行ったのは12月はじめで、もう時間が経っちゃったんだけど、1月25日に終了するこの展覧会のことは書いておきたいから、メモ程度に思い出しながら。。。
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ジャックマール・アンドレ美術館とは、絹売買で財をなした南仏のプロテスタント富豪家族の出であるエドワール・アンドレとその妻ネリ・ジャックマールのパリの邸宅に、夫妻の集めた美術品を常展、そして今回のヴァン・ダイク展のように企画展もやってる、つまり国営じゃないプライベートの美術館だ。
19世紀後半に建てられた邸宅は、オスマン通りに面しているんだけど、車回しを回って正面玄関は中庭側にある。トリアノンを模して作ったんだそうだが、フランスの城やイタリアのメジチ系邸宅を見慣れたアタクシには、どうもつくりや美術品の並べ方とかがキッチに見える。まあそこは、19世紀ブルジョワの趣味なんだから、かってに比べるほうがいけないんだけれども。
今日はアタクシのような平民でも何がしかの銭さえ払えば、ポッティチェリの絵などを見ることができるわけで、たしかに『民主主義』、あるいは資本主義というのはいろいろな意味で凄い。なお、行った当日金曜日にはロンドンから来てる美術愛好家が多かったせいもあるんだろう、当美術館のハイソサイティな風情はちょっと居心地よくなかった。美術館のサイトを開けると聞こえてくる音楽のカンジである。
かえって、時代はちょっと下がるにしろ、プルーストが通ったサロンとかを想像すればいいんだろう。馬車で招待客たちがやってくる。ガラス天井で回り階段の上にイタリア風フレスコ画が見える『 Le jardin d'Hiver/冬の庭園』や、薄暗い図書室や喫煙室には、『世界中から』集めた骨董・絵画が飾られ、第二帝政時の異国趣味空間を作り出している。
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さて、この館の二階の半分ほどがヴァン・ダイク展に当てられているわけだが、会場はさほど広くはなく解説者のグループをよけながら、全作品をゆっくり見られなかったのが残念であった。
アンソニー・ヴァン・ダイクは、アントワーペンではルーベンスのアトリエで学び、それからイタリアの都市、そしてイングランドで宮廷画家としての地位を確立していく。
ヘラルド・トリビューン紙がちょっとスノッブな (読みすぎ/ストリーテリングやりすぎ)記事を書いてた:Van Dyck's subtle scrutiny of the human psyche
同紙スライド・ショーはこちら:Portraits by Anthony Van Dyck
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まあ、ポートレート画家でいえば先立ちのティツィアーノ師匠もおりますし、なにも『心理学』が人間心理を発明したわけでもなく、逆に人間の顔や姿はその人の内面の現れなのであって、優れたポートレート画家はクライアントの人となりをうまい具合にキャッチしてカンバスに定着するものである。そういう意味では『ポートレート』というジャンルがいつごろ定着したかと考えてみるのも面白いかもしれない(研究やってる人もいるんだろうなあ)。フーコーのいう「人間」というのもここらへんだよね、たぶん。
デジタルな21世紀にあっては、個人も数字化され、化粧法と毛染め技術と美容整形外科の発達でみんなおんなじ顔になっちゃって、「人間」というのは消滅した。
---- とは猫屋の冗談
さて、
それぞれの作品の細かいところはおおかた忘れてしまったのだが、展示は(二期にわたる)フランドル期、イタリア期そしてイングランド期と、もちろん服装もだけど大陸も時代も移っていく。
20歳ちょっとの時の自画像が大胆不敵。全体的には黒と言う色の扱い方が豊かで、ちょっとした筆使いで光沢や深みのニュアンスをだしていたり、時としては部分的あらい描き込みでバランス取ったり、手の描き方が動きの瞬間でぶれていたりするんだが、これはカタログや写真ではなかなか分からないだろう。
17世紀のフランドルのブルジョワ、そしてヨーロッパとイングランド宮廷の王族貴族たちのポートレートが示す「メランコリー/哀しみ」はどこからくるんだろう。
最後に仕えたチャールズ一世はやがて斬首される。そのチャールズ一世とその家族の肖像群には共通した「冷たさ」が、白色の使い方もあって、伝わってくる。
エリザベス・スティワートの息子たち、カール1世ルートヴィヒとその兄弟プリンス・ルパートの並ぶ肖像は圧巻である:どこがどう見事なんだか正直言って自分でもまだよくわからんのですが、たぶん、権力によって固定された個人性みたいなのをヴァン・ダイクは永遠化した、とでも言えるのかなあ。。。
うまく文章に書けないのだけれど、印象深い展覧会だった。1984年にアントワーペンの王室美術館で見て以来気になっていたヴァン・ダイクの絵画に、四半世紀後やっと再会できた。
大変遅れましてあけましておめでとうございます。
ご無沙汰して申し訳ありませんでした。
この展覧会、多分2月からテイトに来るものですね。
楽しみです!(会員なのでチケットなしで入れるので)
投稿情報: ぴこりん | 2009-01-17 11:37
ぴこりん氏、
こちらこそ連絡もしないまま2008年があっという間に過ぎてしまいました。おめでとうございます。
そっちで見たらここに感想書いてね:興味ある。
投稿情報: 猫屋 | 2009-01-17 14:07