これはパリの改装中ジュシユ大学近くのアラブ世界研究所美術館で3月14日まで開催中の展覧会です。(これ読んで行く気になった)ル・モンドによる記事はこちら:Les arts de l'Islam dans leur diversité cosmopolite
Nasser D. Khalili (ナセール・D・ハリリ)氏の所有する2万5千点に及ぶイスラム・アートコレクションから471の傑作が、ヨーロッパで始めて一般に公開されているわけ。ハリリ氏は1945年にイランのユダヤ美術商の家に生まれるが、若くして(750ドル持って)米国に渡り、ニューヨークを基点に美術収拾と売買を手がける。やがて英国人の夫人と結婚。今はロンドンを拠点としイスラムばかりではなく、日本明治美術、スエーデン織物、スペイン美術などの幅広いコレクションを有し、これはイギリス富豪番付でも10番目にランクされるほどの資産だとか。。。
今回のアラブ世界展示を見てると分かりますが、ハリリ氏コレクションは、アートを媒介に、つまりエステティックを通して、広大なイスラム世界の想像世界俯瞰図を組み立ててしまう。これがイランのユダヤ人という出発点の視点、それから合衆国・英国での活動を通した視点の強さではないかな、とアタクシ的には思えます。
今回の展覧会を準備したふたりの美術委員は、会場に着いた展示品の梱包を開いた時、クリスマス・ツリーの下でプレゼントを開ける子供のように興奮したと語っていますが、さもありなん。
作品は時代的流れや地理的分断よりも、布・織物、コーラン、ガラス細工、装身具、絵画、カーペットといった作品がグループ別に展示されている。入り口付近にまずコーランの金糸刺繍が施された豪華絢爛大型布地が壁展示されており、これには圧倒される。ところどころの壁に簡単な地理的・歴史的解説があったり、カリグラフィーとアラベスクの美しいコーランも、時として翻訳説明があったりして、イスラムには縁のない来訪者の理解を深める助けになってる。
絵画では、16世紀ペルシャの『王の本』とよばれるシリーズの驚くほどの美しさが圧巻。また、14世紀の同じくペルシャのRashid-Al-Din(イスラムに改宗したユダヤ人だが、最後には暗殺される)による本 Jami al-tawarikh からのセレクションも、たとえば仏陀やノアとか、顔を布で隠した預言者の後ろにイエスを抱いたマリアがいたり、興味は尽きない。
奈良法隆寺のコレクションを想起させる優雅なガラス細工、豪華な宝石をあしらったモンゴル王のターバン型王冠や、鷹狩につかう鷹の目隠し用金製キャップとか、黒に近い深い群青地に金で書かれたコーランのインパクト(イヴ・サンローランの色使いを想起させるですね)とか、中国のブロンズ像を思わせる動物像、ミニアチュールにもたびたび登場する富のシンボルである馬の美しさ、とか傑作を数え上げたらキリがありません。
ここのページにいくつかの作品ディアポあり:Éléments historiques et géographiques en images
france3の紹介ヴィデオも見つけた:france3
展示された作品の出所は、西はスペイン、そして北アフリカ、エジプト、パレスティナ、メソポタミア、イラン、アフガニスタン、アラビア半島、インド、カスピ海沿岸から中国国境にまで及びます。
アラベスクから唐草模様、描かれた人々の表情、“近代的”遠近法とは別の空間・宇宙概念や世界観、手書き文字と美の共存するカリギュラフィー、動物や植物の描き方とか、日本とヨーロッパの間には、実は広大なイスラム文化圏があったのだった、と実感させられる美術展でありました。
残念ながら、大手国立や私立美術館とは違い、費用の問題もあるんでしょうが大々的広告のない当展覧会ですが、ちょっと高めの入場料(一般10.5ユーロ、割引で8.5ユーロ、26歳以下9ユーロ)払っても、これだけの傑作を見て豊かな時間を過ごせる(アタクシの場合2時間半)。これは2010年はじめの行くべし美術展なり。
月曜休みで、10時から18時まで。木曜は22時まで、週末は20時まで。
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