勝手にやってくれ。と言ってしまえばそれでおしまいなんだけど、実にそうとも行かない。なぜならピーポー(people)にして、ピポー(pipeaux/鳥もち=ホラ)な、サルコジの「あっちむいてホイ!」作戦の香りがなんともムンムンするからである。解説しよう。
あらかじめ予告された離婚のクロニロジー
サルコジ様と奥方の“今さらながら”のゴタゴタは、この10日ほどの間、仏ネット・ゴシップ界で盛り上がっていたわけだが、このネタを真正面きっては扱えない(後が怖い、首が飛ぶですネ)、仏大手メディアは沈黙。スイスの新聞Tribune de Geneveが扱ったのをきっかけに、L'Est Républicainが大手としてはこの朝初めてウェブで活字化した。
まだ年少の一人息子と双方の連れ子計4人のサルコ“大家族”のために改築したエリゼ宮に予定された9月の引越しはキャンセル;つまりサルコ御夫妻はいまだ大統領官邸にはお住まいではない。
この夏の米国ニューハンプシャーでの休暇中での、ブッシュ夫妻様との御会食にも、セシリア妃は風邪ひいたとの理由でドタキャン。ダウンタウンでのショッピングにお出かけになった。気持ちは分からないでもないが。
セシリア妃が自ら“妹”と呼ぶ、ますますピーポー化がすすむ仏法務相ダティがメイン・ゲストである長時間日曜午後年寄り向けピーポーTV番組(かつてはセシリア妃の元夫ジャック・マルタンの仕切ってた時間帯であるね)、Vivement Dimanche という、UMP ご用達番組の出演予定を三日前にこれまたドタキャン。
どうも、ジュネーヴのグルメ嗜好なホテルに滞在したり、ロンドンでショッピングしたりなさってたらしい。デゼスペレート・ハウズワイヴスな日々、マリー・アントワネットもなかなか辛い。
看護婦解放の“貢献”に対してブルガリア政府が用意していた勲章授与式も、これまたドタキャン。スピーディ・サルコ大統領は単独で勲章受け取りに行った。プーチンとの公式夕食会にも不在。大統領と一緒に写った写真は7月14日の革命記念日が最後である。
まあ、あれだけ大騒ぎになったニューヨーク駆け落ち劇の後、これまた大騒ぎになった元亭主葬式の後、いまさら仏国の国母役もできまい。仏大手メディアがいくら「きわめて現代的カップル」と持ち上げても、(子連れ再婚)のち別離経験カップルは長持したほうが不思議だろう。
だが。多くのメディアは、離婚記事を用意しつつ、エリゼ大統領宮の公式発表を待っているのだそうだ。それは今週中だろうというのが大方の意見。
だがだが。猫屋的には、この土曜のラグビー・ワールドカップ準決勝でフランスが勝利すれば、発表は延期になるだろうと踏んでいる。なぜなら、仏チーム勝利の影響で、スピーディ・サルコ人気が再上昇すると、サルコ・スピンドクターは踏んでいるはずだからだ。
逆に、フランスチームがまけたら、仏国民の意気はドット沈没、ラグビー・バブルがはじけたところで御離婚大発表じゃないか(人気落ち目タレントがよくやるやつだ)。同時に、それはいつもの、「あっちむいてホイ!」作戦でもある。
以下、現在の仏政府がトイメンしているいくつかの問題を列挙(順不別)してみる。
- 国家赤字。貿易赤字。改革しまくりサルコ路線は、出費がかさむが、リターンは期待できない。行き着く先は、増税であろう。
- ゼネストの悪寒:来週木曜日に予定される、退職法改正反対スト盛り上がりが懸念される。スト法改正もあるからね。なお、同様な法改正を図ったジュペは3週間のゼネストというレジスタンスを食らった。
- スキャンダル1:AEDS;エアバスを作る多国籍公民ミックス事業であるこの企業の首脳陣が、大型エアバス納期の遅れで株価が崩れる直前に、ストックオプションを大量に処分(売ったわけ)、おまけに仏国庫がこの株の一部を購入した。この株価暴落の後、大量解雇が行われたが、経営陣は高い株価で売り抜けており、インサイダー取引として法的制裁は必至と見られている。またこの操作には当時の(サルコジを含む)UMP内閣財務省が絡んでいると疑われている
- スキャンダル2:MEDEF(仏経団連)ナンバー2でもある大物、金属鉱業連盟(UIMM)会長ドニ・ゴーティエ-ソーヴァニヤック/Denis Gautier-Sauvagnac が同機関の金庫に200万ユーロに及ぶ現金を「私有」していると告発された。また同機関のBNP銀行口座からも、2000年から2007年の間に一千万ユーロの現金が引き出されていたことも分かっている。メデフの総会に、歴代仏大統領としては初めてサルコジは参加し、「企業スキャンダルに対する規制を緩和する」と発言。窃盗などの軽犯罪に対しては、犯罪歴があれば即長期の実刑を科すという傾向に加え、企業家の汚職・賄賂には目をツムルのかと批判されている。なお会長は、現金は、社会的取引のためのものと発言しているが、過去に引き出された金額は、自宅購入に使われたらしい。
- 国外からの移民家族呼び寄せにはDNA検査が必要とする移民法にからんで、UMP党内もふくむ反対の声があがり、結局国民議会は同案の大幅書き換えの後、16日に投票の予定可決(後日書き換えました)。問題点は、家族と言うのは血のつながりではなく、社会的つながりであるとする仏共和国憲法の思想に反するわけ。
- ダティ法務相のワン(ウー)マン仏法曹改革に対する批判:アルジェリア移民貧乏子沢山家庭出身が売りで、法務相に任命されたダティだが、実は法曹界で働いた経験は4年のみ。あとは複数仏企業でのコサンルタント職をへてサルコジ・チームに加わっている。すなわち政治職および司法職経験の少ない人物で、ネゴができないらしい。法務省内でも叩き上げテクノクラートが続々辞任している。検事・裁判官までストしそうな雰囲気である。
- 外交面でも、スピーディ・サルコの派手に振舞って内政問題を「アッチムイテホイ化」させるケレンは、隣国政治家たちから嫌われている。なお、サルコチームにはイエスマンはいても、世界情勢をアフォにも分からせるエキスパートがいない。
- アイヨ-マリ内務相は、2008年までにフランスでの監視カメラ数を3倍に増やすと発表した。また、仏警察は、デモやバンリュウ(郊外)監視のため、ドローン(カメラ内臓無人飛行機)を導入のみこみだ。これらの対策が、フランスにおける治安の向上に役立つとは思えないが、サルコ政権支持者の年寄り・小金持ち・極保守系の支持狙いであろう。
- UMP内部、およびフィヨン内閣内でも意見調整がとりにくくなっている。オープンな政治がウリで、社会党系からの人材を多く採用するサルコ作戦は、UMP党内部分裂に行き着きかねない。Etc.etc.etc....
あーあ、まだまだあるですが、きりがない。ブイグ・ラガルデールら大企業家が大株主であるメディアパワーをバックに、大統領職まで上り詰めたサルコジなんですが、コミュニケーション力だけでは一国の政治を統率はできない。TVをつけてもラジオをつけてもサルコジ・オン・パレードなんで、かえって逆効果になっているフシもあります。
付け加えれば、AEDSスキャンダルをはじめに報道したのがル・フィガロなんですねえ。TF1をはじめ多くのメディアを所有するブイグの新聞ですとならんでサルコを支持する飛行機業界の大物ダソーが大株主です(後日訂正)。
なおブイグはサルコの地元であるオー・ド・セーヌ(92)の建築業親分でサルコ夫妻の結婚式では証人(日本風には仲人かね)になった。ちなみに、AEDSの大株主のひとりがマルタン・ラガルデール。パリマッチもラガルデール財団系の雑誌でブイグの競争相手ですが、セシリア妃のニュー・ヨークへの駆け落ち旅行をすっぱ抜いたのがこのパリマッチでありまして、どうもそこら辺から、サル大統領が「兄弟」とまで呼んでいたラガルデールはサルコ組から追い出された、というのが大方の仏権力ウォッチャーの意見であります。
先週の対NZラグビー戦の後、われらがサルコ大統領は、勝利したラガーたちとカルディーフのピット一周すると言い出した模様である。さすがに大統領ボディ・ガードたちが引き止めたんだそう。あーあ。明日のイングランド・仏戦、もちろんフランスチームを応援するけど、サルコの顔は見たくないなあ。やっぱりあの男はこの国には似合わない。
というわけで、仁義なき権力の戦いは続くよ。
追記速報;上の文章書き終わってからググって見たら、ナント、来週水曜日の午前中にたぶんナンテール(92)の裁判所でサルコジ離婚成立の見込みだそうであります。これは、ラ・トリビューン(左系)の記事である。Le divorce de Nicolas Sarkozy et Cecilia annoncé partout/ニコラ・サルコジとセシリアの離婚、あちこちで報道される ←政治・ピーポー 欄てのが笑える。
セシリアサイドから離婚請求準備中のニュースはウェブに流通してたけど、すでに離婚成立となると、だいぶ前から請求が裁判所に出されてたんだろうと推測される。これが本当なら、裁判所の機密保持能力は鉄のごとくであったわけで、なんかなあーー。記事によると公式発表は時間の問題だとか。別のソースでは、セシリアは写真を主体とした雑誌(パリマッチですか?)で大々的に告白する予定って読みますた。
ふむ、サルコジ戦略も限界に来てるのか、どうなのか。しかし、水曜日ってーと、ストの前日でありますねえ。やっぱ、くさい。 仁義なき戦いは続くよ。
15日追記:あとから調べてみたら事実と違う部分があったので訂正しました。あまりにごちゃごちゃしてて、新聞とかブログとか読みきれない。
大型エアバスをめぐるEADS疑惑は、当時の首相であったド・ヴィルパンをさらに叩こうとするサルコジの仕込んだスキャンダルとする説があります。たしかに、UMPとそれを取りまく財界人たちの間で権力闘争やってるわけだ。またスキャンダルその2のUIMMですが、この経団連内でも大型企業(建築、自動車とか)を抱えるこの団体の得体の知れないキャッシュ、実は労組とのネゴでばら撒く裏金だってうわさが流れております。
あと本文には書きませんでしたが、過去のエントリでご紹介の、エマニュエル・トッドが指摘する、フランスの外交ブッシュ政権接近、これは国内ではなかなか新聞のトップにはならないんですが、現在の国際関係マップから見るとかなり微妙。仏国がNATOに復帰、またサルコジはフランスユダヤ系ネオコン派(いるんですよ、これがアレクサンドル・アドラーとか)から支持を受けてるわけで、プロ・イスラエル外交を打ち出す可能性ありです。おまけにパートナーであるはずのドイツやリュクソンブールとの関係はギクシャクしっぱなしだし、ベルギーは現在政府なし状態です。いやはや。
いや~、背景にある現実がいろいろとわかって面白いです!
水曜に成立見込みとは早いですね。5月以来、初めてニュースが楽しみです。(笑)
猫屋さんは今頃パブでラグビーですね! 私はルールなどは全く知りませんが応援だけはしています。
投稿情報: ねむりぐま | 2007-10-13 22:06
猫屋さま、盛り沢山のオヨヨニュース、ありがとうございます。
フランスで、単身の大統領は初めてですよね。フランスらしくないですね。双方、再婚相手も決まっているんでしょうか。続報が楽しみです。
ゼネストの予感と悪寒のしゃれは爆笑です。監視カメラのメーカー名が知りたいものです。フランス製なのでしょうか?
フーコをぐぐりましたが、説明を読んでいるうちにPC上で爆睡してしまいました。私に哲学は無理みたいです。
フランスでもあっち向いてホイ作戦は通用するのでしょうか。猫屋さまの今後の予想も楽しみです。
英の郵便局でも2500の田舎の郵便局がつぶされるため、ストを何度かしているそうですね。
投稿情報: ラム | 2007-10-14 00:39
フランス対イングランド戦録画してたんですが、最後のところで見ちゃいました。ウィルキンソンが逆点するところでした。前回のワールドカップはちゃんと放送があったと記憶していますが、今回一般大衆向け地上波は放送端折りまくりです。準々決勝、イングランド対オーストラリアは有りで、フランス対ニュージーランドは無し。準決勝南アフリカ対アルゼンチンも無しです。日本じゃマイナーなスポーツしか観ないししない家族としては寂しいことしきり。息子がHAKAの現場実況音を携帯の着信にして目覚まし代わりに使っています。でもニュージーランドどこにいいたの?
フランスも大きな事件はなくとも色々出てきますね。私のヒットはコミッションアタリのpropositionsです。(一生懸命読んだ)あ…?う…?でした。委員の方々みんなまじめで頭良い方なんでしょうね。
投稿情報: みみみ | 2007-10-14 10:33
くまちゃん、
負けてしまったですよお。こーゆー時にこそ使うべし、便利な言葉がございます:C'est la vie.
らむちゃん、
大統領職在籍中離婚は、過去にはギリシャのパパランドウしかいないそうで、これはエリゼ宮がパニクって調べた結果だそうです。ちなみに小泉氏の離婚は首相になるだいぶ前の話と記憶いたします。
みみみ氏、
ラグビーのハーフタイムは10分しかないのでスポンサーがつきにくいんだそうです(サッカーは15分)。おまけに時差がありますからねえ。4年後はニュージーランドで開催ですから、日本ではいい時間に放映されるはずで、、欧州組みにはつらそうです。アタリのコミッションも、他にもコミッションとかエコロ・グルネルとか盛りだくさんなんですが、結局は対立勢力の切り崩し作戦だと思う。税金の無駄だよなあ。まあ、サルコジ組に有能なブレインはいないんだけどもねえ(弁護士と広告業ばっか)。困ったもんであります。
あと付け加えれば、現在のフランス国には大問題がありすぎで、フォーカスしてる暇がないんですよ。まあ、同時多発改革というサルコジ戦略なんだけどね。ディベイトが深化する前に別問題を提出、そんですぐ後に第三の問題を提出。レジスタンスができにくいんでございますね。でも今晩のアンチ・AND法集会ではバイルーやイザベル・アジャーニまで登場してレジスタンスを呼びかけました。バムバロウ。
投稿情報: 猫屋 | 2007-10-15 01:21
猫屋さま 小泉劇場政治を彷彿とさせる同時多発改悪攻撃ですね。フランス人はこういうメディアから攻略される戦略に慣れているんでしょうか?試合と一緒で、対抗側も相手のパターンが読めてくるのではないかと思いますが。同時多発レジスタンスは結成できないんでしょうか?日本では芸能人ネタとか事故とかであっち向いてホイの間に国会ステルス通過が多発したそうですが、フランスではこのやり方が通用しないのでは。フランスのENA他ブレイン達は、どんな対策を練っているんでしょう?大統領の在職中(しかも就任間もない)の離婚のダメージというのは、国外よりむしろ国内の申支持派にインパクトがあるのかも知れませんね。だみだ、こりゃ、と。栗きんとん氏のスキャンダルがにぎやかだった頃、フランスは冷静に、これはリンチだと評しましたが、世界でも珍しい現役離婚が成立すると、どんな評価になるのやら。蜂の一刺しで辞任した宇野首相とちょっと似てるかしら?
投稿情報: ラム | 2007-10-15 12:32