なんか結局、みっともない展開になっておりますね。大昔ですが“駅前社長シリーズ”というお気楽映画がありましたが、駅前の社長さん御一行が温泉旅行にでも行ってる雰囲気というか、そして対するサルコ・チームはなんだかタケシ軍団。
Boufffonnerie という言葉がありますが、笑い飛ばすにしても、国家予算(赤字)と仏国の国際信用が絡んでるんで微妙です、、、しかし真面目に観察してたら腹立つばかりであります。
大雑把に解説いたします。
今は影をおヒソメになられているプリンセス・セシリアが大活躍し、1999年来カダフィ将軍下のリビア政権によって捕らえら死刑まで宣告されていたブルガリアの看護婦5人とパレスティナ医師は、今年の七月に解放されたわけです。まあ、世界中の人権団体・ノーベル賞受賞者やもちろんEUもこの件ではいろいろ手を尽くしていた。解放は、仏国大統領なりたてのサルコジがトリッキーに根回しなしでごり押し展開しちゃった観があります。これはあくまで猫屋的観ね。
この看護婦解放時のネゴシエーション・メニューに、たぶんカダフィのフランス公式訪問も入っていたんだろう。
カダフィは国際世論への餌としての“ブルガリア看護婦解放”と引き換えに、自分の国際社会復帰を希望したんだね。サルコのほうは、彼の十八番である“人質解放”力を再び、おまけに世界レベルで広報できる。仏大統領の国際政治舞台デヴューとしては悪くない。おまけに、原油と天然ガスを豊富に有するリビアに、ラファル戦闘機・エアバス・核開発etc.を売るという約束まで取り付けた。ラッキ。
そしてカダフィが、お約束通り、フランス公式訪問の運びとなった。だが、到着日が世界人権宣言の日だったことをサルコ・スタッフは見過ごしていた。(なんかシラクの核実験を思い出しますな)
かつてはフランス民間旅客機を爆破するというテロ行為を行い、また世界のテロ組織を援助し、いまだに選挙制も報道の自由もない、そしてブルガリア看護婦に対して拷問さえ行った独裁国の独裁者を、なにも、人権宣言が発せられた地であるパリに、人権宣言の発せられた記念日(12月10日)にジャスト招待するのは非常識である、と仏国人民は感じたのでした。
しかし、この国に反政府勢力は不在なのでした。
そこで、現フィヨン政権の外務省つき人権担当相である、ラマ・ヤデがle Parisien とラジオのフランス・アンフォでカダフィフランス訪問を批判したわけ。
"Le colonel Kadhafi doit comprendre que notre pays n'est pas un paillasson sur lequel un dirigeant, terroriste ou non, peut venir s'essuyer les pieds du sang de ses forfaits."
「わたしたちの国は、テロリストであろうとなかろうと、一国元首が、過去の大罪の血痕をふき取るための足拭きマットじゃないんだと、カダフィ将軍は理解すべきだ。」
ほかにも「血のくちづけ」など、なかなかインパクトの強い発言をしたわけです。詳しくは上記リンク先のインタヴュー、あるいは下のル・モンド記事をお読みください。
とにもかくにもカダフィ将軍、パリに来ちゃった。アマゾンと呼ばれる迷彩服の女性護衛隊を含む400人を越える人員を率い、べドウィン野営テントをシャンゼリゼ近くのホテルの庭におっ建て、真っ白なリムジンでエリゼ宮(ホテルから50m)に多数の仏国警察護衛を引き連れてお出ましになるわ、ホテル・リッツで知識人・経済界人を招いて(あのアラン・デュマが仕切って)レセプションしちゃうは、バトームッシュでセーヌ川散策しちゃって、パリの橋は通行禁止になるわ、、大変です。ラクダを連れてこなかったのは、個人的にはちょっと残念でしたが。。
対するサルコおやびんは、フィヨン政権の研修生ラマちゃんについて、「よう言った。自分の意見があるというのは大変いいことですね。」と花丸をあげた。でもラマちゃん、次の日にはフィヨン教頭に呼び出されて、それからは大変おとなしくなってしまったのだったよ。(なおラマちゃん、この木曜が誕生日で31歳になった)
以下ル・モンドより参考記事
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さてサルコジ人権の国フランス大統領は “やくざな人権無視独裁者も、まともな政治家として扱うことでしだいに普通な人になる”説を採用。“核兵器・化学兵器開発も断念し、テロリスト集団への援助もやめたと言っているのだから、彼はすでに独裁者ではないのだよ”ということであるらしい。。以上、かなりなレジュメby 猫屋でありますから、詳しいところはオプスに載ってる緊急インタヴューでお読みください。(左派誌にインタヴュー載せさせるというのもサルコ技ですね)
«Il faut parler à Kadhafi !» Sarkozy s'explique
まあ、論理として一応説得力がないわけではない、かも知れない。だけど、問題はそこにはない。真実は別のところにあるんですよね、Xファイル。
戦闘機・核開発・ことによったらウラニウムまで独裁者に売ってどうするんですか?← これで「独裁者をまっとうな政治家にニューリアルするサルコ作戦」説の信憑性はまるっきり失われてしまう。
だいたい、アメリカ合衆国や他の欧州各国を訪問しても、「今回のxx国訪問でゲットした契約は何億ユーロ!」とか、サルコ報告しない。中国・リビア・アルジェリアが相手になるとすぐ契約・契約、(正確に言うととった契約ではなく、ネゴシエーションの開始の話に過ぎない場合が多い。それに過去何年かにすでにサインされてる契約額を上乗せして、契約取りました感を強調してますね、サルコ)。書き加えれば、われらが人権研修員相ラマ・ヤデは中国訪問団に入ってなかったですね。
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さて、翌晩になってしまいました。続けてみます。なお、昨夜の文章、若干書き加えました。もう一回読んでね。
カダフィの人権逆襲;「フランスのアフリカ人民の人権は迫害されてないとでもおっしゃるのか?」
サルコジ人権の国フランス大統領は、結局3回にわたってカダフィ将軍会見したわけですが、インタヴューで、『リビアが人権を尊重する国家となることを期待する』旨のメッセージをしっかり伝えた、と言った。会見に立ち会ったクロード・ゲオ ン大統領府官房も、サルコジはカダフィとの対話のなかで2回にわたって人権について話したと報告してる。
しかしだ。シャンゼリゼ近くのホテルの庭の野営テントで France2 キャスターのインタヴューを受けたカダフィ将軍は「サルコジ大統領と人権について話し合ったのですか」という質問に、「いや、そんな話は一切なかった」と返答。
おまけに、国民議会訪問(左派議会員はボイコット)・ホテルリッツでのレセプション、それからルーブル見学、ヴェルサイユ宮殿見学などの定番(エスコート人員数が定番枠を超えている)観光のほかにも、ユネスコ本部を訪れ、“偉大なる指導者”としてスピーチしたんですね。演説レトリックとしては、よくあるパターンですが、たいしたculot(あつかまし)であります。参考:ロイター記事
「われわれアフリカ人は不正義の犠牲者である。彼ら(ヨーロピアン)は、汚く辛い仕事をさせるために、家畜のごとくわれわれをここまで連れてきて、そして都市周辺のバンリュウにわれわれを投げ込み、権利を要求すれば警察に打ちのめされる。」
また、“女性解放”のための集会も開きまして、フランス女性を代表させるってんでしょうか、昔風の衣装をこっちの女の子に着せて写真とってましたね。
ま、一言で言えばやりたい放題。ヴェルサイユの森で狩りを御所望という話もありましたが、ラクダと同じで現実化しなかったようです(残念と、猫屋に思えるのはなぜでしょう)。追記:ヴェルサイユ宮殿見学の後、将軍はランブイエの森で狩りをなさった模様。フィガロから:Partie de chasse pour Kadhafi
人民:「いったいあのひといつまでいるの?」
フランス大好き独裁者であるカダフィ将軍は、テロ行為たとえばUTA旅客機爆破テロ行為(リ
ビアによって起こされ、被害者家族にはリビアから遺書料が支払われている;1989年)やテロリスト支援外交政策が原因で、この34年間、フランスの地
に足を踏み入れていなかった。K夫人からご指摘いただいたように、当初将軍は10日間のフランス滞在を希望、しかしさすがに、過去に10日もフランスに公
式滞在した外国首脳は存在しないという理由で、仏政府は10日を56日に減らすことに成功(なお政府は広報、つまりメディアを通じて5日訂正;6日のうち公式滞在はたったの3日半だと言い訳してます)、基本的にはこの土曜日15日にパリをお離れになる予定であります。ただ、次の滞在地マドリッド訪問は来週月曜に予定されてるわけで、将軍、この週末はどちらに行くのやら?心配ですねえ。
今週のフランス(少なくともメディア界)はカダフィに引き回された感があります。11日にはアルジェリアで自爆連続テロがあり、60人以上が死亡(またしても11日です)。けれどこの報道はカダフィ報道の影になっちゃった。
あまりのフィーバーぶりで、さすがサルコ・ノンストップ・ショーに馴らされつつある国民も、今回の駅前シリーズにはゲンナリ。何にゲンナリしてるのかというと、これは分析が微妙ですが、結局はグロバリメルカート世界でマイナー国になっちゃったフランスは、独裁者にあれだけぺこぺこしなきゃ生き残れないんだ、、という印象を持っちゃった。この印象が、事実であるのか、あるいは単なる印象であるのかはまた別の問題です。
独裁国のリーダーを世界の外交舞台に向かいいれることで、独裁制の民主化への移行を図る、、というのはなんとも20世紀的ディスクールじゃないかな、と思います。21世紀の、政治は経済に従属する、というシェーマで言えば、米国・ロシア・フランス等の民主国と見なされてる国々が、逆に“第三世界”独裁国的性格を強く持つようになった。イラク戦争・グアンタナモ・選挙不正・武器売買・メディア管理・警察国家etc.etc.
経団連:なんぼ売れるんやろか?戦闘機ラファルはほんまに売れるんか?
噛み付いてでも経済成長率を上げてみせる、とタンカを切ったサルコジ人権国家大統領の発表によると、今回のクライアント、カダフィ将軍との契約は総額100億ユーロだそうです。えっと、たぶん16兆円か。。
けど、実際には軍備・エアバス・核開発・建設契約の多くは、ネゴシエーションに入るお約束がとれた段階で、具体的な、たとえば戦闘機やヘリコプター・タイガー一機のお値段は、まだ見積もりもできてない。まあ、いつものサルコ前宣伝の枠内で考えたほうがいいんでしょう。
それより、アフリカの一国がまとめて軍備を新調すると、周辺各国がそれにレベルをあわせようと軍備均衡競争が始まる恐れがある、と警告する専門家もいるわけです。
なお、ダッソー社が大幅な投資をして20年前に開発した“最新式・高性能”戦闘機ラファルなんですが、なんとこの20年間一機も海外に売れてないんだそうだ。
下の記事は、“契約内容”についてのル・モンド記事です。《リビアとの契約額に関する疑問》
カナール・アンシェネによるすっぱ抜き:サルコ・オフ語録「悪を持って悪を征するのじゃ」紹介
えっとですね。この記事短いんだけれど的をついてる見事なものでありまして、このエントリーがやたら長くなっちゃったこともあるし、暇あったら明日あたり別エントリとして訳してみたいと思います。さすがカナール。インサイダー通報者の存在と内容の信憑性には驚くばかりだし、おまけに広告なし=スポンサーなしですから、今のフランスに残っている、ただひとつのインディペンデント・メディアと猫屋は考えます。
結論:“タケシ城の対決カダフィvsサルコ”の結果は、カダフィの勝ちー。
ラマちゃんの一時的健闘も、結局は政府内部の小さな嵐で終わってしまいました。爆弾発言以前に、12月10日は人権宣言の日だと政府関連者にメールで警告するも誰も聞いてくれなかった。それでラマちゃんパリジャン紙とフランス・アンフォで発言した、て経過らしい。しかし、dans tous ça 、どこを見回してもクシュネール外相(あるいはオクラント女史の亭主)が見当たらない。
このごろ、フランス外務省はフランス・グローバル貿易省と、呼ばれてますね。
なお、カダフィ将軍が冬の雨の降りしきるパリの空港に着いたとき、出迎えたのは予定されていたオルトフー移民と国家アイデンティティ相ではなくアイヨ-マリ内務相だった。これは、出迎えは女性がいい、という将軍のリクエストがあったための変更だそうであります。あーあ。お客様は神様です。
なお今日のル・モンドも、サルコジ外交について署名つき長いエディトリアルを載せてるんで貼っておきます。 リスクの外交、エリック・フォトリノ
コロネル カダフィ、ほんとは10日間パリに滞在するって言いはってたらしいけど、サルコに「10日もいるお客は、今までないからそれはちょっと〜」と断られて、5日に減らしたらしいけど。 あの派手な、白いリムジンはあんなに何台もどこから経費をだしてるんだろう?自費か、国費か?
これで、サルコは本当に経費節減してるのだろうか?
国家公務員は、ここ何年かでグッと減らして残った少数に待遇を良くすると言ってるけど、これは体の良い民営化計画ですね。
今に、郵便局はスーパーの窓口にしかなくなるんでしょう。
投稿情報: k | 2007-12-14 08:47
ほんと、サルコの外交は信じられないくらい危ういですね。でも、本来は野党〔左派〕が主導すべき批判まで、あらかじめ内部に取り込んでいるんだから、確かにしたたかではある。でも、任期五年の間に、いままで手付かずだった色んな改革をやらせられて、その後は、従来のエリート層に権力の大政奉還がなされるんでしょうね。使い捨てなんだろうな、、、。
投稿情報: 田川 | 2007-12-14 14:03
お願いだから中国に武器を売るのはやめて、ってのはおいといて。
>カダフィ
「独裁者」とか「テロ支援国家」を世界に回収するって行為は、やはり認めるべきだろうと思うのです。
でなければ、小ブッシュがイラクでやったような愚行を認めるしかないわけですから。
投稿情報: Hi-Low-Mix | 2007-12-14 21:45
みなさま、
コメントへのお返事は、このやたら長いエントリーの後半部に組みこまさせていただきました。
付け加えれば、サルコ・フランス改造策には大学再構築も入ってまして、学区制廃止とならんで、高等教育再編もあります。結局は、従来のグランゼコール、たとえばENAよりビジネス界=ロンドン・シティへのパイプとなるXやビジネススクールへ才能が集中するようになるでしょう。最終的なサルコジの“成果”は、金のかかる一貫性のない改造を行って国家赤字を増やし、結果として、教育も含む国家機関の大幅民営化、となるはずです。ド・ゴール主義の終焉。政府批判党およびメディアの解体。大西洋主義。仏社会制度の解体です。なんか日本みたいだな。
投稿情報: 猫屋 | 2007-12-15 03:54