昨日はオバマを迎えてのノルマンディー上陸記念式典とダライ・ラマのパリ訪問があり、今日はロラン・ギャロス最終日男子シングル決勝戦だったわけですが、欧州議会選挙投票日でもあった。
UMP(サルコジの率いる大手保守) : 27,71 %
PS(マルティンヌ・オーブリが書記長のフランス社会党) : 16,68 %
Europe Ecologie(ダニエル-コーン・ベンディット、ジョゼ・ボベ、エヴァ・ジョリというゴールデン・オジオバ・トリオのエコロジー党) : 16,01 %
MoDem(バイルーのモデム党) : 8,47 %
Front national (ル-ペンとマリンヌ・ル-ペン): 6,41 %
Front de gauche (仏共産党と社会党を抜けたメランションの共闘派): 5,99 %
Libertas(王党派ド・ヴィリエと『釣りと狩と自然の党』の共闘) : 5 %
NPA(ブザンスノーが看板のアンチ資本主義新党) : 5 %
Abstention (棄権): 59,52 %
なお、ル・モンドから借りてきた右上図は今回の選挙結果で各党が獲得した議席数です。また下の図はこれまたル・モンド紙から借りてきた、欧州諸国各党の獲得議席数:国名欄をクリックするとアルファベット順各国のグラフに変わる。投票率もわかります。
予想されたとおり不投票の率が一番高い。選挙後TV討論会でUMP要員たちが、これはUMPの大きな勝利と喜んでる振りをしていましたが、実際にはUMPに投票したのは全選挙民数の約1/10だそうだ。また、ヨーロッパ全土で行われたこの選挙は一回の投票のみで決定されますが、仏議会選挙や仏大統領選挙のように候補数を絞って第二選挙を行ったとすると、UMP+Libertas+FN=39.12 PS+E Ecologie+F de Gauche+NPA=43.77 という結果で保守の負けという単純予想計算になる。中道保守派を内部に抱え込み、極右の票も大きく取り込んだUMPと社会党離れと分化した左派という対照的な数字です。バイルーの立場はいつものようにいまいち明確でないんで、どっちにも数えませんでしたけどね。
選挙2日前に行われたTV討論でのコーン-ベンディットとバイルーの激しい口論が原因となってバイルー票が逃げたというのが大手メディアの分析ですが、それよりも、モデム候補者リストにベテラン・エコロジストたちを抱えながら、バイルー個人のアンチサルコ振りばかり前に押し出して、肝心の候補者たちの影が薄かった。バイルーの次回大統領選挙への野望ばかりが目立ってしまった。そこいらがモデムのつまずきの石だったように思います。
だいたい、問題の討論番組 A vous de juger は参加者の選び方や番組の進め方の詰めが弱すぎて見てられなかったし、なんとオーブリは番組の最後を待たず退場していた。リベ関連記事:Derrière l’abstention, des duels à foison
それはUMPも同様で、本来ならば一歩引いて大老の役を演じるはずの仏大統領なんですが、ニコラ・サルコジ氏はこの大統領役職内容を大きく変えた。で、今回UMPの選挙戦(あるいは全体としての選挙戦不在)を率いたのはサルコジ共和国大統領自身だった。そしてそのキャンペーンのメダマは、ネットも使わずTVニュースしか見ない高齢選挙民対象に定番の治安問題と、選挙前日のオバマとトイメンで見栄をきるサルコのはずだった・・・けど、米国からエリザベス女王を記念式典に招いてないとクレームが入ったんでイギリスはゴードン・ブラウンに加えてチャールス王子を急遽式典に送ったがため、オバマとサルコの神話的イメージ確立には失敗。ド・ゴールとアデナウアー、あるいはミッテランとヘルムート・コールってな線を狙ってたんだが、ちょっと器がちがう。エリゼ宮あるいはとなりのブリストル・ホテルでオバマ夫妻と大々的な晩餐会ってのも実現しなかったですね(選挙用にはいい宣伝になるはずだったんだけどねえ):結局オバマ夫妻は米国大使館に滞在し、夕食は7区の古いブラッサリーで取ったようです(あの店はアタクシも行ったことあるけど、ごくごく普通;実にブリング・ブリング時代は終わったのであります)。
選挙の話に戻りますと、これはフランスに限った話ではなく欧州全体に言えることでしょうが、どうも主催者側(国)にやる気がなかったって気がします。実際には行政決定権はしだいに国単位から欧州単位に移っているんだが、これを明言すると現行政権の権威は落ちる。おまけに都合の悪いことがあると、すべて欧州政府のせいにするという悪い習慣が抜けきっていない。
残念ながら税制・外交権・金融政策・危機対策での欧州統一政治はまだ確立されていません。これは各国それぞれの特異性、つまり産業・社会制度・歴史の違いと、利害関係の食い違いから統一行動がとりにくいという一点と、欧州連合の性格と構造自体にも起因するわけです。ネオリベ路線のバローゾが率いる欧州委員会の影響力の強さと、欧州憲法の分かりにくさなども議会の(つまり民主主義要素の)弱さにつながっていると思います。
同時に、ストラスブールに議席はあっても議会に出席しない議員も多いわけで、事あるごとに「欧州連合のせい」という政府の決まり文句に慣らされた国民が、ありゃ単なる税金の無駄遣いと思っても不思議はない。加えれば、ストラスブール送りは、中央の仕組む単なる壁際族化作戦だったりします。ダティがそのいい例ですね。ちなみに、ダティは法務大臣・パリ7区市長とたしかオー・ド・セーヌ県の議員職も兼務してるはずで(+テテなし児の母親)、法務大臣職は辞任するにしてもその他は兼務を続けるんだろう。。。
ダティついでで、カナールがすっぱ抜いたダティのAller vous faire foutre 事件の報告リンク張っておきます(RTLのジャーナリストに対してそう言ったんだそうだ):Rachida Dati s'énerve: "Allez vous faire foutre!"
これも。以前ここでも紹介したジャーナリストを激しく弾劾したナディン・モラノのヴィデオに「オーラ、嘘ばっかり」とコメントを書き入れた主婦の下に、パリ警察から召喚状が届いたという恐い話もRue89から:« Hou la menteuse » : Morano est bien allée jusqu'au tribunal
こういった政治の俗悪化現象に加えて、日曜の投票日のため、各家庭に立候補者名簿と各党の政策が送られてきたのも所によっては金曜だったり選挙前日の土曜だったりした。立候補者リスト作成にUMPが“手間取った”結果そうなったらしいですが、なんとも。
また、全国区で選挙を行ったほうが、たとえば欧州議会がどう機能しているのか、各党の欧州議会での立場やこれからの政策を選挙民に広報するにも、議論を通じて市民の政治理解度を高めるにも都合がよいようにも思えるんですが、選挙区は不可思議な方法でたしか仏本土が7つに区分されている。その上、これは他欧州国でも同様だし、かつての欧州憲法批准投票でもそうでしたが、主題は欧州政治なのに経済危機のあおりもあって、現政権への批判投票の色合いが強くなったし、同時に棄権率が高くなった。肝心の欧州政治がさして話題とならなかったのは残念です。
も一度、フランスでの選挙結果に話を戻しましょう。
バイルーのモデムに並んで、今回の選挙は仏社会党の大敗となりました。党のリーダーシップをめぐってオブリーとロワイヤルの抗争が長引いたことももちろんこの大敗の大きな原因でしょう。今回の選挙活動をオブリー書記長は自分が市長であるリールにとどまって展開した。候補者名簿を作る時にも社会党各派メンバーの振り分けでかなりもめていた。けれど同時に、サルコジの対抗勢力壊滅作戦(=ouverture/つまり対抗勢力内から内閣へメンバーを大臣として一本釣りで任命する)もあったし、またスペインや英国でも社会党・労働党への支持が弱まっている。これは、いつのまにか右へ右へと政策の舵を切ってきた欧州ソシアル・デモクラットには、経済危機でこっぴどく痛めつけられている欧州住民たちの望む社会政策を押し出す力がないと判断されたのだと思います。それで少なくともフランスでは、社会党の票が、エコロジー・左派連合・反資本主義新党などに流れた。
ヨーロッパ・エコロジーの健闘はアタクシの予想を越えるものでした。特にパリを含むイル・ド・フランスと西南地区では社会党を抜いて第2位のランクとなっています。イル・ド・フランスのリストに、68年の闘士コーン-ベンディット、反OGM / GMO 農民運動のジョゼ・ボベ、そしてノルウェー生まれでかつて石油会社ELFの汚職問題を追求した予審判事のエヴァ・ジョリ/ Eva JOLI (アンジェリーナとは無関係)と、それぞれ64歳・55歳・65歳の“若々しい”ゴールデン・トリオを持ってきた。その他の地区でも、グリーンピース元リーダーや社会系経済雑誌ジャーナリストやエコロジー運動アソシエーションのベテランたちをリストアップし、ヨーロッパをエコロジー経済の拠点とする、タックス・へヴンの撤廃、ローカルの健全な食物をスローガンに選挙運動を昨年11月から着々と展開していた。いい意味での草の根運動;スローフード的民主主義だったといえると思う。後日追記:エコロジー選出欧州議会議員のプロフィールに関するリベの記事です。Ces députés européens élus par surprise
このブログでも紹介しましたが、欧州議会内で各国枠を越えたエコロジー党として自己認識しているし、かつては社会党員だったステファン・エッセル長老の支援も受けていた。それらの事実を考慮すれば、ヨーロッパ・エコロジーの善戦は当然だったんだろうと思えます。全国の大学を回って欧州議会の運営システムとエコロジー党の存在理由の関連を根気強く学生相手に説明したり、国内政治と欧州政治を切り離して選挙運動したりした政治のやりかたが報われたんだと思う。
参照ネブロ翻訳記事:
ダニエル・コーン・ベンディット/dany the red というおっさんと欧州
ル・モンドのチャット翻訳;コーン-ベンディットが語る欧州問題
ステファン・エッセルのインタヴュー翻訳:ガザでのイスラエル軍の戦争犯罪可能性
壊滅かと思われていた共産党もメランションを加えて票を伸ばしました(なお、共産党は核開発を肯定して、エコロジー派とは一線を画しています)。なおブザンスノーの反資本主義新党も一議席を確保したはず。
他国でも極右の票が伸びているようですが、ここフランスでも例外ではなくフロン・ナショナルは3議席、リヴェルタスは1議席を獲得している。それら欧州連合自体を否定するナショナリスト勢力を内部に抱え、かつ保守が第一党である欧州議会が、波乱万丈の世界政治と世界経済の大波をどう乗り切っていくのか。またドルの急下降(=ユーロの急上昇)、つまり米合衆国の影響力の低下にどう対処していくのか。そういった事象には欧州各国が別個に対応してもどうにもなるものではない。欧州連合というのは現実であるわけです。たとえば、スペインと並んで不況に苦しむ英国がユーロ圏に参加する可能性や東欧諸国への大幅経済援助も視野に入れて、人口内2パーセントの勝ち組と98パーセントの負け組みというネオ・リベラルな枠を超える21世紀ヨーロピアン社会モデルを構築していただきたいもんであります。
参考
ヨーロッパ・エコロジーの善戦を後押ししたと言われている金曜に世界一斉公開されたらしい写真家アルテュス-ベルトランのエコロジー映画:HOME
Rue89から:Daniel Cohn-Bendit : « C'est le D-day de l'écologie »
政府選挙結果発表: Résultats des élections Européennes 2009:
直接の関係はないが、未成年だった女の子との関係がばれて大スキャンダルになったのに、大統領のくせに欧州議会選挙リストのトップに自らなり36%の票を獲得したベルルスコーニのスキャンダル写真をすっぱ抜いたスペインのEl Paisウェブ:Las fotos vetadas por Berlusconi
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10日水曜に誤字訂正および加筆、リンクも追加いたしました。
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