18日(日付19日)ル・モンドに掲載された社説です。プリンスの訳語には王子の他にも君主・公国の統治者、などがあるわけですが、ここではマキャべリの翻訳にならって君主にいたしました。
また辞書によると、le fait du prince の意味は、1)君主の専断的行為 2)気ままな行為 (以上、白水社仏語大辞典から)とあります。この社説での使用は、もちろん年頭の記者会見でリベ編集長ジョフランが使い、「2月14日の呼びかけ」にもでて来た「monarchie élective / 選挙君主制」に呼応するものでしょう。
君主の行為 / Fait du prince
ル・モンド社説 2008年2月18日自ら選んだ主題フィールド上で、国家的論争をリードするために挑発する。打ち壊すために、“タブー”を、あるいはタブーと想定されるところのものを立ち上げる。逸脱させるために唖然とさせる: 現在、サルコジ・メソッドは完璧に機能している。2月14日に、またしても新デモンストレーションが行われた。第二次世界大戦中、ナチによって強制収用され殺害されたフランスのユダヤ人子弟11400人の記録をCM2(訳注;10歳、小学5年生にあたる)の各生徒に“ゆだねる”というのだ。 この、共和国大統領の新しいイニシアティヴは、少なくとも抗議に値し、より正確には嘆かわしいものだ。この9ヶ月来しばしばそうだったように、意表をつこうとする強迫観念は、即興に、混乱に、そして君主的行為に行き着く。
たとえば奇妙なことに、そのプランを披露した在仏ユダヤ系団体代表協議(CRIF)夕食会で、テーブルの隣席にはヴェイユがいたにもかかわらず、ニコラ・サルコジは、前もってシモーヌ・ヴェイユの意見を聞くということさえしなかった。ショアの記憶財団(La Fondation pour la mémoire de la Shoah)理事であり、自身が収容所を経験したヴェイユは、この「耐えがたい」提案を聞いて「血が凍りついた」と述べている。そして、彼女に続いて多くの人々がショックを受けた。
同様に、あらかじめヴェイユの意見を聞いていれば、ユダヤ人のひとりの子供の記憶を各生徒に任せるのではなく、クラス全体にゆだねようという、後退応急手段を素人細工する必要もなかっただろう。この記憶を伝えるため、またその記憶における認識と感動を共有するため、長年にわたって国家教育組織によって行われてきた多くの活動に、敵対することも避けられただろう。
そして混乱である。記憶のもたらすエモーションと相反する歴史認識の混乱ではない。後者は、前者によってより豊かになったとしても、何も失わないことは明白だ。しかし、ショア(訳注;ホロコースト)へのこういった劇的な言及は、つい最近の奴隷制度と植民地政策の破壊的論争が示したように、記憶の競争化を推し進めることにはならないだろうか。
最後に、大統領指令(L'injonction présidentielle)の問題がある。宗教というフィールドを彼が進んでいくとき、誰もニコラ・サルコジの宗教信念を論議はしないが、審判対象となるのは、その意図なのだ。いったい、いかなる権利に基づいて、共和国大統領は、この質問に当然関わってくる人々の、まえもってなされるべき熟考なしに、フランスの子供たちすべてに -そして教員すべてに - 彼自身のエモーションを引き受けるよう強要できるのだろうか?
君主の行為が否定されるのは、それが不誠実だからではなく、それが君主の行為だからなのだ。国民の筆頭にあるからといって、すべての権利を有するものではない。
この、ショア教育発言の後、18日にはあのヴィリエ・ル・ベルに朝の6時、警察隊を攻撃した“被疑者”拘束のため、現政権は1100人の警官隊を送り込みました。それを150人のジャーナリストが現地で待ち受けて、また問題となっています。この特別任務の結果は、35人の“容疑者”の事情徴集です。つまり、ひとりの容疑者について31人からの動員と、ヘリコプターを含む大作戦なわけで、おまけに、パトカーとの衝突で死亡した少年の兄も拘束されている。期待された“武器”の押収はなかった。
誰がなんと言おうと、選挙前のキャンペーンではないかという疑問は払拭できない。
ひとつの嘘、あるいはひとつの失敗を帳消しにするために、さらに大きなスキャンダルを起こしている観さえある。規模は違いますが、911後の米国政府のイラク攻撃を思い出します。
翌日後記:訳文全体に手を入れました。
狼少年は最後には誰にも信じてもらえなくなる。。。
本気で支持率上げる気ないんじゃないかと思ったりしますが、もーやけくそ?昨日は最低の36パーセントになっていましたが、テレビではitele,BFMでも取り上げなかった。今日はセクトがどーのこーの。
ちらほらと憲法68条適用を求める声が聞こえてくるようになったのですが、無理かなあ。
投稿情報: Amina en résistance | 2008-02-20 19:00
勉強になります。こういう社説を発表できるルモンドには是非がむばっていただきたい!
ドヴィルパンさんも「現在のフランスのこの危機的状況」みたいに言ってましたが、どうやって乗り越えるか、だんだんみんな不安になってきているのでしょうね。。
ヴェリエ・ル・ベルはジャーナリストが大量に待ち受けていたのですか。。ふーむ。
息子もアッチ向いてホイ作戦の一環でしょうか。。
投稿情報: ねむりぐま | 2008-02-20 23:44
いかんせん、ひどすぎる。つか、何してもとにかくやりすぎる。あれが単なる田舎の中古車販売店のマネージャーかなんかだったら、別に、笑ってすむんですけれどもねえ。
TVはほとんど見ないんですが、やはり選挙前だから、それなりの圧力があるんでしょう。アタクシもついつい「destitution」というのを検索してみたりしておりますが、まずは3月の選挙結果まち。同時に、署名運動でワサワサやる。でも、本来は責任とって辞任する首相の役割=政治執行、を大統領がやっちゃってるわけで、トリッキーです。いずれにしろ、サルコには隠居大統領やる意志ないだろうから、どうしたって辞任というチョイスか、あるいは誰か有力政治家がでてきて「座敷牢」に押し込めるか、ぐらいかなあ。。可能性。コアビタシオンにまで持ってくには、反対勢力がバラバラすぎるし、白馬の騎士も多すぎだし、、悩みはつきません。ま、猫屋が悩んでもしょうがない、といえばそうなんだけど。。
息子サルコジの件は、「あっちむいてホイ」したら、やっぱり金太郎飴だったという、つまらんギャグだよね。ここは、モンテスキューとモリエールとヴォルテールの国ですよ。。。ブリング・ブリングご夫妻には、税金の安いスイスかなんかに行って頂きたいよ。あるいはディズニーランドで“自宅監禁”とかサ。パレードとか好きそうだし、CBもNSも。ハイホー・ハイホー。
イッシー・レ・ムリノのサンティニが汚職容疑で検挙(だったと思う)とか聞きましたが、かつて公費で家政婦雇ってたバルカニ夫婦とか、92(オー・ド・セーヌ)のパスクワ時代からの遺産:ブイグはじめ土建屋さんetc.との癒着にヌイイの元市長が絡んでいないわけはないわけ(あー、だんだん二重否定使用度=脳内おフランス化が高まってきたぞ猫屋)だから、そこいらへんがカミング・アウトしたら、流れは急変するかもねむ。支持率が20%切ったら、いくらなんでも続投はできないんじゃないか?
投稿情報: 猫屋 | 2008-02-21 02:07