今日予定されていたアンチCPE(初雇用契約新法)ムーヴメント学生版、パリはもちろんですが全国の都市でかなりな数の参加者があったようです。全国の参加者数は警察発表で24万7千5百人、学生主催者側発表は50万(FIDL)という数字を出している。
パリではプラスディタリーから出発したデモ(マニッフ)の参加者数が警察発表が3万3千(主催者発表12万人)とかなりなものになって、途中のセーブル・バビロンでは横から入り込んだと見られる“壊しや/casseurs”がキオスクに火をつけたり、近隣の公園から集めた石を機動隊に投げ、催涙ガスボンベを浴びせられていた。ソルボンヌ近くでもまた機動隊との衝突があった模様。
なお、地方都市ではほぼ穏やかに一日は終わったと報道されている。南の方では気候もすでに春めいて、テレビで見た映像では雰囲気はカーニバルとかテクノ・パレードにちかい。陽はさしていてもまだまだ寒いパリとはちょっと感じがちがってのんびりしてた様子だ。
大学は、もうだいぶ前からストに入っていて現在講義は再開していたり、逆にストに入る決議したところもあるんで、それぞれの大学の様子は違うんでしょうが、数としては84大学のうち64がこの木曜にスト(UNEF)と公表、教育省は21校が完全封鎖で37校が多かれ少なかれ講義に混乱があると発表しています。
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金曜日に行われたCSA調査ではフランス国民の68%はCPE撤回を望み、同様に63%が今回の学生ムーヴメントを支持しているそうである。記事:トリビュヌ オプス
週末土曜には各労組などと学生・高校生が合流しての全国での運動が予定されていいて、今日の時点では『CPEを改良する可能性もある』と言い始めたド・ヴィルパン首相が、どういった形で“社会”あるいは“青年層”との対話とそこからの結果を出してくるのか、これは昨年のバンリュウ暴動の結果として、政府がはっきりした形での政策を出さないままになっていることも含め、様子を見守りたいところ。
18861986年の大学改正法をめぐったデモで、一大学生が警官から受けた打撲で死亡している。その当時の首相はシラク。この不幸な出来事の後、政府は該当法を撤回したいきさつがある。以来、歴代の右派・左派両政権とも教育法をめぐる大幅な改革案を現実化できなかった。
今回の雇用法は教育には関連してはいないが、26歳以下の雇用に関する法。現在、大学卒業後も安定した職に就けるものの率は卒業者数の約半分にしか過ぎず、あとは極めて低額給与のあるいは無給会社内研修、ファーストフードなどでの終学歴と関連のない低収入職、観光地などでの季節短期労働、派遣職等と失業を繰り返す青年層が多い。
また、近年顕著な消費・生産動向の流動化に伴って、たとえばコンピューター・プログラマーを目指して大学を終えても、卒業時点ではすでに雇用は枯渇、あるいは体育や音楽・美術教師になるつもりが、中学・高校での体育や音楽のカリキュラムが大幅に削られ資格はとったがポストがない、、といったような話をよく聞く。
隣国ドイツでは、救急医が給与引き上げと労働条件改善を要求してスト中の様子。フランスでも、8年から10年の長い勉学期間をクリアしても、医療機関の多くが国立系(あるいは国家援助を受けた私立)であるフランス・ドイツでの医師の初任給は高いものではない。かといって、イギリスやスイスでのように医療の大幅民営化を計れば、医療自体の公共サービス性はしだいに失われ、国民の二分化、つまり共和性自体の基盤が失われた豊かなものと貧しいものの二分化に向かうことになるわけだ。
来年の大統領選を狙うサルコジ内務大臣は、教育の民間化を進めたいとしている。今回のCPEをめぐる動きは、若年雇用という枠を越えて、これからのフランスの方向性を決める政府-国民の関係テストといった見方もできるわけだ。(なおサルコジ氏ひきいるUMPにはまたしても、党加入者がどんと増えているとか)
今回の動きの中には、もちろん極右の反デモ派デモがあったり、これまた“平和主義者”が白い花を掲げた平和デモがあったり、はたまたアナーキストかと思われるソルボンヌに黒ペンキ派も、ネットで講義をオーガナイズするMBA生もいるようである。
階段教室で議論し、声をからして表決を取り、うれしそうにデモする(祭)若い連中の姿をテレビで見ていると、ライシテ(非宗教性)にしても、学生・高校生の運動に対する大人の寛容にしても、フランス人の心的基盤はやはり“革命”であるのか、と今一度考えた春の宵、でありました。
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なお、ラジオ・テレビ・新聞ネット版での見聞きが元のこのエントリーですので、誤報もあるかと思われ、、気がつき次第訂正します。
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CPE関連ル・モンド社説
DEJA VU デジャヴュ(3月15日付け)
Jeunesse en Colère 怒る青春(3月6日付け)
Le Pari de l'emploi 雇用という賭け(1月16日付け)
リベによるパリでのデモ風景ルポ、教職者、高校生や郊外からの参加も多かったようですが、セーブル・バビロンでの衝突後放水車も出たようだ。テレビニュースの伝えた内容とはズレがあるように思えるのは、バンリュウ騒動でメディアが煽動した結果になった、それを踏まえた映像報道かもしれない。
ル・モンドの拾ったパリ参加者たちの声、インタヴュー(写真と音声、ポルトフォリオ)
行進本体での雰囲気が分かる。
誤報めっけ >1886年の大学改正法
投稿情報: fenestrae | 2006-03-17 01:14
あれ、デバケって86年じゃなかったけえ。これから調べて直します。
サンミッシェルに下宿してた年のはずだが、、。
投稿情報: 猫屋 | 2006-03-17 01:20
86はあってた。でも19世紀じゃなかったですね、サンミッシェルに猫屋が住んでたのは。
数字と固有名詞に弱いんで、通訳になれない→猫屋虎八
投稿情報: 猫屋 | 2006-03-17 01:24
こんにちは猫屋さん。はじめまして。かなり以前からblogを拝読させて頂いていたのですが、初めてコメントを載せさせて頂きます。CPE問題(アンチCPEの運動も含めて)は、様々な領域で広がりを見せているようですね。「静かな」日本の状況と比較すると、いろいろな面で考えさせられます。日本の「ニート」達(に限らず若者一般)は、フランスでの運動を見てどう考えるのか、興味があるところです。
投稿情報: unso | 2006-03-17 21:16
こんにちは、unsoさん。そちらに時々おじゃましてます。(空眺めさせていただいたり、、)
フランスでの、大学や高校での“政治活動”、もちろん既成政党の影響を受ける“プロ”学生もいるけど、ノンプロが大部分でしょう。彼らの“初体験”活動は同時に“直接民主主義体験”でもあるわけで、尖った極右・と極左の破壊活動は別としても、家族や政府、メディアがそれを、距離を取りながらであるけど、支持するし、高校生であっても発言の機会を与える。これはまた、この大学生・高校生がフランスの未来なのだという認識が(お題目だけにしても)どこかにある。
日本では、たとえば青年層は消費者としてもその購買力は大きいはずですが、社会内の存在認知がないように思います。たとえばホリエモンを政治に担ぎ上げても、結果はこうなっちゃった。出口がないから、2chとかで内部分裂的になるんじゃないでしょうか。
こちらでは“フランス負け組”的ペシミズムが幅を利かせているんですが(勝ち負け自体はどうでもいいけいど)、フランスがマイノリティにとっても生き安い社会であり続けて欲しい。(生きやすいために外国人が増えすぎで、これも問題ですが、、、)
日本の“ニート”も雇用問題がネックだと思えます。教育を受けても、そこそこ“やりがいのある”仕事をオファーできない社会に問題があるのであって、若者に責任があるわけではないでしょう。仕事で得るものは収入だけではなく、人格形成というか、社会参加という役目もある。また今フランスでやってるような運動も、高校生・大学生にとっては大きな経験になるのだろうと思います。なんだか考えがまとまってません。
投稿情報: 猫屋 | 2006-03-18 08:19