今日のパリは本当に気持ちのよい天候の一日でした。レテ・アンディアンっていうのか、これ。陽は照ってるけど暑くなく、ランニングに素足でコンバースでも寒くなく、サングラスをかけて乾いた空気の中をぶらぶら歩くと、周りの人々もみんなのんびりしてる。ビル改築現場の兄ちゃんたちまでタラタラにこやかに労働してるし、ほんと気分がいい。
友人と中華で昼食。それからギャラリー・ラファイエットにて、今度は日本で頼まれた買い物の下見をした。そのあと、年下の友人に贈る“日本文学書”をフナックに買いに行く。友人は村上春樹のねじ巻き鳥を読み終わったばかりだそう。カフカのほうを贈ろうかと思ったけどまだ文庫にはなってない、ってんで迷っているとそばでフナック従業員のお兄さん2人がニッポン・ブンガクについて語っている。そんなわけで「すんませーん。日本の本で若い人に贈るには何がいいでしょうかあ」と聞いてみた。
答えてくれたのは、25歳ぐらいかな、無精ひげにキレイなブルーの澄んだ目の男の子。日本に住んでたんだって、日本語で答えてくれた。日本語とフランス語ちゃんぽんで、最近の出版傾向について教えてもらう。彼が好きな作家は以前の春樹と小川洋子。で一番大物は夏目漱石だって。うれしいね、こりゃ。
途中で60ぐらいの奥様が、「有吉佐和子の小説はどれを選んだらいいのかしら。好きな作家は井上靖なんだけど。」と会話に入ってきたりして、井上靖が書いた母親に関する小説には実に感激したと貴重な読書指南を受けた(その前は何時だっけ。もっと年配のご婦人と道端でたまたま話をしたら「八甲田山」を絶対読めと勧められたのは、たしかこの夏のはじめだった)。
高校生だったらこれ絶対受ける、と店員さんが言ったのはなんとバトル・ロワイアルだったんだが、あれはどこかでレジュメを読んであきれてたし、新刊=高いなんで不採用。結局買ったのは、村上龍のコインロッカー・ベイビーズと井上靖の(アタクシ読んだことない)風林火山、合計約25ユーロ。ちょいと変なカップリングだけど、なにしろこの夏休みに、孫子の兵法と宮本武蔵の五輪の書とねじ巻き鳥を読み終わったというアジアン武オタなのだから、武田信玄でいいだろう。(バトルの方が受けるかも、だけんどもありゃいちんちで読み終わりそうだし。)
そのお兄ちゃんに、店の本棚には見つからなかった多和田葉子の小説について話したら、ああドイツ語で書いてる人でしょと言ってた。読め読めと勧める。このところ面白い小説ある?と聞いたら、これと言って手渡してくれたのが、韓国のコントンポラン作家による家族サーガもの。10分ぐらいかけてかなりタフなあらすじを教えてくれたんだけど、残念ながらタイトルは忘れてしまった。いずれにしろ、今は自分用本代がないので、あのお兄ちゃんがいない時にまた来て立ち読みしてみようと思う。
こんにちは。
フランスでの日本文学の紹介、日本で売れたものを翻訳しよう、という流れに近年変わりましたね。
こちらの書店の新刊コーナーを見ていてそうじゃないかと思ってましたが、そういう意図で翻訳してい
る人がやはりいるようです(そうインタビューで本人が言っていたから本当にそうなのでしょう)。
マーケット重視でいくなら今までのように研究者が自分の気に入った作家の作品をコツコツ
訳してくれていた方がよかったかな、なんて私は思いますがそうもいかないご時勢なのでしょうか・・・。
紹介者の好みに左右されないから公平とも言えるかもしれないけど、別の根拠が売れ行き
だというのも寂しいものではあります。
ではお邪魔しました。
投稿情報: pol | 2006-09-10 12:43
おお、こんにちは、pol 氏。
しかしまあ、日本もの全体で、紹介され読まれる本数は増えていると思う。これ自体は悪いことじゃないだろう。
10年前にとか、ブンガクの話題といえばミシマとカワバタばかりだったわけで。
あとは大体日本での書店の有様が大体アレなんでなんとも、、と思います。アベなんとかとか小林某とか、あとはなんとかの品格とかがベスト・セラーで、平台でビカビカ光ってました。
投稿情報: 猫屋 | 2006-09-11 00:39
そうですね。あとは谷崎とか。
私は旅先でかならず書店を何件か見て周るんですが(日本以外ではヨーロッパ内しか旅行したことがないんですけど)、
ずっと尤もらしい品揃えですね、大きな駅の中の書店でさえ。
友人の物書き(日本人)はほとんど新刊書店に足を運ばなくなり、もっぱら古本屋に行くと言っていました。その本が
いい本が見つかると。それはそうでしょう。地方はとくにそうじゃないでしょうか。
では失礼しました。
投稿情報: pol | 2006-09-11 10:45
いやいや、よろしかったらもっとチャチャ入れてください、pol 氏。本当に日本に帰る気がうせてますが、日本語はね。これは忘れられない。
村上春樹の若者向けの本、「若い読者のための短編小説案内」というのはよかったです。猫屋より一世代以上うえの作家たちを扱っている。ブック・オフでは見つからないような「忘れられた」戦争経験のある作家を扱っています。こういうやり方もあるのだな、と思いました。
世代と世代の間になにがあるのかは分からないけれど、つなげるべきものはあるでしょう。何らかの理由でそれをやらなかった人々がいた、これも事実なのですよね。とか911の夜に思っていますよ。ではまた、いつか。
投稿情報: 猫屋 | 2006-09-11 22:51