えっとですね。ここんとこ世の中の具合がますます加速し変になってきて、日常でもそれは体感(と財布感)と街中の人々とのコンタクトでもそうだけど、ヒシ・ヒシとイタイわけです。
大いなる脱力、というわけで翻訳は今夜臨時休業。ここらへんがブログのいいところだよね。ギャラもないが、雇い主もスポンサーもいない。「失うべきものを何にも持たない、ってのが自由なんだよ」とJ・ジョプリンは歌っていたです。
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そんでもって、今日は脱力のあまりアパートの掃除を一生懸命やった。掃除機かけたり床を乾拭きバスタブ洗い、とかしながら頭の中でいろんな「タイトル」を思い出していた。
猫屋の、好きなタイトル・ベストテン(文学編の順不同)
・L'insoutenable légèreté de l'être:ミラン・クンデラ 邦題知らず
・3歩前進・2歩後退 一歩前進二歩後退:あれ?これレーニンだったっけか(翌日訂正、正解は一歩進んで二歩後戻り、って全然進まないじゃん。著者はやはりレーニンです)
・夜中に台所で君に話しかけたかった 夜中に台所でぼくはきみに話しかけたかった(翌日訂正;でもこの「ぼく」ってのはいらない気がする、と勝手に言ってみる):谷川俊太郎の詩集(読んでないけどタイトルが好きだ、Round about midnightの香りもする)
・夜の果ての旅:Voyage au bout de la nuit/セリーヌ(直訳だと夜の果てへの旅だね)
・破壊しに、と彼女は言った:Détruire, dit -elle/デュラス(このごろは“破壊しに、と彼女は言う”に変わってるらしいけど高校生のとき読んだヴァージョン・タイトルの印象強すぎ。モデラート・カンタービレ、もしびれる)
・悪の華:Les fleurs du mal/ボードレール(超コピーライター)
・地獄の季節:Une Saison En Enfer/ランボー(時代なんだろうなあ、、、時代違いで美徳の不幸ってのもいいネーミングなんだけど悪徳路線に走ると限度なくなるかも、でここでストップ)
・罪と罰:ドストエフスキーね(なんとかトなんとかの代表として;あと、言葉と物、存在と無、恐れと慄き、菊と刀、とかいろいろあるですね)
・嘔吐:La Nausée /サルトル(こんな気持ち悪いタイトルつけちゃうのってやっぱ天才なのかなあ)
・100年の孤独:ガルシア-マルケス(2000年の孤独ってのもいいかも;チョー長そうな小説。あらかじめ予告された殺人、これも傑作タイトル)
・1984:ジョージ・オーウェル(訳しようもない数字なり、華氏451;Fahrenheit 451のブラッドベリもうまい、ところで1984は3回読み始めて結局3回とも途中でダウンした)
・枕草子:清少納言(意味深なとこがいとおかし、古典では雨月物語も美しくてよし、奥の細道も傑作タイトル)
・長距離走者の孤独:シリトー(お宅っぽくって渋いタイトル。読んだけど内容すっかり忘れた)
・失われた時を求めて: A la Recherche du Temps Perdu /プルースト(日本語訳で読み始め、途中で仏語版に乗り換えたが、終着駅はまだ見つかっていない、、、タイトルと内容の密着度ではベスト1か、)
・ゴドーを待ちながら:En attendant Godo/ベケット(とにかく待ったまんまで終わりまでってのはすごい、タイトルがそのまま劇なんだもんねえ、アイルランドの人なのにフランス語で書いちゃったってのもすごい)
・夏服を着た女たち:The Girls in Their Summer Dresses /アーウィン・ショー (初夏の光の中で、美しい女たちが背筋を伸ばして誇らしげに歩いてるわけ)
・夜来る:Nightfall / アシモフとシルヴァーバーグ (ナイトがフォールしちゃう!)
・やがて誰もいなくなった:クリスティー (読んでないんだけど、読まなくても分かっちゃうとこがすごいですねえー。なお原題なんだろうと思ってwikiしてみたらTen Little Niggers、米題および英改題 And Then There Were None だそうで、コレモスゴイ)
・不思議の国のアリス:実はルイス・キャロルという作者名が好きだ(ヴァージニア・ウルフという怖い名前は嫌いだ)
・野生の思考:La pensée sauvage /レヴィ・ストロース(大昔、日本語訳で読んだはずだけどまったく覚えてない。あとからフランス語では、パンセが花のパンジーの意もあると知って感服いたしました。野生のパンジー)
というわけで、結局ベスト20になっちゃいました。こうやって並べてみると、SFやミステリー作家のタイトル付けって大体うまい気がする。“黄色い部屋”とか“Xの悲劇” なんかもいい。でも、ボネガットのは凝りすぎてて、パっとはアタマに浮かばなかったり。ナボコフとかカフカもだけどタイトルはイマイチだったりして面白い。以上もちろん個人的趣味なんだけども。
かつてリビアで3年間人質になってたコフマンという仏ジャーナリストが、毎日ボルドー上級ワインのシャトー・リストを、繰り返し繰り返し思い出して幽閉の日々を耐えたって言ってた。文化ってのには、そういう“効果”もあるのよね。
脳内Ipodを起動して、マイルスとかバッハとかを鳴らすって手もある。これは昔よくやった。バッハの四声とかは再生するのがなかなか難しい。
と、今夜は優雅に遊んでみました。
たいへん、たいへん、楽しく読ませていただきました。
読んだか読んでないかにかかわらず、どのタイトルも印象深いものばかり。。
読む前から想像力が沸くタイトルの力って、すごいですね。
しかし、脳内iPodはわたしもよくやりますが、ボルドーワインのシャトー・リストってのはすごい。感動するとともに、文化度の高さにちょっぴり妬けました(笑)
投稿情報: kay | 2008-03-20 04:19
L'insoutenable légèreté de l'êtreは確か「存在の耐えられない軽さ」だと思います。映画にもなりましたね。
投稿情報: クリント | 2008-03-20 05:03
「1984」、英語学校にいたころに教諭陣に強く勧められて読みましたが、最後で思いっきり落ち込みました。
しかし、欧州に住んでテレビとか見てると、自分がいかに西洋文学・哲学に疎いか思い知らされて恥ずかしい気がします。シェイクスピアだって、まともに読んだのは「ロミジュリ」と「リチャード3世」(しかも日本語)ですから。あと詩歌をもっと読みたくなります。
投稿情報: ぴこりん | 2008-03-20 10:22
シャトー・リストってかなりブルジョワですよね。今じゃ単なる高嶺の花ですが、まああのころはまだワイン価格もそれほど高くなかった。日本だったら「秋田の美少年、越後の八海山、新潟は越の寒梅、伏見の、、、」とかはいかがでしょうか。。。ああ、よだれ。
Insoutenable は日本語にしちゃうと重いですよねえ。やはり仏語でのニュアンスはよいね、このタイトル。映画では、たしか、ビノッシュだったです。男のとんでもないアフォさ加減の話でした。
1984は読んでて楽しくない。ひどい話でも、人を飲み込む読書体験ってあるけどあの話はアタクシだめでした。
そういえば、自分だってモリエールは日本ででしか読んだことない、と自慢しちゃいます。いや、なんだか雑誌・新聞・ネット読みだけで日々が過ぎて行っちゃう。あと、英語も仏語も、結局は外国語なんで読むのに時間かかるのよね。漢字もないから斜め読みできないし。(かといって、日本の古典でも凄いスピードで読んでるかというと、、、読んでないっすが)
投稿情報: 猫屋 | 2008-03-21 00:49