ライス新米国務長官訪仏の際の発言を見ると、先日のブッシュ米大統領の年頭一般教書演説での内容が実際の外交面でも引き継がれているように見える。しかし、こりゃ本気なのだろうか? ことによると、言ってる当人たちも信じてはいないかもしれない(言ってみただけ、という線はある)。
どこまで外交相手がこれらのプロポーズに乗ってくるか、そしてどの段階までイラクでの『民主主義への戦い』に海外勢力を引っ張り込めるのかによって、これからの米外交のアウトラインはしだいに具体化していくのだろう。同時に米国内の現政権への批判を抑えるために、仏独露との急転した関係緩和はいいショウアップになる。実際の関係が良くなったのかどうかは別問題だ。
前回エントリーであげた『ロシアを許し、ドイツを無視し、フランスを罰する』というライス女史の言葉は今から1年半前に発せられている。8日付けNYタイムスのエディトリアルで国務長官デビューツアーに同行するジャーナリスト Elaine SCIOLINO は『フランスは今、どうやってブッシュと共存するべきか苦闘している』といった内容のタイトルで記事を書いている。視点を変えれば、大西洋のむこう側では合衆国はどうやってオールド・ヨーロッパと共存するべきか苦闘していると見える。
たしかにブッシュ再選後のヨーロッパでの対米意識は大きく変わってきている。政府レベルでも国民レベルでも。ブッシュを好きにはどうしたってなれないが、ブッシュがスーパーパワーの親分であることは事実である。米国を相手にしなければ、経済も工業も研究面も世界各地の紛争解決も、国際刑事裁判所の運行も、エイズ対策も、国連運営も、エコロジー対策も何もかもストップしてしまう。
エマニュエル・トッドが描き、クルーグマンが危惧する米国の転落シナリオは? それがいつか現実化するにせよ、そこまで生き延びるためにはリアリズムを学ばねばならない。
私自身、ブッシュ政権政治を、それまでのクリントンに代表されるITに基盤を置いたオプティミズム政治への単なる反動と見ていた。アメリカ合衆国のもうひとつの顔、南部や内陸部のオールドアメリカの、新しい時代への(IT、ホモセクシャリティ、異邦人、グロバリゼーションなどに対する)恐怖が、ブッシュに政権を与えたが、その状態は一時的なものだと考えていた。しかし、ブッシュは再選された。ブッシュ個人の資質がどうであれ、政策やバックオッフィスメンバーの顔ぶれがどうであれ、彼がこののち4年間スーパーパワーのヘッドである事実は、受け入れる以外に手はないのだ。
もちろん、言うまでもないことだが、米政府の望むところをそのまんまフォローする馬鹿はいまい。国際刑事法廷や京都議決書、対人地雷禁止決議等々のフィールド上に米国を《招待》し、ネゴとコンプロマイズを重ねて行くだけだ。
経済面での協調の必要性もある。ユーロ高は欧州経済の足かせとなっているし、ドル急暴落あるいはウォールストリート暴落は、ビンラディンは別としても、世界の誰も望んではいない。先日話題になった大型エアバスにしてもパーツの40パーセントは米国メーカーが搬入している。望むと望まないにはかかわらず、世界は急激に狭くなってしまった。
確かに、米国と旧欧州を分ける越えられない分岐点はある。イラクへのドイツ・フランスの出兵は、米軍のイラク占領を(シンボリックとしても)終わらせない限りは不可能だろう。しかし先日のシリアにおける仏人ジハード要員が逮捕された件を見ても米情報局とDST(フランス情報局)が協働していると考えられるし、アフガニスタンでのラディン・トラックには仏特殊部隊が参加しているし、ドイツもアフガンに出兵している。イランへの米国軍介入を防ぐスクリーンとして英仏独は機能することが出来る。
そして何よりも、オールド・ヨーロッパに限らず、英国を含めたヨーロッパ世論が対ブッシュという局面で同じような反応を見せ、そして古い国境をこえた新しいヨーロッパ世論と言えるものを形作る契機になったことは重視していい。
それらの複合した条件下に、米国とフランスの《関係》は第2章に突入したのだ。
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