ガス・ヴァン・サント(Gus van sant)の新作です。Paranoid Park、秋休みから帰った2人のアド(ティーンのことね)と観にいった。17歳と18歳、2人ともガス・ヴァン・サントファンの見習いロッカー。ハリー・ポッターと同時に育った世代ですね。ドラゴン・ボール→ハリー・ポッター→マトリクス→ロード・オブ・リング、、、それからガス・ヴァン・サントって世代だ。生まれたのは、天安門事件があり、ベルリンの壁が落ちた1989年と翌年の1990年。つまり彼らは冷戦後に生まれてる。ネオ資本主義・グローバリズムと同時に生誕し、ティーンエイジになる前に911を(TVで)目撃しているんだね。彼らのアイドルはチェ・ゲバラやジミ・ヘンドリクス、そしてボードレールだったり。
案外保守なんだけど、同時にある意味での“美意識”があって、まあ、鋭いコンシューマー意識でもあるんだけど、偽者と本物のかぎ分けと、偽者と本物の絶妙なミックスのしかたには鼻が利く。でも、偽者と本物という認識自体が複雑に入り乱れ、絶え間なく変化する時代にティーンでいるってのは、案外大変なんだろうなあ、と推察される。おまけにこの世代は市場(マーケティング)の大きなターゲットでもある。1970年代にティーンだったアタクシなんざ、おかげさまでなんとものんびりした能天気な思春期を過ごせたんだけど、就職市場環境がタイトな今は勉強もせなあかん、ゲームもあるしチャットもするし、バギーだスリムだののファッションも追っかけなきゃだし、もちろんロックの方もやらなきゃだめだしで、ガールフレンド見つけてる暇もないようである。
というわけで、いつものように前書きが長くなってしまったのだったが、問題の映画パラノイド・パークです。映画館から出た時点で、17歳はサントの最高作だと評価した。18歳は、たった一言“悪くない”と言った。アタクシは、“エレファント”のほうがインパクト強い、とその時点では思った。
映画を観たのはこの水曜で、今は金曜の夜なんだけど、あの映画のことが頭から離れない。カメラ・テクについてはまったくの無知なアタクシ、えらそうなことはいえないんだけど、スーパー8を使ったスケート・ボードシーンをはじめ、カメラ・ディレクターの香港にすむクリス(Christopher Doyle、オーストラリアの映像オタクおじさん、ムード・イン・ラヴとかのカメラもこの人)のカメラ・アングルはスリリングだし、おまけにフェリーニのアマルコルドとかから持ってきたニーノ・ロータ音楽の、きめの粗い映像とのミクサージュのミスマッチ具合も、こっちの頭脳にグサリと来る仕組みになっている。じわじわ来るんだよ、ガス・ヴァン・サント。なお、クリスとサント2人とも1952年生まれ。つまりアタクシよりちょっと年上だけど、たとえば村上春樹よりは下になるのかな。。
ストーリ自体は単純だ。スケート・ボーダーたちにパラノヤ・パークと呼ばれる“非合法”スケート・パークに一人で出かけた少年アレックスが、不本意にガードマンを殺してしまう。エレファントで使われた、時間差テクや同一シーンの繰り返し、スロー・モーションも多用されていて、物理的(あるいは歴史的)時間ストリームは無視されている。やはりエレファントと同じ、高校の長い廊下も出てくる。
キャスティングも、エレファント同様美形ティーンが多いんだけど、今回はマイスペースで俳優ではない素人高校生を募集している。主人公のアレックスを演じるガブリエル(Gabe Nevins)はガブリエルと言う名がぴったり来るイタリア・ルネッサンス系の顔と大人の身体とのアンバランスさが、ああ、なんともこれはヴァン・サントの美意識だよなあ。ラファエルかなあ、いやダ・ヴィンチかなあ。でもカルバッジョじゃあ絶対ないなあ、などととりとめもなく思った(なお、映画で捜査官を演じるおじさんの本職は警察の捜査官だそうだ)。
反対に、エレファント同様、女の子にたいしては無茶キビシくて、アレックスのガールフレンドなんて、単なる機械仕掛けのリカちゃん人形に描かれてる。、ひとりだけアレックスがちゃんと会話するクラス・メートの女の子がいて、でもあんまりかわいく映してない。でも彼女マーシーが映画の中でいちばんリアルで存在感あった気がする。
あと気がついたことと言えば、離婚しつつあるアレックスの両親の映し方とか(影薄い)、これはヴァン・サントの映画ではいつもそうなんだけど、家に帰るといつも誰もいないとか。非合法スケート・パークが一種の、最後の“自由”コミュニティ(コミューン)をなしてるんだとか。
ガス・ヴァン・サントの映画を語ることは本当に難しい。彼の映画は観るしかない。ワケワカランなのだが、“美”あるいは“真実”なるものがこの世にあるとしたら、ガス・ヴァン・サントの映像にはそれがあるんだよね。エレファントの続編かなあ、とか見る前は思ったけれど、どっこい、たいした映画です。なお、この映画はフランスのmk2が資本出してるです。
スーパー・ポーズに気をとられず、映像と音だけに集中して、もう一度映画館で観ようと思ってます。その価値大いにあり。
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