今日のFRB(FED)による、金利をさらに0.75%引き下げるアナウンスを受けて、ダウジョーンズもドルも一時的に反発していますが、これも長くは続かないでしょう。ドルが牽引する国際経済・地政全体の構造に、危機の原因があるからです。たとえば、ドルが安価になればオイル産出国は収入減を埋め合わせるためオイル価格を上昇させる。今回の円高は、ターゲットが円ばかりではなく、ユーロ高も絡んでいますから、正確には単なるドル超バーゲンとでも呼んだ方が正確でしょう。そろそろ円じゃなくてドルでのキャリトレードが始まるなんて言ってるエコノミストまでいた。
なお、アジアでのドル売りの動きには、売り手が誰なのか?と、背中のあたりがぞぞっと小寒くなったわけです。
というわけで、ル・モンド経済欄から、現在吹き荒れているドル危機関連2記事を翻訳してみます。ニューヨークとロンドン特派員からの報告です。
銀行危機を背景にドル急落ル・モンド 2008年3月17日 ニューヨーク特派員
16日日曜から17日月曜にかけた夜、ドルはアジア市場で暴落した。ユーロは、数時間の間に1.57、1.58、1.59というハードルを越え、1.5905ドルといピークに達し、またしても歴史的新記録を更新した。ドルは同時に、100円、1スイス・フランというレベルに達している。米国貨幣のこのような乱暴な落下は、いまだかつて観測されていない。ドルに従って、アジア株式市場も急落した。東京市場は月曜3.71%で大引け、2005年8月以来の最低価を記録した。ドル暴落は、米国の銀行危機悪化の結果によって引き起こされた。オペレーターたちは、米国通貨おと米経済オーソリティーは状況コントロール力をすっかり失ったという印象を強く持っている。
その夜、火曜の会合さえ待たず、フェデラル・リザーヴはそのプライマリー・クレジット・レート(主要公定歩合、ses principaux taux directeurs)のひとつである、クレジットレート(taux d'escompte)を3.25から3%(訳者注;この数字は間違いで、本来は3.5→3.25と思う)に緊急引き下げした。 またFED(FRB)は、大型金融機関が他の金融業者により融資しやすくする目的で、新しいクレジット制度を創設すると発表した。「市場により多くのキャッシュを導入することで、その運営を援助する」とFEDは発表している。この新たな米国中央銀行による緊急介入は、市場を安心させるには遠く、逆に彼らの危惧を強める結果になった。エコノミストたちが恐れているのは、世界経済トップの米国がリセッションに突入することばかりでなく、かつて大恐慌時に米国が経験したように、銀行のなだれ破産リスクとともに、米国金融システム全体が崩壊しつつあるのではないかと自問している。この日曜日ウォール・ストリートは、PJモーガン(JP Morgan) によるベア・スターンズ(Bear Stearns / BSC)の買収という、もうひとつのショックなニュースを知らされた。買収価格は2億3800万ドルで、本社家屋の推定価格が10億ドルであることに比較すれば、これは取るに足りない金額だ。
この2銀行の取締役員会は、株交換による買収に同意し、この金曜市場でのベアー・スターンズ最終株価が30ドルだったにもかかわらず、ひと株は単に2ドルと評価された。2007年にBSC株は170ドルを記録していたのだ!
このベアー・スターンズのバーゲン価格は、銀行セクター全体の評価自体に疑いを投げかけることになった。「ベアー・スターンズ役員会がこのようなバーゲン価格で会社会計資産を手放す以上、資産会計結果に何らかの問題があるのではないかという疑いが出てくる」と、ニューヨークのソラリス・アセット・マネージメントのティモテ・グリスキ氏は語る。
「ベアー・スターンズのバーゲン価格買収でJP モーガンが得をしたケースは、『現在の環境下では、他の金融機関にいったい価値はあるのか?』という疑問を投げかける。」
多くの人々が《ドミノ効果》を恐れている。抵当クレジット系金融取引に多額を融資したシティ・グループが、もっとも脆弱である。火曜に決算を公表するリーマン・ブラザース(Lehman Brothers) の難題(quid) とは? 当社は、金曜に20億ドルを国際コンソーシアムから緊急に借りうけたが、、その当日、株価は15%下落している。
「金融システム安定化のため、政府はなすべきことをなす」 と、日曜日にヘンリー・ポールソン(Henry Paulson)米国財務長官は保証した。
合衆国で議論が繰り広げられている。
図式的には、ふたつの立場が見て取れる:やってくるだろう計り知れない結果よりは、まずこの“システム”の崩壊を防ぐことが重要だとする人々と;そのロジックは同じだけの利益とリスクとをもたらすだろう、という人々がいる。これまでの金融市場のみを対象とした(大手投資家に向けられたFEDの低金利キャッシュ供給)手段では、ドル下落もリセッションも防げなかった。それらの問題への公共経済政治政策が緊急となってくる。
“国家-匂いを嗅ぐもの”
なぜ、どんな方法を取ってでもベア・スターンズを救うべきなのか?とニューヨーク・タイムズは問いただしている。コラム担当者のグレチェン・モーゲンソン(でいいのかな?Gretchen Morgenson )は、1990年代、ドレクセル・バーナム・ランベール(Lambert Drexel Burnham) を破産に追いやったのは“腐った債権”を追求しすぎた当社の姿勢が原因だった、と書いている。
「ベアー・スターンズも、同じようにひどく振舞った、」と、彼女は続けている。「BSCを見本とすべきだ」と、ウィリアム・フロッケンスターン氏(同名の会社William Fleckenstein のCEO)は主張する。なぜなら、FED(FRB) がキャッシュを印刷させ続ける限り(訳注;インフレ政策を取る限り)、- 私たちはスペキュレイターのために“匂いを嗅ぎつける国家”に成り下がる - と彼は残念がる。銀行は何でもできると勘違いして、翌日には同じことを繰り返すんだ。「無残なことには、つけは納税者が」支払うのだと、マダム・モルジェンソンは付け加える。
月曜の朝、市場オペレーターたちは、日曜夜に起こった金融および為替状況の急激な悪化に対する国際経済オーソリティーの反応を待っていた。ジョージ・ブッシュは、FED(FRB)議長と米財務局長、そして各市場のヘッドをホワイトハウスに召喚した。エコノミストたちは、G7経済相による緊急ミーティング必要性を否定しなかった。
シルヴァン・シペル/Sylvain Cypel ( New York)
ピエール-アントワンヌ・デロメ/Pierre-Antoine Delhommais
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シティの銀行、雇用者解雇に着手
ル・モンド 2008年3月18日 ロンドン特派員キャッシュ不足、そして必要な資金調達が危ぶまれる企業主および世帯を救済するため、英国銀行は50億英国ポンド(63.58億ユーロ)の準備金を、銀行に対し用意する必要に迫られた。ロンドン株式市場の急落とポンドの驚くべき転落を前にして、オペレーターたちは唖然とするばかりだった。そして、ブラウン政権は、“抵抗力があり基本的に強固な”英国経済を、大嵐から再度守らざるを得なかった。
労働党支持率の劇的下降が示すように、金融危機は英国人たちの心に暗い影をおとした。なぜなら、これこそエコノミストたちが恐れるものなのだ:シティの危機を背景にした王国繁栄など、存在しえないからだ。
シティ。これは、ちょっと前まではマジック・ワードだった。トレーダーたちが、すばやく稼いだ大金を、これもすばやく使って、惑星全体を相手に挑んでいた。しかし、クレジット嵐と、サブプライム危機のコーラテラル犠牲である米国ベアー・スターンズ企業向け銀行クラック(破産)が、ここを通り過ぎていった。
この春の、ヨーロッパ最大の金融市場の現実は、厳しい、かなり厳しいものだ。もっとも規模の大きい銀行、つまりメリル・リンチ、モーガン・スタンレイ、ゴールドマン・サッチ、ドイツ銀行あるいはUBS が大幅な人員削減策をとった。最近では、ロンドンで大きく活動するJPモーガン・チェースが、3月16日にわずかな価格と引き換えにベアー・スターンズを買収したが、カナリー・ワーフ(Canary Wharf)本社従業員1350人のうちの大多数を解雇することになるだろう。
また、多くのエスタブリッシュメントは、近年多くの利益をもたらしたヘッジファンド(スペキュレーション・ファンド)と資本投機オペレーション市場での活動を縮小し始め、より安定し、定期的利益をもたらす財産管理といった分野に移行している。
「荷下ろしはゆっくり始められた」
「信頼という、きわめて繊細で消えやすい概念がぐらついた。」 と、ヨーロッパ金融殿堂ロンドンでの、今から年末までに1万人以上の解雇を予測するエコノミック・ビジネス・リサーチ・センター(Center for Economic Business Research)は評価する。カス・ビジネス・スクール(Cass Business School) はより大幅な数字、3万から4万人解雇を見積もっている。
「自分の専門である負債市場がヨー・ヨー状態だ:9月-10月は最悪、12月と1月初めに上昇し、2月には乱暴な退潮だ。それから、パニックを起こさないための、荷車規模ではなく、小グループによる荷下ろしがゆっくり始まった。」 シティの小さな仲介企業のトレーダーになったある会計士はこう言っている。彼は3月14日を長い間忘れないだろう:彼はこの日の朝8時半に、人事部長から解雇を言い渡されたのだ。
JPモーガンによるベアー・スターンズ救援とリーマン・ブラザーズの将来が危惧された日の翌日、心理的プレッシャーのあまり、このプロフェッショナルは最初、匿名という条件下でも心情を打ち明けようとはしなかった;しかし、結局短い時間だが電話でのインタヴューに応じ、その解雇の様子を伝えてくれた。
「7時半の会合の後、ボスと一緒にコーヒーを飲みながら米国市場について話し合った。一時間後に人事部長が、私の架空職業上ミスを理由とした解雇通知を私に 向かって読み上げている時も、ボスは平然としたままそこにいた。その理由に反論しようとしたが、無駄だった。裁判に訴える可能性とプレスにしゃべることを 禁止する見返りに、3ヵ月分の手当てが提案された。新しい就職口を見つけるのは、さほど難しくないだろうと判断した私は、その提案を受け入れた。これは大 きな間違いだった。それから、ガードマンがひとり受付まで私につきそい、情報システム・パスカードと引き換えに、私は自分の上着とコートとアタッシュケー スを受け取った。午後になってタクシーが、オフィスの私物とスポーツバッグの入った黒いビニール袋を届けてきた。」 市場の法、である。。。
マルク・ロッシュ Marc Roche
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今年の1月に拙訳したリベによる米経済アナリストへのインタヴューがあります:今回のリセションはWW2以来最大のものだ;リベ・インタヴュー翻訳 思えば、ここまでは彼の言ったとおりに動いてる。再読お勧めいたします。
今回の金融危機関連記事は多くて、ル・モンドのものだけでも読みきれません。これまでフランス金融界はサブプライムに起因する嵐の被害をまともには受けていませんが、それでも株価は下がり続け、クレジット金利は引き上げられ、結果としてのインフレと成長率のブレーキという二重構造、つまりスタグフレーションがここにも腰を落ち着けた観があります。
ユーロ高から、EADなどの大型企業が生産地を非ユーロ圏へと移すとすれば、国内(EU内)産業はさらに空洞化するでしょう。また、OECD最新レポートは、米国の2008年2/3期の成長率を0と予告しています(インフレ率4%)。EU圏の2008年予測成長率は1.9%(2007年2.6%)としています。
成長率引き下げ予想にもかかわらず、現仏政権は従来の全面改革案すべてを加速して実施すると発表していますが、改革自体大変金がかかる事業であるし、大統領本人の言によれば国庫はカラ。にもかかわらず内閣はまたしても顧問職を増やしておりますね。仏国経済相ラガルドは昨年8月に「サブプライム危機はもう終わった」と宣言し、自らの経済見通し能力(の限界)を示しました。2008年は経済に関しても無視界飛行の年になりそうです。
なお、同じ18日ル・モンドの、経済学者ダニエル・コーエンへのインタヴュー記事も訳したかったんですが、猫屋の翻訳速度ではついていけないわけ。クリップのみといたします。
《ダニエル・コーエン:それでも金融システムを救うべきだ》 コーエンはここでサププライムを起点とした現在の経済危機が三段階を取って形成されたと説明している。それから、英国ノーザンロックの国有化がありましたが、破産大型銀行が「fond souverain/souvereign wealth funds」の大きな融資を受けて再建しても、結果サウジ・ドバイ・中国・クウェート・ロシアなどの金融スフェールによる影響力が強くなりすぎる。だったら(かつてフランスであったクレディ・リヨネのケースもそうですが)国家あるいはそれに准ずる多国籍政府ファンドを設置し銀行救済を図るべきだ、という意見を述べています。
最後に、AGORA BOX から。経済専門家市民ライター Forest Ent による非公式(つまり非大手メディア)の分析です(すでに100以上のコメントが寄せられている)。現在の危機は、サブプライムだけでもないし、金融界だけにも、米国だけのものでもない。現在の危機は、われわれ社会システムにおける癌である、と書いています。2008年暗黒の年:神々の黄昏 2008 année noire : le crépuscule des dieux
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