相変わらず、毎日かなりの量のウェブ・ページを読み、討論のヴィデオとかも見て、金融・経済・政治・社会系の情報は仕入れ続けてはいるんですが、イカンセン猫の額が狭いのはホーマー・シンプソン氏のケースと同様、脳構造自体に起因するわけで、おまけに金融工学なんて数字オンチのアタクシに分かるはずもない。まあ、それはそれ。なんとなく分かったトコだけかんとなく挙げてみましょう。
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たしかに、全世界的に言ってTVだの一般紙は“景気回復”を前面に出して一般人を安心させようとしていますが、これはまず一般のジャーナリストたちには現在の金融・経済系知識がないことと、同時に一般メディアが各国政府のラインにあわせてエディトリアルの方向性をとってることが原因だと思います。FTやブルーム・バーグ、ウォール・ストリートジャーナルはかなり突っ込んだ記事を書いてるけど、ひとつの記事読んだだけで全体的視野が開けるかというと、さすが専門誌ですからちょっとやそっとじゃ猫歯が立ちません(日本語版で読んでも、翻訳の皆さん大変ね、とかまず思っちゃいます)。で、猫の脳みそは沸騰状態なり。
たとえば、、Asset-Backed Securities (ABS)、Collateralized Debt Obligations (CDO)、 credit default swap (CDS) といった複雑系金融商品に加え、ダーク・プール、シャドウ・バンキング、オーヴァー・ザ・カウンター(OTC)、このブログでも前に言及したHFT/ハイ・フレコンシー・トレーディング(これは今流行のフェデックスつまり為替相場でも使われてる)等々、知らない間に金融業のなかのみなさんは次々に新しいテクを開発していたのでした。なんかアメリカTVシリーズみたいなネーミングですよねえ;飽和状態の頭を休めようと猫屋がTVつけると突然血だらけ(あるいは解剖後、あるいは切断後、あるいは半焼け)死体に出くわして「ギャ!」とチャンネルかえるとそっちは別のシリーズで、迷彩服のコマンド襲撃中に自爆テロリストが吹っ飛んでても一度「ギャ!」としたりするアレです。そういえば、ブラック・ベリーとかブラックウォーターとかもおんなじノリだ。同一カルチャーでしょう。この頃はグーグルも、よく考えりゃあおんなじかも、とか思いますが。。。
まあ、映画で言えば、バットマンのThe Dark Knight (2008年)あたりがアポテオーズ/絶頂だろうね。アレ以降めったなことでは米映画見なくなった。
で、金融と経済の話に戻れば、「タックス・ヘヴンとヘッジファンド、レバレッジ、デリヴァティヴを好んだあなたはクレジット・デリヴァティヴ、abcus/アバカスも愛するに違いない」というわけですね。
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なぜ金融業がここまで大手を振って世界を牛耳るようになったのか。実際の経済をより潤滑に機能させるための金融なるものが、逆に、経済はもちろん国家群や国際機関を乗っ取る形に、あるいはそこにパラサイトする形で肥大化したのか、ここが問題です。
まず1971年のニクソンによるブルトンウッズ体制の終了および金本位制の終焉があり、さらに1985年のプラザ同意そしてリーガン・サッチャーが展開した規制緩和が、また近年では1999年のグラス・スティーガル法の廃止と、ww2戦後に設定された規制が次第に廃止されてきたわけです。
もっと現在に近いところでは、今年1月合衆国の連邦最高裁法廷が、企業あるいは団体からの政治献金を規制する法は、「自由」の名の下に、違憲であるとみなした件もあります。これは金融・経済とは直接の関係はない様に見えますが、ただでさえ合衆国議員ひとりあたりの献金額はたしか100万ドル/8500万円にのぼると記憶してますが、この企業によるロビーイングの力を無視しては国政を進めるのは不可能な状態になっている。もちろん、多額献金が可能なのは、軍産、医薬・医療、オイル、そして金融業だ。これは米国に限られた話ではもちろんなくて、さまざまな方法でロビイストは政治をコントロールしている。ここフランスで言えば、あの伝説化した2007年5月フーケッツに招待されたメンバーの顔ぶれ、今話題となってるリリアン・べタンクールとエリック・ウォルトのスキャンダルが典型的ですね。
要約すると、戦後経済の繁栄はまずは戦争によって破壊されたインフラの整備、そして続く産業近代化で保障されたが、引き続き経済成長率を上げていくためには新しい「市場」が必要だった。(この視点から見れば、米国が闘った「反共」戦争、のちの「反テロ」戦争も、市場確保の戦争の一部だったと言っていいでしょう。米国の南米での活動もしかり。)その「市場開拓」の一部が一連の金融緩和政策です。
では、何故「市場開拓」が必要なのかの説明は簡単です。工業技術の改善とマネージメントの‘近代化’の結果、どうしても利潤を追求しないと競争に勝てない(すなわち消滅する)企業は、アウト・ソーイングやらリストラやらのテクを使って人件費を削る。結果、ワーキング・クラスの給与は下がり同時に失業率は上昇する。昔は秘書業とかタイピストなんて職種がありましたが、コンピューター導入でそれらの職はなくなった。ロボットの導入で工員の数も多いに減少した。ストと飛び込み自殺になやむパリのメトロも、無人の14番線がまず開通され、今度は一番線の無人化計画がすすんでいます(これで運転手数は少なくなる)。スーパー・マーケットの無人会計もかなり進んでいます。
だが、過剰生産によってできすぎた製品に対して、一般消費者=ワーキング・クラスの購買力は年々下がったわけです。同時に収入格差は各国で広がり、たとえばここフランスでは10パーセントの住民がPIB(GDP)の四分の三を保有してるそうですが、この10パーの人々が消費する絶対量なんてたかが知れてる。少なくとも一国あるいは世界経済を牽引するほどには消費しない。結果、景気は停滞する。
で、システムはどう動いたかというと、規制緩和という手をつかって金融市場を開発した。ミルトン・フリードマンとシカゴ・ボーイズがここいらへんのイデオロギー・バック・ボーンでありますね。つまりそれまでストッパーとなっていた規制をなくすことで市場に流通するキャッシュの絶対量を増加させ同時に流動性を高める。結果エントロピーが増大した経済界は活性化し成長率は増大し、、、、でもいつかバブルを形成してはじける訳です:bang bang !
平行してグローバリゼーションが進み、1989年のベルリンの壁が落ちると元共産圏というリアルな市場が解放され、コンピュータ技術の開発とともに、アウト・ソーイングが世界レベルで進行する。IT産業に米国の新たな活路を見たクリントン政権下の米国は付加価値性の低い消費商品生産を中国に移転し、付加価値の高いというか純付加価値の塊であるライセンスをコントロールするハイテク国モデルとしての米国を目指したんだと思います。
実際には、上にも書いたワーキング・クラスの収入低下つまり購買力低下、そしてライセンス自体の重みが技術発達とコピーの加速で、元来の価値を失って行く。では、どうするのか。てとこでクレジットという技が前面に出てくる。民間のクレジット、つまり不動産ではサブプライム、金融では個人レベルでの各種リボルヴィング型(早い話がサラ金)クレジット・カード、投資レベルでのレバレッジ等々です。というわけで米経済は新しい市場、金融市場とクレジット市場開発に成功したわけ。
もちろん、モデルとしての米国金融は、ウォールストリートの双子のかたわれでもあるロンドンのシティでも同時進化していたし、大陸欧州金融界もすごい勢いでこれをコピー&ペイストした。
そしてサブプライム崩壊(2007)がありリーマン・ショック(2008)があった。
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今夜はここまでにしときます。以上は経済学はもちろん、数字と歴史にまったく弱い文系人間が理解した現在経済史アウトラインなわけで、シロウトサン以外は突っ込みを入れないように(スマイリー)。あともちろん地政学的、あるいは社会的事項ももちろん絡んでくるわけですが、さすがここでは言及しませなんだ。
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本文とはかなり関係ないかもしれないけど、参考とした文献・およびウェブ献をいくつか(なお上のリンク先はアタクシも全部は読んでないです←複雑すぎなり)。
ポリテク教授にして銀行Natixis のチーフ・アナリストでもあるパトリック・アルテュス/Patrick Artus氏による今年3月の危機分析(pdf/仏語)←この先生は「ヨーロッパが今回の危機を脱出するにはすべての給与を20%アップし、同時にユーロの価値を20%下げさせる」べきと言ってた人です。過激でよろしい。
さらに過激なのは若手経済学者のフレデリック・ロルドン/Frédéric Lordon。株式市場撤廃を提案してます(これについては後日書いてみたいですが、、、)一般聴衆向けにラジオFrance Inter での番組 la-bas si j'y suis《Et si on fermait la bourse ?》今年3月放送はここ(ページ右上)で聞けます。
スピノザが専門でもあるCNRF経済学者ロルドン若先生は日本語版ルモンド・ディプロでも翻訳されてるんでこれも:ギリシア危機から脱グローバル化へ
これは今回のテーマとは全然関係ないおまけ。かなり笑っちゃったんで貼っときます。langue de bois つまり政治決まり文句についてのフランク・ルパージュのヴィデオ:FRANCK LEPAGE - LANGUE DE BOIS
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