22日の《チベットの復活祭》の続きです。
副題:チベットについて私の知っている2・3の事柄
とは言っても、チベットに行ったこともないし、チベット人の友人がいるわけでもない。ネットで山のような情報を探してみたわけでもないし、一応仏教徒だけど、仏教史なんてからきし知らんわけで、えらそうなことは言えない。でも、書いてみる。
*
1987年、中国がその“近代化”を始めてまもなく、北京と上海で合計4週間過ごしたことがある。地方に出かけるためには当局の許可が必要だったこともあって遠出はしなかった。夏のただ広い天安門広場をトクトク歩いていると、数人のチベット人グループが通りかかった。日焼けした肌と鮮やかな色々の衣装でため息が出た。
知人に、そのころラサからカトマンズまで(ほぼ)歩いて山越えしたつわものがいて、これも昔写真を見せてもらった。中国チベット高原に暮らす家族に歓待されて、でも食事は小麦に水を混ぜてこねた団子とヤクのミルクの入ったチャイと塩気のないヤク・チーズだけで、飲み込むのに苦労したそうだ。バスに乗り継いでラサまで行く間に高山病にかかる旅行者も多いと言っていた。ラサのあたりは標高3500Mで、富士山より高いところにある。土地は貧しい。
2006年に、北京とラサをつなぐ鉄道線が開通している。かつての米国における西部開拓プロセスを考えれば、鉄道とというのが開発にとってどういう意味を持つのか分かっていただけるか、と思う。映画「アラビアのロレンス」での対オスマントルコ鉄道破壊行為も同様だね。
現ダライ・ラマがラサを去りインドに政治亡命したのは1959年だ。今、ラサ周辺に残る多くのチベット人たちの間でも、ダライ・ラマに直接会ってはいない新世代がどんどん増えている。49年の間ダライ・ラマは中国に足を踏み入れていない。
チベット人たちが住む領域は、中国チベット自治区・ブータン・インド・ネパールの4国にわたる。チベット人は特有のチベット語と、特有のチベット仏教と、特有の社会習慣を共有するひとつの民族である。
中国チベット自治区内でのチベット語教育は小学校までで、中学からは中国語での教育となる(自治区外では中学・高校でのチベット語教育もなされているそうだ)。すべての公的(役所系)書類は中国語。結局、ホテル業・飲食店などの商売起業をしようと思ったら中国語ができる人間、つまり中国人あるいは中国語のできるチベット人に有利だ。他民族間婚姻(チベット・中国)も多く、結果として人口比率でのチベット人割合は少なくなる傾向にある。
以前は、自治区チベット仏教にしても、亡命ダライ・ラマ派の次期ダライ・ラマになる少年と、中国政府派次期ダライ・ラマ候補がいるという話だった。今回ラサの寺院がいくつか破壊され、若い僧たちが蜂起したと聞いて、中国政府は結局のところ、チベット文化消滅という政治路線を取ったんだろうと感じた。
もちろん、蜂起僧の間に扮装した政府エージェントが入り込んでいた可能性だってあるわけだが、なんとも確認のしようはない。ラサで「チベット人が中国人を暗殺にくる」という噂が流れたようだが、これも出所が何処なのかは、知りようもない。
14・15日にラサで破壊されたのは、銀行・両替商などの中国政府系および政府機関。トヨタやホンダの四輪駆動、つまり金持ちの車。その後、共産党政府サイドは運動参加者たちに、懲罰はなしという条件で“名乗り上げ”をすすめ、160人が自首出頭、うち24人が重罪と政府に判断されている(当局公式発表)。
天安門事件に先立つ1989年3月チベット独立運動にしたって、それが世界に知られたのは後になってからで、犠牲者の数も400人から650人と、確かな数字は分からない。この運動は現在の中国指導者胡 錦濤(こ きんとう/フー・ジンタオ)によって弾圧されている。現在の中国各地で蜂起がある模様だが実際の状況は分かっていない。
これはチベット関連ではないが、去年「オリンピックよりも人権を」という署名運動をネットで展開し、1万人分の署名を集めた中国男性が、当局から5年の刑を言い渡されている。報道の自 由は中国にはない。(ロシアにもない。一昨日だったか、モスクワで、過去にチェチェン報道をしたTVジャーナリストが、自宅で絞殺されているのを発見され ている。)
東京オリンピックがそうだったように、オリンピック開催というのはひとつの国が列強国パーティーに参加する通過儀礼みたいなもんなんだろう。ただ、いつの間にかアマチュア・スポーツ精神はプロ・スポーツ・スポンサー精神に変わった。だから北京オリンピック開催は、中国共産党一党独裁統制経済形資本主義国の世界資本政治舞台への公式デヴューだって言ってもいいんだと思う。
一方では、巨大人口を抱える中国政府の西部開発と、チベットばかりではない少数民族地区対策(ムスリムのオリエンタル・トルキスタン、モンゴルなど)があり、他方で進んでいく「近代化・商業化」の波に乗り切れない少数民族文化の貧困化と衰退がある。
大チベットは、中国全土の25パーセントを占める。土地は貧しくても、高山だから開発さえすれば化石資源や鉱石が出てくる可能性がある。おまけに隣国は経済新興国インドともめてるパキスタン戦争中アフガニスタンも山の向こうだ。
世界第四位経済大国中国の弱みはエネルギー資源のないことだ。長い年月と多くの金をかけて東シナ海沿岸を発掘調査したけど原油は見つからず、しょうがないからアフリカまで遠征して油田確保してる。となりのロシアに原油・天然ガス分けてチョ、とは政治的に言えない。狐と狸のにらみ合いである。北朝鮮に何か埋まってるかもしれないが、これも簡単に手が出せる国家ではまだない。
台湾はチベットとはまったく条件が違っている。台湾は、共産党を避けて逃げ込んだ蒋介石が(原住は高砂族)創った国家。同じように、マレーシア独立時に中国人を引き連れてシンガポールを建国したリー・クワン・ユーの例にも似てる。台湾で使われている公式語は北京語。経済的繁栄度はチベットと比べようもない。中国本土に資金を出して生産工場を有する企業家も多い。今回の台湾での選挙結果は、中国プラグマティズム、つまり経済大国中国という「勝ち馬に乗る」ための一歩なんだろう。
インドやネパールでさえ、チベット人たちのデモは規制されている。中国自治区には、外国人ジャーナリスト・観光客も入れない。
中国自治区チベット少数民族が持っているのは、、非暴力とチベット仏教哲学と、その例外的外交能力で49年の亡命生活を通して世界を駆け巡る14世ダライ・ラマ本人と、彼の努力の結果である、米国・日本・ヨーロッパのチベット支持者だけなのだ。
ヨーロッパ人が、チベット独立あるいは自治権確立を支持するのは、もちろんユニバーサル・バリューとしての自由という思想がベースにあるわけだが、同時に、やがて世界政治チェス・ボード上の巨人となるだろう中国政治態度を、今のうちに少しでも緩和化させたいっていう、潜在意識みたいなものもあるだろう。ここらへんの市民感覚を無視してはいけない。911後、報復行為として関係ないイラクを嘘まで作り上げて攻撃しようとする米国政府に対し、世界中で広まった反イラク戦争運動だって、今のイラク状況と米国状況を考えれば、結局市民たちの方に道理があったわけだ。
**
参照(といっても目を通しただけ)
ECONOMIST:Fears of contagion from Tibet 3月14・15日にラサにいた唯一のジャーナリスト、ジェイムス・マイルズが21日北京から記事書いてる。
Bakchichi: Que s’est-il vraiment passé lors des émeutes à Lhassa ?(3/19)Bakchichi: Entre la Chine et le dalaï lama, la guerre de com' est lancée(3/19, ヴィデオつき)
次は、自治区外のチベット人地区四川省(Sichuan)で足止めを食らったル・モンド特派員の3月24日記事:チベット四川省での、バリケードと準軍隊兵士にはさまれた困難な旅行
LE MONDE | 24.03.08
あとこれは、EPHE宗教学科のチベット学と民俗学専門家によるチベットの歴史(ちょいと突っ込みたくなる部分も個人的にはあったりする):中国とチベット、かくも長い歴史
Wikiの英語版・仏語版・日本語版はそれぞれオリジナルで、世界各国にチベット支持者は多いんだなーと、今さらながら感心した。
Wiki 英語版チベット 日本語版チベット 仏語チベット
まだまだ書き足りない事項があるように思うけど、今夜はここまでござる。三蔵法師も、猪八戒やら孫悟空を連れてあのあたりを旅したのであろうか。。。
チベットにはやはり、埋蔵資源が豊富にあるようです。
というのも、強欲な西洋諸国(失礼)が純粋に人権問題だけ、もしくはダライ・ラマに魅了されてチベット援護に動くとは思われないので調べたところ、そうみたいですよ。
何はともあれ、結局最も過酷な目に遭うのはそこに住んでいる普通の人々、という事実が心を締め付ける訳です。
独立が最終目的ではない(外部からそれを煽るのは責任感のないことはなはだしい)、しかし留まっていては肩身が狭くなるばかり・・・なんということでしょうか。
投稿情報: ぴこりん | 2008-03-25 10:48
日本国内においてはどうか、と言う気もします。
結局今の段階では、この件で騒いでいるのは欧米だけ、というところがありますので
(南米や中東、他のアジア諸国は余所のサイトの記述を信じるなら、何となく様子見みたいです、韓国は、チベットと似たような経緯であったと思っているはずなんですが、現状は自重を求める程度みたいです)
2chねらーがなんだかえらくがんばっていますが、飽きっぽい日和見連中のがんばりなんていつまで続くことやら。
こういうものも作ったりもしているようですが…
チベット事件のまとめガイドライン - 反戦・人権団体の動き
http://www8.atwiki.jp/zali/pages/13.html
あとこれらの事件をみるたび、戦前の大日本帝国のように増大と硬直の両方が進んでいる中国。
と思う人が増えてくるでしょう
チベット問題での中国の工作活動| Power2ch
http://power2ch.blog85.fc2.com/blog-entry-449.html
スラッシュドット・ジャパン | チベット支援サイトにサイバー攻撃相次ぐ
http://slashdot.jp/security/08/03/23/2252209.shtml
チベット史に興味増えている人が増えてくるんでしょうね。
投稿情報: 犬猫やんやん二号 | 2008-03-25 12:00
翌日エントリーにあげたシンガポール政府ご用達新聞が、チベットの資源つまり鉱石と水源について書いてますが、ちょっと資本投資したくてうずうずしてるね、あれ。政治外交経済思案は別にしても、チベット問題についての現地各政府の重圧はそれ自体が非難の対象となりえるものだし、報道規制も人権無視は、アジア周縁国・米国でも欧州でもロシアでも日々起こってるわけで、チベット問題を期に人権がもっと話題になっていい。もちろん、国家・民族・超国家とかの語彙のレベルの共通概念なきゃ討論にもならないんだけども。。。
2chネラー、なんだか中国・韓国・ナショナリズムとかを一周して、チベットにソフトランディングした観がありますが、自国と他国という二元論じゃなくてマイノリティとしてのチベットが第三の点として現れたわけで、これは(現実としての)陰謀論にしろ世論操作を、ある意味客観的に考えられるいいチャンスなんだと思います。
投稿情報: 猫屋 | 2008-03-26 09:46