この映画は面白かったです。チャンスがあったら見に行くべし。いろんな意味で損はしない。
ジョージ・クルーニー製作の《 Good Night, and Good Luck 》、白黒のマッカーシー赤魔女狩り時代のテレビ・ジャーナリストを描いた映画とどっちを見ようか迷ったんだけど、今回のチョイスは正解だったと思う。
ロード・オブ・ウォーは、ニコラ・ケイジ主演、なんだこれは、ブラック・ユーモア・“サクセス”ストーリーとでもなるのか。だいたいこれは米映画なんだろうか。監督の Andrew Niccol はニュージーランド出の人、プロデュースはPhillipe Rousselet はフランスの人、フランスTV canal+ の創立者の息子である。ニコル監督はこの映画のシナリオを米映画会社に持ち込んだが、時はイラク戦争前夜、誰も武器商人の映画化には乗って来なかったわけだ。結局、ルスレがドイツをはじめ欧州各国から資金調達して製作にこぎ就いている(五千万ドル)。
ストーリーはといえばブルックリンに棲むうだつの上がらない、ウクライナ系(おまけに偽ジューイッシュ)のあんちゃんユーリ・オルロヴがいかにして武器商人としてのスキルを学習し、世界市場のメジャーにまでのし上がるのかって話だ。イントロで葉巻を吸いながら、ユーリはこう語る。『世界の12人に一人が武器を所有している計算になる。私がなすべき仕事は残りの11人に武器を売ることである。』 (ちなみに、この数字はシナリオが書かれた当時の話で、正確に言うと今現在では地球上の10人に対し1個の武器が存在しとるということだそう。)てわけで、これは武器も煙草も酒もコークもセックスも死も、ちゃんと登場するノン・ポリティカリー・コレクト映画。
なお、舞台になるのはニューヨーク・アフガニスタン・リベリア・南米での輸送船・ウクライナ・ドイツでの武器見本市などなど。テーマは、まあひどく重いわけだがニコル監督はボーリング・フォー・コロンバインタッチのサイドステップでかわしていく。ジョークとロックミュージックの、すべてを真面目には捉えないヤンガージェネレーションを意識して対象とした作品なのか、それともこの監督の“ノリ”がそうなのか。分からない。
同様に若い世代に支持されるガス・バン・サント(エレファント、ラスト・デイズ)のクソ真面目さとは違ったラフさが、かえってテーマの重さを救ってるわけだな。だからクラシックなシネマ・フリークには受けないと思う。映像が尖ってるわけでもないし、キャスティングも演技もニコラ・ケージ(大はまり!)以外は弱い。弟役のJered Leto (ファイト・クラブでエンジェル・フェイス役してた俳優)がカート・コバーン型ジャンキーを演じてるけど、弱い。FBI エージャントのEthan Hawke は明らかにミスキャスト。ラッセル・クロウ(LA コンフィデンシャル)ぐらい持ってきても良かっただろーがと思うが、それはないものねだり。まずはニコラ・ケージのド根性演技に敬意を称さねばなるまい。
と、欠点はいくらでも挙げられるけど、それを理由に見に行かないのはもったいない映画です。映画に使われたAK47(カラシニコフ)3000挺は全部本物、旧ソタンクもリースの本物。フェイクのモデルガンやタンクは本物より高くつくんだそうだ。もちろんM-16も出てきますが、リビエラの独裁元首の息子が欲しがったM-60 は結局お目にかからなかった。というわけで軍事オタ必見の映画でもありますね。
どこで撮影されたかは分かりませんが、リビエラでのシーンは良く出来ていたと思う。FBIを逃れるため、一般道路に不時着した輸送機が一晩で骨格だけの姿になるところ、トンデモ現地ボロホテルに極め付きゴージャスな、でも極め付きデンジャラスな“オネーサン”が2人(宅配で)現れたりする。
ただね。このトーン、つまり重く軽く、レッド・ラインすれすれをフット・ワークで走りきるのはそんなに長く続けられるものではないだろう。たとえば、マトリックスは一本目で疲れきっちゃったと私は思う。ここらへんがやはり問題だろうな。アーバン・ゲリラはたぶん、ウォーホールが予言したように、賞味期限が極めて短いんだよと思います。同時に主体交換可能性が21世紀の合言葉、なのかも。
オフィシャルサイト フラッシュがちょっと精密すぎですが。
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