IMFのストラスカンが「フォレックス(FX/為替)戦争が懸念される」と宣言したけど、実はこの「戦争」はもう2週間ほど前に始まっていた。まずは、FRB(仏ではFED)がドルを大量に発行し、そのドルで米国国債を購入する。直接の目的はドル安による米国輸出の拡大と、膨大な米国赤字が米国財政(民間および国家財政)システムの崩壊を阻止、あるいは先延ばしにするためだ。
他方で、中国政府は公式には中国元の切り上げを受け入れたけれど、その上昇率は制限されたもので、元のドルペックは実質上変わっていない。エコノミストたちの見解によれば、元はドルに対して20から40パーセント過小評価されている。
米国議会は、さらに元の切り上げを求め、制裁を求める動きもあるようだが(11月の中間選挙もあり、民主・共和両党とも世論に受ける発言をせざるを得ない)、実際には元の評価ががたとえば40パーセントアップしたとしても、米国産業が過去のレベルを再び取り戻せるとはどうしても思えない。いったんは米国輸出の伸びがあるだろうが、たとえば衣服や電気製品・PC関連製品を、中国並みの単価で生産することには無理がある。
これは日本のケースでも同じだ。中国の人口は日本の約10倍。そして中国労働者の給与は日本の給与の約10分の1だ。おまけに中国の労働条件・社会福祉制度は日本のものより劣っていると想定できるから、日本の製品が中国のそれと競争するためには(日本での雇用を促進するために海外製作という道を取らないと仮定したら)、給与と労働条件を中国並みに下げることが必要だろう。これは“自殺行為”、あるいは日本メディアでの語彙を使えば“日本亡国論”にあたる。
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中国・米国間の為替をめぐるバトルから他国の為替状況を見てみよう。ドルを刷り続け、つまり“流通”するドルの量が際限なく増加し、ドルの実質的価値はどんどん減少する。過去ではプラザ合意の後、円のドルペックが解消された日本に大量のキャッシュが流入し、あの金融・不動産バブルが発生した。その逆の流れと言ってもいいのかもしれない。ドルが下がれば、相対的にその他の貨幣価値が上がる。日本経済の体質は少しも改善されていないにもかかわらず、円が避難貨幣としてキャッシュを呼び込み、円は自動的に上昇する。ユーロも、欧州内の諸問題に関わらず上昇する。スイスフランも同様だ。
日本銀行が行った大幅なカンティタティヴ・イージング(金融緩和)も、今は一時的効果が効いてるけど、長期的に続けられるものではない。米国のドル刷り作戦と同様に、長期的にはギネスブックに載る記録的国家赤字をさらに膨張させるばかりだ。
平行して、株式(とその周縁のデリヴァティヴ)市場では期待される利潤が得られない(各国中央銀行での低金利でだぶついている)アクチュヴ/キャッシュ(借金もアクティヴなのだ)も為替市場を活発化させている。不均衡性があるということは、その差異両点を行ったり来たりすれば利ざやが稼げる。
円の場合は、日本経済が輸出にたよっているから為替の変化によって企業・国家財政の収支が大きく変動する。これは他の、ブラジルにしろインドにしろ、日本と同様に貿易によって繁栄している国々にとってもかなりな痛手である。さらに、日本とは違って、金融緩和介入が可能なほどの“力”がまだ備わっていない。
ユーロ圏の場合はさらに複雑だ。ユーロのシステムはドイツ・マルクを基盤に作られている。歴史的に言って、ドイツは強いマルクを望んではいるが、現在の輸出大国家のランクを手放したくはない。“おかげさまで”ギリシャ・アイルランド・ポルトガル・スペイン、、、以下略の国々のテイタラクが、ユーロの上昇を定期的に抑えている。
参考:Joseph Stiglitz: the euro may not survive
L’euro pourrait ne pas survivre à la crise, estime Joseph Stiglitz
だがね。問題は米国のXXLな金融緩和にも関わらず、米国の失業者は減っていない(公式失業率は横ばいでも、これは失業者数が減ったわけではなくて、登録する人々の数が減ったためだろう)。
バラコバマは、抵当となった家屋の競売にストップをかけた。また、米国不動産業の健全化・再活発化を目的として、簡素化(プログラミング使用)された抵当→競売の監査不動産ローンの受け入れ監査システム(←英文読み間違いでした)に偽造があったと大手メガバンクが槍玉に上がっている。Janet Tavakoli On The "Biggest Fraud In The History Of Capital Markets"
ニューヨークの株式市場の好成績が、実はアーティフィシャルなものだという話もある。失業者がこれほど増えているのに何故株価は上昇しうるのか?(これはこのところの欧州株式も同じ)
少なくともいえることは、米国のドル安作戦は短期的には有効かもしれないし、11月の中間選挙に賭ける民主党にとっても有利となるかもしれない。同時に、自国通貨が下がることは(今のところ英国も似通った政策を取っているが)、輸入製品価格が上がることを意味する。つまり自国通貨を下がることが、一種の保護貿易策となり、同時に国内の物品価格の上昇を招くから、インフレをも引き起こす可能性がある。
緩やかなインフレは、これから長期にわたって返済すべき国家赤字の実質価値軽減の作用をもたらし、懸念されるデフレ可能性をも消し去る。だが、だがね。インフレもデフレも、すべての人間の活動・判断・情念の結果であり、その未来を数値モデルで予期することはできない(特に経済に関してはね)。通貨安競争は、とんでもないハイパーインフレを招く危険を伴う。
大恐慌からWW2に至った経過を想起すれば、安易に通貨をマニプレーションの手段として使うことの危険性が理解できるはずだ。
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なお今回の記事はフォントを大きくしてみました。この頃目の酷使のせい(+単に年齢)でしょう、読み直しのときかなり辛かったりするのであります。
お久しぶりでございます。日⇔仏を往来されるご様子をrssリーダーで覗き見していますと、海外に夢をかけた坂本竜馬のため息が聞こえてきたようでございました。
とまあ手紙のご挨拶文を済ませました上で、お尋ねしたかったのは日本の円高です。鋭角に本題がはじまりますが、切れませんのでご安心を。
こちらのブログに、円が世界通貨になるチャンスなのだと書いたのですが、安い焼酎に悪酔いしたからです。ギャグ以上のものではありません。しかし、どうなんでしょうか。深刻な格差が広がる国に、貧乏順に100万円ずつバラ撒くってアイデアは。長引く不況にジレた部分でしょうか、変なところから好戦的な気分が漏れてきたりで心配しています。バラ撒いても円高は止まらないと思いますので、だったらさらに100万円ずつ…。やっとガソリンを買えた暴走族が高速道路を走り回るんでしょうが、不況のために街灯を消しまくった街よりは健全と価値判断を狂わせているところ。
デフレが定着し、円高トレンドから永久に離脱できず、ますます不景気を深めていく日本にとって、国内景気の活性化がスペースシャトルの噴射くらいは期待できるのではないかと。法律、経済ときますと、そんなの異性人のたわごととしか思えなかった過去を悔いていますので、なにか教えてください。
投稿情報: わど | 2010-10-11 09:35
どもです、と文頭挨拶/
まあ、100万もらっても(後で税金で取られるわけだし)、子持ちの家庭はあの信じられんほどの学費一年分とかのために貯金するだろうし、あるいは老後あるいは解雇後のために貯金するだろうし、バイクでも買ってぶっ飛ばすのはノーフューチャーな若年層と余裕のある老年層ぐらいかと思われ。。。
しかし、日本のことでわかんないのはどうして個人的に切れる御仁はかなりいても、集まってなんかするってのがないことであります。怒ってないのかね。
こちらでは前回のデモに300万人が(組合側の数字)街に出て、あしたからは交通機関を中心とした無期限ストであります。
さて、問題なのは円ばかりではなく、世界中がこの通貨戦争=経済戦争でとんでもない状況にあるわけで、(鎖国と言う手段をとらないとしたら)日本一国の政策のみでは何も解決しない。超国家レベルでのかつてのブルトン・ウッズ並みの転換をせなあかん、と考えます。
投稿情報: 猫屋寅八 | 2010-10-11 22:28
デモが起きないことは私も気になっています。前述されていたようにマスコミによる民衆の総幼稚化?でしたか、そんな感じのものが進行しているのは確かかもしれません。
記事を書いても、デスクで却下されるそうですので。
今回の尖閣の映像漏洩は由々しき問題でもありますが、何かその実際に出てこない部分をさらけ出したいという動きにもとらえることができそうに思えます。デモの効果を信頼していないといったこともあるのかもしれません。戦後、安保で盛り上がった時の魂などは、バブルの泡とともに儚く消えていったのかもしれません。
産業としては現在一番裕福だと思える退職者をとりこんでいけるかが大きな部分を占めるかと思います。若い人は老後のために貯金、または生活でいっぱいいっぱいですので。結婚しても共働きしないと生活が苦しいので子供は作らずといった方も増えています。
投稿情報: トラ | 2010-11-08 11:19