これは、大手8労働組合(CGT, CFDT, FO, CFTC, CFE-CGC, Unsa, Solidaires, FSU) が参加するわけで、例外的大幅動因となりそうです。1995年の3週間続いた交通ゼネストや、2006年のアンチCPE学生運動などと比べて、スト・デモの動員数がどのぐらいになるのか、同時にその動員が一般市民の支持を得られるかで、仏国の社会運動・労組活動の将来、そしてもちろん現サルコジ政府の進める“改革”の是非も問われることになります。
具体的なスト参加機関については、火曜夜の各職種内労組による発表を待たなければいけませんが、今のところスト決行と見られているのは、
- SNCF;国鉄 RER
- RATP ;バス・メトロ、RER
- 大学を含む公立学校
- 救急部門を除いた公立病院
- 郵便局
- 税務署
- 職業安定所
- 裁判所
- 公共放送
- 空港
- フランス・テレコム
また民間企業からも、工場閉鎖や移転、解雇が社会問題となっている下請けを含む自動車業界、同じく再編成が噂される銀行部門等から多くのデモ参加者があるだろうと見られています。学生・高校生・大学の先生や、失業者の作る組合、大型スーパーの従業員、中小企業の経営者まで参加するということです。
26日に発表された意見調査結果は、CSA 発表では69パーセントの人々がこの運動に賛同すると答え、Ifop 発表では75パーセントがこの運動を『根拠あるもの』と判断しています。
さて、今回の運動の目的は大本で2点:雇用および給与の安定化を目的とした緊急処置、そして経済復興政治政策、を雇用側・国家に要求しています。
現在の世界経済危機時に、これまでは派遣社員解雇や工場の一時閉鎖、あるいは希望退職者を募ることで対応してきた企業および公共機関が、大幅な解雇・工場移転・諸部門の統括(職安)・人員整理(裁判所・学校)に乗り出すだろうという危惧が勤労者側にある。
そういった勤労者や、学生・高校生そして低収入者の将来に対する不安に加え、さらに厳しい状況にある不安定勤労者、失業者、退職者、移民、住所不定者などの怒りもあります。
国家は銀行救済のために巨額援助を続けていますが、大手銀行は経営陣に対するボーナス・ストックオプション・退職金システムや株式配当金システムを凍結していない反面、中小企業や個人に対する貸付金利の引き下げも行っていない。まさに『利益の私有化、損失の社会化(=国家援助)』です。
それに対して、低収入者・失業者・退職者・学生・中間層に対する国家援助はないがしろにされたままの現社会状況から、今回ゼネストへの世論の大幅な支持となっているわけです。
また、サルコジは「これ以降、ストをやっても誰も気がつかないだろう」と発言しています。去年12月に始まり、7週間にわたったサンラザール駅系列期限付きストも、メディア報道もないまま延々と続いていたのですが、先日、鉄道員に対する暴力行為から一部労組が勤務放棄権を行使した結果、混乱を恐れたSNCF社側がサンラザール駅を閉鎖するという事態になりメディアが大々的に報じていました。
フランスでの全体労働人口に対する組合加盟率は極めて低いけれど、それでも加盟者の多い教育・交通部門のストは、いったん大幅動員となれば一般市民へのインパクトは(プラスもマイナスも)強いわけです。
こうして、スト権をなし崩しにしようとする現政権と、フランス労組の綱引きが始まるわけです。
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付け加えれば、遅くやってきた《改革者》二コラ・サルコジの『もっと働いてもっと稼ぐ』政治が、結局のところきわめて狭いサークル、つまり大企業家たちのためにだけ機能しているという印象を住人の多くが抱いている、という事実もあります。
彼の「業績の悪化した銀行経営者はボーナスを返上すべきだ」というこの間の発言にも、「だったら、国家赤字をバブルさせた国家元首も給与を下げるなり、エリゼ宮予算を縮小するなりせにゃあかんでしょう」と思ってしまうわけです。
付け加えて、公共放送(テレビ・ラジオ)の改造計画のごり押し、とくにフランス・テレヴィジョンのCEOおよび報道責任者をエリゼ大統領宮が任命するというサルコジの決定は、多くの市民に怪訝の念を与えましたし、『資本主義を作り直し』し『世界を救う』スーパー・サルコのぴかぴかぶりもオバマ登場で影がうすくなった。
このところサルコ組の売りだったモロッコ系仏人女性法相ダティやセネガル系仏人女性人権相のラマ・ヤドの失脚も、サルコ・ゴールデン・チーム内の脆弱さと、サルコジの政治コンセプトの問題点(あるいはその不在)の表れだと見て取れると思います。
TV・ラジオ・新聞報道が、実際に起きている事柄の報道(たとえば;サンラザール駅でストをやっている。では、なぜ鉄道員はストをあするのか?)ではなく、単なる政府広報化し(たとえば;スト翌日『ユザジェ/通勤人はストの人質となって大迷惑』報道)、内部抗争が続いた社会党は、政府の進める『改革』案に強い反対立場が取れないままで、先の地方選挙結果(UMP 大敗)もサルコ政治への不信任票的価値は無視されてしまった。
議会における反権力パワーとしての社会党は弱体化している。メディアは囲い込まれた。司法はダティの改革で押さえ込み政策。サルコジはますます個人中央集権度を強めており、「社会対話/ dialogue sociale」の対極の政治を行っている。
こうなると、憤懣が圧力釜の沸騰点みたいになった人民は「街に出る」、descendre dans la rue、というのがフランス式政治・社会運動の伝統なわけです。
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そういった大局から見れば木曜のゼネ・ストにはアンチ・サルコ運動的性格が強いと見ていいでしょう(そしていずれの社会運動にも共通することですが、始まってみないとそのあとどうなるかは分からないのであります)。
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上はCGTのキャンペーン・クリップ
29日の状況を調べるためのリンク集です:
RATP(パリのバス・メトロ・トラムウェイなど)、
SNCF、
パリ近郊鉄道/TRANSILIEN
また個人でマニフに参加したい人のためには、Grève générale du 29 janvier 2009 ブログがフランス各地での開始時間つきマニフ・リストをアップしています。
CGTの準備したゴーグル・マニフマップもあります。以上のリンクはル・モンドから拾いました。
以下はマリアンヌから拾ったリンクです。
facebook を使ったネット・マニフへの招待(5600名が参加だそう):Tous dans la rue le 29 Janvier 2009!
ブロガーによる政情分析: Le 29 janvier, première grève politique
こちらはいち市民が作ったフランス解雇グーグル・マップ
参考記事
リベから、スト:労組の大きなテスト Grève: le grand test syndical
ル・モンドから、政治権力は大きな社会運動を懸念
こちらは、サルコジ絡みで本の紹介:以前にも紹介した Ptrick RAMBAUD の Chronique du règne de Nicolas Ⅰerの続編 Deuxième chronique du règne de Nicolas Ⅰer が出版されました。もう少しで読み終えるんですが、一冊目にもまして辛らつなできとなっております。サン・シモンのパロディだから、時制はパセ・サンプル、ボキャでもアタクシの中辞典には出てこないような単語も多いのですが、おかしい。ニコラス一世の描写やバンリュウばりのオフ発言はもちろんですが、カルラやドラノエ、ラマ・ヤド、ダティやエリック・ベッソンの性格描写は噴飯ものであます。出版元はグラッセで価格は13.5ユーロ:お勧め。
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