チュニジアでは、今も市民と暫定政府の間で綱引きが続いています。国外に逃げていた人権系・イスラム系の亡命者たちも帰国し、暫定政府内要職のすべてが、ベン・アリ政権内で内務相・外務省etc.の大臣職にあった人々に占められ、反ベン・アリ派から4人が入閣したが、内閣成立後24時間内に辞職。大統領・首相を始め重要職大臣はベン・アリ政権内では汚職に関与していなかったテクノクラートで誠実な人物だという説明も、メバザ大統領・ガンヌーシ首相ともベン・アリのチュニジア単一独裁党RCDからの離党発表も、住民の怒りを止めることができないでいる。
またUNはチュニジアでのこの5週間での死者は70人を越したと発表した:なおこの中には焼死自殺・刑務所火災での被害者も含まれる。
約一年前にハイチ地震があった。でも連鎖する自然あるいは人工災害・経済政治危機・ジオポリパワーバランスの変動のあいまに、いつか忘却され、約束された援助金も当初の金額の十分の一しか現地に届いていない。その十分の一の金額にしたって、砂浜に吸い込まれる海水のように、痕も残さず消えてしまった。
忘れてはいけない。ハイチもチュニジアも、もちろんその他地球上の場所もすべてつながっている。世界中を寸時に駆け巡る“巨大な資本”がグロバリゼーションの一面であるとしたら、ハイチの悲惨や、チュニジアの希望も、ネットやケイタイを通じて世界を瞬時に駆け巡る。メガバンクがザブサブキャッシュで原油や小麦などの先物にスペキュレーションをかけ、新興国に大型資本投資しインフレを引き起こせば、オートマチックに地球上のさまざまな場所で最も貧しい人々が飢えることになる。
12月17日、チュニジアの片田舎Sidi・Bouzid の市場で焼身自殺を図ったムハマッド・ボアジジがチュニジア解放運動の始めとなったわけですが、その後も他地域で焼身自殺の試みが絶えない。だが、それがイスラム、あるいはアラブ文化に独特な抗議メソッドかと言うとそれはないと思う。ベトナム戦争時には僧侶が抗議し同じ行動に出たし、それに呼応して69年3月にはフランスでも女学生が焼身自殺した。
1969年1月16日には、プラハの広場で20歳の学生Jan Palach/ヤン・パラフがソヴィエトのチェコ侵攻に抗議し焼身自殺している。彼の死は、続く“プラハの春”のきっかけになった。
自殺という方法自体を肯定するつもりはない。ただ、ボーヴォワールが書いたように“たとえば拷問下にあって、ほかに自分を救う道がないケースでの自殺は否定されるべきではない”と思う。
言い換えれば、焼身自殺という極限の選択を選ぶ人々は、極限の苦痛あるいは苦悩を生きて、生ききれずにその方法を選ぶのだと考える。同時に彼らは反抗の炎である。
そんな極限の貧困と不自由と不正の世界内に、今私たちはいる。
この正月はTVで再放映された映画マトリクスを見た。地中海の、たとえばチュニジアはさほど高い金額を支払わなくても、いいホテルと太陽と砂浜で一週間ノンビリ過ごせるリゾート地として多くの欧州人が好むヴァカンス先だ。だが、米国ではカトリーナがあらわにしたように、地中海沿岸でもポスト・カードのような風景の裏には、極限の貧困と不自由と不正の現実があるんだ。TV・CMや旅行ガイドが流通させる“情報”と“現実の”乖離は、映画マトリクスの展開した二重世界そのままだ。
もちろん、ここパリでも、観光中心部のポスト・カード風景は変わらないが、少しでもとなりに眼を向ければ違った“現実”が見えてくる。観光中心地をそれれば、そこには別の世界が広がっている。
参考
リベのチュニジア関連クロニクル(継続中): またリベはネット版でのチュニジア関係記事をすべて無料で公開してる:Tunisie, le soulèvement
Nawaat チュニジア市民運動ネット(仏語とアラブ語、時々英語も。ヴィデオやtwittesの紹介もある)
こちらは英語:インディペンデントからパピー・フィスクの記事:The brutal truth about Tunisia ← この人まだベイルートにいるんだろ;極端にペシミスト。中東から離れた先進国地域でも着々と“民主主義”レベルが悪化しているのに気がついてないみたいだ;さらに気が滅入る。
また右上の写真は、チュニスで取材中催涙ガス弾をもろ顔面に受け、結局亡くなったカメラマンLucas Mebruk が当日撮った写真。
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ステファン・エッセルのことは別記事で単独に紹介したいんだけど、今夜は短く紹介。
昨年10月に小さな出版社Indigènes から出たエッセルの小冊Indigniez Vous ! (20ページ;3€)が、これまでに95万冊売れている。ワタクシも3冊買って、年上の友人たちへのクリスマスプレゼントに添えて贈った。なお、ネットでも読める。
この本のタイトル、アンディニエ・ヴー!というのはなかなか訳しがたい。(不正に対して)憤慨せよ!とでもなるか。
単なる怒りは、le ressentiment と同じように人を間違った思考あるいは行動に駆るかもしれない。だが、不正に対する憤慨から、人は何故その不正が可能となったのか分かろうと調べはじめるかも知れないし、周囲の人々とともに不正に抗う集団行動(たとえば不服従運動)を始めるかも知れないし、不正の犠牲者を援助するアソシエーションに参加するかもしれない。そういった可能性への道を、ステファン・エッセルはこの小冊で示している。
エッセルはベルリンで生まれ、ナチスドイツを逃れフランスで教育を受ける。WW2時にはロンドンのドーゴール・レジスタンス亡命政権に合流。大陸に戻ってレジスタンス運動をし幾度かドイツ軍につかまるが、そのつど脱走。戦後は仏外交官として勤務、世界人権宣言作成にも関与している。なお、トリフォーの映画Jule et Jim (邦題突然炎のごとく)でのジュールとカトリーヌ(ジャンヌ・モロー)はステファン・エッセルの両親がモデルである。
その93歳のエッセルが今朝のフランス・キュルチュールで、これまた89歳の長老エドガー・モランとともにインタヴューに答えていた。もちろんチュニジアで起こっていることにもふれている。Donner de la voix : Indignez-vous !
ニュース番組自体2時間あるけど、2長老の発言の一部、貼っておきます。チュニジアでのように、誰も気がつかないところで、また思いがけない場所で転換/メタモルフォーズは起きる(猫屋;ベルリンの壁が落ちたときも誰も予想はできなかったし)。その思いがけない人々の動きの展開が私たちの希望だと、長老たちは言う。宿命論はおよびでない、ということだな。。。
今年初めにル・モンド掲載のエドガー・モランの記事もリンクしときます。←これ訳そうと思ったんだけど、さすが猫屋の歯がたたないや、と断念したもの:Edgar Morin : "Les nuits sont enceintes et nul ne connaît le jour qui naîtra" なお、モランの新刊はLa Voie
Les matins – Stéphane Hessel et Edgar Morin
envoyé par franceculture. – L'info internationale vidéo.
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こちらは、74歳仏・米2重国籍、アタックの長でもあります作家スーザン・ジョージのRue89インタヴュー。画像がないのが残念ですが、彼女はいつもエレガントだなあ。話は銀行を国営化しろ、ということ。
Susan George, d'Attac : "Il faut mettre les banques sous tutelle"
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最後は、65歳ですからまだまだ“若造”のカテゴリーに入るかもしれないコーン・バンディットのユーロ議会での論弁(1月17日)。ヨーロッパがチュニジアを始め独裁諸国での政治・人権状況になんら意見を表明せず、イスラミストへの防波堤と称して独裁政権支持を続けてきたことを強く批判しています。
Tunisie : le Parlement européen n'est pas à la hauteur
envoyé par EurodeputesEE. - L'info video en direct.
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