(育ちのいいだけが取り柄の)アベ型フィヨンが、同時にフランスを動かしている。おまけに、ご存知のようにこの国は、中央集権、そして大統領権限が(キューバ・北朝鮮などを除いた“自由圏”では)世界でももっともドミナントな国である。
長い間の、ド・ゴール主義がたたって、この国の人々の多くは、なかなか簡単に国外で起こっていることを知りえない、というかTVで流してる報道ぐらいでしか知らない。実は、ここで起こっていることが、他の国でも起こったし、これからも起こるだろうということがわかっていない。つまり、国家赤字増大=大幅な民営化;とくに教育・健康の民営化=産業化、産業空洞化=サービス業先導経済=最低賃金の低下=ワーキング・プア人口の増大、収入格差の増大、メディア権力の強固、移民政策の強硬化、etc.etc.
(おまけに、これは模倣者一般にいえる特徴だが、ブッシュ・コピペのサルコのキャラは、モデルに比べよりラジカルである、ことも書き加えたい。)
仏経済の破綻=国家赤字の急上昇、はさかんに報道されても、米国・日本を含めた世界レベルでの、あるいは少なくともヨーロッパ圏内での、各国の国家赤字を比較してみせる、あるいは、この“赤字”なるものメカニズムを、明解でニュートラルな形で説明する努力は、たとえばTVでは真夜中過ぎの番組でしかしていない。
もちろん各トピックが最長でも2分で扱われる、夜8時のニュースでは、フィヨンの“国家倒産”発言は知りえても、より以上の情報は得られない。“破産国家フランス”キャンペーンは、国民健康保険自己負担額上昇・消費税上昇などのイタイ政策を国民に受け入れさせるための、アドバルーンだろう。
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仏プレス読み込みで、まともなフランス語を習得できたアタクシでさえ、金がないから新聞買わなくなった。大体ウェブで読んで、買ってるのはヌーベロプスとカナールだけになった。タダ新聞は読まない。だってあれもサルコのスポンサーが出してる(20ミニュッツががんばってるみたいだけど、猫屋は寝てるんで手に入らないのだよ)。
というわけで、最近はアタクシもヒッキー化しておるのだ。おかげで本が読める。フーコー・コレクションを、ちびちびと読む。第一巻の第一章から、という読み方はしてないから、時には同じ章を何回も読むことになるんだけど、今おきている事柄とフーコーの何十年も前の言葉と比べてみると、ああそうだったんだ、といまさらながら納得することが多々ある。
これは、マルクスにしてもそうなんだけど(正確に言えば、たぶんそうなんだろうけど、ってちゃんと読んでないのだよマルクス)、では、今彼らが生きてたらなんていうんだろうか、、と考えるわけだよ。
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結局は、すべては“mode”で動いている。日本語に直したら流行おくれの“流行”って言葉になっちゃうけど、結局は流行(ハヤリ)でしかない。ビンラデンがはやって、ブッシュがはやって、ここではサルコがはやった、それだけのことだ。ただ、彼らの残した“業績”は、世界人口の大多数にとってはかなり困った方向に、重いんだよね。
TVで、有名な女優かなんかが、整形なんかして化粧しまくって、おまけに今では映像はいくらでも編集=加工できるから、そんな人間じゃなくなった映像が、ヨーグルトだの車だのある種のイデー(思想)だのを売っている、ってそれだけの話なんだよ。ローレックスをビカビカ光らせた仏大統領は、国連で仏核発電のコマーシャルをやってたようだけど、誰もあれを真に受けないで欲しい。原子力発電って、キットを組み立てればそれでOK! じゃないだろうが。
ああ、サルコジはフランスを“企業”運営して、連発M&A をやらかして、人員整理してコストカットして、ピカピカの“近代国家”に仕立てたかったんだ。自分が大統領になったら、フランスにイヤケがさしてた仏国民は、急に発奮してどんどん働き、どんどん消費して、経済成長率が急上昇すると本気で思ってたらしい。これが彼の夢見たサルコ・ショックである。
だから、彼は大統領になるためにはなんでもした。トルコのEU入りも断固否定し、一年に25000人の不法在留外国人を強制退去させると息巻いて、ルペン支持者票をかっさらって大統領になった(しかし、東欧からの不法移民はEUパスポート持ってるから追い出せなくなって、今はアフリカ・中国人を追い立てているが、どうもノルマは達成できそうにない。すでに決まってたEUアジャンダに反対できるわけもなく、トルコをEUに入れんもんね、という意見は撤回している)。
サルコ不景気脱出ショックが不発に終わったので、15ミリオンユーロ(たぶん1500万ユーロ、つまりだいたい24億円か)の減税額は、そのまま国家赤字というブラックホールに加算される。米国の経済成長は予想を下回り、同時にユーロが対ドルでは記録の高値になってるから、対米輸出はまた不調、という悪循環が続く。ドルと違って、ユーロは逆に上昇しっぱなしだから、われらが国家赤字もバブリ続ける。
そんな状況下で、サルコはあくまでスピーディー・サルコ路線を変えずにいるが、実際の生活苦にあえぐ貧乏人たちが、医療費自己負担率の上昇策や、来春地方選挙後に来るだろう消費税率アップに音を上げて、街に繰り出したらどうするつもりなんだろうか。
たしかに、今のフィヨン内閣は、サルコ政策を具体化させるためだけに組閣されており、フィヨンの首は(1995年の3週間に及ぶゼネスト後のジュペの首と同じく)、いつかはサルコ政策の代償として飛ぶことはフィヨン自身も知っている。
問題は、サルコ大統領のターゲットが大統領で居続けることなのであって、“フランス改革”はそのターゲットにたどり着くための“方法”である、ことだ。そうすると、彼の政治思想一貫性の欠如は理解できるし、目的のためには、公約を内側からなし崩しにしていくだろうことも、予想できる。しかし、フランス政治・行政・司法機構を、これだけ短期間にぶっ潰したわけである。おまけに、反政府勢力を、社会党にしろエコロジー運動にしろ、保守陣営ド・ヴィルパンやラファラン、バイルーまで、そして大手メディアまで骨抜きにした。
とくに、旧社会党陣営の能力ある人材を次々とお蔵入り(プラッキャール入り)させたことは、まことに国家犯罪レベルの愚行であるだろう。
これまでのテクノクラート主導にかわって、弁護士の数がやたら多い現在の仏政治・行政機構の基盤が、マーケッティング・企業経営モデルにあることに“大衆”はそろそろ、気づいてもいい。弁護士たちのトーク力(コミニケーション能力、言いかえればうどん屋の鍋;ゆーばかり)で、アンケート結果を左右したり選挙は勝てても、政治・社会とは、あくまで現実であるのだと、誰もが、知るべきなのだ。
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以上、昨夜遅くにガガガと叩いた文章なので、筋も通ってないし、かなり荒いわけですが、アップ。
なお、昨夜DSK(ドミニック・ストラス-カーン)が、IMF(国際通貨基金)の理事に正式任命されました。任期は5年。2012年の仏大統領選挙では対サルコ有力候補とみなされていただけに、フランスにとってある意味イタイ任命ですが、社会党内閣でDSKのなした経済政策の内容が評価されたとすれば、喜ぶべきニュースでしょう。ある意味、仏政治の舵きりをするより重要な職である。いい仕事を期待します。
(あわせて、ワシントンの美人同僚に、あんまり見とれないよう、お願いしたいものです。)