翻訳は久しぶりですが15日のル・モンドのこの記事は気になっていたんで訳してみます。経済系で注目すべき記事は多いけど、例外なく長いし、テクニック的にも手に負えんので読み飛ばしの今日この頃でありますが、ダニエル・コーエン教授は、経済システムや経済専門語にも暗い一般人相手に、話したり書いたりするのがうまい。読みづらいとしたら、それは訳者の手抜きが原因であります。なお、リンク先はすでに有料化してる模様。
Du danger de croire que la crise économique est finie, par Daniel Cohen
ル・モンド 2009年6月15日
ウォール・ストリートから眺めれば、危機はもう終わったと信じることもできるだろう。原油価格は2007年での高レベルに近づきつつある。米国の銀行は、彼らのヘッドのボーナスを『堂々と』支払うため、国家からの借金返済に急いでいる。株式市場は過去6ヶ月間の損失を取り戻している。そして、政治要員も彼らの後を追おうとしていると見える。
アンゲラ・メルケル首相は各国の中央銀行を混乱に陥れた:パニックに譲歩したメルケルは過剰のキャッシュを経済に投入したと銀行サイドは見る。欧州中央銀行(ECB、仏語でBCE)総裁ジャン-クロード・トリシェは、行過ぎた寛容主義という批判に対して、欧州通貨政策を防衛せざるを得ないという前代未聞の立場に置かれることになった。。。が、ドイツ銀行総裁はさらに、金利上昇に対しては反対しないと付け加えた。フェデラル・リザーヴ(連邦準備銀行)も同様に硬化した。総裁のベン・バーナンキは過度の国家負債に警告を発し、自分はインフレ・リスクの注意深い監視人であり続けると再び自己規定した。
経済危機からの脱出は間近だという推測は、底入れは過ぎ去ったと思わせるいくつかの統計に基づいている。合衆国において、過去6ヵ月間の雇用破壊数は月当たり60万だった。5月に、その数は35万に下がっている。経済協力開発機構(OECD、仏語でOCDE)は6月はじめに、経済サイクルを予期するとみなされる、景気先行指数インデックスを発表した。この数値は『経済成長悪化リズムの軽減』を示しており、この後6ヵ月での成長回復の予告をにおわせている。。。コンフェロンス・ボードが発表した米国消費者信頼感指数も、同じ方向を示している:やってくる数ヶ月についてプラスのヴィジョンを持つ人の数が増加し、マイナス・ヴィジョンを持つ人々の数に近づきつつある。
しかし、危機からの脱出をこう早々とたたえることには、なにやら悲喜劇の趣きがある。OECD (OCDE) と国際通貨機関(IMF、仏語でFMI)は、加入諸国の成長率は2009年末までマイナスにとどまると予想している。それは2010年はじめに再びプラスとなりうるが、成長率が『正常』に、つまり年2パーセントに近づくには、2010年末の3ヵ月の数値を待たねばならない。。。つまり、失業率は、満ち潮のごとく2011年初めまで増え続けるということだ。人々のモラルはこれに抵抗できるのだろうか?
失業手当額が低く支給期間も短い合衆国の場合、社会保障システムは厳しい試練にさらされることになる。5月の『よい数値』にもかかわらず、失業率はすでに9.4パーセントを超えた。中央銀行が発表した最新レポートによると、就職市場は脆弱であり続け、どの分野でも給与は軟弱化あるいは低下している。
金融界での銀行利益度の回帰は、あまりに急速で、信用しがたい。米国金融機関に課せられた自己資本の必要性に関する『ストレス・テスト』はかなり『ストレス度』の低いものだった。そこでとられたマクロ経済的仮説は、対象となった金融企業の抵抗力を測るためのテストというよりは、より中間予想に近いものだった。これらテストを監修したパネルの責任者は、今からすでに、より厳密な新テストを要求している。ヨーロッパでもIMFは同様な試みを望んでいる。多くのヨーロッパ銀行、特にドイツの、東欧進出が大幅なだけに、東部ヨーロッパ旧共産圏諸国の経済崩壊はレギュレーターたちを悩ませている。
それら脆弱性ファクターが、危機からの速攻な脱出に賭けるプレイヤーたちを冷静にさせるべきだろう。しかし、現在状況での主要矛盾は、速すぎる景気回復先取り自体が、再落下の要因となりうるということだ。原料価格の上昇がそれを物語っている。輸入国にとって、原料価格の急下降は最近まれなよいニュースのひとつだったし、これが2007年と2008年初頭の価格高騰時に消えうせた購買力を消費者に取り戻させた。
もしも価格が急上昇すれば、人々の購買力は消えうせる。同様に、危機脱出(景気回復)予想が長期金利の急激な上昇をもたらし、金融政策の有効性を弱めた。大体において、長期金利の上昇を避けるために、バーナンキ氏は公共財政を安定させる監視人となったのだ。しかしそうしながら彼は、予測より早い税政策の硬化という脅威が漂うことを、折悪しく許してしまった。
底に至ったのち経済は水面上にゆっくりと浮上するU型景気回復シナリオも可能だが、W型、つまり急落下がすべてを台無しにするシナリオと競い合っている。権力機関には今回も対応しうる活力があるのだろうか?何も確かではない。公的対応には疲れの跡が見て取れる。国家赤字と見境のないキャッシュ投入の評判は悪くなりつつある。政府にとっての急速な景気回復とは、理性的予測というよりは必要により似通っている。
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追加翻訳です。
今日6月24日のル・モンドに、サルコジ仏共和国大統領が22日ヴェルサイユ演説で公表した仏人口に宛てた国債発行につて経済専門家3者へのインタヴューがありました:Déficits, emprunt : trois économistes décryptent le discours de M. Sarkozy 以下は、Xavier Timbeau、Patrick Artus に並んで答えていたダニエル・コーヘンの分析部翻訳です。
ダニエル・コーヘン、エコル・ノルマル・シュペリユール(ENS)教授:負債のさまざまな性質に関する議論は新しいものではありません。それはマーストリッチ協定以前に始まりましたが、長くは続かなかった。そこでの問いは、公共投資と一般出費のどちらを目指すかでした。あの時期に私が提出した、経済動向変化に依存する不安定な一般出費と何に投資するかの選択が前もって決定できる構造的負債との区分も拒否されています。
今、ニコラ・サルコジによって示された投資先リストは、結局のところ、すべての公共出費は未来への保障だとするアイデアに行き着きます。
危機に対応しようとする国家の公共負債は大きく増大している。フランスは80パーセント以上の負債を抱えています。何年か前にイタリアの国家負債が国内総生産高(PIB/GDB)100パーセントに迫った時、イタリアは病理学的大型負債におちいったと言われていました。
次の大統領任期(訳注;2012-2017年)での問題は、この追加負債をどうするか、また、次にやってくる経済危機に対応するため、負債を国内総生産の60パーセントに抑える努力を行うのかどうかになるでしょう。この点に関して、ヨーロッパ諸国の意見は分かれているように見えます。
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