前エントリーにクリップしたル・モンド記事ですが、翻訳文を別エントリーとしてアップします。
《もしリスクが嫌いだったら職業を変えるべきだ》
ティエリー・デマレ(THIERRY DESMAREST) トータル社(TOTAL)CEOへのインタヴュー:10月31日付けル・モンド記事
ボリビア政府とトータル社を初めとする化石燃料(hydrocarbures)大型企業間に結ばれた契約についてはどうお考えですか?
南米における天然ガス価格の上昇は、ボリビア政府の収入増加を可能にしました。同時に、新たな資本投入を正当化しうる額の利潤というパースベクティヴをもたらしてもいます。
トータル社の次期CEOに指名されたフリストフ・ド・マルジュリ ( Christophe de Margerie ) は、かつてのイラク国連プログラム“オイル・フォー・フード”問題に関連していた疑いで取調べを受けました。それでも予定通りあなたの後任者となるのでしょか?
はい。理事会の同意を受け、2007年2月中旬にはクリストフ・ド・マルジュリがトータル・グループのジェネラル・ディレクターに就任するよう提案しました。私は彼の優秀さと潔白さを知っている。この問題には、クリストフ・ド・マルジュリにつながるエレメントは一切ありません。したがって、彼にはまったくの信頼をおいています。
シェルとBPはロシアで難しい状況に陥っています。カリアガ(Khariaga)油田におけるトータルと同じように。ロシア当局はトータル社が契約を守っていないと非難していますが、これにどうお答えになりますか?
当局の非難が理解できずにちょっと困惑しているところです。 私達は、特に環境問題を重点として、この契約内容を守っている。私たちが彼らに要求しているのは単純なことです:明快で予想可能なルールです。
最近の下降にもかかわらず、原油価格は高止まりしています。これは需要減少につながりませんか?
そうです。これは今年当初に始まった新しい傾向です。ヨーロッパ、合衆国、そして中国を除くアジアで、需要増加はほとんどゼロに等しい。
世界レベルで言って、経済成長率が5%であるのに対して、2006年での(原油)需要増加率は1%を下回る見込みです。この乖離は価格高騰の結果です。
価格上昇は同時にマイナス要因でもありますね:特にロシア・ベネズエラ、そしてボリビアでの原油をめぐるナショナリズムの回帰です。。。
驚くべきことではないでしょう。オイル価格が低い間は、国営企業は資本投下できずに外国資本に開発を依頼する。 価格が上がれば収入も増加し、独自の開発が可能となり、ナショナリズムのよみがえりに立ち会うこととなるわけです。
もっと一般的コメントをいたしましょう。リスクが嫌だったら、職業を変えるべきなんです。なぜならオイル業界でのリスクとは、地質学・工業・経済・政治といった広範囲にわたるからです。
ボリビア・ベネズエラそしてロシアを例に挙げられましたね。一般化してはいけません。リスクとは管理するものです。そして最もよい策とは地理的分散です。ペトロフィナ(訳注:旧ベルギー石油企業)そしてエルフ(旧仏石油企業)との合併は私たちのポートフォリオを世界中に広めることを可能にしました。私たちは自社のリザーブ拡大のキャパシティについて確信を持ち続けています。
生産国が、原油価格が低かった時に結ばれた契約内容の変更を求めるというのは正当ではありませんか?
原油価格が15ドルだった時点で、かなり冒険的プロジェクトをいくつか立ち上げています。特にベネズエラでの1997年の Sincor[非常に重いオイル] プロジェクトでは、40億ドルという思い切った資本投下を行いました。結果としてベネズエラ政府は低税率を認めました。
市場状況は変わり、私たちは高価格というコンテキストに見合った内容を話し合う準備がありました。残念なことに、ベネズエラは、建設的話し合いよりもユニラテラル(訳注:一方的)な道をしばしば選んでいます。現在は、Sincor への関与率を増したい国営企業PDVSA との交渉に入っています。
もうひとつ変化したエレメントがあります:可能性を秘めた(原油・天然ガス)鉱脈を持つ国々に対して、新顔の競争者[新開発国:中国・インド・ブラジル]を含めた候補がひしめくようになったことです。結果、受入国にとってはよりよい条件で契約を結ぶ可能性につながった。
化石燃料の埋蔵量枯渇は決定的問題なわけです。ペシミストの最たるものは、生産量ピークを2010年と見ています。あなたの状況分析はどういったものでしょうか?
トータルの地質学者は、国際エネルギー機関(IEA)の描く、2006年における1日あたりの生産量8500万バレルが、2030年には1億2000万バレルに増えるというシナリオを信じていない。私たちは、IEAのマルサス的過度には一線を置いていますが、その専門家たちの論理も堅固なものだというのは認めねばならない。
私たちは、ピークは1億2000万には達せず、むしろ1億から1億1000万の間だろうと想定しています。従って今から需要を抑えねばならない。もしも一年に2パーセント増加するとして、その場合あの“オイル・ピーク”は2020年にやってくる危険性がある。しかし、それがおよそ1パーセントという数値であれば10年の余地が生まれます。この猶予は産業レベルでの代替エネルギー開発、そして過渡期を準備するために重要なものとなるでしょう。
国連による対イラン制裁の可能性は、この国でのトータル社プロジェクトの障害にはなりませんか?
核拡散に関する-大きな-懸念は理解できます。けれど国連安全保障理事会内の多くの人間が、世界はイランの原油を必要としているし、同時にイランも世界を必要としている事実を認識しています。現在、世界の原油埋蔵の98パーセントが起動している。市場にさらに圧力を加え、自分の足元に弾丸を撃ち込む愚行は避けるべきでしょう。
インタヴューはジョン-ミシェル・ベザ (Jean-Michel Bezat) --------------------------------------------------------------------------------
トータル社に関する数値(2005年)
Chiffre d'affaires/総売上高: 1431億6000万ユーロ(前年に比べ17%上昇)
Bénéfice net/純利益: 120億ユーロ(31パーセント上昇)
Investissements/資本投資: 139億ドル(109億ユーロ、26パーセント上昇)
Production/生産量:原油に相当する1日あたり248万バレル(4%減)
Réserves/埋蔵量 2005年末において原油に相当する 111億600万バレル(12.2年分)
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訳者後記:フランス大企業CEOの中でも、同族会社の2世企業人や複数の会社トップ職を次々に経験していく企業人とも一種違ったリアリズムを見せるエンジニアたたき上げのデマレ氏です。(1945年生まれ、81年にトータル入社、95年以来PDJ/CEO)
なお原文は以下、
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