昨年12月の日本旅行から帰って、それでもそれなりに年越しの準備もし、ああ正月だとやっとノンビリして、ある土曜の朝早く、日本で買ってきたユ印の薄手ダウンジャケットで郵便局まで出かけたりしたのがまちがいだった。2009-2010年冬の寒波第2波で気温は零下-5度ぐらい。みごとに風邪引いた:発熱はなし、咳と関節痛のみ。
結局、薄手ダウンジャケットはそのままゲホゲホなアタクシの部屋着化し(+マフラー)、日本で仕込んできた和食料(米・漬物・海苔の佃煮・讃岐うどん・せんべい等々)もあることだし、悪天候と風邪が治まるまで自宅待機、と勝手に決め込んで前エントリーのエドガー・モランの文章翻訳なんぞしていたら、ハイチで地震が起きた。最初は、『あのハイチで地震だ。まったくついてない国だなあ』とか悠長なことを思ってたんだけど、報道が入るたびに実際の被害の大きさにビックリしたわけだ。
カリブの真珠と呼ばれていたこの地をコロンブスが『発見』してから、あの国はいい眼にあったことがない。植民地主義とフランス革命と奴隷制度と、ああ、まずは先住インディアンの絶滅があったんだけど、それからフランス革命後のどさくさ時に早くも独立しているのに、同じカリブ海にあっても独立しなかった海外フランス県のマルティニークやグアドループとは比べものならないほどに貧しい。政治不安定・独裁者政権・もちろん地政学的要因からの列強の干渉もあったし、台風の通り道だし、あげくが地震だ。
ハリケーンが通り過ぎても、同じ島にあるドミニカ共和国や他の島々での被害者数にくらべ、ハイチでは一桁多い数の人々が死ぬ。穀物価格上昇の時に暴動が起きたのもここ。泥と少量の小麦で練って焼いたクレープを貧しい子供たちが食べていたのもここ。カリブ海の真珠である。かつては(奴隷労働力にたよって)ラム酒をつくるサトウキビやコーヒーの大産地だったけど今では、山の木々も燃料として切り出されて、たいした樹木は残ってないって話も聞いた。
今のところ今回の地震の犠牲者は1万5千 15万人( 後日訂正;間違いです。すみません) ぐらいってことだが(全人口約1千万人)、この貧しい国のインフラが『まとも』なものだったら、この犠牲者数だって1/10ぐらいだったかも知れない。
地震直後MSFが送ったMSF(国境のない医師団)医療団の輸送機、国連と米空軍の了解があったにもかかわらず、ポー・オ・プランス空港への着陸が許されず、結局ドミニカ共和国に着陸、野外外科手術室設備などは陸路で輸送しなければならなかった。『その失われた時間で多くの人々を助けることができただろう』と語っていた元MSF団長のボローマンのル・モンドによる短いインタヴューヴィデオはここ。
現地の国連事務所が崩壊し責任者たちも死亡、ロジスティックを失った国連の Minustahに代わり、米国が無事だった空港の管理を行ってたわけだけど、他の選択肢がなかったとはいえ、大型の米国軍用機が次々に着陸し海兵隊だろう師団の駐屯器材をまず大量に運び込む風景にはちょっとゲンナリした。カトリーナのときもそう感じたけど、彼ら職業軍人にとっては天災も“保安”というひとつのミッションなんだ;大仰なマシンガンを抱えて。ため息出ちゃうよ。米国はハイチから1000キロぐらいのところにあるわけで、現地にいた米国人も多かったし、大人数のボート・ピープルが押し寄せてもらっても困るし、世界で嫌われてる米軍のイメージを変えるいいチャンスなんだけどさ、なんかケアが大味に過ぎる。大きくて装備が最新ならいいってもんじゃあないだろうが。
なお、ハイチ地震については仏語版ウィキが細かく書いてる(全部読んでないけど)。日本語版では千羽鶴おってハイチに送るってゆー運動があるって書いてあって、これもため息出た(だったら紙代で100ショの鉛筆買って送ったほうがいいだろう)。
イスラエル軍は早くから1000人の軍人を送って野外病院を展開し、2週間の間フル回転して、あとは器材を置いて引き上げたそうだ。あそこの軍隊も人気ないからなあ。。。でも、イスラエルの救急医療とか救援活動の敏速さは定評がある。テロなれしてるから。
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というわけで、15年前たまたま正月を日本で過ごしていて、新幹線や旅館の予約までして京都と奈良まで出かけようかな、と思ったら神戸地震が起きて新幹線が止まって、結局そのあとはずっとコタツにうずくまってTVを見ていたんだったと思い出した。
8年前は911だった。5年前はTsunami だった。そんなことをぼんやり考えていたら、911時にひとつもカメラに映し出されなかった遺骸のイメージと、ハイチの爆撃後のような廃墟の通りに放置されているおびただしいリアルな遺骸の間に、なんだか風の通り道みたいな、低通気みたいなもんがあるような気がしてきた。
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この冬は、いろんな人が死んだ。あのベルナール・コンタ(Noir Desir)の奥さん(46歳、自殺)。歌手のマノ・ソロ(47歳、エイズ:この人の歌はほとんど聞いた事がない。でも父親が風刺漫画家のカビュ/Cabu なんだ。心が痛んだ、)。アタクシは全然好きじゃないんだけど、ヌーヴェル・ヴァーグのエリック・ロメール(89歳;えっ?そんな歳だったんだ)。哲学者ベンサイドの病気はエイズだったと actUpがすっぱ抜いた(64歳)。 こっちのリアリティ・ショーで人気だったスーパー・ナニーやってたチュニジア出身の女性も(47歳、肺がん)。日本じゃアングラ歌手の浅川マキ(心不全、67歳:昔行きつけのライヴ・ハウスで何回か聞いてる。八月の京都で、真っ黒けのロングドレス着てびっちし化粧た彼女がマネージャーとふたりでクソ暑い中歩いてるのに出くわしたことがある)。
なんか暗い時代だしなあ。先は見えんし。この世に、人を引き止めるだけの魅力とかが足りんのかも知れん。ああ、昨日のこっちのTVでやってたサルコ・ショーで、オヤビンは失業中の女の子(bac+5、 エコル・ド・コメルス卒で専門はマーケティングとコミュニケーション)を前に『数週間か数ヶ月後には失業率が下がる』とか『景気回復は絶対やってくる』と語っていたよ。まあ、いつか景気回復はやってくるだろうよ。ケインズだって言ってた:長期的展望で言えばやがて私たちはみな死ぬだろう。追記:数値として出てくる失業率と、不安定雇用や登録してない失業者、週4時間のパート労働者の数、それから現在は失業社会保険の支給を受けている人間の数を総数にいれた数字はどこにも出てきてない。本当の問題は、今の『世界労働市場』という環境の中で『労働』あるいは『給与』の概念自体の意味するところが変わりつつあることに、ここの人々は(意識的に、である場合もあるが)まだ気がついていないとこにあると思う。
ははは、春になれば春が来るんだ(よっぽどのことがない限りはね)。。
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いろいろ、中国と米国のグーグルとかを巡る綱引きとか(中国は資本主義なのか共産主義なのかとか)、A型インフルの予防ワクチンをめぐる疑惑(先週、接種への無料ご招待通知もらったけど、インフルも山場を越したそうで接種会場も月末には閉めるそうだ、、、なんだか)とか、もっといろいろ書きたかったんだけど、ハイチの話と人の死ぬ話だけで終わっちゃった。
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ハイチからの報道に疲れて、ゲホゲホ状態で外はマイナスなんとか度だし、実家のTVでちらっと見た変な番組二つ(ほぼ外人の、いや浦島のアタクシには全部変に見えるのだ)をネットで探して全部通して見た。「坂の上の雲」と「のだめカンタービレ」である。なんか変なんだけど、面白かったよ。変なのは、夏目漱石がすごい健康優良児だったり、モスクワの夜会で『眠れる森の美女』でダンス踊ってたりとかさ。『のだめ』もむちゃくちゃな話で、長い間「のだめ」というのをほぼ野のXXだめかと思っていたアタクシの疑惑がはれてよかったよかった。ただ、出てくる外人がほぼ全部ハーフ(あるいはダブル)の人で日本語アターシよりジョーズねえ。でもフランス人役の男の子のフランス語がアタクシより下手なのだった。なおのだめの方、デイリー・モーションに仏語翻訳入り良画像のがアップされております。聞けば、日本で放送してるマンガも、翌日にはもう仏語翻訳つきで動画アップされてるとか。これには(自分のことは棚にあげといて)びっくり。
と、そこいらでいったん気温は上がったものの、呆けていたらまたまた寒くなった。前回のは西ヨーロッパが冷えたわけですが、今度はシベリアから寒気が降りてきてる(12月までベランダでバラが咲いてたのが嘘みたいだ)。これで1ヵ月ほぼおしまいなんて詐欺じゃないかオイ(毎月の支払いばかりは几帳面に取られてるし)。。。
ああ、こんな生活ヤだ。アンスティテュ・デュ・モンド・アラブのKhalili コレクションの展覧会とか、ジョージ・クルーニーが,マイレッジをためる事が生きがいの独身解雇専門職なんだけど自分が解雇されちゃう話のUp in the Air とか、コーエン兄弟の米ユダヤ家庭をマジおちょくったA Serious Man とか見たい映画もあるんだけど、寒さに負けて出かける勇気がない。皮の手袋してても寒いもんね。この冬第3番目の寒波到来である。30年ぶりの寒さだそうだ。
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日本にいる間たまたまiPhoneで見つけて帰ったら訳してやろうかなと思ったけど結局できなかったエマニュエル・トッドのサルコ強烈批判インタヴュー、URL貼っておきます:もう有料化しちゃってると思うけど。"Ce que Sarkozy propose, c'est la haine de l'autre"
こんにちは。どうしておられるのかと思っていたら、お風邪だったのですね。
パリって寒いですもんね(でも真冬のパリには行ったことのない私)。
ハイチの犠牲者は15万人という報道です。まだまだ増えそうです。
とんでもない数字で、何をどうしてよいやら、誰もわからないんじゃないでしょうか。孤児たちが集団養子縁組でフランスに引き取られたのには、びっくり、というか、正直、ちょっとげんなりしました。
どうか凍死しないように、あったかくしていてくださいね。トッドのインタビュー、頑張って読んでみます。
投稿情報: midi | 2010-01-27 09:17
寒いっすよお、ここ。でもここまで気温が下がって、それが長く続くのは初めてじゃないかな。1980年後半に3年ぐらい寒い冬があったけど、寒波X3ってのは記憶にない。
今やってる養子縁組の話は(他の欧州国も)これまでに長い書類検査とか許可申請とかのプロセスこなしてきた家庭だからそんなに心配する必要はないかと思われます。家族の定義が、日本とこちらでは違うから説明しにくいんだけど。。(もちろん闇での養子売買ってのは別の話です)それより、あの子達が成人した時にちゃんとフランス国籍取れるかどうかの方が問題みたいです。
ハイチでの犠牲者数、訂正しました:いつもの数字オンチ症候群でございます。
投稿情報: 猫屋 | 2010-01-27 12:55
そこなんですよ。ほんとうにフランス人として人生全うさせてやれるのか、とかですね、逆に、この子たちはハイチを忘れてフランス人になってしまうのか、とか考えると何がいいことなのかわからなくなってしまいます。
ただ、現地にいてものたれ死にするか売られてしまうか、の運命ならとにかく命と健康を保証してくれるところに移るのが何をさておいても最優先ですけどね。
投稿情報: midi | 2010-01-28 00:36