サルコジのG8での映像が、ベルギーTVニュースで放映され、インターネットで世界中に伝播したのに仏TV界(ケーブルのBFMTVでは流していたらしい)ではシロンス・ラジオ(沈黙のこと)。と、思ったら金曜カナル・プリュスのザッピングでコメントなし放映。今夜はロラン・ルキエのバラエティ・トーク・ショーでも紹介してたわけで、ニュース報道では無視されたけどサルコ・ヴィデオはお笑い系ネタとして市民権、いや映像権を獲得しつつあるもようであります。ま、ブッシュと同じか。
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ネブロでも何回か映像を引用した、フランス5の Arrêt sur image という、12年前から続いているTV批評番組があるんですが、どうもこの番組が6月17日の放映をもって終了する可能性が高いようだ。猫屋はこれが好きで、暇な日曜には、まず同チャンネルのカルト・ポスタル(グルメ番組)のあと12時半に始まるアレ・シュール・イマージを見る。司会は以前ル・モンド、現在はリベラシオンでTV批評をしているダニエル・シュナイダーマン。個人ブログも持ってますねこの人。だいぶ前の、アタクシはまだこの番組の存在を知らなかったころですが、当時はまだ生きてた社会学者ブルディーをめぐってシュナイダーマンがかなりキツイ批判をした、と言う逸話は今でも一種の“伝説”として語られています。
例年であれば、すでに秋の番組プログラム契約更新があっていいはずなのに、フランス・テレヴィジョン社(国営)は当番組関係者にまだ何にも言っていない。同局のいくつかの政治系番組放映がが終了されそうだ。これは上部からの政治的配慮(はっきりいえばプレッシャー)であろう、というのがあちこちでささやかれている。
同時に、多数個人ジャーナリストブロガーがシュナイダーマン支持、つまり番組ASIの継続を訴えています。理由は、批判的ジャーナリズムのないところに民主主義は存在しない、というもの。で、仏ブログを回ってたらこんなのにぶつかった。。どうやらこの日曜(総選挙第二回投票日)の放映ではあの、サルコジG8映像関連もまな板に載せる気配であります。番組サイト(放映は、ここでも見ることができるはず)。
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しかし、私的利害関係(税金とか滞在許可証とか国家赤字とか生活苦)を抜きに語れば、ニコラ・サルコジというのは、極めて興味深い(簡単に言えばヘンな)人間である。大物であるとは思わない。たとえばブレアが、ブッシュについてイラクで戦争を始める前後、気を入れて英国・米国のプレスやネットを読み込んでたわけなんだが、結局ブレアの動機というのはわからなかった。ブレアの言葉をあつかう、それから演技の才能も、その野心もある程度理解できたけど、本当の動機は今でもわからない。そのわからなさに似たものをニコラ・サルコジにも感じるわけなんですね。人間としての“大きさ”は別の話としても。。。
ってなわけで、ネットをうろうろしてたら、読んでなかった精神分析医のインタヴュー記事(リベ)にたどり着いた。なかなか面白い。
Pour le psychanalyste Ali Magoudi, la personnalité de Nicolas Sarkozy est bâtie sur la transgression et l'adaptation à la rupture. En écho au départ de son père alors qu'il était enfant.
《彼は断絶と戯れるが、実はそれを恐れている》
精神分析医アリ・マグディにとって、ニコラ・サルコジの人格は違犯と断絶への適応という基盤の上に築かれている。子供時代に父親が出て行ったことの結果だ。
(以上適当訳)
まあ、精神分析医なのでどうしてもオイディプスに行くんですが、さもありなん、とうなずく箇所も多い。ヌイイ市庁で行われたタレントのジャック・マルタンとセシリア(妊娠中)の結婚式に、サルコは市長として市民結婚を宣言するんですが、そのときセシリアに一目ぼれ。当時サルコも既婚だったけど、セシリアは結局ふたり目の子供が生まれてから、(子供を両手に抱えて)サルコの元に走るんですね。この話を持ってきて、サルコジは《母親》一般に対する(もっとクダケテ言えば不倫の母に対する)、深い情熱を持ってる、、とか面白い論理展開がある(そういえばサルコの一時的愛人だったフィガロの記者も既婚・子供がふたりでした。関係ないけど、子持既婚女性をたぶらして、同棲しては結婚迫られると逃げる、、という友人が一人おりますが、あいつも両親の離婚ではかなり苦労してた、、)。
あと、28歳で結婚するまでサルコジは母親と一緒に住んでいたそうで、家賃のベラボウに上がった今は普通の話でも、20年前は18歳になったら屋根裏部屋でも借りて独立があたりまえだったわけで、こりゃ変わってるわ。。。
サルコジはユダヤ系仏政治家ジョルジュ・マンデルの伝記執筆にも関わってるんですが、この政治家はヴィシー政権に告発され収容所に送られ、1944年にはフランスに戻ってくるんだけど、結局はフォンテンブロウの森で民兵に暗殺されている。ジョン・F・ケネディといい、マンデルといい、サルコジにとってのヒーローはいい死に方をしていませんねえ。暗いです。
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と、いろいろ調べてみたんだけど、今日セーヌ沿いで一緒にお茶したK夫人に「もう日本の新聞社かなんかに企画書だして、ネットヴィデオで一週間に一本ぐらいのサルコジ追っかけ評論家になるってのだめかね、、、ステファン・ベルヌ(スター評論家)みたいに。」と聞いてみたわけです。そしたらK夫人「そんなの危なすぎる。絶対袋叩きに合うよ。」 。。。。まあそうだ、サルコ組おそるべし。
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今日のおまけです。サルコの英語映像、見つけますた。
今日のカナル プリュスのザッピングにも、酔っぱらいサルコの映像がでていて『フランスでは、なぜか1回もテレビで報道されなかった。』とコメントされていたけど、あらためてテレビで見るとほんとひどいです。報道の自由よカムバック!! イン フランス!
投稿情報: k | 2007-06-17 15:56
こんなのあります。
http://www.delation-gouv.fr/
投稿情報: 竹下節子 | 2007-06-17 15:59
こんにちは。
選挙以来、フランスのメディアの状況悪化に激々に落ち込んで、新聞にさえも目を通さなくなっておりました。肝心なことは報道されない。それは日本も同じですが、それでもフランスに希望を持つ続けるのは、スイスや、ベルギーカナダなどの、他のフランス語圏メディアの存在です。外国語苦手のフランス人でも、その気になれば情報収集できるわけで、これが日本だと、外国語できない人は完全にアウトですもんね。
海外のメディアが取り上げたことをフランス人が気がつけば、さすがにメディアも隠しっぱなしというわけには行きません。(そういえば、あのクリアストリームも、フランスのメディアが取り上げたのは、海外メディアが取り上げた2,3日後でしたね。)。まさか共産主義国家の如く、インターネットのアクセス禁止までするわけにも行かないでしょうし。
それに、あんまりこんなことが続くと、さすがに、右のフランス人でも黙ってはいないでしょう。完全な民主主義国家の危機ですもの。今はまだ、気がついていない人が多いですよね。最近も、アジア通のフランス人が私に、日本の長崎市長襲撃事件の話をしたとき、横にいたフランス人の友人、「全然知らなかったー。だってテレビじゃ言ってなかったもの。。。(本来、時間制約のあるテレビが全てを伝えられるはずがないことは少し考えれば分かると思うのですが)」と言ったので、「ほらね、テレビは全部を伝えないんだよ」と、必死に啓蒙しておきましたが、効果あるかあ。。。
投稿情報: Amina | 2007-06-17 16:54
猫屋さま、不思議ですねえ。申故事氏の英語スピーチですが、何故だかブッシュ、小泉トリオ、三つ子のように似ているような気がします。
何が似ているのかというと、笑い方でしょうか。あと雰囲気とか。
あれだけ選挙にお金をかけたのだから、当選後の公的スピーチの練習コーチもいるはずですよね?
投稿情報: 悩めるlamb | 2007-06-19 00:34
節子さま、
これはスゴイ。五人組ですか。個人サイトでやってるとこがあるってのは数日前ウェブで読みましたが、政府がやっちゃう。。絶句。しかし際限のない男だ。あれが単なる横丁のコアンセ醜男だったら同情可能でしょうが、ありゃ迷惑のキワミとしか言いようはないわけで、、、。もちっと調べてみます。
Amina氏、
今回の選挙で流れが変わると思います。我々でさえ、やっと息がつける、と安堵してるぐらいだから、ジャーナリストにすれば、全員ではないでしょうが、仕事がやりやすい方向に持っていきたいと思うはずだ。あくまで、ここには(少なくとも国民の1/2は)革命・レジスタンス気概が残ってるはずだ。感情に訴える政治は、感情が冷めた時点での大衆の反動も激しくなる。ミッテランが“laisser le temps au temps”といったのは正しいです。(ミッテランが正しかったかどうかは別)。気長にやりませう。
ラムちゃん、
対セゴ討論のときはかなりボイス・トレーニングの成果あったんだけど、この舞い上がり方はひどい。なお、英語ヴィデオはかなり前のみたい。しかしあのチック(癖、貧乏ゆすり、やたら首を上下左右にまわす、ヘンな笑い)、おまけに仏語の変わったアクセントも語彙も、ぜんぜん17区・ヌイイじゃなくて不思議です。
投稿情報: 猫屋 | 2007-06-19 02:59