右の写真は先週の日曜早朝に撮ったもの。“Paris liberé (pour le moment)” 日曜の朝5時のパリはつかの間の静寂の中、眠り込んでいるようです。
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最初は今回の記事「ドラクマ・ドラマ:ギリシャ悲劇」とタイトルしようかと思ったのですが、問題はギリシャに限定されたものではない。EUのGDP全体の内2パーセントちょっとしか占めないギリシャ経済が、実際にユーロを放棄した場合のことなど書いて見ます。(もちろん、というか相変わらず数字に弱いアタクシは金融経済専門家ではないので、そこんとこよろしく)。
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ギリシャが破綻宣言してユーロを放棄、ドラクマ貨幣経済に戻ったとして、(これはギリシャ国民には大変由々しい事態なのだが)ギリシャと言う国がなくなるわけでもなく(過去にも破綻宣言した国はアルゼンチンとかロシアとか色々あるし)、借金を(大幅に)チャラにし、貨幣切り下げをして、10年ぐらいかけて国家経済・社会体制を作り直す、ということになるのだろう。経済的な直接の損害は(ギリシャ国民にではなく世界金融・経済界にとっては)限定されたものになると思う。エコノミストの中には2000年のバグ問題と比較する者さえいる。
だが、皆さん御存知のように(アイスランド・アイルランド・ギリシャの後)スペインの銀行危機が今の話題となっていまして、ユーロ危機はギリシャがユーロ脱会して終わるわけではまったくなくて、次の犠牲者、いや犠牲国はEU27カ国内5番目の経済大国スペイン、そしてそのあとにはポルトガル・イタリアが続くと考えられている(なお、攻撃しているのはマーケット=金融市場です)。
ここになってまたあのドミノ理論:EU経済の2パーセントの“小国”ギリシャのユーロ脱会が、大国スペインの脱会の引き金になることが恐れられているわけ。最悪は資本のオンライン・バンク・ラン(取り付け)の動きでしょう。
もいちどギリシャのケースを考えて見ます。ギリシャ問題が報道されるようになってから、すでに2年半になるのですが、トロイカと呼ばれているEU首脳たち・欧州中央銀行・IMFがとってきた対策は、はっきり言って、最初からこれまで徹底して“後手後手”、おまけに小出しのギリシャ援助案も中途半端な、単なる「時間引き延ばし」でしかなかった。
その理由のひとつには、上記3団体が今回のサブプライムに始まった借金バブルとその余波としてのギリシャ金融危機の性質とダイナミズム自体を把握していなかったことが先ず挙げられる。
同時にEU内でのraport de forces つまり力関係から、最強国ドイツのマルク貨幣哲学(中央銀行はインフレ監視が役目・国家赤字はGDPの3パーセントに抑えるべきと憲法が定める・最低賃金なしetc.)がEU方向性を決定しており、おまけにアンゲラ・メルケル(ナイン・ナイン)独首相は、内政問題からギリシャ援助には極めて消極的で、ユーロボンド(欧州国債)立ち上げにも反対し続けてきた。
で、約9カ月前だったと記憶しますが、やっとのことでギリシャがトロイカの援助(借金のリストラ・経済援助)を国家財政引き締め策実行と引き換えに受けてからも、ギリシャ危機は止まらなかった。いくらヘア・カット(借金一部チャラ)や返済期間延長しても、それでも残った借金金利は払わなきゃいけないし、満期になった国債は買い戻さねばならない。それでまた市場から借金するんだが、この金利がドンドン上がって今は2年物で9パーセントぐらいか。。。要するに「サラ金地獄」です。逆にドイツ国債の2年もの金利はマイナスになった:一番カネが必要なところには金利が高いサカサマの世界。
(なお、ググって見てたら日本から高利率を狙ってギリシャ債を買ってる個人が案外いるようでビックリした。FXもそうですが、あんなギャンブルするもんじゃないと個人的には思うんですがねえ。。日本にもまだ無駄がねある人いるんだ、)
話を戻しましょう;なおアタクシは欧州一般市民あるいは移民の立場で書いとりますので、大手メディアやウィキなどの観点とは違うところにいます。
ギリシャ危機の原因を、ギリシャ人の怠慢と嘘・年金制度・税システムのみに押し付ける言説が目立ちますが、これってちょっとひどい。なんだか日本の生活保護スキャンダルが想起される。
たしかにギリシャ税制がアナだらけなのは本当で、多くの大資産家(特に、かつてのオナシスのような船舶・海運系)が危機が始まる前から隣地のキプロスなどに拠点を移していて税金を払っていない。他の資産家・企業も危機が始まると簡単に資金を国外に移動させた(今はオンラインで簡単にできます。なにしろ欧州では資本移動は自由ですからね^^)。
また、ギリシャ財政内では軍事費が飛びぬけて大きい割合(5%)を占めているんですが、これはキプロス(=トルコ)との国境をめぐるコンフリクトのせいで、ギリシャはたとえばドイツやフランス軍産業のいいお客さんなのであーる:潜水艦とかヘリコプターとか。
あと、教会の話もあります。ギリシャ正教教会はギリシャ最大の不動産保有者なんですが、かの地はサンクチュアリで税金免除されてる。
ギリシャのユーロ圏加入時の「ギリシャ財政決済粉飾」をドルと円のスワップで準備したのは他でもないゴールドマンサックス。エンロン事件でも使われたと同じ手口で、当時の欧州では「法によって禁じられてなかった」んですが、モラル的にはどうなのか。また、このギリシャ粉飾オペレーションをユーロスタットやドイツ当局(借金上限GDP3パーセントの発信地)も知っていたが見ない振りしてたわけで、誰に責任があるのかは簡単には断言できないと考えます。
さて、ギリシャの内部事情についてです。上にも書きましたが、ギリシャから資本は逃げていって税収入は低下。トロイカ要求の「財政引締め政策」も見事に成果を上げまして、国内経済活動は大幅に減速し国の税収入はまたしても減る。公務員の給与カット・退職者の年金カット。公務員数の削減。おまけに唯一国外流出できないはずの観光業も客不足で衰退。で、身を切られるのは国を出られないぎりぎり生活の貧乏人です。
ギリシャ特集だったオルター系ラジオ番組‘là bas si j'y suis’ で、ギリシャの脳神経科医が最近の疾病傾向を語っていました:増えたのは心臓疾患による急死・自動車事故・工事現場での怪我・不安から来る精神障害・自殺とエイズ増加。エイズの増加は、若年層のドラッグ使用が原因だが、(意識的なものかは分からないにしろ)エイズ患者になると国から月700ユーロの援助が受けられるせいもあるようです。。。なお、若年層の失業率は約50パーセント(スペインでもだいたいこのぐらいだ)。
不況の影響をもっとも厳しいカタチで受けているのが若い人々であるのは、この経済危機の世界的傾向だと思います。
番組リンク貼っておきますが、35分ぐらいのところからギリシャ急進左翼党(SYRIZA/シリザ)のアレクシ・ツィプラスへのインタヴュー聞けます。なお、注目されているギリシャの選挙は6月17日(仏総選挙も同時期)。ギ選、アンケート結果では中道左派が勝ちそうと報道されてるようですが、ギリシャの世論調査はあんまり信用できないかもー、という意見もあり、なんとも言えませんです。
Là-bas si j'y suis par Daniel Mermet : Alexis Tsipras, l'homme qui fait peur à l'Europe
さて、もう一方にEU官僚体制があり、背後にサラ金市場が控えている。ギリシャがユーロ脱会すれば、債権者である銀行やBCE/ECBは損するけど金額は彼らの巨体に比べればたいしたことはない。ただ、不動産バブルがはじけたスペインの民間銀行および地方金融公庫の負債総額はかなりな額になり、スペインのデフォルトが投資元であるドイツやフランスの銀行・保険業者に及ぼすだろう負担はとんでもない金額になるだろう。
これは、リーマンショック時とおなじだし、サブプライムでもそうだったんだが、21世紀における金融システムはCDSやスワップ・オプションなどの複雑系デリヴァティフや、おまけにシャドー・バンクなる闇金融はあるはロボットによるハイパー・フレコンシー・トレーディングなんかまで使ってて複雑・奇々怪々。おまけにGSやGPモーガン・チェイスの最近のニュース追ってるとわかるけど、それら金融の中にいる人たちはっきりいってまともじゃないし、そんな環境内でギリシャ発金融津波が大西洋をオンラインでハイフレコンシに渡ったら、今でさえ青息吐息の米国経済にいかほどの影響を及ぼすのか、そんなもん起こってみなけりゃ測りようもない。これがワールド・ワイドな現行金融システムの脆弱性です。
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もちろん、最初にちょっと書いたEU機構自体が内在する諸問題も大きいんだけど、一言で言ってしまえば「金融(借金)が牽引するようになった21世紀経済のアナを埋められるだけの度量がある政治家はいない」ということになる。
ヨーロッパ全体では、その財政赤字も国家赤字総額も、英国や米国のそれらよりはましなんだが、欧州の統一した経済・社会それから税制理念がないため、そのヨーロッパ内でも最も経済的に弱い国ギリシャが市場攻撃のターゲットになったと言えるんだろう。
「ピッグス」などと揶揄していたネオリベラルの帝王たち(FT & Co)も、この危機の本当の大きさに気がついたのか最近は社説のトーンを変えてきているように見えるし、次々と開催される(成果はねずみ大)サミットも、20年の危機時の「軍縮会議」を思わせる。
ギリシャへの矢継ぎ早の「攻撃」は、ヴェルサイユ会議後のドイツに向けられた「屈辱的」な要求を想起させる。歴史は繰り返すのか、繰り返さないのか。
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かつての米国によるイラク攻撃前夜に、世界レベルで行われた市民運動のうねりを思い出しています。
結局あの戦争は多くの人命を筆頭として損失以外の何物ももたらさなかった。日本での大飯原発再稼動もそうですが、民主主義が機能しなくなったとき政治の専門家である(はずの)政治家や、経済の専門家である(はずの)エコノミストよりは、一般市民の「感性」のほうがよっぽど信じられるように思います:今はネットもあるしね。
危機の原因は内在的なシステム自体のアーキテクトにあるのであって、それを変えない限り解決はない。競争と拡大を基盤にした社会モデルは、一部のエリートと多くの敗者の乖離を生み出し、回りまわって社会両極端における共食い/自己破壊(+自然破壊)にいたる。
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最後にご紹介は、5月24日のモントリオール「キャスロール」運動ヴィデオです。不況と不動産マフィアと政府間の汚職問題に加え、学費値上げに怒った大学生が抗議運動を始めたら、次に政府側はデモ規制法を強化した。そしたら学生ばかりではない一般市民が、毎日夜8時になると通りに出て鍋を打ちたたくという抵抗ムーヴメントです。画像は白黒、鍋釜ドンチャン音なし(御心配なく)。
もうひとつ書き加えておきます。株系ネットサイト・ブルソラマのコメント欄に書き込まれてたアルバート・アインシュタイン1949年の引用(仏語版)猫語訳なり:原文はたぶんWhy socialism ?
“民間資本が少数の人間の手中に集まろうとする原因の一部は、資本家間の競争であり、またテクノロジの発達と進んだ労働の分化から、より大きな生産ユニットがその発達過程で小さな生産ユニットを排除するからだ。
これら発達がもたらすのは、民間資本オリガルシー/寡頭制であり、その途方もない権力は民主主義体制社会でさえもコントロールできない。
これは、主な資金として民間資本家からの献金を受けるか、あるいはその影響下にある政治政党が立法機関のメンバーを選び、そこからは選挙民が遠ざけられていることを考慮すれば明白である。
結果、人々の代表者は、事実として、人口内の最も恵まれないパートの利益を充分に保護しない。
さらには、今のコンディション内では、民間資本が必然的に主要情報源(プレス・ラジオ・教育)を、直接あるいは間接的に、コントロールするようになる。
そうなると、個々の市民が客観的思考結論にたどり着き、自らの政治権利を知的に行使することは大変困難であり、多くの場合まったく不可能となる。”