オリンピック・ゲームでの新鋭(フランス水泳、ジャマイカ・エチオピア・ケニア陸上)活躍をビールの見ながら観戦している間にも、新世界地政マップは書き換えられようとしております。
ブレジンスキーが形容した「世界政治外交というチェス盤」が、またもや大きく起動してるわけ。
ベルリンの壁が落ち、ネオコンが夢見た歴史の終焉どころの話ではない。この新変動を可能にしたのも、“神から授かったメッセージ=民主主義の伝播”米国政策の失敗だった、ってのはかなり意味が深いと思う。
いずれにせよ、安全第一・予定未来に慣れた(あるいは慣らさせられた)アタクシドモには思い出すのがなかなか難しいんだが、実に未来と言うのはやって来るまで、なにが起こるかわからないのだ。
ここいらへんで、チェス盤上のプレイヤー/役者たちに貴重なのは、歴史をいかに知っているか、そして個人的経験でありましょう。もちろんセンス/直感、というのもあるね。もちろん、もちろんサイコロジーへの薀蓄も外交ではものを言う。
*
以上は、いつもの前置き。
世界政治というチェス盤上でのグルジア危機をどう捉えるか:単なる、旧ソヴィエト圏でのエスニック問題ではないでしょう。たしかに、バルカン半島での宗教・民族問題を絡めた一連の紛争・内戦・戦争との比較は可能だけど、あの時期にロシア(旧ソヴィエト)本国はほぼ瀕死の状態だった。おまけに冷戦のもう一方の主役、米国はIT革命に向かう超大国(スーパー・パワー)だった。
しかし、911に先立ってITバブルがはじけ、後にダブヤ・ブッシュはビン・ラデン余波で、ふたたび米大統領になってしまったわけです。かくして、ブッシュの米国は終わりのないふたつの戦争に突入した。おまけにすべてをクレジットで払い、それはドルの大量刷りでまかなうという、どうしようもない悪循環に自ら陥っていったわけです。さらに、ライセンスという金の卵と金融と軍産に頼りきって、いつのまにか米国内だけではない世界中の工場が中国に引っ越しておった。
当時の原油価格26ドルをもっと下げる(+イスラエルという中東での影響圏確保)という目的で始まったイラク戦争は、中東パワーバランスを不安定化し、イスラム圏内での抗争をも促し、(世界金融および経済のヴァーチャル化も伴って)結局は原油価格沸騰とあいなったわけだ。
で、米国スーパー・パワーの世界政治カリスマ・エンジンは5速から3速ぐらいまで落ち、中国・インド・ブラジルが追い上げるその脇で、オイル・天然ガス産出国の国庫がイッキに豊かになった。
そういうバックグラウンドを頭において、現在のグルジアでのプーチン・ロシア軍事展開を見ると、なんとなく見えてきますね。後記:8月6日以来、グルジア領内でのインターネット網はロシアが抑えているようです。同時にロシア国内のメディアは“ロシア語圏”でのグルジア軍による“エスニック・クレンジング”摘発キャンペーンを繰り広げているらしい。もちろんグルジア側も同様なキャンペーンをはっている。情報戦です。
右の図で、赤いラインはロシアの管理するオイル・天然ガスのパイプラインで、青いのはクリントン時代に米国先導で構想されたパイプライン図です。カスピ海からオイル・天然ガスをヨーロッパ、さらにはアメリカまで輸送するための重要地点にグルジアがあるわけです。なお、オレンジの■は製油所なり。
プーチン・ロシアは、米国がけつまずいたところ、つまり鉱エネルギー・ルート支配という方法で旧ソヴィエト圏の影響力復活を図っているわけです。
*
これからの展開は、まずガス・原油の鉱エネルギー価格動向と、エネルギー源の大幅不足に直面する中国とロシアの関係動向、それにNATOとヨーロッパ間の線引き(欧と米の綱引き)が大きく影響するだろう。あと息をひそめて成り行きを見てるはずのイランの出方にも、実際のイランの意向というよりはチェス盤上でのサイコロジカルな影響が大きいだろう。
**
というわけで、いくつかリンクです(仏語のみでスミマセン)。
ル・モンドから;サルコジが腰引け和平案を提案したもののサインさせるのを忘れ、アンゲラ・メルケルがしっかりそこいらをフォローしたという記事。サルコジ氏とEU、そして苦境に立たされたグルジア:M. Sarkozy, l'UE et le guêpier georgien
こちらはやっとストが終わった20ミニッツから、アンゲラ・メルケル氏のパワフル・リアル・ポリティックに関する記事。“グルジアは世界が認めた独立国なんだから、すぐさまロシア軍はその領土から撤退すべし。グルジアがナトーに入りたいんだったらいつでもOK。”と明言したという、そのあたりを書いてます(追記:4月にブカレストであったNATO会議では、仏独両国はグルジアとウクライナのNATO参加に反対していた)。 ロシアでメドヴェジェフを前に、メルケルはグルジアを擁護:Face à Medvedev en Russie, Merkel défend la Géorgie
追加リンクです。18日ル・モンドから、モスクワはグルジアからの軍撤退開始を約束:Moscou promet d'amorcer le retrait de son armée de Géorgie
現地のロシア軍はいまだ撤退指令を受けてない。また記事の最後で、ロシア第58軍団が撤退したとしても、オセアチアやコーカサス、チェチェンの“志願兵”たち-白い腕章をつけており、一般家屋の破壊・奪略・殺人行為をしていると見られる--はその撤退命令に従うのだろうか、と疑問を投げかけています。Sulim Yamadayev の率いるVostok特殊部隊も参加しているようだ。
コメント