マリアンヌ・ウェブに掲載されたエマニュエル・トッドのインタヴューです。サルコジはリップサービスばかりではなく、米国の失いつつあるもうひとつの戦争、アフガニスタンに1000人からの兵士(後記:3日のロイター伝によると700)を送ると決めました。議会での承認ぬきでゴリ押しの意向のようですが、ハタから見ていると、来る(かもの)共和党マッケイン勝利を見込んで、米国とイラクにまではせ参じそうな勢い。おいおい!これはひどい、と思っていたらトッド先生がうまくまとめてます。というわけで意訳・急訳してみる。なお、右の旗は本文と直接の関連はありません。
エマニュエル・トッド:《米国のポチになったら、フランスは消滅する》
エマニュエル・トッドによれば、アフガニスタンでの仏軍派兵増強は、外交および戦略的間違いであって、世界レベルでの極右思想台頭を予告する。
4月2日のNATO会議において、フランスのアフガニスタン増兵に関しジョージ・ブッシュは「私はたいへん幸せだ」と語った。しかしながら、その前日の仏国民議会では、ニコラ・サルコジの初めての大きな戦略決定であるアフガニスタン仏部隊増援策は大きな論争をよんだ。フランソワ・オロンドからリオネル・ジョスパン、ウベール・ベドリンヌ、セゴレンヌ・ロワイヤルまで、すべての社会党メンバーが声をそろえ米合衆国追従外交政治に反対している。特に、アフガン紛争の泥沼化と多大な犠牲者数を第一の理由とし、彼らはフランス政治の『ナトー政策主義への転換』を告発する。歴史家にして統計学者であるエマニュエル・トッドは、この外交政治のはらむ危険性はさらに大きいものだという。『帝国以後』の著者トッドは、この戦いはすでに敗戦であり、極右思想を萌芽させると警告する。インタヴュー。
マリアンヌ2.fr:あなたの観点からいって、アフガン増兵は根拠あるものでしょうか?
エマニュエル・トッド:アフガニスタンという国がどこにあるのか知らないとしても、ニコラ・サルコジがどう考えたのかは完璧に想像できます。けれどアングロ・サクソン世界全体が知っていること、つまりこの戦争が敗戦だと、彼の取り巻きたちが知らないとは想像できません。
あなたによれば、この戦争は希望のないものなのですね?
E.トッド:パシュトゥーンの社会構造自体が、ソマリア部族と同様に、戦いのために作られています:それら社会においては戦争が正常な状態なのであって、それが長続きするかどうかは問題ではない。戦闘者たちが定期的に外部からの武器供給を受けている以上、遠地からやってきて調達も難しい何千という人間を、その社会システムが打ち負かすことは明白です。極端な場合はディエン・ビエン・フーでのように終わるのか、あるいは平和な撤退かと自問するわけです。
政府の観点から言えば、この紛争をめぐっての駆け引きがあると思われるのですが。。。
E.トッド:この政府を牛耳る人間たちは、何故この負け戦に参加したがるのか?これが本当の疑問です。これは、NATOへのフランス全面的再編入に関わる議論と同様、シンボルに関与してくる。この政策には米国との関係をさらに強く肯定するという目的があります。これをネオNATO政策主義(l'atlantisme)とは私は呼びません。ナトー政策とは、ソヴィエト独裁主義に対して米国が民主主義の価値を掲げていたある時点における、米国と西ヨーロッパのつながりでした。それはドゴール主義者たちの好むところではなかったにしろ、コンテキストにおいて正当化しうるものだった。現在の米国は、金とネオ・リベラリズムと格差の国だ。そして、この新しい連合の影で姿を現すのが、西洋化主義(オキシデンタリズム)です。イスラミズムとの紛争のなかで構築されるこの思想、この新しい思想を基礎としての関係なのです。
けれど、『リアリスト』政治という点においては、孤立より米国への協力が、フランスにより利益をもたらすのではないでしょうか?
E.トッド:米国にとってさえ常軌を逸した目標であるアフガン介入に、フランスが参加するための手段はありません。フランスは中規模の国であって、米国は衰退しつつある大国です。ド・ヴィルパン当時、パリ政府はしっかり存在していた:国連安全保障理事会における彼の仏国イラク戦不参加演説後、私たちは名誉で輝いていました!けれどニコラ・サルコジ下にあって、フランスはトニー・ブレアの英国と同じになった:もしも米合衆国のポチ(プードル)になるなら、それは消滅です。同調し独立を失うなら、それは消滅を意味する。ド・ゴールはそれを理解していた:フランスが世界レベルで存在するのも、核兵器を所持した国連常時理事国でありえるのも、自立した役割を果たす国である限りにおいてなのです。サルコジのフランスに、世界はなにも期待しない。
対テロ戦略が、この紛争への現政府介入を正当化するのではないでしょうか。
E.トッド:西洋主義者(オキシデンタリスト)たちは、正当防衛という立場に自己を想定する。テロリズムは存在し、逆スパイや警察力を持って対処するべきでしょうが、外国における戦争に介入する必要はまったくありません。最初のアフガニスタン攻撃には、ビン・ラディン追い出しという正当性があったわけですが、大体これにはかつてロシアも関与していた。けれど、アフガニスタンのイラク化は、ムスリム社会への西欧社会による暴力リストに加算される。オキシデンタリズムは頭角をあらわしつつある極右理論なのです。フランス兵部隊を配置し、アフガン市民への爆撃を行うことで:フランスは悪の側に位置することになるでしょう。サルコジのおかげで、イラク戦争後英国とスペインがこうむったと同じことを、私たちが経験する危険性さえあります。
隣国(英国・スペイン)のイラク参戦に結果する、ロンドンとマドリッドでのテロ行為についてお話になりました。けれど今回は、すでに派兵している国に、何百かの兵士を増員するだけの話です。。。
E.トッド:まさにそうです!政府が行う派兵数の少なさは、これが象徴的行為なのだと明かしています!ペルシャ湾に送られるいくつかの戦船は、イラン人たちを笑わせるでしょう。しかし私たちはムスリム世界に対する思想構築の内側に位置している。そもそもこの立場は、内政におけるサルコジスムと首尾一貫するものです。
ニコラ・サルコジは対ムスリム社会戦争ロジック内にいるとお思いですか?
E.トッド:大統領選挙第一回投票時以来、サルコジに成功をもたらしたのは、フロン・ナショナル(国民前線)党支持者一部の獲得でした。これは、トラウマのファクターとなったバンリュウ騒乱のせいでもたらされたわけです。しかし、それは内務大臣サルコジが挑発した出来事だ。サルコジ・ロジック内には、真の問題に直面しえない不能と、身代わりの山羊(スケープ・ゴート)を名指すこととのコンビネーションがある。これは古典的だ:危機にある社会では、経済および社会的問題の解決と、あるいはスケープ・ゴートを名指すというふたつの選択肢がある。サルコジはつねに敵を見つけ出し、攻撃する。これは漁業就業者やバンリュウ住民との接触でのいつもの態度でも観察できます。
つまり、さらにアフガニスタンに介入することで、フランスは文明の衝突発動に参与するのでしょうか?
E.トッド:文明の衝突に関するハチントンの分析は間違っていますが、政府はその現実化を試みることができます。私が思うに、私たちを統治する政権は彼らがなす政治に責任がある。戦争とは、悪の教えです。平和にある国民はまともに考える。時として、正当な理由で戦争にいたることもありますが、少しずつ、自覚することなしに、人は暴力のための暴力にすべり込んでいく。これは、テロ攻撃に対してスペイン国民が正しくない反応をしていた場合、スペインにも起こりえたことです:彼らは文明の紛争内に陥っていたかもしれない。この敵対戦略は、フランスでも失敗に終わるだろうと考えます。スケープ・ゴート探索、イスラムフォブ(嫌イスラム主義)と移民児童に反対する思想の芽生え。。。これはフランスの本質ではありません。結局のところ、フランス国民はいつも、外国人より貴族の首を切るほうを選んでいます。
2008年4月3日 アンナ・ボレル
Anna Borrel