うちのブログ・カテゴリーに『エコノミー』ってのを最初から作っておけばよかったと、今頃気づいた。
まあ、これはアタクシ一人じゃないでしょうが、後出しじゃんけんで言えば、2001年の911から数ヶ月後にはダメダコリャと思ったわけで、何がだめってそりゃアメリカ合衆国のかなり前からの冗談みたいな(byマイケル・モア)脂肪体的に拡大した米国政策全体で、ひいては合衆国が牽引する世界経済・金融・社会・農業・軍事、、そして難民救済まで含むポスト・モダンな現行世界システム全体のことでもある。
おととしの夏だったが昼食をともにした高校時代の友達(現在は横浜でこじんまりした飲み屋を配偶者と二人で経営してるノンポリ普通の人)が「猫屋、このごろ思うんだけど、絶対なんかが根本的に間違ってる」とため息をつきながら言ってた。去年の夏は、同様な言葉を多数の友人の口から聞くことになった。つまり、要約してみれば
これだけ働いても、子供の教育(費)とぼけた両親の世話で休む時間も余暇にあてる金もなくなった。これで自分が働けなくなった時には、国家も子供たちも自分たちの面倒は見てくれないだろう。日本は世界で2番目の金持ち国なんだそうだが、どっか変じゃね?
と、言うことである。しかり。
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今日、株式系で分かったこと、
木曜日はユダヤ教の長い正月の祭りのひとつで、世界中で多くの企業が閉店。それでニューヨーク株式市場でも売り買いされたヴォリュームは少なかったんだけど下げ幅が凄かった。生き残りヘッジ・ファンドがスペキュに必要な資金を調達できずに仕方なく店じまいする前にフォンダメンタルの堅固な企業株(虎の子)を投売り現金化したことと、ニュー・ヨーク市場でのショート・セリング(借金でスペキュ)の禁止が終わって、トレーダーが再び空売りを始めた、ってのがおもな理由だったようだ。
結局のところ、すべては加速し続けるのに、各国オーソリティーの反応が現象(サブプライム・金融危機・クレジットクランチ・株価暴落、、、もうすぐバンク・ラン?)の後を追うばかりで、後手後手に空振りしている。決定打がない。例:ブッシュの重大スピーチが発表されるたびにダウ・ジョーンズ平均が大きく下がる。最悪スパイラルである。
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今日の、いやな予感、
ここフランスでの動きがいちばん理解しやすいから、それを例にとってみる。デフォンスの本屋でちらっと目にしたゴシップ系週刊誌のグラビアでびっくり:ディオールとかのゴージャスなドレス(借り物)で高名な仏共和国法務大臣のダチ(ただいま妊娠中だが父親不明のシングル・マザー)が、ごくごく普通の茶系のセーター着て、メークも目だけで真ん丸くなって写真に納まってた。8日には、中小企業救済策として仏共和国経済相ラガルド(別名ラ・ギャッフ、もとはアリーマックビルのボス的シカゴ弁護士事務所長のひと、いつも黒いスーツで、女優のグレン・クローズ風味)が、髪セットもなしの姿で、ロトが当たった時みたいな横幅約2メートルの小切手(国家援助だってさ)を中小企業の社長さんにうれしそうに渡していた。。。グレン・クローズ風味マダム・ラ・マルキーズの単なるおばさん化である。これが政府の(メディア向け)社会政策であるね。
サル・オヤビンは10日ほど位前にに、南仏はトゥーロンで「資本主義の行き過ぎは訂正しなければならない。罪を犯したものは罰せられるべき」とかの『社会主義宣言』を行った。
ポールソン初案が議会で否決された理由のひとつも、『“自由”世界米国では、国家介入はダメ』というオーソドックスな自由経済論が共和党などから出たからだ。
米国オーソリティは、実質的金融機関の国有化も一時的なものだ、と釘を刺しているが、このあとリストには、ワコビアとの合併作戦に失敗した(固定資本のない)シティ・グループや、株価がた落ちのGMやフォードの自動車産業やGEの破綻可能性がある。それを許したら米国の経済はニッチもサッチも行かなくなるだろう。そこで国家援助政策をまたまた継続すれば、金融ばかりでなく米国経済全体の(一時的ではあるにしろ、出口は見えない)国有化ってことになる。。。。
11月の大統領選挙でオバマが選出されたとしても、実際の新大統領就任は来年。約4ヶ月というホボ政治空白があるわけだ。
現在の米国を仕切っているのは、FED(FRB)のベン・バーナンキと米財務長官のハンク・ポールソンだが、バーナンキは大恐慌の専門家ではあるがあくまでアカデミー経済界(学問の意で映画とはまったく関係なし)でのオーソリティで、斬った張ったの現場スキルはないし、逆にポールソンはハーバードで経済を学んでからニクソン政権内で勤め、1990年から16年間ゴールドマン・サックスに勤務、2006年に現米国政府からスノーの後継者として財務長官に任命されたわけだが(ゴールドマン・サックスCEOをやめた時のペイ全体はストック・オプション売却も含め約4億8600万ドルだったという)、衰退した企業を吸収して膨張するブル・ドミノ・マネージメント手腕はあっても、万人のコンセンサスがなければ前にすすめない環境である政治についてはアマチュアといっていいだろう。
さて、バラコバマもマケインも、次の財務長官にはあのウォーレン・バフェット(78歳!)を任命すると言ってる。いいのかなあ。たしかにバフェットは2007年米国長者版付けナンバー1(ドルが多少持ち直したので世界ナンバー1らしい)で、今回の危機ではGM救済のために個人資産を注ぎ込んでいる。いまでも質素な生活をし、チャリティに巨大な金額を使っているが、でも、(いかに経験があろうと、いかに道徳的に優れていようと)株でもうけた人物に、国家の経済を任せられるものだろうか。
以前にもメモしましたし、フクヤマ教授も言ってるように、ひとつの国家をひとつの企業のようには経営できない。ここでフランス・モデルに帰ってくるですが、たとえばサルコジはフランス共和国をひとつの企業として経営しようとしてコケテいる。K夫人の言葉を借りれば「郊外の中古車販売店の社長さんには仏国大統領職はムリ」なのである。
サルコの策はこうだ:会社法専門弁護士だったころに、地元ヌイイやオート・ド・セーヌ県の経済界大物たちとのコネクション網をつくり、それからシラク政権に入って、当時の内務大臣パスクワ(同じくオート・ド・セーヌ)にも近づく。。。本人が内務相になった時代には、メディア界に接近、経済相時には仏経済自由化をかるが任期が短すぎた。続いて大敵ド・ヴィルパンの失脚後UMP党首となる。。。そうして、メディア・財界それから映画や歌謡曲界などの交友関係をテコに、改革ともっと働いてもっと稼ぐをスローガンにして、大統領職に就く。
サルコジの野心は、冷戦後の経済が仕切る世界において、CAC40(パリ株式市場上場40社)の世界内競争力を高め、生き残らせるばかりではなく世界新資本主義のパイ(ケーキでもピザでもカマンベールチーズでもいいけど)の一部を仏国財界がキープするという、一種の経済ナショナリズムと言えるだろう。
だが、国家経営と企業経営は違う。どこが違うのか?企業の目的は利益追求だが、国家の目的は社会安定だと言っていいと思う。しかし現行の国家の多くが、生産性中心主義にシフトしてしまっている。
経営がうまくいかなくなっても、コストカットのためのリストラを、本来の国家はできないはずなんだ。だが、現在の多くの国家は、たとえば世界で一番豊かなはずの米国でも2番めのわが母国でも同様だし、アフリカなどの貧しい国家でも、国家リストラ、つまり最も貧しい移民・失業者・低所得高年齢者を解雇/疎外することで成り立ってる。これが国家の企業化現象の登録商標だろう。一気に長くなっちゃいました、ゼイゼイ。
つまり、サルコにモラルがあるとは思えないけど、たとえばバフェットのモラルも、あくまで慈善事業なんだと思う。そこがバフェットの限界だろう。まあ、バフェット任命の話は、バラコとマケインの選挙に向けたストラテジーだと思うけどね。バラコバマはバフェットを財務長官に就け、周辺をクリントンのながれの経済専門家で固めるつもりだろう(少なくともミルトン・フリードマンはもう生きてないんでよしとせねばならぬか←独り言です)。
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ありゃ、何の話だったっけ。あ、そうだ、小さい国家と大きな繁栄(利益)と、大きい国家と小さな利益の話に行くはずだったのだ。
めんどくさいのではしょるわけだが、サルオヤビンが貧民救済だとか新資本主義の終焉だとか言ってる割には、このごろの仏メディアに左系経済学者や左系ジャーナリストが登場しない。ケインズのはなしとかもまったく出てこない。レギュレーション理論のアグリエッタ教授も、収入格差と税制が専門のピケティ先生も、低開発国の経済発展とグロバリゼーションが専門のダニエル・コーエン教授の声も聞こえてこない。オルター系経済学者だって出てきても夕方か真夜中過ぎのマイナーな討論番組で刺身のツマ的にしか登場しない。さらには、社会党幹部メンバーの話も、社会党内部抗争(仁義なき戦い)ネタ以外では一切出てこない。おかしい。
仏国極左客寄せパンダのブザンスノーぐらいしか視野に入ってこない。とっても、おかしい。
結局、仏国の不幸の原因はすべて仏社会党のせいだ、というキャンペーンを張ってきたサルコは、仏国の反対勢力あるいは自由報道による批判を一切封じ込めてしまっている。これって、民主主義の終焉とちゃう?
あいかわらず近場フランスの例だが、気をつけるべきは、サルコジはこれからすべての不幸を、いままでのように仏社会党かヨーロッパのせいではなく、金融・経済危機のせいにして自分の政治責任は免責、今となってはなんとも金箔のはげた構造改革を進めるだろう。
これは単なる予感だが、流れとしては空洞化した世界金融システムの底なし穴に、国家資本(ヨーロッパにはロシア資本、米国では中近東と中国のとか、、)を導入しようとするんじゃないかと、これは陰謀論をかすめちゃうわけだが、そう思う。
これにはこの2・3日、イスラエル・パレスティナやシリアに絡んだクシュネール仏外務相の動きが極めて変だったり、グルジアの自治国を除いた地区でロシア軍がすんなり撤退したとか、サルコ・メドヴェジェフ現露大統領会談があったとか、アイスランドでの国家財政危機にEUではなくロシアが資本をだしてるとかの、可能的伏線はあるんだが、ソースとしては決定的ではない。
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参考おまけ:元オルター系経済専門ジャーナリストの意見です。大雑把だけど、Fukuyama 論を超える社会学的視点で書いてる: Vers un retour de la question sociale au coeur de la crise
ワシントン・ポストの書く欧州事情:Financial Crisis Tests Limits of Unity Within the E.U.
このル・モンド記事も
クルーグマン教授の最新NYTコラムも追加:Moment of Truth
14日追記;ところどころテニオハ書き変えました。クルーグマンが経済でノーベル賞受賞したんでびっくり。今年のノーベルの中の人たちはかなり過激です。そこここで、今年は経済学では受賞者がないだろう(近年の受賞者には経済工学複雑系も多くて、クレジット・バブル形成に責任ありじゃん、、という意見)なんて聞いてたので二重にびっくり。
最近ずっと「ね式」ブログに目玉がくっついちゃってます。 (^_^;)
投稿情報: わど | 2008-10-11 10:17
すっと「ね式」ブログ書くのにPCへばりついてたんで、さすが疲れますた。で、大きなネタもないようなので今週末はおやすみですう ^^。
投稿情報: 猫屋 | 2008-10-12 00:47
お久しぶりです。なんだかんだいってフランス左翼は、じわりじわりと骨抜きされてきてますね。最近は周りでも覇気のある左翼が減りつつあります。フランスの日本化がすぐそこに見えるようで、悲しいです。
かくいう私もフランスから追い出されかけ中です。レジスタンス精神だけは持ち続けていますが。
投稿情報: Amina | 2008-10-12 22:47
ふーむ、そうなんだよね。バブルなお化け資本が消えてなくなるのはある意味悪くないと思う:スペキュがないほうが文学・絵画・映画とかもっと原点に戻るでしょう。でも、われらの生活自体が危ないわけね。
Amina 氏はパリ在住なのかなあ、、。そうだとしたらアタクシ今週は、アポが入ってるのは金曜のANPEだけなんで(書類関係はやらなあかんこと満杯だけど、やりたくない)、いつか昼飯か午後のお茶でもどこかで一緒に革命ビジネス・プランについて話し合いませんか?えっとメアドはプロフィールんとこに書いてたはずです。。。よろしく。
投稿情報: 猫屋 | 2008-10-14 01:47
ちゃんと、読みましたよ!
日本のニュースは脳天気で経済危機について余り触れないのでともかく、アメリカやドイツのニュースサイトを見ると、タイトルを見るだけで気が滅入るような記事ばかりで、今回の危機のヤバさを感じます。
しかし、各国の株価が反発しているので、そろそろ下落も底を打ったのでしょうか。そう思いたいものですが。
今回の金融危機でレッセ・フェール派は壊滅的な打撃を受けたでしょうから、しばらくはある程度政府が介入、規制する経済政策が主流になるんでしょうね。政府が手を出さなければ、欧米の銀行がほとんど全て潰れていたわけですから。
しかし、こんな超巨大カタストロフを引き起こしかねない危機的状況になる前に、何とかしていただきたかったところですが。
投稿情報: saisenreiha | 2008-10-14 06:53
おお、ミュンスターの再洗礼の人だ。わーい。
今日も上がってるみたいだけど、上がりすぎても気持ち悪いわけで、上海でもロンドンでもどこかで下げが始まったらそれも伝染しかねない。この一週間はかみそりの刃の上を歩くみたいな精神戦になるでしょう。
レッセ・フェールの砦、英国のリベラル・エコノミーの権化にしてヨーロッパ・セプティック(懐疑派)のゴードン・ブラウンが大型国家介入策をはじめに打ち出し、ヨーロッパ大陸と足並みをそろえた、ってのがやっぱり一番効いた。できれば、ケインズ系の英国+大陸の経済学者たちの協働ワークショップでもガンガン開いて欧州版ニュー・ニュー・ディールにもってってほしいところです。スゴロクのはじめのコマからマネー・ゲームの仕切りなおしでは、また同じドツボにはまる。
母国の某経済紙見てたら、今が米国への投資の好機とかってアナリストが書いてて、まだまだ米国債を背負い込ませるつもりだし、そういった回し者の言うことを信じちゃう人もいるんだろう。なんだかなあー。為替の動きもまったく合理性とか関係ないところで動いてるでしょ:むちゃくちゃやん。
投稿情報: 猫屋 | 2008-10-14 15:14