この特別展のタイトルを直訳すると「空の門」。「天国の扉」としたほうがいいかなあ。でも、われわれが思い浮かべるような「天国」の概念は古代エジプトにはなかったわけだから、やはり「空」でいいのかもしれない。
なお、古代エイジプトの(+ローマ時代までを含む)オブジェ300点以上を集めたこの特別展の正式タイトルは、 Les Portes du ciel : visions du monde dans l'Egypte ancienne つまり、空の扉:古代エジプトの世界観、であります。6月29日まで。
実は、ルーヴル常展のフィリッポ・リッピとフォリピーノ・リッピの絵を見ようと出かけたんだけど、切符売り場のすぐ横にこの特別展会場があって、つい気が引かれて入っちゃったのだった。よかったよ:なにしろ大体自分は歴史オンチだし、古代エジプトの世界コンセプトというのもなかなかイメージしにくいわけで、2時間近くかけて当展を見てたら、イタリアン・ルネッサンスのことは忘れてしまった。で、リッピ親子はまた今度。
オブジェの多くは、ルーヴル所蔵のもの。それにヨーロッパや米国からの借り物が加わっている。それは扉をはじめ、(ミイラの)棺、石像、埋葬品、マスク、パピルスの死者の書、などなど。ルーヴルのエジプトコレクションは、ギリシャのものと並んで有名だし、数も多いし、今まで何度も見ているけど、こうやってテーマに沿ってエジプト神話や当時の風俗の解説を読みながら展示品を見ていくと、スカラベやヒヒや牛、あるいは半身が人間で上半身が隼(ハヤブサ)だったりする存在がどんな意味を持っているのかがわかるし、古代エジプトの太陽信仰の全体像もしだいに(漠然とだが)納得できる仕組みになっている。
大昔のエジプトでは、現世界はナイル河を挟んだ平らな土地で、夕刻西方に沈む太陽は地面の裏側を一回りして翌朝に再生すると理解されていた。人間は、身体とka とba からできていて、人は死ぬと天の扉を通って黄泉の国に行く。でも、肉体をミイラにして保存すると、死んだ人はba (黄泉の国と現世界を行ったり来たりできる鳥の姿)として戻ってミイラの身体に再び宿れる(のだと思う、、話はかなり難しいんです)。
そこいらへんの因縁話はさておいて、レリーフや絵画や小さな埋蔵品の姿・形の美しいこと。色にしても線にしても、完璧なのである。余分なものがない。サルコファージュ/石棺に彫られた女性の身体のレリーフは、アール・デコ的にモダンである(アール・デコが古代エジプトを模倣したというのが正解なのか?)。単純化されてる動物像や動物の絵がいい。人間と動物が同じレベルにいる。おまけに動物と人間間の乗換え可なのだ。
オシリスとイシス、夫のオシリスが暗殺されたあと、その妹にして妻であるイシスは、切り刻まれたオシリスの遺骸をミイラにし、夫を蘇えさせる。一時的に蘇ったオシリスと交接したイシスは息子ホルスを生む。そして息子ホルスは現実世界を牛耳る神に、父オシリスは黄泉の国を支配する神となる、、、(らしい)のだが、この神話をめぐるオブジェ群は一品。しかし、オイディプスじゃなくて、こっちの神話のほうが西洋人間関係の原型にはなりえなかったのかなあ、なんて、いつものシロウト思考が広がっていったのだったよ。
というわけで猫屋的エジプト解釈はいつものとおりのいい加減さでも、この特別展の試みはよくできているし、作品のレベルはもちろん松の上なんでございます。
しかし、ルーヴルは広すぎます。今日は2時間近くかけたけど、それでも同特別展の全作品を念入りに見たわけじゃあない。毎回2時間ずつとしても、ルーヴル全館カヴァーするには延べ30日はかかるかもしれない:まあ、一年ぐらいかけてやってみるかな。
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