月日は百代の過客にして、行かふ年も又旅人也。舟の上に生涯をうかべ馬の口とらえて老をむかふる物は、日々旅にして、旅を栖とす。古人も多く旅に死せるあり。予もいづれの年よりか、片雲の風にさそはれて、漂泊の思ひやまず、海浜にさすらへ、去年の秋江上の破屋に蜘の古巣をはらひて、やゝ年も暮、春立る霞の空に、白川の関こえんと、そヾろ神の物につきて心をくるはせ、道祖神のまねきにあひて取もの手につかず、もゝ引の破をつヾり、笠の緒付かえて、三里に灸すゆるより、松島の月先心にかゝりて、住る方は人に譲り、杉風が別墅に移るに、
草の戸も住替る代ぞひなの家
(くさのとも すみかわるよぞ ひなのいえ) 面八句を庵の柱に懸置。
と、突然松尾芭蕉です。
今日の午後は旅に出たい気持ちを抑え抑え、ネットで仏像画像をさがしたり、なにやら秋だね、なアタクシがたどり着いたのは結局芭蕉の言葉でありました。
そして、今なんとも行って見たいのは浄瑠璃寺の九体阿弥陀如来像(平安後期)と、こちらは秘仏なんでよっぽど綿密に日本行き作戦計画を立てんとお目にかかるのは無理と思われる、(1/1~15、3/21~5/20、10/1~11/30、公開だそうですの)吉祥天女像(鎌倉)。
このお寺は、京都府相楽郡加茂町大字西小、という聞いただけでうれしくなるような所にあるらしい。サマルカンドというところにも行きたいと昔から思ってるんですがこっちの現実化は無理かと思われます。ならば絶対、浄瑠璃寺に行こう。次回の日本訪問リストに浄瑠璃寺を入れよう。
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今月末に予定していたベルギーのアントワーペンとブルージュへの旅も延期になってしまって、絵心というか“美しいものが見たい”気分が盛り上がっている。
さて、プラセッボと言っては申し訳ないが、リュクセンブール美術館でやってるティツィアーノ展にでも出かけようか。
自己弁護:イタリア絵画はやはり現地で見るのが一番よいと思います。いや、これはイタリア絵画に限らない。たとえば、法隆寺の百済観音をルーブルで見たけどあまり関心しなかった。というのも大昔、大雨の2月のほぼ無人の法隆寺境内で、ひとり黙って見た百済観音の、像とそのまわりの、“慈悲”というより他にない空間のありように圧倒された経験があるからです(若い猫屋の19歳の感性と眼で見たという、情状酌量範囲内ではありますが)。てなわけで、ティティアーノはベニスで見たい(と言ってみただけですが)。
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芭蕉が鬼門(まちゃがえました)鬼籍 にはいったのは50歳。奥の細道は、俳聖46歳の時のもの。なお芭蕉最後の句は言うまでもない、
旅に病で夢は枯野をかけ廻る
猫屋さん、浄瑠璃寺に行かれる時はぜひ岩船寺とセットで
http://www.ne.jp/asahi/yama/hon/kyugio/gara42.htm
紅葉の季節に山道を歩いていくのはベタですが、お薦めです。
このありがたい秘仏よりも行き帰りの方が印象に残っているという不信心者ですが。
岩船寺から人里に下ってってバスを待ってる間のロードムービー気分も懐かしい。クリントンがブッシュに勝った日のことでした(遠い目)。
投稿情報: imasaru | 2006-10-17 12:31
おお、最近は秘境化してる猫屋庵にようこそ、imasaru さん。
この夏は期せずして長谷寺と室生寺に(これまたセットで)車で連れて行っていただいたわけですけれど、奈良・平安のお寺は(伊勢もそうですが)まわりの風景と見事にマッチングしておりますねえ。まあ、もともと風水とか山とかの“カミ”っぽさで選ばれたんだろうから不思議はないのかもしれません。
しかし(未来を見る遠い眼)、次に帰れるのは何時のことやら。。。ああ温泉も。
投稿情報: 猫屋 | 2006-10-17 13:04
猫屋さんは、陸続きで移動できるのが羨ましいです。「どこでもドア」があったらなぁ。
徐々に熱帯化してきている日本は、本日も半袖でも大丈夫なくらい。銀杏並木の銀杏は落ちているものの、まだ青々!
季節感に乏しくなってきているので、衣替えとか室礼とか、四季折々の風情が薄れてきているようです。マーケットの食材もね。でも先週の日曜日は栗の皮むきに半日かかって栗ご飯をつくりました。
今の季節そちらで美味しいものってなんですか?
投稿情報: Sita | 2006-10-19 07:07
そう、原則的には“どこでも歩いていける”はずなんですよね。芭蕉も“忍者歩き”でかなり歩いたんだけれど、昨今は飛行機とかTGVとかがあって、経済原則が買ってるから貧乏人は結局ドア閉めて引き込んでいたり、、簡単にへたれる(笑) 逆に(何が逆なんだかよく分からないけど、まあ)テロの中の人とかはいろいろ動いてるカンジですが、、オイルドラーというのがあるからなあ、、、
不思議な、夏っぽい秋の始まりだったのでしたが、風が冷たくなりました。鹿が鳴いてそうな雰囲気です。
栗ひろいにもいかなきゃ。タダ栗は小さいし、皮剥きが手ごわいので、フライパンでいります。おいしいのは、梨・葡萄・各種キノコ。あとジビエ(ウズラ・しか・イノシシ、、)、でもこれは仏教徒のアタクシには味が濃すぎてかなわないんですがね。あ、こっちではボジョレー・ヌーボーは(大方の)酒好きはスルーです。あれは輸出用なのね。
投稿情報: 猫屋 | 2006-10-19 09:26
あぁ~、いいですねぇ。芭蕉。 最初の一文しか知らなかったのですが、趣がありますね、やはり。
ティツィアーノ展いいなぁ。行きたい。。パリ! パリは街も美しいし、いろんな美しいものの展示も多くて、美しいもの観たいときはパリって感じですけど。。。(指くわえる状態)
確かに現地で見るのが一番というのも納得です。
投稿情報: りよんくま | 2006-10-19 14:13
芭蕉はもちろんだけど、日本語っていいですよねえ。
ティティアーノ、見てきました。エントリーに書くつもり。たしか一月末ぐらいまでやってるから見に来ればいいのに。TGVならすぐだし。
確かに展覧会とか図書館とか高級ブティックとか中央集権でパリのほうがいろいろあるけど、食べるもの・旅行行く先、あと天候ではリヨンのほうが圧倒的にいいと思いますヨン。山も海もイタリア・スペインだってそばだしさ。
投稿情報: 猫屋 | 2006-10-20 00:18