今日はリュウ・ド・バックのあたりに野暮用があり、朝、出かけなくちゃなあーと寝不足のまま台所でラジオをつけたら「今年はバックの生誕200年にあたり、、、」とやっていた。ああ、ヨハン・セバスティアン・バッハのことね、、とボーっとしていたら2杯目のコーヒーで、バカロレアのことと気がついた。
フランス語発音で、『バッハ』は『バック』なのである。バック、いやバッハの生誕はもっとだいぶ前であるが、ここいら辺がすぐぴんと来ないのは歴史オンチ典型的シンドローム。
さて、中世ヨーロッパに大学ができた時に現行バカロレアの原型も生まれたのだそうだが、近代版はナポレオン・ボナパルトによって1808年に制度化された(調べたよ)。
以前のエリート選別制度としてのバカロレアとは違い、今のバックは受験生の80%以上が合格する単なる上級教育入学資格試験として機能する。しかし、今日(6月16日)ある制限時間4時間の哲学筆記試験で4日間続くマラソン試験がスタートするわけで、新聞・ラジオ・ネットと、どこでも『バック』が毎年このシーズンには大きな話題になる。
つまり実際機能とは別に、バック・フィロにはシンボル的機能もある。ファンも多い。哲学設問も新聞に掲載され、誰もが一日だけ頭を捻ってみてみたり、いとおかしい。
今朝は、燃料価格急上昇に怒ってピケを張るトラックの運ちゃんたちも、バシュリエたちが試験を始める時間(8時)は避け、9時に行動開始したそうな。
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と、午後になってネット見たら哲学問題と模範解答説明が発表されていた。昨年同様、問題のみ簡単訳する。
ル・モンドが拾った教師の言によると、現在まともな回答を書く生徒の数は本当に少ないのだそうだ。内容変更が必要だとこの先生は言ってますね。回答の添削もかなりな作業であろう。参考:Bac : la "reine philo" a perdu de sa superbe
しかしながらポスト・インダストリー・ニュー・クラシシズムの先端を行くフランス名物バック・フィロの余命は、まだまだ長いと思われます。
以下、各科目のあとにあるcoefficient/コーエフィシオンとは、獲得点(X/20点満点)に、たとえば文系なら7倍し、全試験全体得点数に加算するという意味なり。
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文系/Série L (littéraire) coefficient 7
- La perception peut-elle s'éduquer ?
- Une connaissance scientifique du vivant est-elle possible ?
- Expliquer un extrait des "Cahiers pour une morale" de Sartre.
- 認識は教育されうるか
- 生命体の科学的認識は可能であるか
- サルトルの『Cahiers pour une morale』の抜粋を解説せよ(注;マラルメ論ですね)
科学系/Série S (scientifique) coefficient 3
- L'art transforme-t-il notre conscience du réel ?
- Y a-t-il d'autres moyens que la démonstration pour établir une vérité ?
- Expliquer un extrait de "Le monde comme volonté et comme représentation" de Schopenhauer.
- アートはわれわれの現実意識を変えうるか
- ひとつの真実を確立するためにデモンストレーション以外の方法はあるか
- ショーペンハウアー『意志と表象としての世界』からの抜粋テキストを解説せよ
経済と社会系/Série ES (économique et social) coefficient 4
- Peut-on désirer sans souffrir ?
- Est-il plus facile de connaître autrui que de se connaître soi-même ?
- Expliquer un extrait de "De la démocratie en Amérique" de Alexis de Tocqueville
- 人は苦しむことなしに欲望しうるか
- 他者を知ることは、自己を知ることより簡単か
- アレクシー・トクヴィル『アメリカの民主主義』からの抜粋文章を解説せよ
テクノロジー系/Série Technologique (toutes séries sauf TMD) coefficient 2
- Peut-on aimer une œuvre d'art sans la comprendre?
- Est-ce à la loi de décider de mon bonheur?
- Répondre à des questions d'après un texte de Kant
- 芸術作品を理解せずに愛することはできるか
- 私の幸福を法が決定しうるか
- カントのテキストを読んで設問にこたえよ
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ということ。テキスト原文はあとでアネックスとして別エントリーに貼っておきます(翻訳はしませんよん)。今年のフィガロは知識人がバックに挑戦の企画はやったのかなあ、どうなんだろう。
いつも大変に楽しく幸せに拝読しています。
リンク先、
>Bac : la "reine philo" a perdu de sa superbe
が存在しないそーです。ご連絡まで。
投稿情報: gim | 2008-06-17 11:12
そう言っていただくと、うれしいです。“主筆”も楽しく幸せにブログたたいておりますで
す。
リンク張り替えておきました。ご指摘感謝。
投稿情報: nekoya | 2008-06-17 13:09
いや~、本当にスゴイですよね、バカロレア。
こういうのをくぐり抜けてくるんですもの。入ったばかりの大学生だって賢い(ちゃんとした答案が書ける)はずだわ。。 とても太刀打ちできませぬ~。。
哲学、4時間ですか。。 全部で4日間もあるのですか。。 一年かけて勉強するんですものね。すごいわ。
投稿情報: ねむりぐま | 2008-06-18 22:59
まあ、ちゃんと哲学者の引用まで入れて、数ページのレポート書くのは進学校の生徒ぐらいに限られてるんだと思います。30分とか1時間で終えて途中で退場する生徒も多いようです。まあ小学校から、作文ガンガン書かせるし、これ目指して勉強してるわけだからねえ。オチこぼれが多いのも理解できるっす。
今年のテキスト解説の文章チョイスは“良”と思う。サルトルのは難しい。トクヴィルのは哲学者じゃないだけに分かりやすい;なんとなくブッシュ批判(あるいは現在フランス)に持ってくって、できるよね。苦しまずに欲望するってのは、こりゃ17・18歳にはジャスト・ミートな出題なんで笑っちゃいました。
投稿情報: 猫屋 | 2008-06-19 03:28