風邪引いた。というか日本語で言えばウイルス性胃腸炎にでもなるのかな。胃腸の具合が変で、熱でて頭も痛くて関節炎もありでフラフラ。それで何もしないことにしたけど本を読もうとしても集中力ない。
そんなわけで、ネットのカンヌ映画祭系記事を読んで観たい映画をチェックしつつ、最終日の各賞発表をTVのカナル・プルスで見ていた。いろいろな批評を読んで気になった映画についてちょっと書くけど、なにしろ見てない映画の又聞き紹介だから信用しないように。
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今回の審査委員長はイザベル・ユペールで、その流れ(と昨年この賞が仏映画に与えられた経過)もあってだろうパルム・ドールはユペールと近しいオーストリア監督ハネケが受賞した。
・Le Ruban blanc/ 白いリボン 監督はオーストリアのミヒャエル・ハネケ:第一次世界大戦前夜(1913-1914)の北ドイツに位置するプロテスタントの村が舞台である。この白黒映画はやがてナチズムを生むことになるドイツの、厳しい階級と宗教規律と体罰と絶対的父権に固まった村での一年間を、次々と起きる怪事件を追いながら映し出していく。子供たちはいったいどんな風に重く閉鎖したatmosphère / 空気のなかで育てられ、やがてファシズム;国家的狂気、を担うことになるのかという映画(らしい)。一言で言えば、悪はいかに鍛えられるか、だな。
参考批評記事
リベ:En étudiant les barbares
ル・モンド:"Le Ruban blanc" : violence et boucles blondes dans l'Allemagne puritaine
・Antichrist / アンチキリスト デンマークの監督 Lars von Trier( ラルス・フォン・トリアと読むんだと思う)の問題作。話は事故(両親がセックスしてる間に窓から落下)で一人息子を失った夫婦がしだいに狂気と死いう破局に向かうお話。サディック&マゾ映像多々および挿入シーン等もあり、映画祭放映時はブーイング騒ぎとなった。トリア監督はこの3年来重度の憂鬱症で治療を受けており、手の震えががひどくて撮影カメラも構えられないとか(インタヴューで読んだ)。『自分は無神論者だが、タルコフスキーは神だ。ベルイマンも。』 また、映画作りは、これしか自分にはできないし、自宅の庭での農作業とならんで自分の内面世界を外化する治療なんだみたいなことも言ってた。ちなみにコペンハーゲンからカンヌまでキャンピングカーで移動してる。
反キリストというタイトルは「反モラル」と理解すべきなんだろう。この映画で主演したシャルロット・ゲインズブールはそれでも主演女優賞を獲得。この映画の撮影に耐えたんだからその功労賞だよ、という皮肉な声もあったですね。彼女もいまでは子供が2人いる38歳の女優さんでありまして、このスキャンダラスな映画が、彼女の役柄選択幅を広めるきっかけになると期待したい。
なお、暴力的シーンが多すぎてカトリックおよびアジア・アフリカなどの国々には配給不可なため、ソフト・ヴァージョンを準備するらしい。森での幻想的シーンなんてよく撮れてる様子なので、個人的にはソフト・ヴァージョンだったら観に行くかもです。なおトリアの作品ではキッドマンが主演したドッグヴィル見たけど、閉所恐怖症のアタクシは息が詰まって苦しかった記憶があります。
リベ批評記事:C’est du Lars ou du cochon ?
・Un Prophète / 預言者 監督はフランスのJacques Audiard / ジャック・オーディヤールで主演は新人のTahar Rahim / タハール・ラヒム。19歳で刑務所に入り6年間の刑務を終えるまでに、読み書きのできなかった少年が、刑務所内のコード(やっていいこと悪いこと、コルシカマフィアやマグレバンマフィア人脈とどう付き合うか、どうやって影響・政治力を獲得するのか等々)を完璧にマスターし、出所時にはりっぱな“悪”のマスターとなるという、一種の逆サクセスストーリー。
特に、2002年から成績主義が導入され勾留率が急上昇し、また重罪に絡む法や予防拘置など刑法関連17の法律が次々と可決されたここフランスでは、刑務所内人口増と医療システムの不足から結果する刑務所内での(服役者および看守)自殺や収容設備の劣化、暴力問題が問題視されている折、このカンヌでの上映は、まったくタイムリーなのであった。
すべてスタジオで撮影されたこの映画はまた、フーコーが語るように権力構造の小宇宙である刑務所の現実を描きながら、その刑務所を外部として疎外しようとするこの社会全体をも描き出しているわけです。
ル・モンド批評記事:"Un prophète" : la prison, une école de la vie selon Jacques Audiard
リベ批評記事:«Un prophète», taule froissée
・Soudain le vide / 突然の無(となるのかなあ、、なお英語タイトルはENTER THE VOID) アルゼンチン生まれフランス在住監督Gaspar Noé / ガスパール・ノエの作品。両親を交通事故で亡くした兄弟は東京にたどり着き、兄はドラッグの下っ端ディーラーに、妹はストリッッパーになるが兄はあっけなく殺されてしまう。だが、彼の魂は東京の空によみがえり妹の行方を見守る、という話らしい。これまた暴力・ドラッグ・セックスを扱った映画だが、映像と音の処置がかなり大胆であるらしい。個人的には興味ありの映画。
リベ批評記事:Gaspar Noé, la junk urbaine
その他にも、オーストラリアのアボリジニ出身Warwick Thornton 監督の Samson and Delilahはカメラ・ドール賞。タランティーノのナチス映画Inglourious Basterdsで多国語使いのドイツ人を演じたオーストリア俳優Christoph Waltz が主演男優賞(でもナチスだからって野球のバットで頭をぶっ飛ばすタランティーノには付き合いたくないよお)。中国でのホモセクシャリティを検閲を逃れながら撮影したという中国映画Nuits d'ivresse printanière、同じくイスラエルでのホモセクシャリティを撮ったEyes Wide Open もあった。スペインのドラッグ・クイーンが主役の Mourir comme un homme ってのもあった。
ファシズムを扱ったものでは、賞は撮らなかったものの、ムッソリーニの最初の奥さんが『政治的に』抹殺され、精神病院で最期を遂げるというイタリア映画 Vincere も評判がよかった。
いずれにしてもカンヌで上映された映画のほとんどが、映画祭放映用にミクサージュを急いだ荒いヴァージョンでたいがい2時間半はある。カンヌでの結果を考慮し余分な部分をカット編集しなおした最終版の批評も読んでから、見ようと思う映画を決めるつもり。
例外はモンティ・パイソン組のテリー・ギリアムがヒース・レジャーを主役として撮り始めた(トム・ウェィツも出演する)映画the Imaginarium of Doctor Parnassus と、ウッドストックが主題であるアン・リーの Taking Woodstock:公開され次第観に行くつもり。なおこの2映画、カンヌでは選考対象外枠で上映された。
今回のカンヌ映画祭を総評した記事は以下
リベ:Edition 2009 : le fun au cul
ル・モンド:Un palmarès en forme d'échantillon représentatif
映画が現実の鏡だとして、あるいは人間の共同人工夢だとして、今回上映された映画の多くが暴力とセックスと神(=あるいは神の不在)を描いているのも必然であるかも知れぬ。これは共同悪夢なんだろうか。少なくともわれわれが、暴力の時代に生きているってのは明白な事実なんだが。。。
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