何気なくアルテのニュースをつけたら、アルテで多くの番組制作にあたっていた貴重なコラボレーターが死亡したと報道していた。
Pierre-André Boutang の名前には覚えがなかったから“そうか”、と思って見続けていたら、『71歳の彼は休暇中のコルシカで泳いでいる途中に急死。太陽と海は彼に最も似通った最終の場だった。』といった内容のコメントの後、ピエール-アンドレ・ブータンの代表作を紹介していた。
ここで腰が抜けるほどびっくりした。哲学者(ピエール・ブータン)の父親とノルマリアンの母親の間に生まれたブータンは、1960年代から知識人のポートレート制作・監督をはじめ、さらにインタヴュアーとしても活躍する。以前のFR3やアルテ(以前のセット)で眼にしていた番組の多くが彼の手になるものだと知る。
1970年代の《Sartre par lui-même;サルトル自身を語る》のプロデュースや、ドゥールーズの《Abécédaire》の制作も彼によるものだ。ソルジェニツィンやピカソ、ジャンヌ・モローのポートレート・ドキュメンタリー映像も、このブータンの作品だったのだった。(これは見ていないが、ハイデッガーやアルチュセールも撮っている。)
実に、自分の映像経験の多くが、名前さえ知らなかったこのコルシカの海で溺れたドキュメンタリー作家に負っていたのだった。
昔のTV番組オセアニックや《ジュルナル・ド・シネマ》も、今のアルテの、アルテ・ニュースのあとのカルチャー全般紹介番組メトロポリスもブータンの仕事。2006年に見たブロンリ河岸美術館の紹介番組もそうだ。
著作や映画であれば、作家の名が残る。TV映像はある意味“消費材”だから、名は残らないし、名誉や金とかはあんまり関係ない世界なんだろうなあ、と想像する。
だが、実に、彼の作った映像が多くの人々の記憶の中で大きな場所を占めている。猫屋の師匠リスト(アヴェドンのあと)に彼の名前を記帳する。
ドゥールーズのアーベーセーデールはここで見られます:L'Abécédaire de Gilles Deleuze - Pierre-André Boutang (1996) [PART 1]
彼の最後の制作は、レヴィ-ストロースのポートレート“クロード・レヴィ-ストロース自身を語る”で、これは11月27日に放映される。
また、8月23日と30日土曜のメトロポリスは、ブータン追悼特集を流す。ポッドキャストもを始めたアルテのトップページ:arte (ブータンはアルテ創始者のひとり)
ブータン追悼ページ:Hommage à Pierre-André Boutang
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