木曜午後、憲法院(これまで当ブログでは憲法委員会と書いてましたが)の9人の賢者がCPEは合憲であるとの判断を下しました。
ル・モンド記事
Le Conseil constitutionnel valide sans réserve le contrat première embauche
《憲法院、初回雇用契約法を躊躇なく有効と認知》
この合憲判決については公法専門dpi 氏が緊急エントリを書いてくださってます(深感謝)。→CPE合憲判決
dpi氏も書いてますし、ル・モンドの集めた情報でも、憲法院の判断から9日間内にされるべき大統領該当法発布宣言を金曜夜のTVニュースでする予定のようです。これからの運動がさらに激しくなり結局は現政権辞任、あるいは来年選挙でのUMP大敗につながりかねない自殺行為だ、という街場の声も多い。この点はエントリー最後にレジュメ化してみたいと思います。
まずはいつものクリップ・クラップス。
Bastien François : "Le conseil constitutionnel a mérité son qualificatif de sage"
国立政治院(シヨンス・ポ)の憲法学教授バスティアン・フランソワのコメント、インタヴュー音声のみ、
《憲法院は賢者の名にふさわしい決定をくだした》とでも訳しますか、憲法院判断は常に政治的なものであるが、それはあくまでも憲法に関しての判断であって、政治判断自体は大統領の権限にゆだねられる。可能性として、解雇が無条件に行われるか否か(解雇の原因が被雇用者にない解雇についての)言及付加もありえただろう(以上、ね式レジュメ)。。。
La France vue par une blonde, par Dominique Dhombres
《ブロンドが見たフランス》
こちらの友人のひとりが、パリが天安門広場化していると心配する知人・友人からの電話・メールが多くてびっくりした、と言ってました。さすが、と言うか在仏20年の私の家族は『またね、メトロ動いてる?』と電話した時聞いてきたぐらいです。そんなわけで、ル・モンドTV評担当記者のこの記事読んでパリ天安門の出所がどこだか分かりました。CNNアトランタのジャーナリストKyra Phillips (ブロンド♀)が衛星映像見て28日に発した『報道』なんですねえ。30日のCNNはさすが、現地にジャーナリスト送っていて6区のカフェのテラスからの実況中継。でもこの頃デモ隊はレパブリック広場に到着していた、と。シオンスポ学生へのインタヴューを受け続いてDominique Moïsi氏が『彼らは反動的革命家なのですよ。』とコメントしたとか。。。CNNが世界を再モジュールしてるのね。パリに放水車は出てるけど戦車は登場していません。
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さて、夜も深まり時間足りないわけですが書いてみます。昨日のエントリのコメント欄での renqing 氏へのリプライと重なりますが、、
・該当法に類似するものとしての2005年に制定されたCNE法があります。これは20人以下の小中企業が対象、また26歳までという年齢制限がなしで、小規模企業ではなかなか新社員が雇えない、という問題に対しての処置とされた。けれど実際には大して雇用促進にはつながってないとの企業サイド評価も多い。今回のCPE法はこれを大規模化すなわち大企業も含めたすべてのセクターに適応、また26歳までに年齢限定がなされた。この新法に対する反応は、medef(仏経済連)のバリゾも始めは懐疑的だったし、トータル社社長デマレはじめサン・ゴバン社長ベッファ、AXA会長べべアールも批判的。政治界でも保守UDFのバイルーも批判。UMP党首にして内相のサルコジとその一派も、運動拡大を見て、該当法の一時差し止めを言い出していたわけ。
問題は、まずこの法の準備の仕方にあったと思います。首相とそのコンセイエ(スタッフ)が、経済界・党内他派閥・各労組と学生団体などとのネゴなしで決定したんですね。準備委員会などもなかった。議会可決も、反対派の少ない時に抜き打ち式に行われた。一言で言えば、根回しなしのごり押し法だった。もともと外交筋出で、シラクチームのチーフ役だったド・ヴィルパンは選挙経験がない。また経済界とのつながりもほとんどない詩人なわけですね。サルコジへの当て馬として首相デヴューしてから最初の大仕事がこのCPEだったわけです。旧植民地に生まれ育ち、ナポレオンを愛する彼の理想主義的詩人資質が、今回のコミュニケーション欠如硬直反応になった、と思います。3週間のゼネスト(1995年)時のジュペ首相を思い起こす人も多い。
そして、バックにはサルコジに追い上げられる、シラク-ド・ヴィルパンカップルの確執がある。それを知る多くの国民にとってはこの法と就職難にあえぐ学生達が、2007年大統領選に向けたUMP党内抗争の otage (人質)にされた、という印象が強すぎるわけです。たとえば、ではいったんこの法を指し止め別名の法を根回し後に作るとか、あるいは解雇条件を交渉の上変更する、というようなことは対サルコジ戦での退却であるとシラク-ド・ヴィルパンカップルは考えている。これがド・ヴィルパンとその実質権限が落ち続けのシラクの孤立化につながったわけだ。
・フランス雇用実情 残念ながら資料提出は出来ないんですが、私自身の周りの状況で書いてみましょう。数年前、サポセン的企業の日本人スタッフとして働いていたことがあります。カバーするのが世界中だったこともあり、若いスタッフはすべて少なくとも三ヶ国語をしゃべる。ピークシーズンには学生バイトでむんむんする職場でしたが。聞いてみると(私も含め)、bac+5つまり大卒でも初任給はほぼスミックでした。仕事内容はきついのでやめる(やめさせられる)人間が多い。家族持ちで、夜勤や日曜勤務で率よく稼ぐ人間もいたが、それ以外でも勤務時間が不定シフト制で大変です。一流企業で解雇された元エリート人材も、ジーンズ社員にまじってネクタイしてスミックだった。この5年で経済状況は大きく悪化した。今はどうなってんだろうか、モロッコとかに職場自体が移動したかも知れません。なおこちらの大卒者(卒後一年で)の就職率は50%と読んだ記憶があります。全体の失業率は約10パーセント。これらの数字は日本での数字(実質失業率)と大して変わらないようです。
最低賃金では家賃の上がったアパートが借りられませんから、若いカップルでの同棲という形で家族から初めて独立というケースが多い。CDI(短期試験雇用)の給与明細では、よっぽど給料の高い保証人でもいないとアパート借りるのは難しい。大学を出て職を見つけてもアルバイト程度の給与で2年試験期間(これまでは3あるいは6ヶ月)はつらいですよ。CPE後の本採用を期待できる人間は限られているだろう。大学を出ていない、あるいは高校も出ていないバンリュウの若い衆はスーパーの警備職についても2年間は試験期間になる。しかし、問題はサポセンにしても警備職についてもCPEの有無に関わらず、絶対数は変わらない。可能性としたら、フランスでも高度サービス業化があるかもしれない。この際、観光業・飲食業・ハイパー・ショッピングモールなどの流動的(かつスミック)労働市場がますます拡大となる。また若年層の失業率はたしか26パーセントと言う数字があったと思いますが、国民全体に関わる雇用問題であるが、その対策の対象になるのが若年層に限られるというのはおかしい、と言う批判もある。これは年長者の言っている意見です。
一方でグランゼコルに代表される優良大学卒業生は就職に関して有利ですが、経済を含む理数系がやはり優先視される状況では、たとえばエコル・ノルマル(高等師範)を出てアブレジェという超難関コンクールに合格しても高校の先生、あるいは学問続ける余裕がある場合は研究者。シヨンス・ポ出てもそれだけでは就職は難しいです。理数系でもたとえば国立飛行院を出てパイロットになっても、世界の航空機産業ではパイロットがあまってたりするようです。つまり就職市場全体の流動化があって、ディプロムの細分化もされM&Aに伴う管理職解雇、企業自体の海外流出もあり、高学歴イコール終身高額収入職ではなくなってきている。エリートとされる管理職もいったん解雇されたら、年齢問題などで再雇用はかなり難しいわけです。企業としては使いやすいし、解雇しやすいし、給与も低く抑えられるCPE該当者雇用を選ぶ可能性が高いでしょう。2年あればかなりの社内教育と選抜が出来る。
同時にCAC40(フランスの大企業40社からなる株式上場)企業の収益はどんどん拡大しています。これらの企業の大株主は米国リタイヤ証券を含む外国資金の占める割合が多い。つまり株価上昇のためにコスト・カットを打ち出し続ける優良会社ですね。
このような状態のなかで、CPEが可決され、学生がまず(地味な形で)運動を始めた。そしてこの法がどのように準備されてきたかが明らかになるにつれ、対グローバル新資本主義的運動の性格も帯びていった。これがチュラムの言ってるヴィジョンと関係してくる。
・シラク政治 2002年の奇異な形で選出されたシラクの以降の政治活動全体にに対するサンクション(制裁)的ながれも、2ヶ月を通じて出てきた。もちろん2002年以降にあった、欧州憲法批准問題、昨年秋のバンリュウ騒動以降シラク政府が具体的政策をなにも押し出していないことへの連動した批判もあります。なお、このところシラク批判本が多く出版され売れてる模様ですね。
などど、文脈もなく書き始めるととまらない、、で、一応ここで止め。明日読み返し、書き直しそして結論部 『では、どんなビジョンを私達は持てるというのか?』 を付け足してみたいと思います。なお、私の出合った、あるいは周りのフランス人の多くは実によく働きます。そして実によく遊ぶ。デレデレしてるのはあんまり見かけない。あ、アパートのお掃除叔母さん、去年首になったな。うちのアパートのエレベーターに、長年この地区担当だった郵便配達おじさん解雇反対署名運動のビラが貼ってあった(ポストマン解雇の話は始めて聞いたですが)。売れてる小売店、パン屋とか魚屋とかよく働いてる。安給料で働いたら損ってのはいるな。アソコとかココとか。
読み返さず、投稿。
翌朝追記:ほぼイッキ書きだったので、文章構成もなく過去のエントリーとの重複部も多いし、誤字だらけでありますが、いくつか誤字訂正のみいたしました。猫屋論評結論部は今夜にでも別エントリーとしてアップを予定してます。
なお、シラクの今夜TVでのCPE法発布宣言は、ド・ヴィルパンと国民議会議長ドブレが即発令しないと辞任する、とシラクを“説得”したと報道されてますね。
・フランス雇用実情
コールセンター業務は英語圏はインド 仏語圏はアフリカ、日本語は中国に移ってますね。
だいぶ前になりますがVivendiもコールセンター業務を移さない、ということで、労組と合意に至った、というニュースがありました。
・CAC40(フランスの大企業40社からなる株式上場)企業の収益はどんどん拡大しています。
どうも猫屋氏は米国の年金ファンドはお嫌いなようですが、企業がその営利活動を進めていく上で、収益を増やそうとすることは 資本主義社会において自明の理でありましょう。
それを放棄したら、諸所のステークホルダーに対して責任を放棄することと同じです。
またこの数年の市場における金余りと、国際的なファンド組成により、
企業買収が容易になりました。
これは新たなる帝国主義の中での侵略でありましょう。
万が一にも他国から変われた企業は、株主利益のために解体され、解散されうる可能性がある。
そうなれば、自国の雇用と経済を守るべく株主価値を高める経営を行なう必要性があります。
過度な利益追求は問題でありますが、極端な重商主義嫌悪による規制は
孤立を生み出しかねません。 全てはつながっているのだよ。
更に、株式市場で得た資金で何を買うか、という自問に関しましても
いずれの世にも現れる新興成金のうちの幾人かは、文化財を求めました。
それが次の世に受け継がれるとするなれば、市場で得ましたあぶく銭も
人類の文化に貢献せずとはいえますまい? ホームズ君?
とモリアーティはかく語りき。
投稿情報: Simon | 2006-03-31 06:30
コールセンター:うちのADSLのサポセンは一般アシストは多分モロッコ、問題が込み入ってくるとネイティヴ・スピーカーに変わるんですが、ネイティヴが本土にいるんだか現地なんだか判断できないですよ。日本では中国に移ったところが多いようです。電話でのセールスも他国からのものある気がします(あの仕事だけはやりたくないですが)。
米国年金ファンド、嫌いです。てか、現在の株式システムを変えるとかなり状況変化するでしょう。デイトレード規制とか。まあ、誰が猫に鈴つけるの、の問題になりますが。
なお、これはEHカーの受け売りですが、絶対自由貿易というのは過去にも存在しなかったし、これからも存在し得ない。また逆にプロテクショニズムを行使しなかった国家も存在しない。私が考えているのは、現在の状況は権力のお引越しがなされて政治が単なる経済活動の(あるいは世界資本の)ツール化したんだ、と思っています。エマニュエル・トッドにもさほど遠くないんですが、適度なプロテクショニズムは肯定できると思います。過度な利潤追求はこれからさらに加速されるだろうと思う。ローカル文化破壊も。
また自由の王、合衆国で最大級の貿易港をサウジ資本が買っちゃうって話は不謹慎ながらあまりの合論理性に失笑してしまった。でも、ドルの刷り合戦はやばいと思うんですけどねえ。ドル買いもですが。
なお、以前のエントリであげたケペル教授のインタヴューが、アルカイダ論なんだけども同時に現在のネット文化やセクト化にも当てはまるんで、あれは面白いです。訳しませんでしたが。リゾーム・マルティテュードがressentiment反応から悪い方向に機能しちゃってます。
ビル・ゲイツの文化遺産投資と貧民救済事業、すごいですよね。確かに集中権力がもたらした遺産ってのは北京・奈良・京都にしても、ローマにしても大したもんだですが、同時代に生きる内部奴隷には辛いんですよ。このごろ起業を考えている猫屋であります。脱出は可能なんでしょうかねえ、わからんが。
しかし、フランスはどうしたって革命の国なんですね。国家理念がそこにあるんだな、としみじみ思いました。私の仏文先生である近所の80のおばあちゃんに、19世紀仏文学の性格を一言で言うとなんでしょか?と質問したら、もと教員のおばあちゃん“革命!”といってたですよ。などど、長話でした。
投稿情報: 猫屋 | 2006-03-31 13:38
イタチの最後っ屁を忘れてました。
“哲学は女の子ひとり孕ませることも出来ない” 広松渉のことばであります。関係ないけど。
投稿情報: 猫屋 | 2006-03-31 13:56
>19世紀仏文学の性格を一言で言うとなんでしょか?と質問したら、もと教員のおばあちゃん“革命!”といってた
Simonさんの一つ前のコメントとも関連しますが、「明治維新」など、革命と言ってはいけないのだと思います。権力者が交代しただけで、国家の統治構造は微動だにせず、あまつさえ、「近代化」の装飾があるだけに、革命ロマン主義の妄想だけを残しました。《明治軍事クーデタ》と呼んだほうが実態に即している。「明治憲法」もその神聖装飾の小道具に過ぎません。「回復の民権」が「恩賜の民権」(←中江兆民「三酔人経綸問答」1887)にすり替えられました。
かつて、「戦後を疑え」と叫んだ評論家がいました。でも、彼は、こういうべきでした。「明治を疑え」と。
投稿情報: renqing | 2006-03-31 21:17
もちろん平和革命を信じたいわけですが、日本はちっとも変わらなかったには賛成です。
中国もまだ封建してると思います。マオは封建の親分だったと思う。
投稿情報: 猫屋 | 2006-03-31 21:58