8月も半ばを過ぎたパリは曇り空で、半そでTシャツ一枚ではなんだか寒い。オリンピックも最初の水泳と陸上100m走あたりまでフォローしてたが、ビッグマック3個目的感覚に襲われTV見るのやめた。はっきり言ってあきた。
本当だったら夏休みブレイク;つまり株式市場もTVもジャーナリストも政治家も学校もだが、大方ヴァカンス(=非日常)に出て、西欧州“社会”全体が7月と9月にくくられたカッコの間で“息をつく”、まあ日本の年末-正月みたいに1年溜め込んでたものをチャラにして再出発準備のはずの8月が、今年はなにやらチャラにすべき対象自体が曖昧で、おまけにやってくる新年度にも明るいネタが少ない。この夏はアタクシが"定番夏の日本行き" を諦めたように、ヴァカンスに出るのを諦めたパリ人も多いようである。
グルジア紛争が気になって、いろいろ新聞・雑誌記事やブログ記事を読んでたんだけど、ますます分からなくなってきた。
ゴリがスターリンの生まれた町だと知る。
隣接するロシア領北オセアチアが、2004年のベスラン学校占拠事件があったところだったと思い出す。
事件当時、露ジャーナリストであるアンナ・ポリトロフスカヤが、“チェチェン独立武装軍”との交渉にあたろうと、ベスレンに飛行機で向かったことも思い出した。彼女は2年後、モスクワの自宅アパートのエレベーター内で射殺されている。48歳だった。
そうして、KGBでの特殊教育を受けたプーチンが、チェチェン制覇の実績をバックに中央政治に登場してきたいきさつを思い出す。
ジョナサン・リテルの“Les Bienveillantes”で、コーカサスでのナチスドイツ進軍が描かれていたことも思い出した(読み返してみよう)。
ここから地続きであるグルジアの紛争展開を追いながら、露新大統領メドヴェジェフが単なるプーチン・スポークスマンで、大統領職を退くことで自己権力を強化したプーチンは、彼の思考する“政治力学”を論理破綻なくそのまま現実化しているという事実を理解する。
*
さらに、コーカサスでは100近くのエスニーが存在すると知る。こうなると民族なり、国家なり国境線の概念がまったく意味を成さなくなってくる。(ナショナリズムも使いよう ← 悪い冗談です;冗談でも飛ばさないと息が詰まるんです、グルジア)
なお、右図はウィキから;CIAによるコーカサス・エスニック分布図。
*
もちろん、対して米国サイドのコーカサスさらには東欧と旧ソヴィエト圏での活動があるんだが、こちらのほうはイマイチ全体像がつかめない。
フランスとNATOの微妙な関係もあるし、フランス元来の嫌米感覚もあるし、それに加えてアブグレイブ&グアンタナモ以降の米国情報軍事戦略へのおおいなる不信感があって、おまけに環大西洋アリアンスに積極的なサルコジ外交への批判も絡んで、奇妙な形でプーチン支持に傾く人々もいる。今のフランスでは米国動向の全体像は掴みにくい。かえって英国プレスを読むべきなのかもしれない。
“オレンジ革命” “ばら革命” “ベルベット革命”、それに今年2月のコソヴォ独立宣言と続く、旧ソヴィエト圏でのネオ民族主義の高まりと、CIAやジョージ・ソロスのようなメセナ、そして現地で市場開拓する米および多国籍企業活動の関係は、アタクシのような単なるいち生活人には、その末端が時々見えるくらいである。情報がないわけではない。探せばいくらでも出てくる。
プーチン政治の“分かりやすさ”と裏情報の見事な不在とは対照的に、米国外交戦略に関する情報はありすぎるんだ。これも作戦の一部なのかなあ。そうかもしれないなあ。情報を、嘘もマコトも混ぜて多量に流して、普通の生活人を陰謀説に導くってのは極めて最新式のマーケティング型戦略なのかも知れん。
たとえば、中国政府が完璧なオリンピックを目指せば目指すほどボロが出る。だが、最初からワケワカラン、ダブヤ・ブッシュの戦略ラインはやっぱりワケワカラン(単にアタクシの頭が悪いせいばかりではないと思う)。
そういえば、外交戦略“チェス盤”のブレジンスキーがオバマ・チームに外交顧問として参加してるらしい。これもまた、いいニュースなのか悪いニュースなのか、分からない。
参考お勧め(仏語;日本語訳が出るといいねの)記事:きのうル・モンドディプロで見つけたソルボンヌのコーカサス専門 Florence Mardirossian 先生によるグルジア紛争分析(8月15日)。明解である。題は《グルジア-ロシア、危機に賭けられたもの》ってなるかな。
Géorgie-Russie, les enjeux de la crise
世界地図を使って地政を説明するTVアルテの番組、Les dessous des cartes のコーカサスの一部(ネット版)。
MER CASPIENNE : LE GRAND JEU. Une géographie politique du Caucase. (2/4)
**
先日バットマンシリーズ新作 The Dark Night を見にいったんだけど(別記事で報告しますが)、あのへヴィーな暗さはこれも、『もうオナカイッパイです』と言いたくなるぐらいだった。フランシス・ベーコンと比べられるぐらい暗い。おまけにカタストロフと恐怖の連続攻撃だ。なんか、どっか病気だなあ。
まあ、いろいろあったけどなぜか人類はいまだ消滅していない。ガンジーや、マーチン=ルーサー・キングや、それからダライ・ラマのような人物がいたりして人類世界はどうにかバランスとってるように思う。今、足りないのは知恵(sagesse)なんだろう。
*
追記:グルジア(仏語でジオルジー)の地図をさがしていたら、グーグル・マップのグルジアとその周辺(アルメニア・アゼルヴァイジャン)が見事に白地図化しているのを発見:ネット時代のノーマンズランドである。
追加の追加:ル・モンド紙にB・H・L (ベルナール-アンリ・レヴィ)のグルジア・ルポルタージュを発見した。サルトルばりの長編(3ページ、よってアタクシには翻訳不可なり)。『戦時下グルジアで見たこと、ベルナール-アンリ・レヴィ』 Choses vues dans la Géorgie en guerre, par Bernard-Henri Lévy
コメント