木曜夜は、パリ某所であった某氏のコンサートに行ってきた。今回もバー横で立ち見。CDでは聴こえてこない声の質(仏語で言うとgrain になるのかな;粒粒、きめ、荒さ)が、大きすぎないコンサート・ホールではよく伝わる。最後は、バンド各個人のそれぞれの個性が、聴衆の熱気も混ざって不思議な具合の全体像を創り出して突っ走る。
これは青少年バンドの持ってる元気とはちがって、それぞれのメンバーがそれぞれ違う場所でまったく異なった音楽を生きてきたその時間が、グルグル旋廻しつつプッツンと超越するカンジ。なにかを作るというのはその行為自体が自由なんである。作る行為の周辺で必要とされる準備なりネゴなり助走なり練習なりの大変さは、その自由を、それがいかに短い間であっても、実現させることができた瞬間にすべて報われる。マジックな瞬間てのは予測できるものでもないんだけど、やってきてしまう。自由とはそういうことだと思う。自由が結晶してしまうのだ。
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昨日の昼は、シュツッツガルドからガールフレンドと二人でやってきた若い友人と(彼のリクエストで)ラーメンを食べに行った。彼とは3年前に奈良の法隆寺境内で偶然会って以来、時々メールの交換をしていたのだ。
3年前は、愛知エキスポでジャパンレイル・パス持って日本全国をうろうろしてる若い連中が案外いたんだけれど、彼もその一人だった。一週間京都をベースに一人旅していたアタクシと、ドイツでコンピューター・プログラミングの勉強をしている彼と、フランス人のマンガ大好き少年とアフリカ帰りの日本青年の二人組みの、合わせた4人で法隆寺横の食堂で一緒に昼飯を食べ、 JR法隆寺前の前の田舎の喫茶店でコーヒーを飲んだ。連日35度を越す暑さに閉口し、旅行者のコミュニケーション不足にウツウツしていた私たち4人は、とにかく誰かと話をしたかったんだろう。でも、フランス語と習いはじめたばかりの日本語の仏少年と、きわめてシャイな日本語+中級フランス語使いのアフリカ帰り日本男児と、ドイツ語と硬い英語のドイツ青年と、日・仏語ときわめて怪しい英語のアタクシというメンバーには共通語がなく、会話が奇妙にずれてて面白かったのを覚えている。
そのドイツ青年が(あの時点で20歳だったと思う)3年前の印象とはちがってよく笑うチャーミングな男になってたからいい意味でびっくりした。ミュンヘン生まれの彼女も笑顔がかわいい金髪巻き毛の健康のかたまりみたいなお嬢さんで気に入った。
青年に、君はニッポン・オタク・プロトタイプ風でもないし日本語も分からないのに、なんで3週間も一人で日本を旅行して回る気になったの?と、3年前聞きたかったけどなんとなく聞きにくかった質問をしてみた。「うん、実をいうと僕にロボット工学を勉強させたがってた父親がエア・チケット買ってきて、日本でロボット工学シンポジウムに行けと言ったんだ。そういうわけ。」と答えた。今年大学を終えた彼は、これから3年間ロボット工学プログラミング専門校で勉強を続けるそうである。大学でサッカー・ロボコンチームに参加した話を嬉しそうにしてた。
彼女の方は、バイオテクノロジーと地質学と地形学をミックスした学問の勉強してるんだって。ふーむ。なんか即にはそれがどういうもんなんだか分からなかったから「で、環境学は入ってないの?」とバカな質問をしてしまった。入ってないんだってさ(エコロジー学はドイツではもう30年ぐらい前に始まってるはずなのね)。
話はまだまだ続きそうな雰囲気だったけど、せっかく始めてパリに来た二人連れの彼らを引き止めるのも無粋なんでカフェの前で「またね」と言って別れた。次回は猫屋亭で日本食大会を企画しようかな。TGVがつながったんで3時間半でここまで来られるようになったし、今はキャンペーン中で料金も約100ユーロだったそう。帰り道で見回すと確かにドイツ語使いが多い。近くなったんだね。
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これはドイツェランドがらみで。
先日9日、アルテ・ニュースで「クリスタルの夜」と「ベルリンの壁崩壊」の記念式典のことを報道していた。クリスタルの夜(水晶の夜)は1938年の11月9日から10日の朝にかけて起こった。壁の崩壊は1989年の11月9日である。
このニュース報道で流された映像のひとつが下。ブンテススタッグつまり西ドイツ議会で当日、議長かと思われる人物が東ベルリンから西ベルリンに市民がヴィザなしで壁を越えているという知らせを伝えると、議員たちが次々に立ち上がりあのドイツ国歌を歌い始める。インターネットも携帯電話もない時代である:感動的。
国歌はサッカー場で歌われるためのものでも、誰かが命令して歌わせるものでもない。普通だったら国歌なんてなくてもいいや、と思ったりするんだけど、クリスタルの夜とそれに続く暗い歴史、そしてその後のベルリンの壁建設とその崩壊を思いおこせば、議員たちの、そして住人たちの感慨の深さは想像できる。
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えっと、今ランスでやってる社会党党大会の話も書きたかったんだけどこちらは時間切れ。今日の午後元老院ネットTVライヴで見てたセゴレンヌ・ロワイヤル演説だけ貼っておきます。35分あるんだけど、最後にはビクトル・ユーゴーまで引っ張り出してた。たいした度胸です(話し方は相変わらずだけども、、、)。
こちらも、フランスからのお客さん、と言っても日本在住20年ながら、元旦那がフランス語かフランス文学だか知らないけどその辺りの大学の先生で家では一切日本語を使う事を禁じられていた日本語のあまり上手ではないフランス人の「女性のおばさん」が離婚後新しい連れ合いに日本を見せるために来日中、共通言語は日本語と少しの英語。奈良、伊勢の観光におつきあい、可哀想な事にこの円高ユーロ安「元々ケチのフランス人はさらにケチに成りそう」何て言っていました。
フランス人は自分たちはケチだと思っているのだろうか?
ともかく、為替の変動に関係のない生活が当分続きそうです。
「パリを思えど巴里は遠し」です。
投稿情報: しんちゃん | 2008-11-17 08:37
欧州人はみなけちです。てか、日本人(自分も含め)金使いすぎ。まあ、それで回ってる国だからねえ。まあ、ない袖は振れません。この夏に一万円=60ユーロだったのがこのところ85まで上がった。
というわけで、一時帰国いたしますが、今回京都まで出向くもののなにやらあわただしい滞在となりそうです。そちらにご挨拶に赴く時間も捻出できないのですが、どうぞお許しください。
投稿情報: 猫屋 | 2008-12-16 02:58