日刊紙リベラションの名物CEOにして名物編集長、セルジュ・ジュリ、63歳がリベラシオンを去ることになりました。
1973年にサルトルなどの知識人たちとともにジュリが立ち上げたこのリベラシオン=開放、と言う名の新聞は戦後フランスの左翼運動(非共産党)の歴史自体でもあった。
けれど、読者層の年齢上昇、ネット・ジャーナリズムとフリー・ペーパー(20 minuts, Metro)出現と若年層の紙版新聞離れ、広告業界不振、そして政治的妥協を受け入れないリベ体質などが原因となって、リベ紙の経営不振は10年ほど前から誰の眼にも明らかだった。
次の記事はル・モンド紙による長いセルジュ・ジュリに対するオマージュ。また、週刊誌ヌーヴェル・オプス紙のオマージュ、記事 Nos années July はここです。
リベといえばジュリ、ジュリといえばリベと言われるほどのこの男が“自分の”新聞を去ることになった原因は、赤字の新聞救済を救うため大株主となったエドワール・ド・ロチルドが、ジュリとの意見の相違から、ジュリのリタイアを要求したため。
次の編集長には、ル・モンド編集部をやめたプレネルが就任ではないかと言う噂が流れているが、今のところ本人が否定している。
ヨーロッパ・エキスプレス(FR3の政治討論番組)でのクールな論評でも知られるこの骨太ジャーナリスト、元マオイストのセイルジュ・ジュリには売り上げを目的とした編集路線変更が受け入れられないのだろう。
インサイダーからのまた聞きでは、昨日今日のリベ編集部は大騒動パニック状態だったそうだ。元イラク人質ジャーナリスト、フロランス・オブナも会議中ほぼ怒鳴りっぱなしだったとか。たしかに、彼女と通訳フセイの開放に当たってはセルジュ・ジュリの努力が大きかったことは事実だから、ジャーナリストたちの怒りと絶望は理解できる。
フランスからリベが無くなったら、あるいは自由の無いリベのフランスはがどんな風になっていくのか。時代の変容はこんな出来事の積み重ねで起こっていく。
関連記事
Serge July prêt à s'effacer face à l'actionnaire de "Libération"
セルジュ・ジュリ“リベラシオン”株主を前に消える覚悟 (ル・モンド、6月14日 )
Ce qui se passe à «Libération»
“リベラシオン”で起きていること(リベ、6月14日)
Communiqué de la société des rédacteurs de « Libération »
“リベラシオン”編集組織のコミュニケ(リベ、6月13日)
こんにちは。
リベラシオン、ほんとうに売れてなかったんですね。街で手にしている人を見かける機会も少なくって、かつ読者の年齢層も高いというかあの世代の人たちだという印象を持っていたんですが・・・。
ネットで新聞が読めるようになったのは便利なことですが(自分が住んでいない国の新聞が読めるので)、これだけ経営が圧迫されているところが多いのを見ると考え物ですね。
一応自分ではいくつかネットの有料サービスに加入して(紙は整理整頓が面倒で)、小額ですがお金を落とすようにしています。
リベは個人的にはあんまり好きじゃないんですがどう変化していくかある程度予測がつくだけに、やっぱりショックですね。
投稿情報: pol | 2006-06-16 13:45
どうも、pol さんお久しぶりです。
リベラシオン、本当に売れてない。あれは2000年だったかウェブマスター講座ってのがあってそこでリベの記者が講師としてきてた。あの当時でも、相変わらずスタティックなウェブ版から抜け出せないとか、それでも有料化はどうしても避けたいんだ、、とかって話をしてた。もちろん資金難の話も。以降、ジャーナリストを含めた解雇も行い、結果海外特派員の数も減って、でもセルジュ・ジュリは踏ん張ったんだが、、。
私自身も、ル・モンドは不定期的に購入、オプスは宅配頼んで(安くつく)、時々カナールはタイトル見て買うわけだけど、リベは休暇中とか特別な理由がないと買わない。リベ定期購読してるのは廻りで見ても、45歳ぐらいから60代後半の年代だ。おまけにどうも、ユマも危ないらしいです。新聞がフランス世論の棲み分けつくりにもなってたんだけれども、これもポスト冷戦の地すべり現象でしょう。キャピタリズムによる地中での侵食がこんなところでも地表に出てきてるんだと思います。
ル・モンドに関する批判は多いし、批判する価値はもちろんあるんだけれど、プレネルがいなくなって“中道化”路線をとったコロンバニの舵取りがどこに向かうのかってのが、ある意味これからのフランスの動きに大きく関係してくると思います。クーリエやテレラマをブーリミックに買収し続けたのも、マードックやドイツ系あるいは大手出版系資本に吸収されることを避けるためだ。あと20minutsもル・モンドと同じ印刷所ですられていたりする。
そんなこんなで隠れたペーパーメディア戦なんだけれど、カナール・アンシェネ、売り上げ枚数は存じ上げないが大した新聞です。あれは広告なしですからねえ。
また新聞リベはわたしも好きではないが、セルジュ・ジュリにはリベを去っても別のところで活躍して欲しいと思う。大統領選には遅すぎるけど、政治に飛び込んでもいいんじゃないか、とも。これは現在ネットにはつながってない生活をしているらしいfenestrae氏の意見も聞いてみたいもんです。
投稿情報: 猫屋 | 2006-06-17 01:01
こんにちは。お久しぶりです。
ユマニテまで大変なんですね。こういう時経営の合理化をはかれ、とかその内実を考えずに安易に言わないところがこの国の見識のあるところだなー、と。
情報を共有し議論していく、っていうのが民主主義の根幹を成しているという認識がしっかりあるんですよね。でも、この変化は止められないでしょうね。やっぱり無料って魅力的なので・・・。
カナールは持っていたり読んでいたりする人をほんとによく見かけます。若い人からお年寄りまで。広告無し、ってやっぱりすごい。
私はル・モンドの過去記事サービスをよく利用しているんですが、例えばある人物について長い年月をかけて評価が相当変わっている場合があって、ル・モンドが真ん中に徐々に寄ってきたことを実感することもしばしば。それはたぶんリベも同じでしょう。
今日はそうでもないけど、暑くてかないませんね。ではよいバカンスを。
投稿情報: pol | 2006-06-21 13:51
そうですね。もうこちらに長いのですが(この夏で22年だ)、来た頃の友人達(大学・グランゼコル生)はほぼ100パーセント社会党支持だった。彼らのうちの何人かは今は大会社の管理職だったり政治家、あるいは起業したりと今では社会の中枢にいるわけだけれど、今の政治的傾向はさまざまです。武器商人になったのもいるな。
ただこの社会は、やってくる世代をどういった媒体を通して“政治化”するんだろうか。新世代は旧世代に比べてよりクールでメティスでバイセクシャルなわけです。彼らの持っている“カルチャー”はもっとサブカル的にグローバルなものになるのか、あるいは逆にローカルな方向に行くのか。
たぶんカナール的なごった煮批判精神ってのは残っていくと思います。
投稿情報: 猫屋 | 2006-06-22 01:30