年末のすき焼きオフのながれで、なにやらアートなこの頃。今日はshibaさんと一緒にポンピドゥーセンターのWilliam Klein展に行ってきました。ひとりだとボーっとしてるうちに最終日は過ぎていた、、という情けない場合が多いし、特に日が短い冬は出るのが余計おっくう。その点誰かと誘い合わせてっのは、無精者には良き“テク”であります。
さて、写真展はこれまであまり興味がなかったんですが、クラインは日本での友人に(米国に行ったまま音信不通の)カメラ男がおって、写真集を見せられた記憶がある。あと、ついついタブロー(絵画)の方に焦点が行きがちなんだが、パリでは写真展も多いんでこれも門前の小僧、自然に眼は肥えますね。クラインは写真ばかりではなく、絵・映像にも手を出すマルチタイプな人。その作品の全体像が掴めそう、、ということで行ってみる気になりました。
今回のエクスポの詳しい内容はshibaさんが書いてるんで、ここでは私の印象を勝手に並べてみましょうか。。。
ドアノーやカルティエ・ブレッソンの撮る写真、もちろんすばらしいですが、クラインのとはどこか違います。ドアノーもカルティエ・ブレッソンも、言ってみれば“絵画”的。アングルや瞬間が、直感によるものか計算によるものなのかは分かりませんが極めて洗練されています。これは同時に、スタティック/静止してるとも言えるわけだ。オブジェと写真家の間には距離がある。その点、クラインはもう一歩オブジェたる人間に近づく。群衆の中に入り込み、同じ高さで写真を撮ってると感じる。異形の者としての人間を撮り続けるんだが、、そしてこの異形の者達にはファッション・モデルや有名人も入るね、、、自分(クライン)自身もその異形の者のひとりであるんだと彼は考えてるんですね、きっと。ここから来るんだろう、被写体と写真家の間に一種の“correspondance/ 照応”を作り出している。共犯関係に近いかもしれない。フェリーニにも近い。(実際、クラインはローマでフェリーニの仕事を手伝うはずだったけれども実現しなかったようです。)そして、ドアノーやカンティエ・ブレッソンにはない“動き”がある。ダイナミズムと言えるか。それはクラインの撮る社会自体の持つダイナミズムでもあるな。
“Anything goes”、これはクラインの言葉ですが、まさにクラインは自由に時代を撮り続けます。ベトナム戦争に反対するニューヨーク学生デモの写真が不思議なほど “今”なのでびっくりする。同時に過去の作品をペイントした“コンタクツ・ペイント”は最近製作されたものですが、クラインは77歳の今でも(そして愛妻 Jeanneの亡くなった今も)変わっていないんですね。
60年前後にニューヨーク、東京、モスクワ、ローマで撮った写真があります。もちろんパリで、学生運動や、ファッション写真を始めいろいろな写真を撮っている。けれどどこにいようと、誰を被写体にしようとクラインの眼差しは不変です。
徴兵でクラインがヨーロッパにやってきた偶然をわれわれは喜ばねばならない。パリに来て、そしてフランス娘に恋をしなかったら、クラインは写真家にはならなかったように思います。パリにいたからこそ、クラインはアルジェリアに、モスクワにさらには東京まで行く。 ニューヨークを写真に撮る。会場で放映されていた白黒ヴィデオで、アルジェリアやモーリタニアの民族衣装の青年達が街なかをデモンストレーションするってのがあります。そこから突然68年のパリの街頭デモ映像に移る。あくまで自然に。。。パヴェ/敷石を掘り出し、バリケードを造る、車の燃えカスが横たわる。。。クラインはいつでも群集の中側にいる。
今回の展示準備にクライン自身かなり関わったようです。赤・黒・黄色と、壁にカーブを使った展覧形式もクラインっぽくってよかった。人も多過ぎずゆったり見られました。
せっかくパリにいるんだから、もっと“アート”しちゃおうと思うこの頃です。
「パリのアメリカ人」、まさにそうですね。
昔読んだウィリアム・クラインのインタビューを引っ張り出してきて読んでいますが、フランス人がアメリカン・カルチャーに憧れていた時代、そのミリューに入りこんでアーティストとしてのウィリアム・クラインが出てきたんですね。
猫屋さん分析は鋭い。
アフリカ系民族衣装の祭典映像は「panafirica」というタイトルだったようです。
投稿情報: shiba | 2006-01-25 13:33
こんにちは、初めまして。
TB送りっぱなしで失礼しました。
彼の写真を通していろんな人のいろんな物語を
垣間みることができるので大好きです。
しかし、彼の撮った当時の東京と今の東京じゃかなり違うのに
パリの写真は、昨日撮ったといわれても信じてしまいそうなものがたくさんありました。
キミたち進歩してないね〜って一緒に行ったフランス人をいじめてしまいましたが
ある意味それもすごいな、って思いました。
投稿情報: NEPOJA | 2006-02-24 01:36
NEPOJYAさん、いらしゃーい。
いえいえ、ふつうは私もTB飛ばしっぱなしなんですが、楽しそうなブログなんでおじゃましました。
まだまだ昔っぽい(あるいは観光目当てでスキンだけってとこもあるけど)界隈はあって、20区のガンベッタのあたりとか、合衆国の尖ったツーリストとか好きみたい。古株の猫屋(こっち20年)から見ると、パリよあんまり進化しないでくれって気がします。でもビブリオテック・ナショナル付近は東京みたい(人いないけど)で好きって、矛盾はしてんだけどね。
クラインの写真で、カルロッタ氏が踊ってた東京下町の狭い通りなんて、地上げ屋以来もうなくなっちゃってるよね。下町博物館かつげのマンガの中ぐらいにしかない。
投稿情報: 猫屋 | 2006-02-24 09:19