今夜のタイトルの La mort d'une idée はル・モンド(パリ7日発行、日付け8日)エディトリアルのタイトルでもあります。原文翻訳に必要とされる(雪かき的)時間も体力も理力も、猫屋には不足してるんで訳しません。一行で書けば、共同体古参のフランス・オランダが否定してしまったEU憲法は死産となるだろう、ということか。
英国は来年の憲法批准国民投票凍結を決定しました。英国国民投票を実施すれば、EU支持のブレアが、70パーセントを超える否定票が予測される国民投票結果責任を取らざるを得なくなる。その場合、(EU否定を表明している)時期後継者ゴードン・ブラウンが政権に就くだろう。つまり、ブレアの政治政略としては国民投票を行わないメリットが大なわけですね。同時に、英国はEU憲法構想に(フランス・オランダに続いて)とどめを指した国、と歴史に汚名を残したくはない。
トニー・ブレアの野心とは何なのか、というのがジオポリ・ウォッチャーしてた頃謎だったんですが、ここらにきてかなり明快になってきたように思います。ブッシュのプードル(ん?チワワだったっけ。ポチが極東の人か)とまで呼ばれても、自国議会をだましてまで、何故英国軍隊をイラク戦争に参加させたか。やはりこれはブレアなりの野望貫徹のための手段だったと思います。NYタイムズも英ガーディアンも読まなくなって久しいので確信ないですけれども、この人がやりたいのは、英国を米国・欧州間のパイプとして機能させ、欧州大陸に英国モデルを導入、結果として、ある意味での“新自由主義”を欧州に拡散させる。その意味で、ブレアはEU支持なわけ。EU大統領というポストが今後クリエートされるかどうかは分かりませんが、ドル経済圏アネックスとしてのユーロ圏が確立されれば、当然そこでのブレアの位置づけは重要なものになる。(読んでないけど)トックヴィル的視点で言えば、英国を脱出したアングロ・サクソンの旧大陸への逆襲だよね。
またエディトリアル・タイトルにある イデー/idée とは翻訳が難しい単語です。“考え”だったり“観念”だったり、“構想”、“ものの見方”だったりします。いずれにしても、フランスそしてオランダでのEU憲法否定の理由が何であれ、EU憲法というイデーが(ほぼ)“死産”した事実は重いのです。EU憲法の行く末は、やってくる(今月16・17日)EU評議会で決まると考えられる。これまでEUコアだったオールド・ヨーロッパの力は弱まり、おまけに、7月1日から六ヶ月間、EU議長国はリュクソンブールから英国に変わるんですね。だめだこりゃ。
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スラヴォイ・ジジェクの英ガーディアン紙掲載文日本語ヴァージョン《欧州憲法は死んだ。まともな政治、永遠なれ》 flapjacさんブログで読みました。flajacさん、翻訳雪かき感謝です。このジジェク、なんだかな。彼自身が、オルター・グロバリ勢力の飾りになってしまった風だ。猫屋のヒゲ感覚で言えば、フランス・アタックは今回のEU憲法批准を契機に今までの草の根運動から、欧州政治勢力へと脱皮を図った。それで対話を望んで出向いたコーン・ベンディットへのトマト投げ攻撃まで出た。あれは左派内部政治闘争だったんだよ。“ミュルティテュード”からも“リゾーム”からも程遠いと思う。レイモン・アロンはもっと明晰だったぞ。ジジェクよ、お抱え思想家に成り下がるな。(本二冊も買ったんだぞ、貧乏猫屋は)
付け加えれば、農民コンフェデのジョゼ・ボベにしても、トロツキスト・ブザンスノにしても、もちろん極右のル・ペンにしても仏エンターテイメントとしての政治舞台に欠かせない役者達なんだなと思う。無残な言い方だが、彼らも、政治とメディアの(エリートではないかも知れないけれど)“エスタブリッシュメント”の一部なんだよ。(反面、私がたまたま出会ったリベやル・モンドやクーリエのジャーナリストは、こう言っちゃあなんだが、サエナイ普通のおじさんやおばさんだった。)
また、政治と、とくにTVといった報道メディアがエンタメ化する現象が良い事なのか悪いことなのかの判断は私にはできない。少なくとも、舞台裏ですべてが決定してしまうロシアや中国や、より極東の国々に比べればましのような気もする。
あと、たまたま南米(確かアルゼンチン)出張からの帰り、某友人は帰仏便ビジネス・クラスでジョゼ・ボベに近い席だったそうです。(この友人は今回憲法批准選挙ではOUI に投票している。)オルター・グロバリはビジネスに乗るな、とは言わないけどもさ、と彼は言ってたけれど。オチのつけどころは見つからないが、なんとなく面白いアネクドットだな、と思う。
たぶん、フーコーの言う“知/サヴォワール”が、いつのまにか21世紀モデルになっちゃったんだ。
なお、5日の《ね式EUコンセプト》には書き足りない、あるいは書き加えたい事象も多いです。気がついた段階でブログ化したいと思います。フランス以外の国からも、それぞれのEUコンセプトについての個人(長くても短くても)発信があれば面白いのにね。
参考:ル・モンド《L'Europe déboussolée après le "gel" du référendum britannique》
追記:ル・モンドエディトリアルのWEBページ右枠に、読者の意見が掲載されるようになってます。書き込みは(月6ユーロ)メンバーだけだが、読むのはメンバーでなくてもOK。フォーラムページまで出向かなくてもワン・クリックで読めるのが新装備。
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