米国非雇用者数が発表されましたが、予想をうわまる失業率9.5パーセントという数字が出てきました。統計には出てこない職さがしをあきらめた人口を加算すると、実質失業率はブルームバーグによれば16.5パーセント(7月米非農業雇用13万人減、政府部門が押し下げ-民間7万人増 )、ゼロヘッジの数字が14.7パーセント( Real Unemployment Rate When Adjusted For Labor Force Participation: Around 14%
米人口の八分の一がフードスタンプを使ってるとか(L’actualité de la crise: une histoire qui s’achève, par François Leclerc)。
もう一か月前ぐらい前に、米国デフレーション突入は時間の問題でしかないと判断していたゼロ・ヘッジはゴールドマン・サックスのリポートを挙げて、It's official: the double dip is here と書いています(Goldman Capitulates: Lowers GDP Forecast, Increases Unemployment And Inflation Outlook, Sees Imminent QE "Lite")
インフレーション、デフレーション、リフレーション、ディスインフレーション、スタグフレーション等々とインフレをめぐるラベリングは数々あるんですが、どうも今の米合衆国の状態はディススインフレーション(インフレーションからは抜け出たが、デフレーションにはなっていないという状況)じゃないかって話になってます。つまり米国政府・フェデラルリザーヴが2007年来投入した2兆3千億ドルのもたらした現在の成長率は2.4パーセントにすぎず(今年4-6月)新しい雇用を生み出すには少なすぎる。米連邦政府が現行までの景気回復政策を、予算がないからとストップすれば確実に米国経済はデフレーションに突入するだろう。この視点で、たとえばクルッグマン教授は米国が大量のカンティテェイティヴ・イージング(量的金融緩和)を続けるべきだと主張しているわけですね。事実バーナンキは新たな量的緩和政策を準備中らしい。
米議会は9月の新学期に向け公務員・教師たち、それから消防隊・警官の給料およびメディケイドを払うための2610万ドルにおよぶ州政府に対する経済援助を決めたようですが、その予算は、11月の中間選挙を考慮して2014年以降のフード・チケットファンドから捻出されるようだ(上に挙げたフランソワ・ルクレルクの記事)。これは「自転車操業」としか形容のしようがない。おまけに必死で自転車こいでるオバマの背中にはドルがはちきれそうな袋を担いで葉巻吸ってる市場の方々がオンブオバケのように鎮座しておるわけです。あーあ。
いくら政府・中央銀行が大量のキャッシュを導入しても、それはまずたまった借款金利を払うことに宛てられ、あとはハイ・フレコンシー・トレーディングHFTもその一部をなす投資というギャンブルに費やされてしまい、肝心の雇用にはつながらない。
これがダブル・ディップ(二番底・W)の中身です。2007年夏のサブプライムにはじまり2008年9月のリーマン・ショックを経て、今回の危機は新しい局面に入ったのだと思います。エマニュエル・トッドが2002年の著作「Après l'empire/帝国以降」で描いたことが現実化し、ドルの世界基盤貨幣という役割も終わりつつあるのでしょう。もちろんドル=米国経済がコケれば、困ったことに、続いてコケル小亀の数も多い。
現在の時点から振り返れば、今年初めに表面化したギリシャ財政危機も、単なる市場による各国政府および中央銀行の抵抗力を測るストレス・テストだったように見えてきます。ギリシャの問題点は、大きな財政赤字(と欧州の要求する財政赤字制限、そしてユーロゾーン諸国の経済格差)だったわけなんですが、結局、危機以前は財政赤字がほぼ0だったスペインも不動産バブルがはじけ民間赤字が膨大化したし、ユーロの構造的欠陥といわれた地域貨幣の引き下げ不可能性も、たとえばユーロ圏外のイギリスも同様に(ポンド引き下げにももかかわらず)経済危機の渦中にある。
今回の世界金融・経済危機の原因は、欧州ユーロ構造内にのみあるのではなく、もっと広い欧米ゾーン全体の、そして金融を含めた現行経済システムがワールド・ワイドにつながれている以上、さらに広い枠での世界金融・経済・政治構造内自体に原因があるのだと考えられます。
米国でのドル量的緩和に対して、欧州各国が次々にかかげた「国家財政引き締め政策」も(欧州91銀行のストレス・テストとともに)市場からの攻撃をいったんストップさせる効果をあげたとしても、それ以上の成果はもたらしえない。なぜならそれは市場に向けた短期的策にしか過ぎないからです。
現状の金融・経済そして政治・社会構造を根本から変えない限り、私たちはさらに大きな壁にぶち当たることになる。「量的金融緩和」と「財政引き締め」の両政策とも、遅かれ早かれ失敗に追い込まれるでしょう。このふたつも単に「コレラ」と「ペスト」の選択肢にしかすぎない。では、どうしたらいいのか。次回に、現行の金融・経済・政治デサイダー以外の人々によるいくつかの提案について書いてみたいと思います。
参照:米国の状況に関するレポート、
ル・モンドから:Les Etats-Unis découvrent le chômage de longue durée
ファイナンシャル・タイムスから:The crisis of middle-class America
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翌日追加:ゼロヘッジから拾ってきたヴィデオです。 National Inflation Association の制作で、米国と日本の失われた10(あるいは20)年をパラレルに比較している。NIAは米国のやってくるだろうハイパー・インフレーションに備える目的で活動している団体のようで、ここでNIAの提示する数字が正確なものか、このキャンペーンの実際の目的がなんなのかはアタクシには判断できません。
ハイパー・インフレーションかデフレーションか。これも「コレラとペスト」的選択肢なのか、あるいは少なくとも「デフレーション」は最大級のコラプス、つまり“戦争”を引き起こさない限りよりよい選択なのか(あるいはそもそも、金利介入etc.でインフレあるいはデフレをふれるものなのか)。この答えはまだ出てない。
確かなのは、そこここでデフレ日本が話題に上がり、日本がスーパー・スター化(!)していることです。
'Japan: America's Lost Decade'/日本:アメリカの失われる10年
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