29日付けのル・モンド、なかなか読みでのある記事が多い---一ヶ月に一度ほどのヒットですが、月曜発行紙は面白いのです。
バンリュウからはじまり、結局アイデンティティ、教育問題まで含む大きなディベイトになっています。それ以外にも、チェチェン関係、イラクでのフセイン裁判、イスラエルのシャロン新党とペレスの新党参加、欧州での米国 CIA秘密刑務所、中国でのベンゼン汚染がロシアに広がる、、、なんとも大変な“世界”ではあります。私の仏読ペースでは全部読んでたら一週間はかかるな。
というわけで、バンリュウ騒動関連記事から、
まずはル・モンド社長、コロンバニの長い社説 《 Aprés le choc 》“ショックのあとで”。
この例外的に長い社説は、現在のフランスの持つ問題点を“フランス・モデル”の失敗にかけて多義に渡り論評しております、以下任意に部分抽出、訳出してみます。
A arrogance/尊大
cette couverture médiatique a révélé aux Français à quel point la distance entre le discours officiel sur le "modèle français" et la réalité sociale crée un effet d'arrogance sur la scène internationale.
(海外での)このメディア報道は、“フランス・モデル”についての公式見解と、実際の社会との間にあるギャップが、いかに国際社会における尊大さという結果をもたらしたか、フランス国民に明らかにした。
C chômage/失業
Or lorsque les corps intermédiaires sont affaiblis — partis, syndicats, école, église —, l'emploi reste la seule route vers l'intégration. L'emploi devient bien plus qu'un travail rémunéré : c'est l'apprentissage de la société, la confrontation sociale, l'insertion.
(全国での失業率が10%付近で一定であるのに対して、問題となったカルティエでの失業率は30%であることを受け)仲介となるべき、政党・組合・学校・教会がその機能を弱める時、雇用がただ一つ残された同化への道となる。雇用は給与を伴う労働以上の意味を持つ:それは社会を、社会的対立を、社会への同化を学ぶ方法である。
D discriminqtion/差別
telle est la véritable urgence.Nous sommes face à la réalité des résistances que nous opposons à notre propre diversité. Qu'il s'agisse de la ghettoïsation urbaine ou scolaire, elles sont le fruit non d'une politique mais d'un mouvement de la société, de sa parcellisation, de l'éloignement que chacun cherche à organiser d'avec la catégorie qui lui est réputée inférieure, au nom de l'angoisse du déclassement.
差別、これが真の緊急事項である。私達は、私達自身の多様化に対するレジスタンスという現実に直面している。都市部の、あるいは教育に関するゲットー化現象は、政治の結果ではなく、(テリトリーの)細分化や、個々人が不安やクラス・ダウンを理由に、(自分達の)すぐ下のクラスを想定してそれから逃れようとする、この社会変動の結果である。
I intégration/同化
la question de l'immigration dans nos sociétés n'en est qu'à ses débuts, sous la double pression de la faiblesse démographique de l'Europe et des migrations venues du sud et de l'est. Cette immigration, il faudra la canaliser, la réguler, la maîtriser. Après le marché unique, l'union monétaire, l'esquisse d'une politique de défense, la nouvelle frontière de l'Europe sera celle-là : réussir l'absorption et l'intégration de ces nouvelles vagues d'immigration.
私達の社会において、移民問題は始まったばかりだ。これはヨーロッパの人口増加率の減少と南と東からやってくる人口移動とのふたつのプレッシャーを要因とする。この移住を、一定方向に導き、制御し、コントロールする必要があるだろう。市場統一のあとに、平価統一、防衛統一政策の試みに続くヨーロッパの新しいフロンティアとは:この新しい移民の波の吸収と同化を成功させることであろう。
M maires/知事 市長たち
Quelle que soit leur étiquette, ils ont permis, par leurs actes et par leurs paroles, que chacun, à sa place — gouvernement, opinion, médias — prenne conscience que les violences étaient l'expression d'un véritable problème social et politiques.
それぞれの政治色とは無関係に、現地から彼ら(市町村の長)はそれぞれの行動・言葉をもって、--政府、オピニオン、メディア--に、今回の暴力が、政治・社会という現実問題の表現化であることへの認識を促した。
N nostargie/懐古主義
Pierre Rosanvallon parle d'une "idéologie radicale-nostalgique", de l'idéalisation d'un capitalisme à l'ancienne,,
ピエール・ロザンヴァロンは“ラディカル回顧主義、旧態の資本主義の理想化”について語っている、
N neuf/新しい
l'immobilisme est la source du mal : la France refuse de s'adapter au nom de la préservation du statut de ceux qui en ont un
不動主義(あるいは事なかれ主義)は悪の根源である。ステータスを持つ者たちの権利保護という名において、フランスは適応を拒否している。
P politiques/政治(複数)←
猫屋注 読んだけれど意味が汲めないので一時的訳なし
(30日追加、fenestare氏が該当部分を訳出して下さった。きわめて共和国的オファーに感謝しつつ、ここはひとつネック・ウルトラ部分でもあるので例外的にこのP欄のみ全文載せます)
Arnaud Montebourg ne le sait pas, mais sa thèse sur une république "primo ministérielle" a déjà triomphé : le couple improbable Villepin — Sarkozy a suppléé la défaillance présidentielle, dans un partage des rôles où le premier ministre exerce tout le pouvoir tandis que le ministre de l'Intérieur occupe le terrain. A eux deux, ils ont été efficaces et ont satisfait à l'exigence première du retour à l'ordre. Ils ont, comme on dit, tenu l'État grâce au soutien de l'opinion et à celui, tacite, de l'opposition — qui s'est à ce point gardée de toute surenchère qu'elle en a paru absente.
Dans notre monarchie républicaine, il n'est pas indifférent que des désordres aient surgi alors que le sommet de l'État s'est trouvé affaibli. La présidence n'est pas, impunément, la clé de voûte des institutions. Cela vaut dans les deux sens : dans le défoulement des uns, et dans la retenue des autres — les syndicats —, qui ont confusément sans doute, jugé trop dangereux de donner un prolongement politique et social à la violente crise des banlieues
.[第5共和制に代る第6共和制を訴える社会党左派新勢力の]アルノー・モンブールをは気づいていないかもしれないが、大統領からより多くの権力を委譲された首相制という彼の考えは、もうすでに勝利を収めている。考えられないようなヴィルパン-サルコジというコンビが大統領権力の機能不全を埋めている。首相がすべての権力を行使し、内務大臣が現場を仕切るという役割分担のもとに。この二人は、二人三脚で、めざましく働き、秩序の回復という急務を解決した。二人は、世論の支持とさらには、まるでどこかにいなくなったかたに見えるほど論争のエスカレートをいっさい避けた野党の暗黙の支持を得て、言ってみれば、国家を維持経営した。
われわれが共和主義的君主制にいることを考えれば、国家の最高権力が衰えをみせたときに秩序を乱す騒動が勃発したのを偶然と考えることはできない。大統領権力がすべての権力機関をまとめるたがであることを止めていながら何も起らないということは有り得ない。この事態は二つの方向に作用した。一方の晴れ晴れしい解放、他方の自制である。後者つまり労働組合は、おそらくとまどいながら、バンリュウの暴力による危機を政治・社会運動へと接続発展させていくことは危険すぎると考えたのである。------引用終わり。
U urgence/緊急
mesures de temps de guerre civile, dont la teneur symbolique est désastreuse. En écartant les mesures ordinaires de maintien de l'ordre, le gouvernement a également oublié que quiconque observe la scène nationale, sait bien de quel poids pèse telle ou telle catégorie dès lors qu'elle se manifeste, parfois violemment, dans la rue.
市民戦争時の措置である(この法令)適用は、破綻的象徴としての意味合いを持つ。治安維持にあたって通常の措置を取らなかったことで、政府は(この適用が)特定のカテゴリーの人々にとっていかなるプレッシャーを与え、また時としてそれが街場での暴力を伴いうるだろうと、この国家事態を見守る誰もが感じ取ることを忘れていた。
V vocabulaire/語彙
Cette difficulté à nommer les événements marque bien le malaise profond qu'ils ont suscité, et révélé. Car l'expression de cette rage, de cette haine aussi parfois, qui n'avait ni porte-parole, ni revendication, ni objectif précis, n'a surpris personne en France. Tout le monde a tout de suite compris la gravité de cette colère : nous savons bien que là est la question centrale de la société française...Rouvrir le chemin d'une promesse républicaine, sans distinction d'origine, sans discrimination : telle est la véritable urgence、
この出来事に名をつける困難さ自体が、彼ら(バンリュウの青少年)が引き起こし、表面化させた深い居心地の悪さを示している。なぜなら、代表者も、要求も、明確な目的も持っていないこの怒りの、また時としては憎悪の表現は、フランスにいる誰をも驚かさなかった。すべての人間がすぐにこの怒りの重大さに気づいた:これはフランス社会にとっての中心問題なのであると、私達は知っている。。。出身による区分けも差別もなしに、共和国の約束された道を再び開く:これが本当の緊急事項である。
以上で記事参照と訳出終わり。
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fenestraeさん翻訳中リベ討論記事のRosanvallon の言葉“ラディカル・ノスタルジー主義”にも触れている。けれど印象に残るのは、このところコロンバニが強く出す、プラグマティズムの必要性と現在のフランスの“不動主義”批判、それにサルコジの語彙批判です。また、アルジェリア戦争とニューカレドニア内乱など、暗い過去を引きずった緊急事態宣言をなぜ来年2月まで延長するのか、この点も批判している(なお、現在も政府による緊急事態宣言は継続されているものの、実際にこれを施行するのは地方自治体で、今現在夜間外出禁止令を出している県はない)なおこちらのページ(賞味期間短し)ではこの文章に対する読者のコメントが横枠内で読めます。またロザンヴァロンへのインタヴュー記事もあります(11/21ル・モンド)。La société est ensevelie sous un épais vernis d'idéologies
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もうひとつの記事はディベイト・ページから Immigration et histoire “移民と歴史”。
「歴史家として、私達の市民としての義務は共同体の記憶を新しくすることに参与することだ(かなりな意訳ですが)。」という、CNHI (cité nationale de l'histoire d'imigration)のメンバー9人の連名記事です。
19世紀からの移民の歴史はこの国の一部であるのに、今までフランスはこの事実を認めてこなかったという主張。ここでも単語“racaille”が再登場します。
1937年のル・マタン紙が“la racaille étrangère dans la France dépotoire/ゴミ捨て場フランスの外国人ラカイユ/屑(となりますか) ”と書いている。この新聞は、ペタン政権との協働のため1944年に廃刊となっている。また、現政権が植民地主義の美化を含む法案を今年の2月に議会通過させたと批判しています。連名の歴史家達が呼びかけるのは、フランスの植民地政策と移民の歴史を学校教科書で扱うべし、というものです。
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寒い日が続きます。この一週間でフランスでは7人のSDF/ホームレスが死亡している。今日のTVニュースでは、近年のホームレスの中には職を持ったものも多い、と報道していました。確かに、低賃金、あるいは固定職のないものには大都市の急激に上がった家賃は払えない。
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今日のフランス教育制度について私の知っている2・3の事柄、についても書きたかったのですが時間切れ。これはまた頭の痛い前倒し宿題化であります。
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今日の追加:先週のカナール・アンシェネ(11/16)で見つけた小記事
《サルコジの再犯》 11月10日のFR2の討論番組で、今年6月ラ・クールヌーヴで流れ弾に当たって死亡した11歳の少年の事件の容疑者2人は、“強姦と不正武器取引”の犯罪前歴があるとサルコ内務相は発言してるんだそうです(私はこの番組見ていない)。ところが問題は、容疑者達の犯罪歴には強姦も武器取引の事実はないそう。このクール・ヌーヴであの “カルシェール/水圧掃除器”発言があったのだよね、事件直後。
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編集後記、昨日(29日夜半)に書いたエントリを翌日大幅に編集しなおしました。30日にfenestrae氏の訳出を追加しました、サンクスコ。